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フロンティア

作者:フィオ
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一部【スサノオ】
  十四章【続ける理由】

翌朝、採取したマスティフのコアをエクステンドチップに変えるため、零たち一行はラボへと出向いていた。

「おい、聞いたか…?」

「あぁ、マスティフの…」

「…しかも、コアまで採取……」

「多分闇市で売れば…」

ラボより出た零たちへと向けられる好奇な視線。
そこから発せられる言葉は尊敬や驚きや嫉妬など様々。

それもそのはずで、マスティフの討伐に加えコアの採取まで成功したユーザーはそう居ないのだから。

普段、人にそこまで興味を示された事がない零はとまどい、反対にジャックはその視線や言葉に優越感を抱いていた。
だが、ただ1人クラウリーだけは浮かない表情を浮かべる。

「はぁ…あれだけ苦労しましたのに、エクステンド能力がただの『硬化』だなんて」

零の手にするエクステンドチップを見ながら一際大きなため息。

「残念がる能力か?この脆い身体で戦わなきゃいけない状況で防御能力のエクステンドは貴重だと思うぞ?」

「逆にどんな能力ならよかったんです?」

「決まっているじゃないですの!バーンと派手な攻撃能力ですわよ!硬くなったからなんだって言いますの!?昨日なんかどんな能力か楽しみで中々寝付けませんでしたのよ!?」

身ぶり手振りで喚き散らすクラウリーの姿は稚拙で見るに絶えず、まぁまぁと零は必死になだめる。

「じゃぁ、クラウリーはこの能力はいらない、と」

「いりますわよっ!」

いるのかよ、と呆れ顔のジャック。

そんなジャックを無視し、零からチップを奪い取るとクラウリーは真っ先に自分の武器へとインストールした。

「なんやかんや一番先にインストールしてんじゃねぇか…」

「当然ですわっ!私が一番ボロボロになったんですもの!」

「これで少しは戦闘も楽になりますかね?」

クラウリーから零、零からジャックへとチップを回しインストールすると、ジャックが思い出したように口を開く。

「そういや、あのティティって娘にコンタクトしてみたらどうだ?」

「あ…あぁ、じゃぁやっぱりティティさんのギルドに?」

「いや、入るにせよ入らないにせよ話を聞くのはタダだしな。他にもいい情報持ってたら聞きたいし」

「ですわね。私はむしろ入ってしまえば情報が随時入ってきていいと思いますけれど」

クラウリーの言葉に耳を疑う2人。
それはそうだろう。初めて会った時はパーティーを組む事すら渋っていたのだから。

「よくもまぁ短期間で考えが変わるもんだな」

「別に群れるのが好きになったわけではないですわ。ただ、情報を手に入れるのに利用できると思っただけですのよ」

それを聞いて、そんなもんかね、と呟くジャック。

「じゃぁ、コンタクトしてみますよ?」

腕輪を操作し、ティティへと発信する零。
数秒のコールの後…

《はい…?えと…零さん……かな?》

腕輪から聞こえるティティの優しく柔らかい声に少し零の胸の鼓動が高ぶる。

「あ、あの、情報ありがとうございました!」

《うん…会えた?》

「はい、おかげさまで!」

《ふふ…よかった……》

「で、あの…えっと……なんでしたっけ?」

緊張しすぎて本題が飛んでしまう零。
そんな零に見かねてジャックが通信を変わる。

「あー、初めましてかな?ジャックつって零のツレなんだけど…」

《あ…初めまして…ティティです……》

「君のとこのギルドの話しをちょっと聞きたいんだけど大丈夫か?」

《えと…じゃぁ、コンタクトじゃ…うんと…ならカフェエリアで待ち合わせでも…いい…かな?》

「OK。じゃぁ、そこで!」

零の肩をポンポンと軽く叩き、にやけながら腕輪から離れるジャック。

《いま…フロンティア2だから…ちょっと遅れるかも…だけど》

「あ、はい!じゃぁ、先に行って待ってます!」

《うん…私も急いでいく…ね?》

それを最後に途切れるコンタクト。
緊張が解かれ、深呼吸し振り向くとニヤニヤするジャックと腕をくみ苛立っている様子のクラウリー。

「あ、あの…?」

「青春って感じだねぇ…」

「まったく…もっとシャキっとしなさいな!」

そういって歩き出す2人。
零もまた、恥ずかしさを必死に隠しながらカフェエリアへと向かった。







カフェエリアの中央テーブルを陣取る3人。
情報交換などは基本広場で行われるため、やはりカフェエリアの人口密度は閑散としており、待ち合わせなどにはいい場所だった。

「に、しても困ったもんだねぇ…零君には」

「まったくですわ。ネットゲームで色恋なんてナンセンスですわよ」

よほどこういった状況が楽しいのかジャックは零とティティの話題になるといつもよりウキウキする。

「まぁ、そういってやるなよ。ネトゲでだって良い出会いはあると思うぞ?…なぁ、零君?」

「もう、好きに言ってください…」

ジャックはそんな膨れっ面の零の隣へと座り直し肩を組む。

「そう怒るなって。俺は応援するぞ?」

「だ・か・ら!そういうのじゃないですって!…っていうか、俺はジャックさんの話しのほうを聞きたいんですけど!」

「俺の話?」

「そうですわね。昨日ははぐらかされましたけれど、貴方フロンティア初めてではないでしょう?」

あぁ、と一転して真面目な顔つきをするジャック。

「まぁ、初めてじゃないつったらそうかもな」

「やっぱりそうでしたのね…」

「つっても、少しやってただけだぞ?フロンティア3に入ったか入ってないぐらいまでかな?」

そのジャックの言葉に驚く2人。

「そこまで!?なんでやめちゃったんですか!?」

「本当ですわよっ!そもそも、そう簡単に出戻りできるものなんですの!?」

「いっぺんに聞くなよ…」

はぁ、とため息をつき、気乗りしないといった感じでジャックは話し出す。

「まぁ、やめた理由は…その時必要だった金が集まったからで…出戻りに関しちゃ別に縛りはねぇよ。つか、やめた時点でデータは消されちまうみたいだから気付かれようないんだけどな」

「そうなんですか?」

「あぁ。あんまりフロンティア嫌いになるような事言いたくないんだが、最初に俺が言ったように俺達はフロンティアの開拓作業員みたいなもんだから、運営からしちゃ来る者拒まずってスタンスなんだよ。始めにパソコンかなんかで質問されたろ?」

「あぁ、はい」

「そういえばそんな事しましたわね?」

「あの質問にはほとんど意味がなくてだな…言ってみりゃあれは契約書みたいなもんで、一番最後に聞かれた命をかけれるかって質問に『はい』って答えちまえば大体通るんだよ」

訳がわからない、と顔をしかめる零だが、クラウリーだけはそういうことかと納得する。

「それに『はい』と答えてしまえば、たとえ此処で『何が起きようと』自己責任になるわけですから、どんな方が来ようと開拓の足しになるならそれで良いというわけですのね」

「クラウリーは馬鹿だけど物分かりがいいな。つまりそういうことだ」

やっと話に追い付き深刻な顔をする零。
そう、誰でも良いのだ。自分達は餌に釣られたバカな蟻。
お金という餌を目の前にちらつかされ、下手をすれば死と隣り合わせになるような事をさせられていたのだ。

「そんな事が許されるんですか…?」

「許されちまう世の中だからタチが悪い。それだけ地球がなりふり構ってられない状況ってことだな」

静まり重苦しくなる空気。
その雰囲気にジャックはガシガシと頭を掻きいつもの能天気な笑顔を見せる。

「ほら、んな暗い顔してんなよ!少なくとも、フロンティア3までじゃ死んだだの死にそうになっただのって話しは聞いてないから安心しろよ。…これでこのシケた話は終了!」

「そうは言いますけれど…ふぐっ」

まだ続けようとするクラウリーの口をジャックは手で塞ぐ。

「終わりつったら終わりなんだよ!…こうなるだろうから話したくなかったんだよ!」

ふがふがと顔を赤らめ必死にジャックの手を外そうとするが、外してはまた塞がれの繰り返し。

「ぶふっ…」

そのやり取りを見て、思わず零は吹き出してしまう。
それを見てやっとクラウリーから手を離すジャック。

「ちょっと!どういうつもりですの!?」

「笑いを取るにはクラウリーをイジるのが一番だからな」

「はぁ!?人をネタにしてんじゃないわ……ですわよっ!」

思わず素が出かけたのを慌てて直すクラウリーを見てさらに笑う零。
それに加わりジャックも笑う。
いつの間にか、笑いで嫌な空気はきれいさっぱりと消えていた。

「まったく、人が真剣に話してますのに!これじゃ私1人が馬鹿みたいですわっ」

「ごめんなさい…でも、おかげで俺はわりきれましたよ」

笑いすぎで出た涙を拭く零。

「このフロンティアってゲームがなんにしたって、2人に会えたから俺は良かったって…そう思います!……それに、いまはまだあんまり危ないとか死ぬかもとかそんな感じのこと唐突に言われても、そういう実感わかないですし」

零の言葉にキョトンとするジャックとクラウリー。
次第に2人の顔は恥ずかしさからか赤くなる。

「おま…よくそんな恥ずかしい台詞言えるなっ!」

「ほんっ…本当ですわっ!ビックリしましたわよ!」

次第に、自分のいった言葉に零までもが赤くなり始める。

「あー、無しで!今の無しで!」

「はは…まぁ、そう言われて嬉しいぜ。なっ、クラウリー」

ジャックに話を振られるが、赤らめた顔が戻らず顔を背け無視をするクラウリー。

「なに照れてんだよ…。ま、ヤバいと思ったら迷わずすぐ辞めることだ。昨日も言ったけどよ、それで辞めたって誰も恨んだり悪くいったりしないからよ」

「言っときますけれど、仮に私がこの先続けるとしたらお金のためですからね!けして零みたいに貴殿方と出会えたからなんて馬鹿な考えではありませんから!」

顔を赤らめているのを隠しながら喚くクラウリーを半笑いではいはいと流すジャック。

「そういえば、ならジャックさんはそこまで分かっててなんでまたフロンティアへ戻ってきたんですか?」

「前にも言ったろ?金のためだよ金の。なんだかんだ言って稼ぐのには一番楽だったからな」

「でも、こうしてあんまりお金にならない事もしてますよね?ジャックさんみたいに経験者ならもっと効率よく稼げるんじゃ?」

「んー、まぁ…あれだ、ただ金かせいでるだけじゃ退屈だし、零達みたいな危ないのをほっとけない性分もあるからな」

と、笑ってこたえるジャックだったが、零にはなにかその答えに引っかかりを感じていた。
しかし、それ以上は踏み込むべき事ではない…もし、はぐらかしているのならば、さきの話しのようになにかしら話したくない理由があるのだろうと、零はそれ以上の追求はしなかった。

「と、そういやぁあの娘まだ来ないな?」

「フロンティア2からですからね。まだ時間かかるんじゃないですか?」

「そうかしら?『ナノゲート』を使えばすぐではなくて?」

クラウリーの言うナノゲートとはフロンティア1から4まで繋がっている、ナノマシンの構築と分解でなる素体運用システムを応用した言わば『瞬間移動装置』のような物。
初心者がやたらと実力に見あわない奥のフロンティアへと行かぬよう、各ユーザーごとにそれぞれのフロンティアでゲートに登録する必要があるのだが、すでにフロンティア2まで進んでいるティティは当然フロンティア1へのゲートを開いていてもおかしくはない。

「確かにそうだな」

「うーん…じゃぁ、説明の為にギルドマスター連れてくるとか?」

「はは、まさか。俺たちたった3人の為にわざわざギルマス連れて来るわけないだろ」

「まさか、ゲートに登録してなくて本当に歩いてきてるとかじゃないですわよね!?」

「あのなぁ…んなバカいるかよ。いくらなんでも…」

ティティの到着が遅いことに、何だかんだと言い合う3人。
そんな3人の後ろにはいつの間にか…

「あの…ゲートだったら登録……してますよ?」

「「「うわっッッ!?」」」

突然の登場に飛び上がるほど驚く。
3人が恐る恐るティティの方へと目を向けると、そこにはティティともう1人…

「ごめんごめん、遅れたのは僕のせいだったんだよ」

ははは、と笑うよく知った顔。

「またあんたか…」

「まさかとは思いますけれど…」

「ウォルター博士がギルドマスターなんですか?」

そこには、ごめんと手を合わせ、遅れたことに全く反省の色のない笑みを浮かべるウォルターの姿があった。 
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