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フロンティア

作者:フィオ
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一部【スサノオ】
  十七章【試練】

ブラザーフッド【転送室】。

転送機のみが設置されている殺風景なその部屋。
その部屋に徐々に再構築されていく零達の素体。

「ここがブラザーフッド…?」

「そうさ。まぁ、正確にはブラザーフッドの転送室だけどね」

さぁ、と零達を促し正面のドアを開けるウォルター。

「おぉ、それっぽいな」

零達の眼前に広がるのは巨大なモニターや精密機器にそれをまるで自分の手足のように操るユーザー達。
殺風景な場所を想像していた零達は、意外にも整った環境に驚き思わず口が開いてしまう。

その様子を横目で見たウォルターは満足そうに満面の笑みを浮かべる。

「ここは中央指令室だよ。基本的にここまでの設備は一般ユーザー達には与えられないんだけどね。まぁ、設立目的が目的なだけに特例として用意できたのさ」

「ここでスサノオの情報とかを調べたりしているんですか?」

「いや、調べるのはユーザー達の目や耳や足さ。ここではその情報を統合して、次の出現予想地点の割り出しや遭遇した際に的確な指令をあたえている場所として利用しているんだよ」

そういうと、ウォルターは巨大モニターの前に立つ長髪の男へと歩み寄る。

「スサノオはどんな感じだい『ユーリ』君?」

ウォルターの言葉にユーリはゆっくりと振り返る。
病的に白い肌に男とも女とも取れる中性的な顔立ち。
言葉の主がウォルターだと気が付くと、ユーリは笑顔で軽く会釈した。

「今のところ目撃情報も無く被害報告もない、といった感じです」

「そうかぁ。何事もないのは嬉しい限りだけど…やっぱりなかなか思い通りにはならないね」

「それはそうでしょう。そう簡単に討伐できるようならこんな大層な設備は必要ないですからね。ですが、奴の行動周期を分析した限りでは2日。遅くても1週間以内にはまた何かしらの行動を取ってくるのではないかと。なので現在は予想地点周辺へ2チーム配備しています」

「そうか…まぁ、その辺りの判断はギルドマスターの君に任せるよ。と、紹介するよ!彼らが新しいメンバーの零君とジャック君にクラウリー君た!」

ウォルターに紹介され零達を見やるユーリ。
その視線は3人の力を見極めるかのようにゆっくりと一人一人へと向けて行く。

「ふむ…。僕はユーリ…このギルドのマスターだよ」

ひとしきり見やると、再び笑顔を見せ自己紹介をするユーリ。

「俺は零です」

「ジャックだ。よろしくな!」

「クラウリーです。よろしくおねがいしますわね」

「なるほど…聞いていた話だと君達は初心者らしいけど、ジャックさんは違うのかな?」

零達の自己紹介の後のユーリの一言。
その初対面にも関わらず一瞬にしてジャックが経験者であると見抜いたその一言に驚きを隠せない零達。

「驚いたな…俺、そんな素振り見せたか?」

もちろん、たった今…しかもほんの少し見ただけのユーリにそんな素振りを見せた筈もなく。

「驚いただろう?いやぁ、僕も最初にユーリ君と会ったときはその能力に驚かされたよ!」

そういってウォルターはユーリの肩へと手を置く。

「ジャック君が初心者ではないのは僕も分かっていたけど、さすがにこんな一瞬では見抜けなかったね!…このユーリ君は中々、人やネイティブの力量を見抜くのが得意でね。ほんの凡人ではまず気がつかないような些細な仕草から大体の能力を読み取ってしまうのさ!」

「なんだか超能力みたいですね…」

零の言葉に首を振るユーリ。

「そんな大層なことではないですよ。ただ何となく分かる程度です。だから君達の実力は完全にはわからない…まぁ、勘のような信憑性のない曖昧なものです」

「と、謙遜しているけど間違いなく彼の観察眼は本物さ。と、それはさておき、零君達がギルドに入ってくれた訳だけど…ユーリ君から何か今お願いしたい依頼とかあるのかい?」

「いえ、特には…」

「そうか!なら調度よかったよ!」

そういうと、こんどは零達の後ろへとひっそりとたたずんでいたティティへと歩み寄る。

「じゃぁ、ユーリ君から依頼がなければ零君たちにはこのティティ君とチームを組んで普通に依頼をこなしたり情報を収集したりしてもらおうかな!」

「え…私……ですか?」

いきなりのことに驚き不安そうにうつむいてモジモジしだすティティ。

「そうですね。零さん達にはもう少しこのフロンティアの戦闘経験を積んでもらう必要がありますし…ティティさんにはもう少し協調性を学んでもらう必要がありますからね」

「……と、いうわけなんだけど。零君達としてはどうかな?もちろん、これは強制ではないから君達3人で行動を続けてもらっても構わないんだけど」

特に断る理由がない零達は拒否する理由もない。
むしろ、ティティに好意を寄せている零にとっては願ったりかなったりの話だった。

「俺は全然構いませんけど」

「まぁ、俺もかまわないぜ?」

「私は…」

快く承諾した零とジャックとは裏腹に、クラウリーはうつむき表情を曇らせる。

「どうしたんだよ?」

「…いえ、なんでもありませんわ。仲間が増えればそれだけ楽もできますものね」

微笑み取り繕うクラウリーだが、明らかに作り笑い。
そんなクラウリーに疑問を抱きながらも零もジャックも追求をすることはなかった。

「うん、それじゃぁ決まりだ!」

と、ウォルターが嬉しそうに笑い手を一叩きすると、零達への元へ特務依頼が届いた。

特務ミッション:【親睦会】
ミッション内容:【ケルベロス討伐】
報酬:【討伐祭参加資格】
依頼主:【ウォルター】

「おいおい…」

届いた依頼に顔をしかめるジャック。
それもその筈である。ケルベロスといえばフロンティア2でも中堅に位置する強力なネイティブであり、明らかに零達が相手にするには酷な対象なのだから。

「どういうつもりだよ…俺たちはまだフロンティア1を卒業したばかりだぜ?」

「なに、問題はないさ!むしろマスティフを討伐できた君達には余裕ですらあると僕は思うけどね!」

「討伐できたって、ギリギリだぜ…」

ガックリと肩を落とし、やれやれと首を振るジャックに対し、ウォルターは悪戯な笑みを浮かべた。

「フフフ…大丈夫だよ。それに、いいかい?強くなるためには自分より弱い相手と戦っていたって成長できないんだよ。君達にはもっと強くなってもらわなくちゃ」

「まぁ、確かにそうですけど…」

「博士、時期尚早って言葉知ってますこと?」

「…むぅ。ノリが悪いなぁ」

零とクラウリーの反応にガッカリしながらもティティへと目を向け。
再びニヤリと笑みを浮かべる。

「君はどう思うティティ君?」

「私は…」

問いかけられモジモジと目を伏せるティティだが、すぐに真っ直ぐとウォルターを見るとその小さな口から言葉を絞り出す。

「出来る…と思います……単純に私達の戦力を考えれば……ですけど」

「だよね!だよねっ!?さぁ、どうする!?こんなか弱い少女ができるって言ってるんだよ!?」

「あのなぁ…博士。んな挑発したって無理なもんは……」

いいかけたジャックだが、そのすぐ刹那意外な人物がその言葉を遮った。

「やりますわっ!冗談じゃありませんわ!別に出来ないなんて一言もいってませんことよっっ!」

凄まじい形相。
誰よりも前へと乗りだしクラウリーは、固く握りしめた拳をウォルターへと向ける。

「私、ナメられるのが一番嫌いですの。今回はその挑発に乗って差し上げますけれど…」

握りしめた拳に槍を生成し、勢いよく床へとその刃を突き立てるクラウリー。
刃を突き立てられた床は刃を中心に全方向へと亀裂を入れた。

「次からは言葉を選んでいただけますこと?」

ヒステリックで暴力的なその行動に若干…いや、相当に引く零とジャック。
そんな2人を尻目に槍を引き抜き背を向けスタスタと歩き出す。

「ちょっ、ちょっと待てよクラウリー!なにムキになってんだよ」

そんなクラウリーを後ろから肩を掴み引き留めるジャックだが、それを振り払い鋭い眼差しで睨み付けるとボソリと一言…ジャックにしか聞こえなかったであろうと言うほどの小さな声で沸き上がる怒りの感情を押し殺すように呟いた。

「もう、誰かと比べられるのも見下されるのもウンザリなのよ」

「お前…っ」

いいかけたジャックだが、そのあまりにも凄まじい形相に頭を抱えると、

「…ったく。無茶苦茶な奴と組んじまったもんだぜ。……どうするんだよ零?やるか?」

「俺は…」

ジャックに諦めたような顔を向けられ零は悟る。
やるしかないんだ、と。

「良いですよ。俺にはこのネイティブがどれだけ強いのか分からないですけど……もっと強くなりたいですし…皆がやるのに俺だけ指加えて見ていられないですから」

「…たまに熱血だよな。零は」

苦笑するジャックだが、その心は不満ではない。
むしろ、喜びといってもよかった。

「俺は運がいいんだか悪いんだか…」

零を引き寄せ、無理矢理ジャックを中心に肩を組む。

「ちょっ、ちょっとジャックさん!?」

「いきなりなんですのっ!」

まぁまぁ、と笑うとジャックはふとウォルターへと目を向けた。

「何考えてるかわかんねぇけど…今はその挑発に乗っといてやるよ」

「フフフ、君達なら受けてくれると思ったよ」

「言ってろ…」

そう吐き捨て2人を引きずるように歩き出すジャック。
ティティもウォルター達へと一礼するとそれを静かに追う。

それを黙って見据えるウォルターとユーリ。
最初に口を開いたのはユーリだった。

「確かに…時期尚早ですね。何を考えているんですか?」

「なにも…ただ、彼らには強くなって欲しいだけさ」

「また、彼らは何かの実験サンプル…というわけですか」

嫌みのようなその言葉に、ウォルターはニヤリと笑うとユーリの口を人差し指を押しあて止める。

「人聞きが悪いよユーリ君。僕は僕なりの親切で彼らに試練をかしているのさ。期待の新人として、ね」

「新人はごまんと居たでしょうに…なぜ彼らを」

「それは、まだ君が知る必要が無い事さ。…今は、ね」

そう言い転送を開始するウォルター。

「本当に…読めない人ですね。…博士」

ふっと笑みをこぼしモニターへと目を戻すユーリ。
深く考える必要もない。
ユーリにとっては他人事だった。
利害の一致。それだけが、それだけしか2人の間には無いのだから。



 
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