銀河転生伝説 ~新たなる星々~
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第20話 未来の展望
宇宙暦808年/帝国暦499年 11月20日。
銀河帝国がロアキア統星帝国を完全に滅ぼし、その版図の全てを手中に収めてから3ヶ月。
大方の予想に反し、帝国は一向に新たな動きを見せる気配はなかった。
特に、隣接しているティオジア連星共同体は直ぐに侵攻があると予測していただけに、肩透かしをくらった感があった。
「来ませんな………」
「ロアキアの次は我らかと戦々恐々としておりましたが………」
「第二次アルフォルト会戦は激戦だったようですからな。いくら銀河帝国とはいえ、3万隻以上の損害は大きかったのでしょう。もしくは、既に行動限界点に達したのかもしれません」
「それに、彼らは広大なロアキア領を得たのだ。完全に掌握するまでに十年単位の時間が掛るだろう。あるいは、掌握どころか自壊してしまうかもしれない。あれ程の領土をいきなり統治するのは容易ではないでしょうから」
「そう言えば、ロアキア統星帝国も過去幾度となく反乱に手を焼かされていましたな」
「長年治めてきたロアキアでさえそれなら、新たな統治者たる銀河帝国も手子摺るのは間違い……いや、必然と言えるでしょう」
「そうなってくれれば、我らも安泰ですな」
そう言うと、彼らは互いに見合って笑いを洩らす。
誰もが恐怖していたのだ、あのロアキアを滅亡させ、自分たちでは逆立ちしても揃えられぬ程の軍備を有する銀河帝国に。
そして、直ぐにでも侵攻してくるとのかと戦々恐々としていただけに、その反動と言うべきか楽観的な考えをし、銀河帝国を過小に見るようになっていた。
「ですが、銀河帝国は自力で移動可能な要塞をいくつも保有しています。これらの要塞群を上手く使われれば長距離遠征における補給線の問題もある程度解決され、必要以上に占領地に気を配る必要もなくなります。おそらく、銀河帝国は遅くとも3~5年の間にはこちらへ侵攻してくると思います」
そう言ったのは、ウェスタディア王国宰相のアルベルト・アルファーニ。
彼だけは他の人物たちのように楽観的に考えることができなかった。
「アルファーニ殿、それは憂慮し過ぎでは?」
「左様、如何に銀河帝国であろうと少なくとも十年は旧ロアキア領の統治に掛りきりになるしかない。その間に、我々も準備を整えれば良い」
「…………」
アルファーニは沈黙するしかなかった。
今の彼らには何を言っても無駄だろうと理解したからだ。
「(そんなものじゃないんだ……内乱が起きたとはいえ、あのロアキアがその総力を以って対抗したというのに、銀河帝国は片手間だった。それだけ余裕のある銀河帝国が十数年なんて時間をくれる筈がない。奴等は5年以内に絶対に来る)」
アルファーニの考えは後に現実となる。
今、この時も銀河帝国は来るべき日のために着々と準備を進めつつあったのだ。
* * *
――新帝都フェザーン 獅子の泉宮殿――
「首尾はどうなっている?」
「はっ、現時点における宇宙艦隊の総数は約50万隻。これに加え、移動要塞はイゼルローン級2、ガイエスブルク級5、テスタメント級1、レンテンベルク級1、アルコート級4、他中小8が稼働状態にあります」
以前、アドルフは旧ロアキア領の全てを制圧したら一息つくと言っていたが、それは一息つき準備が整ったら再開することを意味していた。
「ふむ……まあ現状ではそんなところだろうな。だが、ティオジアへと攻め込むにはまだ足りん。必ず介入してくるであろうルフェールのことを考えれば実働戦力として最低でも30万隻、できれば40万隻近くは欲しいところだ」
「っ! しかし、40万隻も遠征軍に引き抜いては……」
「4年だ。4年を目処に宇宙艦隊を55万~60万隻まで拡張する。それだけあれば問題あるまい。それに、その頃にはドーバー要塞やゴリョウカク要塞も完成しているだろう」
「………ロアキアを得た以上、4年間もの準備期間があれば確かに可能だとは思いますが……正気ですか?」
「もちろんだ、敵にイゼルローン級やガイエスブルク級に匹敵する移動要塞を建造されてからではこちらの損害も馬鹿にならん。が、僅か4年でそのクラスの要塞を建造するのは不可能だろう。それに、旧ロアキア領の統治政策も思いの外順調なのでな。やはりメルセリアとオルテシアを妃とし、多くの貴族どもを取り込んだのが上手くいったようだ」
そう言ってほくそ笑むアドルフ。
確かに、かつての銀河帝国ならいざ知らず、自由惑星同盟にロアキア統星帝国という二大国を取り込んだ今の銀河帝国ならそれだけの数を捻出するのは不可能ではない。
それも、ティオジアを征服するまでの一時的なものだ。
戦争が長々と続けばその負担は大きいものとなるが、アドルフはティオジアとの戦いを一撃で決するつもりであり、その為の大規模動員でもあった。
ティオジア連星共同体のような複数の国家の連合は、その性質上、加盟国の国家を戦略的観点であっても見捨てることはできない。
そんなことをすれば、共同体はあっさりと崩壊するだろう。
故に、いずれかの国家を直撃するような進路を取ればティオジア軍は地の利を捨ててでも銀河帝国軍の前に立ちはだかるしか選択肢は無い。
万一そうならなければ、1国ずつ順に落としていくだけのこと。
各国の連合軍であるティオジア軍の空中分解は避けられない。
「くくっ、4年後が楽しみだ」
アドルフは来るべき未来を思い浮かべ、もう一度笑みを浮かべた。
* * *
「これが新しい旗艦か!」
銀河帝国軍上級大将アルフレッド・ガーシュインは目の前の戦艦を見て感嘆の声を上げた。
竣工したばかりであるこの戦艦の名はサラトガ。
パーツィバル級の3番艦である。
ガーシュインは4ヶ月前の第二次アルフォルト星域会戦で旗艦であるバルバロッサ級戦艦ノーチラスが大破・航行不能になるも、旗艦を変更して指揮を執って艦隊が崩壊するのを防いだ。
結局、ノーチラスはその後の戦闘で失われたものの、そのときの奮戦が認められ皇帝アドルフ1世より代わりの旗艦としてサラトガを下賜された。
パーツィバル級はブリュンヒルト級の発展型と言える艦で、ビーム兵器を反射・拡散するシュピーゲル・コーティング(対ビームコーディング)を施した表面処理装甲はもとより、艦体全体にわたって傾斜・曲線が多用されており、その防御力は銀河帝国軍戦艦の中でも最高を誇る。
無論、その分コストも高く、この艦は銀河帝国の戦艦の中で最も高価な艦であった。
「ノーチラスも良い艦だったが、これは更に群を抜いているな」
ガーシュインは喜びを隠せない。
以前の旗艦であるノーチラスはブリュンヒルト級の量産型廉価版であったが、この艦は発展型である。
これほどの艦に乗って艦隊を指揮できるのは武人としての本壊であった。
・・・・・
こうして、銀河に燃え上がった戦乱の炎は一時の終息を迎える。
これが新たに燃え上がるのは、数年先のことであった。
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