好き勝手に生きる!
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第三十五話「実際にこの言葉を言うとは思わなかった」
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お待たせしました。
「リー、リー、リ~リ~リ~♪」
みてみてママー、ぼくお空とんでるよー!
ゆらゆら飛んでるよ~!
鳥さんがたくさんいるよー。おいしそうだね、こんにちは~。
「ぷぷぷ~、ぷーぷー、ンガガガガガッ」
お目目がグルグル回るよ~。
せーかーいーがーるーてーんーすーる~!
日本よ、今こそかいこくのときだ。くろふねかっこいいね!
「あー、おじいちゃんだ~」
おじいちゃんが手をふってるよ。
おじいちゃんのちょびひげ、今日もきまってるね!
「おじいちゃーん、おはぎちょーだ~い」
えっ、わらびもちしかないの? じゃあいいや。
くーりんぐおふ、くーりんぐおふ♪
たいさ、女子こいしつにせんにゅうしました。
キミはしょうせつの読みすぎだね。ゲームは一日一時間ってやくそくでしょ!
うおー、トトちゃんお電話するの!
プルル、プルル……マグロおいしいねっ!
「アーモンドナッツ、ドナルド百パーセント」
電波をじゅしんちゅう、電波をじゅしんちゅう。
第三世界とかいつうしたようだ。カイナッツオはいずこか!
あ、ハンバーガー三つください。ぴくるすありありの肉なしなしで。
お姉さん美人ですねー。静岡はどっち? アイスちょーだい!
「おろ?」
あんれ? なんか体がひっぱられるよ?
地面がぐんぐん近づいてるね。年末ジャンボは宝くじ。
「おろろろろろろ?」
地面のほかになんかあるよ?
あれは三沢さんと唐沢さんだね。でっかいノノちゃんもいっしょだね。
「あべしっ」
地面が冷たい!
† † †
気が付けば、天を見上げるほどの巨躯がそこにあった。
蛇を彷彿させる肢体。青白い体躯は日の光に当たり鈍い光沢を放っている。
リヴァイアサンのような巨躯を誇るソレは地を揺るがほどの咆哮を轟かせながら天を舞った。
「あ、あああ、アヴェントヘイム……!?」
アヴェントヘイム。あまりの力と凶暴性から【壊滅せし者】の名を持ち、オーディン様直々の封印を受けた特一級指定の魔物。
文献によれば魔法を食らう能力を持ち、封印するのに一日掛かったという。
どこかの森にある泉の底に封印されているという噂が一時期流れていたけれど、ここだったのね。
アヴェントヘイムはその群青色の瞳を真っ直ぐ彼に向けている。
「なななんでここに化け物が!?」
彼は混乱の極みに陥ってるようだった。
「ギォオオオオオオオオオ――――――ッッ!」
再び、天を轟かすような咆哮を上げると、アヴェントヘイムの眼が輝き出した。
キュインッ!
瞳から放たれる閃光。
一条の光が私の眼前を通り過ぎた。
「……は?」
気の抜けた声。
見れば、彼の腕が肩の付け根から切り落とされていた。
「ぼ、ぼぼぼ僕の腕が……腕がぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁ!!」
それだけではない。光の軌跡に合わせて深い傷跡が残っていた。
――山が二分するほどの。
「ギォォォォォオオオオオオオオオオオオオオンッッ!」
恐怖からか、腰が抜けた様子の彼は震える体を鞭打って四つん這いで逃げようとする。
「いやだ! いやだぁぁぁ! 死にたくない、死にたくないよぉぉぉ!」
しかし、アヴェントヘイムはその太い尻尾で彼を捕らえる。
「ヒィィィイイイイイイイ――――っ!」
ベキベキベキ、と骨が砕ける鈍い音が聞こえる。さらには尻尾に巻きつけた彼を地面に叩きつけ始めた。
ズガンッ、ともドガンッ、ともつかない音。それに合わせ、大地が揺らぐ。
まるで玩具を手にした子供のような無邪気さを醸し出しながら、嬉々として彼を大地に叩きつける。
そこらかしこにクレーターができ、彼の血が所々に飛び散っている。
「いはぃ……いはぃよぉぉ……」
驚くことに、すでに虫の息だが彼はまだ存命だった。
もはや以前の美形は見る影もなく、腫れ上がった顔で目も見えない。
「ままぁ……ぱぱぁ……!」
「グギュルァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!」
彼を解放するアヴェントヘイム。
刹那、彼を中心に魔方陣が展開された。
「ぐぶっ……」
潰れたカエルのような声を漏らしながら地に這い蹲る。
重力魔法だろうか。地面が陥没し出している。
「――――」
彼の身体は瞬く間に地面へ埋没していき、あっという間もなくその姿を消した。
「グルゥゥゥゥゥ……」
アヴェントヘイムの視線が私へ向かう。今度の標的は他ならない私なのだろう。
死が迫るこの瞬間でも、私の心はまったく動かなかった。
色の消えた世界で、私はただ黙然とアヴェントヘイムを見上げる。
私の死を見つめる。
――ああ、ようやく……。
不意にアヴェントヘイムが上空を見上げる。それにつられて、私もそちらに目を向けた。
――何かが迫ってくる……?
何かが段々とこちらに迫っているようだった。
始め、ゴマ粒サイズのそれは次第に豆粒サイズになり、五秒もすると識別が可能になった。
――……人間の子供?
人間の子供と思わしき人物はもの凄い勢いで上空から落下してきている。
そして――。
「あべしっ」
轟音を響かせて地面に激突した。
† † †
「うおー、頭いてー。おはぎたべたーい」
もしくはきなこもちでも可。
「あや? やっぱり三沢さんだー。お久~」
三沢さん女の子座りしてかわいいね。アイスちょーだい!
「ゥゥゥゥゥ……」
「おおー、トトちゃんおっきくなったねー!」
まさに見上げるほどの高さだよー。
なつかしの交友を深めようとトトちゃんに近寄る。
するとどうしたことだろう。トトちゃんがいきなり吠え出したではないか!
トトちゃんの周囲に大きい氷柱がたくさん出現した。ぼくの腰回りくらいはあるね。とこrとでコルセットって腰痛に効くんだよ、知ってた?
「まさかの反抗期。シーフードピザを要求する」
「グルォォォオオオオオオオオオ!」
「トトちゃんうるさい。近所迷惑です」
はた迷惑な遠吠えをするトトちゃんは氷柱を打ち出した。
「とうっ、トリプルアクセル!」
だが残念、着地に失敗。
レイは足を挫いた!
レイは氷柱を避けきれなかった!
レイの左ふくらはぎが痛いことになった!
「オウマイシット! ガッデーム! ガムシロープ!」
あんよが痛いお。
トトちゃんが反抗期です。高校受験に失敗したからかな。それとも、ショートケーキを食べたから? でもあれって賞味期限三年くらい過ぎてたよ?
「トトちゃんお腹壊すよ?」
「ギォォォォォ!」
「それでもいいなんて、やだかっこいい!」
トトちゃんが輝いて見えるよ!
……でも、あんよが痛いよ。
あんよに刺さった氷柱を抜くと、血が一気に噴き出した。
「あ……貧血」
くらくらするよ~。
お腹が減って傷口を修復できないでごわす。
三沢さん膝枕してー。
「……え?」
三沢さんのお膝を拝借。んー、いい感じだね。
でも……なんか既視感を覚えるよ?
「えっと……あの……」
「グルォォォオオオオオオッッ!」
「だからトトちゃんうるさいよ?」
トトちゃん、今度は口から火の玉を吐いたよ。
「きゃっ」
三沢さんを突き飛ばしてどかし、その反作用で僕も避ける。
しかし追尾式のようで、火の玉は独りでに方向を修正し、僕の後を追った。
避けきれず火の玉が僕の身体を包んだ。
「うぉぉぉおおおおお! あっちいぃぃぃっ!」
地面をゴロゴロのたうつ。
特殊な炎なのか、火の勢いはまったく衰えない。
「ギォォォォォォォ!」
トトちゃんの巨大な尻尾が迫ってきた。
「ぽにゅっ」
地面とサンドイッチ。しかし、そのおかげか、炎は鎮火したようだった。
ぷすぷすと全身から煙を噴き出しながら地面に大の字で伏せる。あかん、起き上がる気力もないです……。
…………死にはしないだろうけど、これって地味にヤバくね?
「うぅぅ……ア○パ○マンがいれば、こんな奴ぬっ殺してやるのに……」
正確にはア○パ○マンの顔を食べればだけど。
あ、あかん。視界がぶれてきた。三沢さんが三人に見えるよ?
うぅ、空腹には勝てなかったよ……。
ふと、脳を刺激する匂いが尾行を擽った。
犬でも見落としてしまいそうな微かな匂い。しかし僕の鼻はこの匂いを捉えた。
――これは、食べ物の匂い……?
匂いのする方角を見れば、可愛いうさぎさんがプリントされたお弁当箱の姿が。
引っくり返って中身が地面にぶちまけられているけれど、僕の目には金以上の魅力的な姿に思えた。
ずりずりと這いずりながらお弁当の元に向かう。もう立ち上がる力さえないね。
「グギュァァァアアアアアアアアアッッ!」
だから、トトちゃんうるさいって。
後書き
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