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遊戯王GX-音速の機械戦士-

作者:蓮夜
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―黒幕との邂逅―

 
前書き
明けましておめでとうございます 

 
 明日香と背負われたレイと共に逃げ込んだ部屋には、運良くゾンビがいなかったようで、少しだけだが一息つくことが出来た。ロッカーに背中を預けながら座り、同じように座った明日香と向き合う形となる。

「……何がどうなってるか、分かるか明日香?」

「……ごめんなさい、私にも分からないわ。三沢くんが体育館に生存者を集めてる、っていうのは聞いたけど」

 未だに意識を取り戻さないレイを横にして、明日香は思索に耽りながらそう呟いた。どうやら三沢は別れ際俺に言った通りに、生存者をかき集めていてくれるらしく、俺たちが目指す場所もやはり体育館ということになるだろう。

 ……その前に休憩時間も兼ねて、お互いの情報を交換するべきだ。明日香が生存者の集合場所が体育館と知っているならば、俺から言える事といえば、三沢から聞いたデュエルゾンビは《集団催眠》か《洗脳光線》のようなカードで操られている可能性が高い、ということと、レイを助けようとしていたことぐらいしか無いのだが。

「私は……見張りをしてた場所で囲まれてしまって。逃げている間に鮎川先生に会ったんだけど、レイちゃんを託されて鮎川先生は……」

 ……そこから先は明日香に聞かなくても分かる。鮎川先生ならば、そこでレイを明日香に託した後、自分はその場に残って明日香をデュエルゾンビから逃がすことだろう。

 鮎川先生のデッキは【シモッチバーン】。クロノス先生程ではないにしろ、鮎川先生も充分な実力者だが……【シモッチバーン】は連戦して常勝無敗という訳にはいかないデッキだ。強力なデッキではあるが、キーカードが引けなかったりバーン対策をされてしまって、それを何戦もすることになれば……

「……ありがとう明日香、レイを助けてくれて」

 ……こうでも言ってやらなくては明日香は救われない。明日香の肩に手を置いて、彼女の目を見ながら今の自分に出来る精一杯の励ましだ。

「こっちこそありがとう、遊矢……でも、レイちゃんは……」

 言いにくいように伏し目がちになる明日香だったが、その理由は今のレイを見れば充分に良く分かる。おでこに乗せられた手拭いは何の意味も成さず、今なお高熱でうなされて意識を取り戻してはいない。

 鮎川先生がいなくなってしまった今、もはや十代たちが探してきている薬に賭けるしかない……その為にも、俺たちは体育館に急がなくては。

「よし、俺たちも体育館を目指そう」

「悪いけどそれは困るなぁ」

 突如として部屋に響き渡る俺と明日香以外の声。声がした方向に反射的に振り向くと、そこにいたのはラー・イエローの制服を着た加納マルタン。

 デュエルゾンビになっているかと思い、早々とデュエルディスクを構えて明日香の前に出たが……彼はデュエルゾンビにはなってはいなかった。しかし普通の様子ではなく、その腕は人間の腕とは似ても似つかぬ異形の腕となっている。

「誰だお前……マルタンじゃないな!?」

「やだなぁ。ボクは正真正銘加納マルタンだよ……この身体を借りてるだけだけどね」

 その様子に俺は、二年生の時にデュエルをした斎王のことを思いだす。彼も光の意志とやらに取り憑かれていたらしいが、マルタンもそのような類の物だろうが。

 得体も知れない異世界に来ているのだから、もう何を考えても無駄かと思ったが、それでもマルタンを助ける方法や、ここから体育館に行く方法などの思考を巡らせていると。俺の視界に、マルタンの異形の腕がデュエルディスクになっており、そのデュエルディスクに数種類のカードが並んでいるのを捉えた。

 《岩の精霊 タイタン》に《エーリアン・リベンジャー》、そして《「A」細胞培養装置》に《集団催眠》。このデュエルディスクの配置は、三沢の推測が正しければ、こいつがデュエルゾンビを操っているのだと証明していた。

「てめぇ……っ!?」

 マルタンへ向けて走りだそうとした時、ロッカーの影から巨大な物体がぬっと現れた。俺の身体を掴もうとして来る巨大な物体を避けると、そのまま明日香のいる位置にまで下がる。

 果たしてその巨大な物体とは。特徴的な髪型をしたデュエル・アカデミアの教員服を着た男、俺たちにデス・デュエルを強制し、十代に倒された筈の男――

「プロフェッサー・コブラ……!」

 ――呼びかけても答えはなく、プロフェッサー・コブラ自身の意識はない、もしくは薄弱としているようだ。十代から聞いた話によると、異世界に行く直前にあの建造物から落ちていったらしいが……生き残って異世界に来ていたというのか。

 マルタンのような小柄な人間ならばともかく、プロフェッサー・コブラがこの部屋で俺たちが見回った時に隠れていられる訳がない。様子がおかしいマルタンやプロフェッサー・コブラも含め、マルタンを乗っ取っている『敵』はまさに人知を超えた存在と言えるだろう。

「この身体は心の闇が深くて心地良いんだけど……君と倒れてる彼女には、身体が抵抗して来てね。そこの彼女も、殺そうとしたのにまだ生きてるだろう?」

 俺とレイを指差しながらマルタンの中にいる怪物はうそぶく。マルタンはまだ抵抗を続けている、という情報は何よりだったものの、俺の怒りを増幅させるという結果に終わる。

「不確定要素は消しておきたいからね……君たち二人はデュエルゾンビにもならず、ここで消えてもらおうか」

 マルタンの中の怪物がそう言うと、プロフェッサー・コブラが教員用のデュエルディスク・コートを起動させ、マルタンの中の怪物を守るように前に立ちはだかる。

「彼に勝ったら……そうだな、デュエルゾンビを止めてあげようか」

 マルタンの中の怪物が冗談めかしてそんなことを言うが、例え嘘だろうと可能性があるのなら、ここで退けはしない。

「上等だ……!」

「遊矢!」

 俺も同じくデュエルディスクを展開すると、背後から明日香の呼ぶ声が俺を引き止める。彼女もまたデュエルディスクを展開し、いつでもデュエルが出来る準備が完了していた。

「……私がやるわ。あなたはデス・デュエルの疲れが取れていないでしょう?」

「いや、それは認めないよ。遊矢先輩にデュエルしてもらわなくちゃいけないからね」

 明日香のありがたい申し出に、マルタンの中の怪物から警告が届く。確かにデス・デュエルの疲労が俺にはあるが、申し出を蹴ってあの怪物から逃げるわけにはいかない。

 ……いや、逃げるにしてもタイミングを計る必要がある。

「……俺がコブラに勝った後、俺の体力が無かったらあの怪物の相手を頼む。……それか逃げろよ、明日香」

「遊矢……!」

 最後の言葉を小声で付け足しながら、明日香の心配そうな声を背後に、デュエルディスク展開する。意識がないとはいえ、先程の万丈目も普段と変わらない実力を発揮していたことを考えると、プロフェッサー・コブラも例外ではないだろう。

『デュエル!』

遊矢LP4000
コブラLP4000

「俺の先攻、ドロー!」

 先攻を示したデュエルディスクに従ってカードをドローすると、あまり攻めることには適さない手札を眺める。十代から聞いた話からすれば、守備に回っていればジリ貧になるということだが……

「俺は《ガントレット・ウォリアー》を守備表示で召喚」

ガントレット・ウォリアー
ATK400
DEF1600

 巨大な腕甲を構えた機械戦士、ガントレット・ウォリアーが召喚されて守備の態勢を取る。まずは様子見といったところか、このターンでするべきことはこの程度だ。

「カードを一枚伏せて、ターンエンド」

「私のターン、ドロー……」

 意識が朦朧としていながらも、デュエルコートからカードを抜き取る。まずは何が来るのか、と思った次なる瞬間に、俺たちがいる部屋は毒蛇が棲む沼地へと姿を変えていた。

「フィールド魔法《ヴェノム・スワンプ》を発動……」

 プロフェッサー・コブラのデッキ【ヴェノム】のキーカード、フィールド魔法《ヴェノム・スワンプ》が適応される。エンドフェイズ時にカウンターを一つ乗せ、カウンター一つごとに攻撃力を500ポイントダウンさせる上に、モンスターの攻撃力が0になった瞬間に破壊する……まさしく毒の沼地。

 攻撃力が400のガントレット・ウォリアーは、最低でもこのターンのエンドフェイズに破壊されることが確定し――

「……ッ!?」

 ――沼地から飛びかかってくる毒蛇をデュエルディスクで弾くと、その感触はソリッドビジョンではないと俺に感じさせる。モンスターが実体化したデュエル、つまりは。

「……闇のゲーム……!」

 異世界に来てからというもの、モンスターが実体化していることがある。だがこの闇のゲーム特有の息苦しい感覚は、もはや間違えようもない。

 意識のないプロフェッサー・コブラにそんなことが出来るわけもなく、犯人は当然、コブラの背後にいるマルタンの姿をした怪物。

「てめぇ……!」

「フフ、こちらを睨んでいる余裕があるのかい?」

 マルタンの姿をした怪物が笑うと共に、コブラの前に蛇型のモンスターが召喚される。現れた蛇がガントレット・ウォリアーに毒液を吐き出すと、ガントレット・ウォリアーは身動きが取れなくなり、毒の沼地に沈んでいってしまう。

 召喚されて効果を発動したのは《ヴェノム・サーペント》。ヴェノムカウンターを乗せることが出来る効果を持ち、ガントレット・ウォリアーは攻撃力が0になったことにより、《ヴェノム・スワンプ》に引きずり込まれた。

ヴェノム・サーペント
ATK1000
DEF800

「ヴェノム・サーペントでダイレクトアタック……」

「つっ……!」

 飛びかかって来たヴェノム・サーペントにデュエルディスクがついていない方の腕が咬まれ、ライフの四分の一が削られる。それより毒蛇に咬まれたことの方が心配だ。

遊矢LP4000→3000

「カードを一枚伏せ、永続魔法《怨霊の湿地帯》を発動してターンを終了……」

 毒の沼地から、新たに姿を持たない怨霊が幾重も浮かび上がってくる。さらにカードを一枚伏せると、かなり厄介な布陣となっている。《怨霊の湿地帯》の効果は、そのターンに召喚したモンスターの攻撃を封じること……《ヴェノム・スワンプ》の相性は言わずもがな、だ。

「俺のターン、ドロー!」

 流石はあのオブライエンの師と言ったところか。だがもちろん、俺だってこのまま守勢に回る気はない。

「《ハイパー・シンクロン》を召喚し、伏せてあった《リミット・リバース》により、《ガントレット・ウォリアー》を特殊召喚!」

ハイパー・シンクロン
ATK1600
DEF800

 蒼色のボディをしたシンクロンと共に、墓地から先程破壊されたガントレット・ウォリアーがフィールドに蘇る。

「レベル3の《ガントレット・ウォリアー》に、レベル4の《ハイパー・シンクロン》をチューニング!」

 毒の沼地と怨霊に捕らわれないように飛び上がり、ハイパー・シンクロンは胸部から四つの光の玉を出した後、ガントレット・ウォリアーを包み込んでいく。

「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《パワー・ツール・ドラゴン》!」

パワー・ツール・ドラゴン
ATK2300
DEF2500

 黄色の装甲板をつけた機械竜がシンクロ召喚され、その内部に封じられているドラゴンが嘶く。もちろん《怨霊の湿地帯》の効果で攻撃は出来ず、《ヴェノム・スワンプ》には捕らわれてしまうが、パワー・ツール・ドラゴンの効果はその沼を消し去ることが出来る。

「パワー・ツール・ドラゴンの効果を発動! デッキから三枚の装備カードを裏側で見せ、相手が選んだカードを手札に加える! パワー・サーチ!」

 俺が選んだ装備魔法は《パイル・アーム》に《団結の力》、《ファイティング・スピリッツ》の三枚のカード。モノを言わずにコブラが指をさした右のカードを手札に加え、そのままパワー・ツール・ドラゴンに装備した。

「パワー・ツール・ドラゴンに《パイル・アーム》を装備する!」

 手札に加えた装備魔法《パイル・アーム》の効果により、パワー・ツール・ドラゴンの右腕に杭打ち機が装備される。攻撃力が500ポイントアップするとともに、装備時に魔法・罠カードを破壊することが出来る装備魔法だ。

 破壊出来るのは《ヴェノム・スワンプ》に《怨霊の湿地帯》、そしてリバースカードが一枚。破壊するのはやはり《ヴェノム・スワンプ》――と考えたところで、装備されていた筈の《パイル・アーム》が、無数の蛇となって蠢いていく。

「リバースカード、《蛇神の勅命》を発動。手札の《ヴェノム》モンスターを見せることで、魔法カードの発動を無効にする……」

 手札から《ヴェノム・スネーク》を見せることで、俺の《パイル・アーム》を無効にする。パイル・アームだった蛇は振り払ったものの、毒沼と怨霊に捕らわれ、パワー・ツール・ドラゴンは身動きが取れない。

「……ターンエンドだ」

「私のターン、ドロー……」

 俺のターンエンド宣言と共に、パワー・ツール・ドラゴンに毒蛇が一体絡みつき、攻撃力を500ポイント減じさせる。装備魔法が装備されてない今、これで攻撃力が0になれば《ガントレット・ウォリアー》と同じ運命だ。

「私は《ヴェノム・サーペント》の効果を発動……ヴェノムカウンターを一つ置かせてもらおう……」

 さらにパワー・ツール・ドラゴンに、もう一つのヴェノムカウンターが乗る。あと三つ乗せられれば――いや、ヴェノム・サーペントがいるのだから二つで充分か。

「さらに《ヴェノム・スネーク》を召喚……効果を発動し、ヴェノムカウンターを一つ置く……」

 二体目の下級ヴェノムモンスターにも毒液を吐かれ、パワー・ツール・ドラゴンは身動きが取れない程に、《ヴェノム・スワンプ》へと沈んでいってしまう。

「バトル……ヴェノム・サーペントで攻撃……」

「パワー・ツール・ドラゴン……!」

 あまりにも呆気なく破壊される機械竜に、毒蛇に咬まれた痛みよりも、ラッキーカードに申し訳がたたない気持ちが強いく残る。そして、一刻も早く《ヴェノム・スワンプ》を破壊しなければならない、という確認も。

遊矢LP3000→2800

「カードを二枚伏せ、ターンエンド……」

「俺のターン、ドロー!」

 操られているのが厄介な程にやはり強い。《ヴェノム・スワンプ》のせいで守備に回ることは出来ないが、《怨霊の湿地帯》の効果によって速攻は出来ない……次のターンには、ヴェノムモンスターたちの毒にやられている。

 ならばここで取るべき戦術は……

「……《スチーム・シンクロン》を守備表示で召喚」

スチーム・シンクロン
ATK600
DEF800

 この局面を逆転する為の一打、アイロンのような形をしたシンクロンを守備表示で召喚する。その攻撃力は600と、ギリギリで《ヴェノム・スワンプ》には一度では破壊されない。

 《怨霊の湿地帯》の効果は、そのターンに召喚したモンスターの攻撃を封じること……ならば、コブラのターンでシンクロ召喚すれば、俺のターンに攻撃することが出来る。

「……カードを二枚伏せる」

 次のターンで攻撃をすることが出来れば、この状況を何とかすることが出来る。その為にも、コンボに必要な《シンクロ・マテリアル》を伏せる。

「……ターンを終了する」

「……エンドフェイズ時に《サイクロン》を発動……リバースカードを破壊する……」

 俺のそんな小手先の技など見破っていたかのごとく、リバースカードをエンドフェイズ時での《サイクロン》で破壊される。《スチーム・シンクロン》の効果があったとしても、《シンクロ・マテリアル》が無くてはシンクロ召喚は不可能だ……

 ……《シンクロ・マテリアル》が破壊されればの話だが。

「破壊されたカードは《荒野の大竜巻》! 破壊された時、表側表示のカードを破壊出来る! 破壊するのは当然、《ヴェノム・スワンプ》!」

 《リミッター・ブレイク》と同じように、破壊された時に発動する罠カード《荒野の大竜巻》が発動し、《ヴェノム・スワンプ》が大竜巻の前に吹き飛ばされる。……そして《荒野の大竜巻》の発動により、思っていたことが確信に変わる。

 今のエンドサイクといい、プロフェッサー・コブラは操られているとはいえ、デュエリストだということを。何かの事情があったかどうかは知らないが、今の敵はプロフェッサー・コブラではなく、マルタンの姿をした怪物の方だ。

「私のターン、ドロー……」

 意識もなくデュエルコートからカードを引き抜くコブラを見て、マルタンの姿をした怪物を恨むとともに、もう一つのリバースカードを発動した。

「……さっさと解放してやる……リバースカード、オープン! 《シンクロ・マテリアル》!」

 リバースカードを発動するとともに、《スチーム・シンクロン》の効果が発動する。《シンクロ・マテリアル》によって相手のモンスターカードをシンクロ素材にし、《スチーム・シンクロン》の効果によって相手ターンでのシンクロ召喚を可能とする。

「レベル4の《ヴェノム・スネーク》と、レベル3の《スチーム・シンクロン》をチューニング!」

 コブラのフィールドの《ヴェノム・スネーク》が、光の輪どなった《スチーム・シンクロン》が包み込んでいく。合計レベルは7、毒の沼地が無くなったフィールドでシンクロ召喚が行われる。

「集いし闇が現れし時、光の戦士が光来する! 光差す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《ライトニング・ウォリアー》!」

ライトニング・ウォリアー
ATK2400
DEF1200

 光とともにライトニング・ウォリアーが光来し、その身体に電撃と光を纏わせていく。普段より放電している雷撃の鎧は、ライトニング・ウォリアーが怒っている証拠だろうか。

「……ヴェノム・スネークの効果を発動、ヴェノムカウンターを乗せる」

 生き残ったヴェノム・スネークから毒液がかけられるが、もはや《ヴェノム・スワンプ》はここにはない。ヴェノム・スワンプがあってこそ効果を発揮するヴェノムカウンターは、現時点では何の意味も成さなかった。

「……ヴェノム・スネークを守備表示。モンスターをセットして、ターンを終了する」

 ライトニング・ウォリアーに対してコブラが打った手は守備の一手。しかしリバースカードもないその布陣に、俺はむしろ不安をかき立てられる。

「俺のターン、ドロー!」

 俺のフィールドには、コブラの《ヴェノム・スワンプ》を突破するのに疲弊したため、ヴェノムカウンターが一つ乗った《ライトニング・ウォリアー》が一体いるのみ。対するコブラのフィールドは、守備表示の《ヴェノム・スネーク》にセットモンスター。

 記憶によれば、ヴェノムモンスターにリバース効果モンスターはおらず、爬虫類族のリバース効果モンスターというと……

「バトル! ライトニング・ウォリアーでヴェノム・スネークに攻撃! ライトニング・フィスト!」

 確実に破壊できるヴェノム・スネークの方を選択し、ライトニング・ウォリアーが雷撃を纏った拳により、ヴェノム・スネークを戦闘破壊する。守備表示のためにダメージはないが、ライトニング・ウォリアーの効果が起動する。

「ライトニング・ウォリアーが戦闘破壊に成功した時、相手の手札×300ポイントのダメージを与える! ライトニング・レイ!」

 コブラの手札は一枚のみ。ライトニング・ウォリアーの胸部のパーツから光線が発射され、セットモンスターを無視してコブラに直撃する。

コブラLP4000→3700

 コブラに微々たるものだが初ダメージを与え、ライトニング・ウォリアーは俺のフィールドに帰還する。ライトニング・レイが直撃しても、身じろぎ一つしないコブラが不気味で、全くダメージを受けているようには見えないが。

「……ターンエンドだ!」

「……私のターン、ドロー」

 相変わらずうわごとのように呟きながらカードをドローすると、コブラはまずセットモンスターの姿をこちらに見せる。

「……リバースモンスターは《メタモルポット》……お互いに手札を捨てて五枚ドロー……」

「メタモルポット……!」

 コブラのデッキのイメージに囚われすぎて、爬虫類族以外の可能性を考慮していなかった自分を恨む。リバースされた《メタモルポット》はその効果を忠実に果たし、コブラの手札は五枚に補充される。

「……そして《メタモルポット》をリリースし、《ヴェノム・ボア》をアドバンス召喚」

ヴェノム・ボア
ATK1600
DEF1200

 先程までの下級ヴェノムモンスターより、一回り巨大な毒蛇がアドバンス召喚される。上級モンスターになっただけあって、そのヴェノムカウンターに関する効果も強力になっている。

 だが、このタイミングで《ヴェノム・ボア》を召喚して来るということは、《ライトニング・ウォリアー》を戦闘破壊する算段があるか、もしくは……

「……フィールド魔法《ヴェノム・スワンプ》を発動……」

 ……ヴェノムデッキのキーカードたる《ヴェノム・スワンプ》をドローしたか、だ。毒の沼地が復活したことにより、乗せられていたヴェノムカウンターが意味を成すようになり、ライトニング・ウォリアーもまた《ヴェノム・スワンプ》に捕らえられた。

「……そして《ヴェノム・ボア》の効果を発動。ライトニング・ウォリアーにヴェノムカウンターを二つ乗せる」

 《ヴェノム・ボア》の効果は自身の攻撃を封じる代わりに、フィールドのモンスターにヴェノムカウンターを二つ乗せることが出来る。追撃が来ないということは助かるが、このままでは、ライトニング・ウォリアーまでもが《ヴェノム・スワンプ》に引きずり込まれてしまう。

「……カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 コブラのエンドフェイズを経由したことにより、ライトニング・ウォリアーに更なるヴェノムカウンターが乗せられる。その数は四つであり、ライトニング・ウォリアーの攻撃力はもはや400と、このターンで破壊が決定する域にまで達していた。

「良く耐えてくれた、ライトニング・ウォリアー……俺はライトニング・ウォリアーをリリースし、《ターレット・ウォリアー》を特殊召喚!」

ターレット・ウォリアー
ATK1200
DEF2000

 ライトニング・ウォリアーに礼を言いながらリリースし、その力を受け継ぐ機械戦士《ターレット・ウォリアー》を特殊召喚する。ライトニング・ウォリアーの元々の攻撃力は2400、よってライトニング・ウォリアーがヴェノムカウンターを乗せられていようが、ターレット・ウォリアーの攻撃力は2400ポイントアップする。

「バトル! ターレット・ウォリアーでヴェノム・ボアに攻撃! リボルビング・ショット!」

 攻撃力を3600としたターレット・ウォリアーの砲撃が、ヴェノム・ボアを蜂の巣と化していく。その銃弾はヴェノム・ボアを撃ち抜いてもまだ止まらず、コブラに対しても効果を発揮する。

「…………」

コブラLP3700→1700

 一気にコブラのライフポイントを半分以下にまで減じ、ライフの差を縮めるどころか引き離す。まさしく改心の一撃が命中したという訳だが、コブラはまたしても無表情のまま……リバースカードを発動した。

「……リバースカード、《ダメージ=レプトル》を発動……」

「……しまった!」

 爬虫類族専用サポートカード《ダメージ=レプトル》。受けた戦闘ダメージ以下の爬虫類族をデッキから特殊召喚するという罠カードで、強力なモンスターを特殊召喚するためには多大なダメージを受けなければいけない、ということになっている罠カードだ。

 コブラは2000ものダメージを受けたのだから、強力なモンスターも呼ぶことが出来る……という訳ではない。コブラのデッキのモンスターからしてみれば、戦闘ダメージなど少量でも良いのだから。

「……《ダメージ=レプトル》の効果により、《毒蛇王ヴェノミノン》を特殊召喚する……」

毒蛇王ヴェノミノン
ATK0
DEF0

 つまりは《ヴェノム・ボア》の召喚からはコブラの罠。ヴェノムカウンターで着々と弱らせていると見せかけ、実際は《ダメージ=レプトル》を発動し、《毒蛇王ヴェノミノン》を特殊召喚することがこそ狙いだったのだろう。

 その狙いは見事に成功し、コブラのフィールドには《毒蛇王ヴェノミノン》が特殊召喚された。……しかしあのモンスターすらも、切り札に向けての前座にしか過ぎないのだ。

「……墓地にいる爬虫類族は五体。よって《毒蛇王ヴェノミノン》の攻撃力は2500となる……」

 毒蛇王という名前に相応しく、墓地にいる爬虫類族モンスターの数だけ、攻撃力を500ポイント上昇させる効果を持つ。未だに攻撃力は低く、切り札に至る前に倒しておきたいところだが……《ターレット・ウォリアー》はもう戦闘を行ってしまっているため、このターンで俺に出来ることはない。

「……カードを一枚伏せてターンエンド」

「……私のターン、ドロー」

 俺に出来ることはリバースカードを一枚伏せるだけ。だがフィールドを覆う《ヴェノム・スワンプ》は、ターレット・ウォリアーの攻撃力を容赦なく削っていく。

「……魔法カード《マジック・プランター》を発動し、《ダメージ=レプトル》を墓地に送って二枚ドロー」

 《毒蛇王ヴェノミノン》を特殊召喚出来た今、もはや用済みということなのか、《マジック・プランター》の効果により、二枚のドローに変換する。さらにそのドローしたカードから、さらにもう一枚のカードをディスクにセットした。

「……魔法カード《ヴェノム・ショット》を発動……デッキから爬虫類族モンスターを墓地に送り、ヴェノムカウンターを二つ乗せる……」

 そして発動される、俺にとって最悪かつコブラにとって最高のカード。デッキから爬虫類族モンスターを墓地に送ることで、《毒蛇王ヴェノミノン》の攻撃力は3000にまで上昇し、ターレット・ウォリアーの攻撃力は2100にまで落ちることになったからだ。

「……毒蛇王ヴェノミノンで攻撃……ヴェノム・ブロー……」

「くっ……!」

遊矢LP2800→1900

 ヴェノミノンの操る毒蛇に身体ごと巻きつかれ、ターレット・ウォリアーも毒の沼地に沈んでいってしまう。切り札の一段落前とはいえ、ヴェノミノンとて強力なモンスターである事には違いないのだということを再確認する。

「……カードを二枚伏せ、ターンを終了する」

「俺のターン、ドロー!」

 勇んでカードをドローしたは良いものの、このターンでヴェノミノンを倒すとなると難しい。攻撃力が3000である今ならば、まだ対処は可能かもしれないが……

「……《レスキュー・ウォリアー》を守備表示で召喚」

レスキュー・ウォリアー
ATK1600
DEF1700

 レスキュー隊の格好を模した機械戦士を召喚したのみだったが、攻撃力と守備力も共にそこそこ高く、戦闘ダメージを受けない効果を持っているレスキュー・ウォリアーならば、最低でも次のターンを凌ぐことは出来るはずだ。

「カードを一枚伏せて、ターンエンド!」

 ……否。そのような思考はこの相手からすれば甘かった。俺はまだ、ターンを終了することすら許されない……!

「……リバースカード《毒蛇の供物》を発動……ヴェノミノンを破壊することで、レスキュー・ウォリアーと今伏せたリバースカードを破壊する……」

「なんだと……!」

 ヴェノミノンが自身を供物として捧げることにより、守備表示で召喚された《レスキュー・ウォリアー》に、伏せたリバースカード《ガード・ブロック》が破壊されてしまう。

 レスキュー・ウォリアーとガード・ブロック、という二種類の防御用カードを失ったものの、相手もエースを失っているのだから、これでおあいこと行きたいところだ。だが、相手が破壊したのがヴェノミノンであり、リバースカードがあるとなれば話が違う。

「……さらにリバースカード《蛇神降臨》。ヴェノミノンが効果破壊された時、デッキから《毒蛇神ヴェノミナーガ》を特殊召喚する……!」

毒蛇神ヴェノミナーガ
ATK0
DEF0

 降臨するのは毒蛇王を越えた毒蛇神。伝説の三幻神にも匹敵する耐性と、敵のライフがまだあろうともデュエルに勝利する、恐るべき効果を持つ。

「……ターン、エンドだ……」

 エンドフェイズでの効果の適応により、巻き戻しが起こって俺のエンドフェイズまで戻るが、出来ることはなくそのままターンを終了する。

「……私のターン。ドロー」

 俺のフィールドにはリバースカードが一枚のみ。コブラのフィールドには、毒の沼地こと《ヴェノム・スワンプ》に、【ヴェノム】の切り札である毒蛇神ヴェノミナーガ。

 毒蛇神ヴェノミナーガは進化する以前と同じく攻撃力は3000だが、これから無限大に上がる可能性を秘めている上に、《ヴェノム・スワンプ》のステータスダウンに耐性を持っている。

 そしてその神に等しい効果耐性のため、戦闘破壊以外では突破出来ない……

「……ヴェノミナーガで攻撃、アブソリュート・ヴェノム……」

 ヴェノミナーガの攻撃が無防備な俺に殺到して来て、悠長に考えている暇はなさそうだ。ダイレクトアタックならば《速攻のかかし》と行きたいところだが、ヴェノミナーガの効果の前ではそれすらも封じられる。

 リバースカードもヴェノミナーガには通用しない……が、ヴェノミナーガに発動しなければ問題ない。カードの発動自体を封じられた訳ではないのだから。

「伏せてあった罠カード《シンクロコール》を発動!」

 毒蛇神ヴェノミナーガの攻撃が止まるわけではないが、墓地から《パワー・ツール・ドラゴン》と、コブラの《メタモルポット》で墓地に送られていた《エフェクト・ヴェーラー》が、半透明のままフィールドに舞い戻る。《シンクロコール》は墓地のモンスター二体除外することにより、シンクロ召喚を行う罠カード……!

「レベル1の《エフェクト・ヴェーラー》に、レベル7の《パワー・ツール・ドラゴン》をチューニング!」

 エフェクト・ヴェーラーがパワー・ツール・ドラゴンの周りを旋回し、パワー・ツール・ドラゴンは力を解き放つかのようにその装甲を外すと、いななきとともに飛び上がった。ラッキーカード同士のシンクロ召喚、それが意味することは一つしかない。

「集いし命の奔流が、絆の奇跡を照らしだす。光差す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》!」

ライフ・ストリーム・ドラゴン
ATK2900
DEF2400

 パワー・ツール・ドラゴンの装甲版から解放され、ライフ・ストリーム・ドラゴンがその真の姿を現した。しかしヴェノミナーガにその攻撃力は及ばず、守備表示でのシンクロ召喚となる。

「《ライフ・ストリーム・ドラゴン》がシンクロ召喚に成功した時、俺のライフを4000にする! ゲイン・ウィータ!」

遊矢LP1900→4000

 守備表示だろうと《ライフ・ストリーム・ドラゴン》の効果は発動し、降り注いだ光によって俺のライフポイントが回復していく。……そして俺の視界の端に、マルタンの姿をした怪物の姿を捉えた。

「……伝説の龍の一柱……でも守備表示とは、不様なものだね」

 マルタンの姿をした怪物が何かを呟いたものの、聞き返す前にコブラが戦闘を巻き戻し、ヴェノミナーガがライフ・ストリーム・ドラゴンに迫る。しかしその攻撃は、墓地から飛び出した盾を持った機械戦士が防ぎきる。

「墓地から《シールド・ウォリアー》を除外することで、破壊を無効にする!」

 浮かび上がった《シールド・ウォリアー》の姿は、ヴェノミナーガの攻撃を防ぎきった後は消えていく。強力な効果とはいえ《メタモルポット》は、敵にもその効果を与えてしまう。

「……ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 未だコブラのフィールドに《ヴェノム・スワンプ》は健在であり、ライフ・ストリーム・ドラゴンにも例外なく毒蛇が絡みつく。ヴェノミナーガの攻撃力とさらに差が付いてしまうが、《ヴェノム・スワンプ》を破壊すれば良いだけだ。

「魔法カード《アームズ・ホール》を発動! デッキからカードを一枚墓地に送り、手札か墓地から装備魔法を手札に加える!」

 通常召喚を犠牲に装備魔法カードを手札に加えるカード。墓地から装備魔法を加えた後、そのまま《ライフ・ストリーム・ドラゴン》に装備する。

「ライフ・ストリーム・ドラゴンに《パイル・アーム》を装備する! 攻撃力を500ポイントアップさせ、魔法・罠カードを一枚破壊する! 破壊するのは当然、《ヴェノム・スワンプ》!」

  デュエル序盤に《パワー・ツール・ドラゴン》の効果で手札に加えられたが、《蛇神の勅命》に無効にされてしまっていた装備魔法《パイル・アーム》。再びその効果が発動し、空中に飛び上がった《ライフ・ストリーム・ドラゴン》が《ヴェノム・スワンプ》の中心に杭を命中させると、《ヴェノム・スワンプ》は雲散霧消していった。

「ライフ・ストリーム・ドラゴンを攻撃表示にし、バトル!」

 《ヴェノム・スワンプ》が消えたことにより、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》の攻撃力も元に……いや、《パイル・アーム》の分上昇した3400となる。俺が攻勢に転じることが出来るのは、コブラの《毒蛇神ヴェノミナーガ》の攻撃力を越えた今しかない……!

「ライフ・ストリーム・ドラゴンで、毒蛇神ヴェノミナーガに攻撃! ライフ・イズ・ビューティーホール!」

コブラLP1700→1300

 ライフ・ストリーム・ドラゴンが放った光弾が貫通したことにより、ヴェノミナーガの胴体に穴が空き、そのまま持ち主であるコブラへと直撃する。

 しかし直後に墓地から現れた《ヴェノム・ボア》が、そのヴェノミナーガに出来た空洞に入り込んだかと思えば、そのままヴェノミナーガを構成する無数の蛇になることにより、問題なく活動を再開する。ヴェノミナーガの効果である、墓地の爬虫類族を除外することで、自身を墓地から特殊召喚する効果だ。

 強力な効果には違いないが、その効果を使えば使うほどヴェノミナーガの攻撃力は下がっていく、という欠点を持つ。攻撃力が2500になり、ライフ・ストリーム・ドラゴンとの攻撃力の差は開いた。

「カードを一枚伏せてターンエンドだ!」

「……私のターン、ドロー」

 コブラのデッキのキーカードこと、《ヴェノム・スワンプ》はもう二枚墓地にあるため、三枚積みをしているだろうが、あまり警戒しなくとも良いだろう。それ以上に問題なのは、この状況を一枚でひっくり返すことが出来る魔法カード。

「……魔法カード《スネーク・レイン》を発動……!」

「……くっ!」

 警戒していた当の魔法カードが姿を現す。コブラのデッキから現れた、無数の蛇がヴェノミナーガに吸い付いていき、その身体を巨大化していく。

 《スネーク・レイン》は手札を一枚捨てることにより、デッキから爬虫類族を四体墓地に送ることが出来る、強力な墓地肥やしが出来る魔法カード。手札コストも例外なく爬虫類族であり、ヴェノミナーガの攻撃力は……5000にまで上昇する。

「……バトル。《毒蛇神ヴェノミナーガ》で、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》に攻撃。アブソリュート・ヴェノム……!」

「ぐああっ……!」

遊矢LP4000→2400

 触手をいくつものの大蛇へと変貌させ、四方八方からヴェノミナーガがライフ・ストリーム・ドラゴンを噛み砕く。墓地に装備魔法カードももはや無く、ライフ・ストリーム・ドラゴンは抵抗することも出来ずに飲み込まれる。

「……戦闘ダメージを与えたことにより、ハイパーヴェノムカウンターを一つ置く……」

 今までのヴェノムカウンターとは違い、ヴェノミナーガにそのカウンターは置かれる。こちらにトドメを刺す力を貯めているように見えるのは錯覚ではなく、ハイパーヴェノムカウンターが三つ乗った時、コブラの勝利は確定する。

 あと二回、ヴェノミナーガからの戦闘ダメージを受ければ俺の敗北は決定する。……攻撃力5000ともなれば、二回攻撃すれば俺のライフを0に出来るか。

「……ターンエンド」

「俺のターン……ドロー!」

 いずれにせよ、速く決着をつけなくては、手がつけられなくなることに変わりはない。気合いを込めてカードをドローした後、後ろにいる明日香の方を振り向いた。

 自分の言った通りに、いつでも逃げられるようにレイを背負ってはいるが、その眼光は絶対に一人では逃げないと語っているようだ。

「……遊矢?」

 ――そんな彼女の力を借りる。

「……使わせてもらうぜ、明日香! 《融合》を発動!」

 俺が魔法カードを発動するとともに、フィールドに融合をする時特有の時空の穴が発生する。当然ながら、俺のエクストラデッキには融合モンスターは一体――かの銀盤の女王のみ。

「手札の《エトワール・サイバー》と《ブレード・スケーター》を融合し、《サイバー・ブレイダー》を融合召喚!」

サイバー・ブレイダー
ATK2100
DEF800

 時空の穴から飛び出しながら、フィールドを滑る明日香の切り札《サイバー・ブレイダー》。

「さらに現れろ、マイフェイバリットカード! 《スピード・ウォリアー》!」

『トアアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

 マイフェイバリットカードが先行していたサイバー・ブレイダーの前に立ち、巨大なヴェノミナーガに対してポーズを決める。このターンで終わらせてみせる、という俺の決意を汲み取ってくれているのだろうか。

「スピード・ウォリアーに装備魔法《進化する人類を装備し、バトル!」

 スピード・ウォリアーに流れ込む進化するエネルギーによって、サイバー・ブレイダーを置いて単独でヴェノミナーガに向かっていく。そしてバトルフェイズになったことにより、スピード・ウォリアーの効果が解禁される。

「スピード・ウォリアーの効果を発動! このターンのみ、元々の攻撃力を倍にする――ヴェノミナーガに攻撃、ソニック・エッジ!」

 《進化する人類》の効果で元々の攻撃力が2400となっていた《スピード・ウォリアー》は、その効果により攻撃力を4800にまで上昇させる。ヴェノミナーガもただでやられるわけもなく、無数の巨大な蛇がスピード・ウォリアーを襲う。

「そして、墓地から《スキル・サクセサー》の効果を発動! スピード・ウォリアーの攻撃力を800ポイント上昇する!

 スピード・ウォリアーは毒蛇を避けながら、ヴェノミナーガ本体に向かっていったものの、いつしか捕らわれてしまう。だが、《アームズ・ポール》の効果で墓地に送られていた《スキル・サクセサー》により、大蛇を蹴散らして本体に蹴りを叩き込む。

コブラLP1300→700

 《スピード・ウォリアー》の蹴りにより、またもやヴェノミナーガに風穴が空いたものの、墓地の爬虫類族を除外することでつつがなく特殊召喚される。攻撃力は爬虫類族が一体除外されたことにより、その攻撃力は4500へと――

「……なに?」

 ――否。マルタンの姿をした怪物が、異変に気づいて疑問の声を出したように、ヴェノミナーガの攻撃力は4500ではなく、0となっていたのだから……!

「これは……!」

 後ろにいる明日香は何故か気づく。コブラのフィールドにいる二体の悪魔と、俺のフィールドに蘇生された《スチーム・シンクロン》のことを見て。

「……俺はリバースカード《リバイバル・ギフト》を発動していた! 俺の墓地から《スチーム・シンクロン》を特殊召喚する代わりに、相手フィールドに二体の《ギフト・デモン・トークン》を特殊召喚する!」

ギフト・デモン・トークン
ATK1500
DEF1500

 守備表示で特殊召喚される、《スチーム・シンクロン》と《ギフト・デモン・トークン》。自分フィールドと相手フィールドの違いこそあれ、それらの特殊召喚がヴェノミナーガの攻撃力に異変を起こしていた。

「お前のフィールドにはモンスターが三体……よって、サイバー・ブレイダーの第三の効果が発動する!」

 サイバー・ブレイダー第三の効果、三人組で奏でられるパ・ド・カドル。相手フィールド上にモンスターが三体のモンスターがいる時、相手の全ての効果を無効にする効果である。

 ヴェノミナーガが先に召喚されていては、その効果すら無効にしてしまうものの、《スピード・ウォリアー》に破壊されたことによりフィールドを離れたため、優先権は《サイバー・ブレイダー》へと移行する。つまりは……

「ヴェノミナーガの効果を無効にする効果は無効化され、ヴェノミナーガの攻撃力は0となる!」

 そしてサイバー・ブレイダーはまだ攻撃していない。俺の命令をすぐに行動に移せるようにか、サイバー・ブレイダーはヴェノミナーガへと向かっていく。

「サイバー・ブレイダーでヴェノミナーガに攻撃! グリッサード・スラッシュ!」

 その強大な攻撃力を無力化されたヴェノミナーガの首を、《サイバー・ブレイダー》が一蹴りで吹き飛ばす。……コブラのフィールドにはリバースカードもなく、何やらが起こる気配もない。

「……リッ、ク……」

コブラLP700→0

 最期に人の名前のようなことを呟きつつ、コブラは倒れ伏してピクリとも動かなくなる。その利用されるだけ利用された最期に、少しだけ同情しなくも無かったが、今はそれどころではない。

「スピード・ウォリアー! その怪物にソニック・エッジ!」

 デュエル後に消えるはずの《スピード・ウォリアー》だったが、そのままマルタンのような怪物へと蹴りかかる。マルタンのような怪物は、向かって来たスピード・ウォリアーに対してニヤリと笑うと、怪物らしい左腕でスピード・ウォリアーの蹴りを受け止めた。

「がはっ……!?」

 ――怪物が受け止めた瞬間、《スピード・ウォリアー》の蹴りの衝撃がそのまま自分に跳ね返って来るような感覚に襲われた。腕がミシミシと痛み、その衝撃に膝をつきそうになるも、何とか左腕を抑えながら耐える。

「……デュエルゾンビを止めてくれるんだったよな?」

「そんなこと言ったかなぁ?」

 デュエル前にしていた約束……嘘だろうとは思っていたが、ここまで白々しく言われるといっそのこと清々しい。だが、攻撃を反射するようなあの左腕があっては、迂闊に攻めることは出来ない……

「明日香、二人で止めるぞ!」

「ええ……ッ!?」

 明日香の応じる声とともに、鍵をかけていたはずの小部屋のドアがぶち破られ、外から続々とデュエルゾンビが現れ始める。異世界に来ていた生徒がほとんど、という訳ではないだろうが……そう錯覚せざるを得ない数だ。

「キミのデュエル中に呼んでいたゾンビたちが集結したみたいだね……気分はどうだい、遊矢先輩?」

 わざとらしくマルタンの真似をして『先輩』とつける怪物を睨みつけるながら、部屋の唯一の出口から現れたデュエルゾンビの様子を見る。呼んでいたゾンビたちが集結したと言っていたように、正面から無理やり突破できる数ではない。

「……悪いが、ただでやられるわけにはいかない」

 デッキから二枚のモンスターカードを取り出してセットすると、《サイバー・ブレイダー》が消える代わりに、二体の《スピード・ウォリアー》が現れる。もう少し巨大なモンスターを出したいところだが、部屋の大きさと削られるライフの心配から、マイフェイバリットカードが最適だと判断する。

「へぇ……そのモンスターでボクに攻撃してくるのかい?」

 そう試すような言い方をしながらも、マルタンの姿をした怪物は、自らを守るようにデュエルゾンビを前に配置する。あれでは、左腕に気をつけながら攻撃することなど出来やしない。

「……頼むぜ、スピード・ウォリアー!」

 元々いた一体と現れた二体が俺の叫び声に呼応すると、一体一体がそれぞれ俺と明日香にレイを背負い、部屋を走って脱出を試み始める。

「くっ……!」

「きゃっ!」

 体力が落ちている身体にこの重圧はキツいが、デュエルゾンビとなって動作が緩慢になっている生徒には捕らえられず、部屋の出口に向かって殺到するが――

「させないよ」

 マルタンの姿をした怪物の左腕から火球が放たれると、俺と明日香のスピード・ウォリアーを撃墜し、俺と明日香は部屋に叩きつけられる。もう一発がレイの乗ったスピード・ウォリアーを襲ったものの、地上に叩きつけられた二体が壁となり、レイだけでも部屋から逃がすことに成功する。

「一人逃げられちゃったか……まあ、長くないみたいだから良いか」

 後はあの《スピード・ウォリアー》と、薬を持ってくると言った十代たちを信じるしかない。……他の人の心配をしている暇は、俺たちにないということもあるが。

「……悪いな明日香、逃がせなくて」

「この状況で私だけ逃げられないわよ」

 明日香と背中合わせの態勢になり、俺たちを囲むようにしているデュエルゾンビに対し、デュエルディスクを展開する。もはや逃げられないとするならば、最後まで抵抗するだけだ。

「行くぜ、明日香……」

「ええ、遊矢」

『デュエル!』

 
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