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インフィニット・ストラトスの世界に生まれて

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変態と紳士の境界線上 その三

こちらに真っ直ぐ向かってくるのは『福音』だ。
俺が進路上にいるんだから、まあ当然なんだが。
距離は離れているが、俺の後ろには船籍不明の船がいる。
船を気にしながらの戦闘なんて、かなり手間がかかりそうだ。
ハイパーセンサーの視覚情報でこちらに近づいてくる『福音』を確認する。
全身が銀色で頭部から一対の翼が生えている。
本体同様銀色に輝くそれは、大型スラスターと広域射撃武器を融合させた新型システムらしい。
今回は俺にとっての初めての実戦だ。
緊張しないかと問われれば、していると答えるだろう。
ロールプレイング・ゲームでいうと、ゲームしょっぱなロクにレベル上げもしないで、いきなり中ボスに挑むようなもんだからな、無謀と言ってもいい。
唯一の救いは、相手が無人機だということだろう。
遠慮する必要がない。
だが、向こうも遠慮はしないだろう。
なんせ、篠ノ之束のことだからな。
そうだとしても、ここまで来て引き返す訳にもいかないし、とにかくやってみるしかない。
『福音』がミサイルの射程内に入る。
俺は両足のふくらはぎ部分に急造で取り付けてある、使い捨てのミサイルポットから六本のミサイルを全弾射出。
ミサイルは噴煙は空に白い航跡を描きながら目標めがけて飛んで行く。
俺は高度を変えず反時計回りで機体を滑らす。
ミサイルポットはパージ可能だが、今はしない。
ミサイルを感知したのか『福音』は回避を開始している。
俺は命中を確認することなく、次の行動を起こす。
機体後部に取り付けてあるアームが動き出し、俺の脇の下を通るように二挺のガトリングガンが前に押し出されてくる。
本来なら、セシリア機のようにミサイル発射装置があるはずだか、俺の機体にはそれがない。
そんなもんより、小型のガトリングガンを二挺つけてくれと言ったからだ。
素人考えだが、ちまちまとミサイルを発射するより、威力は小さいが、一分間に一千二百発の弾丸を吐き出すガトリングガンのほうがよっぽどいいだろうと思ったからだ。
持ち手を握るとモーターが唸り始め、六本の砲身がゆっくりと回転を始める。
ハイパーセンサーが警告を発する。
見れば、『福音』の放ったエネルギー弾が俺に向かって飛んで来ていた。
一個のエネルギー弾の大きさはソフトボール大に見える。
それが無数に襲ってくるんだ、絶対防御があるといっても恐怖を感じる。
俺はそれを確認すると、空のミサイルポットを切り離し、囮に使うと機体を急上昇させた。
エネルギー弾は切り離したミサイルポットに命中したのだろう、下方から俺の身体に幾度も衝撃が伝わってくる。
爆発時の衝撃波を下方から感じるが構うことなく『福音』に対して引き金を引く。
二挺のガトリングガンの砲身からは火柱が噴き出し、一秒間に二十発の弾丸が回転する砲身から吐き出されていく。
弾丸の矢が『福音』に向かって飛んで行くが、命中しているようには見えない。
俺の目的は撃墜ではなく、足止めだ。
命中しなくても構わない。
俺の機体に近づかれなければ良いくらいに思っている。
俺のISには接近戦用武器がナイフ一本しかないからな。
そんなもの一つで『福音』相手に接近戦をやろうとは思わない。
それに、近距離格闘は得意じゃないしな。
俺はビット兵器を四つ切り離し、自分の機体の周りに浮遊させる。
一定の距離に『福音』が近づいたら攻撃するように命令を出す。
俺のビット兵器はセシリア機のようにフルコントロールする必要がない。
BT兵器二号機のシステムを流用しているからだ。
切り離したビット兵器は俺に着かず離れず着いてくる。
船籍不明船の現在地を確認し、『福音』に近づかれないように注意しつつ攻撃をする。
当然、『福音』も負けじと攻撃してくる訳で、両者の間には無数の弾丸と無数のエネルギー弾が飛び交っていた。
エネルギー弾の厄介なところは、近接信管なのかと言いたくなるように、俺に命中しなくても近くにくると爆発を起こすところだ。
そんな攻撃を受け、じわりじわりとシールドエネルギーを削られつつも、接近を許さないように気を配る。
ここで問題があるとすれば、ビット兵器のエネルギーが切れるのがやたらと早いということだろう。
ビット兵器の使いどころが悪いのか、俺のところに戻ってくる途中で二機も撃墜された。
もう少しなんとかならないのかと文句を言いたくなる。
よくセシリアはこんな兵器を平気で使っているな。
なんて駄洒落を言っている場合じゃないな。
ガトリングガンの弾は、もう残り半分。
三十秒も引き金を引きっぱなしにしていたら、弾は無くなるだろう。
俺が船籍不明船の位置を確認している隙に『福音』を見失う。
ハイパーセンサーで再度位置を探すと、上方から来ていると警告が出る。
回避する間もなく、目の前に現れた。

「ちっ!」

俺は舌打ちをして、全力で後退し、ガトリングガンの引き金を引こうとするが、時既に遅し。
『福音』に腹に蹴を入れられ、俺は体勢を崩す。
俺との距離が離れた途端、『福音』は近距離からエネルギー弾の雨を降らす。
エネルギー弾はガトリングガン二挺に命中し、破壊され爆発を起こす。
その衝撃で俺は、吹っ飛ばされ、きりもみ状態で地球の重力に引かれて海に向かって落ちていく。
各種警告音が頭の中でがなり立てる。
ハイパーセンサーの情報では、俺のシールドエネルギーは三割を切っていた。
一夏たちの到着まで持つのか? 俺。
そう不安を覚えながら、機体の体勢を建て直し、スラスター全開で急制動をかける。
機体は何とか海上スレスレで踏み止まり、水煙を上げながら海上を滑るように移動。
こうしている間も、上空からはエネルギー弾が次々と降り注いできて、俺の周りに幾つもの水柱を作っている。
それを小刻みにジグザグ機動で回避しつつ、ビット兵器二つを切り離し『福音』を牽制。
量子化してある武器、セシリア機に装備されているライフルと同じスターライトマークⅢを呼び出し、構えた。
船籍不明船の位置を考えると、かなり距離は離れているが、あまり高度はとれないだろう。
ビーム兵器はガトリングガンより射程が長いからな、戦闘中じゃ船ばかりに気を配れない。
誤射の可能性すらある。
海上スレスレを移動しながら空中にいる『福音』を狙い、撃った。
『福音』は機体を右に振り、ビームはその横をすり抜ける。
俺は『福音』の機動を予測し二射目を放つ。
命中。
薄い幕がかかったように見えた。
絶対防御が発生したのだろう。
まぐれ当たりだろが、まぐれだろうがなんだろうが当たればいい。
バランスを崩している間に、もう一発くれてやった。
行けるかと思ったのもつかの間。
途端、『福音』の動きに変化が現れる。
これからが本番だと言わんばかりに早さが一段上がった。

「これでまだ、ファーストシフトなんだよな。それでこれかよ」

思わず愚痴ってしまう。
織斑先生に、

「足止めするのは構わんが、別にあれを倒してしまっても構わんのだろう」

なんて赤い弓兵のセリフを言わなくて正解だったな。
言っていたら完全に死亡フラグだった。
いや、言わなくても十分危ない気がするが。
ハイパーセンサーは『福音』の動きを追えるとしても、俺自身が着いていけていない。
そう言えば、こいつのエネルギー弾ってホーミングするのもあるんだよな。
今まで真っ直ぐしか飛んでこなかったエネルギー弾が、俺に向かって弧を描く。
何発か俺に命中し、もうシールドエネルギーは一割を切っている。
そろそろこの空域から退散したいところだが、一夏たち遅いなあ。
それから何度か攻撃の応酬をし合い、ついに俺のシールドエネルギーはゼロになる。
無数のエネルギー弾が俺にゆっくりと迫って来ているように感じた。
機体を急速反転、持てる全てのエネルギーを速度に変換していく。
不規則機動で回避を試みるが、いくつかエネルギー弾が直撃したようだ。
背後から物凄い熱と衝撃が襲ってくる。

『アーサー!』

『ベインズ!』

一夏と篠ノ之の声が聞こえた気がした。
先行は自分が志願したこととはいえ、二人がもう少し早く来てくれれば……と思わずにはいられない。
やはり、ヒーローってヤツは遅れて来るもんなんだろうな。
ここで俺は意識を閉じることになった。

気がつけば、オレンジ色の空と、俺の顔を覗き込む、白いワンピースを着た十歳くらいの金髪ツインテールのロリ少女が見える。
だからと言って、とある物語の主人公のように、少女にいきなり抱きついた挙句、身体を触りまくるようなことはしない。
俺は紳士だからな。
紳士じゃなかったらするのかと問われれば、しないと断言できる。
俺にはそんな趣味は無いからだ。
耳に何かの音が聞こえてくる。
それは、砂浜に波が打ち寄せるような音。
俺が上半身を起こすと、名も知らぬ少女は飛び跳ねるようにして、後ろに一歩下がる。

「ここはどこなんだ? 俺は死んだのか?」

少女は俺の問いになにも答えず、俺がら遠ざかるように波打ち際を歩き始めた。
少しばかり歩くと、こちらに振り返り、俺をじっと見つめてくる。

「着いて来いって言ってるのか?」

少女は首をこくりと縦に傾けた。
俺は立ち上がると、服に着いた砂を払いのけ、少女の後を追う。
周りを見れば、夕暮れ時の砂浜って感じだ。
海から吹く風が頬を撫で気持ちいい。
その夕暮れ時の砂浜を少女はスキップでもしているかのように軽やかに歩く。
少し短めのツインテールは少女の動きに合わせ、ひょこひょこと上下に動いている。
少女の背中を追ってどのくらい歩いたのだろう。
気づかぬ内に太陽は水平線の彼方へと沈み、空には満点の星空と少しだけ欠けた月があった。

「お前、どこまで行くつもりなんだ?」

焦れた俺がそう尋ねると、少女はこちらに振り返る。
そして、ようやく声を発した。

「みんな、待っていますよ」

「だったら、早く皆のところに返してくれよ」

俺の言葉を聞いた少女は、

「ベインズさん。未成熟な女性の身体を舐め回すように見るなんて、変態さんですか?」

いきなりこんなことを言い出した。
おい、ちょっと待て。
今、目の前にいるちびっ子が聞き捨てならないことを言ったぞ。

「何でお前が、俺の名前を知っているのかは置いておくとして――」

「そうですか。普通、見ず知らずの人間が、自分の名前を知っているというのは、すごく疑問に感じるとわたしは思うのですが、ベインズさんにとっては問題にもなりませんか」

「人の話の腰を折るんじゃない。問題は、その後の部分だよ。いつ俺がお前を舐め回すように見たんだよ。勝手に人を変態扱いするな」

「現に今、こうしてわたしを見ているじゃないですか」

「それは会話するためであって、劣情をもよおすためじゃない」

「そうですか? まあ、わたしにとっては、ベインズさんが変態だろうが無かろうが、些末な問題に過ぎませんが」

俺には問題がおおありだよ。

「些末な問題って……そこはもっと重要視しろよ。俺が、お前によって、変態の汚名を着せられようとしてるんだぞ」

「汚名は挽回すればいいじゃないですか」

「おいおい、状況がさらに悪くなっているじゃないか? 変態が汚名を挽回したら、極度の変態になるじゃないか」

「まったく、うるさい人ですね。わたしにとって、もっとも重要なのは――」

「俺が、お前のせいで、全世界の人間から変態のレッテルを貼られようとしているときに、それ以上に重要なことって何なんだよ?」

「それはですね。あなたが、わたしを、欲しているかということです」

俺はそれを聞いて噴き出した。
少女は真顔でとんでもないことを口走っている。
俺の前に立つ金髪ロリ少女は、俺をどんなレベルの変態だと思っているんだ? ともかく、間違いは正すべきだろう。

「そんな洗濯板より凹凸のない身体に興味なんてない! それより何より、自分の言っている意味が解ってるんだろうな」

と叫ぶように言った。

「洗濯板とは――また、ずいぶんと古風な表現をしたものですね。いったいいつの時代の人間ですか? せめてタッチパネルとくらいは表現してください。ああ、すみません。少し話が脱線してしまいましたね。さっきは、言い間違いをしてしまったようです」

俺はさらに凹凸が無くなっているじゃないかというツッコミはしないで、話を進める。

「で、いったい何と間違えたんだ?」

「力が欲しいかと聞こうとしたんですよ」

『わたし』と『ちから』、一文字も合ってないし、しかも、間違う要素が皆無だろ、これ。

「力が欲しいですか? ベインズさん」

少女はもう一度尋ねてくる。

「そうだな――自分だけじゃなく、自分の周りの人間を守れるくらいの力は欲しいかな」

確か、原作一夏もこんなことを言っていた気がするな。
少女は俺の言葉を聞いて、人懐っこい無邪気な笑顔を作ると、

「そうですか。まったく、ベインズさんは肝っ玉の小さいつまらない男ですね。力を手に入れてハーレム王になりたいくらいは言ってください」

と言って、なぜか俺に向かって駆け寄ってくる。
そして、地面を思いっきり蹴ってジャンプ。
高さは明らかに俺の身の丈を越えている。
その身軽さに感心していると、どこから持ち出してきたのかは解らないが、右手には持ち手が黒テープでぐるぐると巻いてある、少女の身の丈ほどもありそうな大きなハリセンが握られていて、それを少女は空中で振りかぶると、俺の頭を殴った。
ばしっ。
乾いた音が響き、その音とともに世界が眩しいほどに輝き始める。
今まで見ていた光景が段々とぼやけてくる。

「夢は終わりです。機会があったら、またお会いしましょう」

何て少女の声が聞こえた気がした。
夢は終わりか……あの金髪ロリの名前を聞き忘れたとか、なんで俺の名前を知っていたのかとか色々と謎は残ったが、やっと元の世界に戻れるのかと安堵のため息をついていると、眩しいばかりの光に身体は包まれ、目の前は真っ白になった。

回想終了。
そして冒頭にもどる。

臨海学校の二日目はこんな感じだったはずだ。
回想を終えた俺は、天井をしばらくぼーっと眺めていると、するするとスライド式のドアが開く。
誰かが来たようだ。
見れば、篠ノ之だった。

「ベインズ、気がついたのか?」

寝ている山田先生に気を使ったのか、控え目な声を出して、足音を立てないよう静かに俺の方に近づいてくる。

「見舞いにでも来てくれのか? ところで、他の皆は?」

山田先生の近くに正座で座った篠ノ之。

「私だけだ。一夏が……その、好きな女性に見舞ってもらえれば、怪我のなおりも早いだろうから行ってこいって」

「なるほど、ね。でも篠ノ之は、一夏ことが好きなんだろ?」

「何だ、知っていたのか」

「当たり前だろ? 気づかないのは、一夏くらいのもんだ」

「そうか、そうだな……。ベインズが私のことを好きだと言ってくれるのは嬉しいが――すまない、お前の気持ちに応えることはできない。その代わり、名字じゃなくて下の名前で呼ぶくらいは許してやろう」

箒は振った男の前には居づらいのか、すぐさますくりと立ち上がると、部屋の出口へと向かう。
部屋の外に出ると振り返ることなく、

「早く怪我をなおせ」

と言ってからドアを閉めた。
俺は今、箒に振られたんだよな。
好きでもないが、嫌いでもない女性に振られた訳だ。
何だか、とても複雑な心境である。
人生にセーブポイントなんかないけれど、セーブポイントからやり直してーと心の中で叫んでいた。

この後どうなったかと言うと、目を覚ました山田先生にたっぷりと説教を食らうことになった。
それも、涙を流しながらだったため、俺はかなり慌てた。
一応、俺も男だったようで、女性の見せる涙に弱かったらしい。
どうしていいかわからず、すみませんでしたと言いながら、何度も頭を下げることになった。
しかし、まさか山田先生に泣かれるとは思わなかった。
生徒思いの、良い先生なんだろう。
山田先生がだいぶ落ち着いた頃に訊いた話では、一夏と箒が俺を救出し、一度戻り、それから俺を除いた専用機持ちで『福音』をぶちのめしたらしい。
ちなみに一夏は無傷で帰還したようだ。

一日遅れで山田先生と花月荘からIS学園へと戻った俺は、今は医務室で暮らしている。

とある日の昼休み。
見舞いにやってきた鈴が、誰から聞いたのか箒とのことを散々笑い倒して帰っていった。
まあでも、今度ジュースを奢ってくれるらしいから許してやるとしよう。
などと考えていると、

「ベインズくん。様子を見に来ましたよ。調子はどうですか?」

緑髪の眼鏡っ娘、背丈が生徒そんなに変わらない、山田先生が来たようだ。
今日はどんなことを言って俺をからかうのか、楽しみだ。 
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