トライアングラー+α
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七話
フロンティアでの戦いが終わり、ステージに降りると、シェリルとランカが、死力を尽くして歌ったため、へたり込んでいた。
しかし、バリーには今から告げなければいけない内容に、顔をこわばらせていた。
「アルト!バリー!どうだった?アタシのライブ!」
「どうもこうもあるか!無茶しやがって!ランカちゃんもランカちゃんだ!せっかくアルトがピックアップしたのに!アルト!お前は後で説教だ!」
そうまくしたてると、シュンとするランカとアルト。完全にふてくされるシェリル。別の意味で顔がこわばってしまう。
「それより!ギャラクシーは!」
これが言わなければいけないこと…そう…ギャラクシーの安否は、先ほどキャシーグラスから、通信で来ていた。
「それがな…」
口ごもるバリーに、シェリルがすがる。
「もったいぶらないで教えなさいよ!」
銀河のトップスターといえど、まだ二十歳にもなっていない少女だ…
大人としてはつらい…だが、伝えなくては…
シェリルに、ギャラクシーの壊滅を告げた。
それが何を示すのか、アルトやランカにも伝わったようで、その場が一瞬にして凍り付く。
「嘘でしょ?ギャラクシーが…」
「本当だ…ピクシー小隊と、新統合軍で、救援活動はしたみたいだが、バトルギャラクシーは大破、他の船も、壊滅したそうだ…」
ステージでの凛々しいシェリルからは想像できないほど、子供のように泣くシェリルは、アルトどころか、バリーすら見たこと無い。
うっすらと、バリーの目頭に光るものがあったのは、見て見ぬ振りだ。
SMSロビー
「それで、シェリルは当分こっちにいるみたいだな…」
「帰るところがなければ当然だろ…」
訓練の中休みに、ロビーにて話すミシェルとアルト。
それを聞きながら端末をいじるルカ。
もはやおなじみの光景だ。
テレビでは、シェリルの被災地慰問公演の内容を伝えてる。
「しかし、さすが銀河の妖精ってところか?あんなことがあっても、歌い続けられるなんて…」
ランカも手伝って、精力的に被災地を訪れては慰問公演を行うシェリル。
悲しさを消すかのように、歌い続ける彼女を人は銀河の妖精とたたえる。
美星学園
そんな中でも、学生は勉強をしなければならない。学生の本分は勉学だからだ。
バリー先生も板に付いたものだ。
「はい!今日は、皆に転校生を紹介しよう!」
朝の朝礼で、転校生が来るとは聞いていたが…ギャラクシーの生き残りか?何隻かは生き残ったらしいから…
教室がにわかにざわつく。
「ハーイアタシはシェリル!よろしくね!」
なんとまぁ…フロンティア1、いやむしろ銀河1教室と言うものが似合わない人間がいるとすればこの女だろう。
ファンが見たら泣いて喜ぶだろう制服姿に身を包んでだ。
「なっ!何でお前が!」
「いいじゃない!一度学校ってものに行ってみたかったし…」
「だからってお前なぁ!」
「コラコラ小島先生。生徒にお前はいけませんよ。」
担任の教師に、怒られた。バリーはあくまで教育実習生だ。
「グッ…で、では!ノームさんと、仲良くやっていきましょうねー」
しかし、動揺は隠せない。
声が震えていた。
「アルト…どうなってんだよこれは…」
「俺にもわからん…」
昼休み、いつもの階段で、アルト、ミシェル、ルカ、ナナセ、ランカのいつものメンバーで食事をしてると、自然とシェリルの話題になる。
「全く…しばらくこっちにいるからって…」
「それより今はどこにいるんだよ銀河の妖精様は」
「ふーん…意外と普通ね…」
「そんなにすごいところに見えたか?」
「それはね…SMSのパイロットが四人もいるところだもん。なんか特別なことしてるのかなって…」
バリーは、担当の実習生として、昼休みに、転校生、シェリルノームの案内役を任されていた。
「別にココが特別な訳じゃねーよ。それより…なんでパイロットコースを選んだ?」
もっともな疑問だが、いたってシンプルだ。
「なんでって…学校ならどこでもよかったのよ…いまさらアイドルコースなんて必要ないしね!」
「アルトがいるからか?」
核心を突いたつもりだ。シェリルはアルトのことを…
「関係ないわ!アタシはアタシ!」
そう言うと、スタスタと歩いていってしまった。
何なのよこれ…
アイツにアルトのこと言われるとなんだか…
胸の奥がざわつくと言うか…なんだか…
「ハッ!それはないわね。お笑いだわ。」
バリーが職員室にて、書類をまとめていると、携帯が不意に鳴った。
『仕事が終わったら連絡しなさい!』
シェリルからだった。
「こっちの都合完全無視かよ!」
思わずツッコミを入れたくなるほどのシェリルっぷりだ。
数十分後に正門に姿を現したバリーを迎えたのは制服ではなく、私服に身を包んだ
シェリルだった。
「遅い!」
ここもシェリルらしい。
「お前なぁ俺だってすぐに仕事…」
「バイク乗せてよ!」
人の話を聞かない。シェリルの悪いところだ。
「アイサーお姫様。」
これはもうO.K.するほかない。
バリーの愛車は二人を乗せて、あの丘へと走っていった。
「ここって…」
「グリフィスパークって言ってな…ランカちゃんとかもよく来るらしいんだわ…」
「あの子…すごいわよね…キラキラしてて…」
シェリルが人を誉めるなんて滅多になかったので、ビックリしたが、問題はその後だ。
「後ろから追いかけてくる影って怖いのよね…」
あのシェリルが。プライドと自尊心の固まりのシェリルが、弱気な発言をした。
それだけでも驚きだが、もっと驚きはシェリルの顔にあった。
「おまえ…泣いて…」
「泣いてない!」
なんと、泣いていたのだ。
シェリルに出会って数ヶ月たつが、初めてのことだった。
「まったく…泣くこたぁねーだろーよ」
「だから泣いてないって!」
不安にかられてのことか…はたまたグリフィスパークの壮大な景色に感動したのか…
どっちにしても…
「たまには弱いところ見せたっていいんじゃねーか?片肘張るなって」
「…アンタねぇ…」
自分よりも若干低く綺麗なストロベリーブロンドの頭をポンポンとたたくと、一気にシェリルが子供っぽく感じられた。
そうだ…まだ年端のいかない少女なのだから…
それでも、強く、自尊心が高く、実は脆い…
そんな、シェリルが…
夕陽の照るグリフィスパークで二人の陰は日が暮れるまで、無くなることはなかった。
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