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気まぐれな吹雪

作者:パッセロ
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第一章 平凡な日常
  36、オレとバトルとお花見と

「30……29……28……27……」

満開を迎えた桜が、並盛町を彩る。

道にはピンクの絨毯が敷き詰められていた。

「26……25……24……23……22……21……20……」

そんな中、この不快そうなカウントダウンは響いていた。

「19……18……17……16……」

カウントダウンをしているのは、開いた窓から無気力に外を見つめる要。

なぜ無気力なのか、そしてなぜカウントダウンをしているのか。

それは、数分前に遡る。

凪、入江と花見の約束をしていてwktkしていたのだが、一瞬にして一本の電話によってぶち壊された。

言わずもがな、雲雀からである。

「15……14……13……12……11……」

そのために約束をドタキャンするはめになってしまったのだから、不機嫌になるのもいた仕方がない。

かくして、バイクで迎えに来ると言う雲雀を、彼が指定した時刻でカウントダウンしているのだった。

「10……9……8…7……6…」

そんなこんなでカウントダウンが10秒を切る。

同時にバイクの音が聞こえ始め、その姿を現した。

「5…4……3……2……」

だんだんに音が大きくなっていく。

それにつれて、姿もはっきりし、それが雲雀であると認識できるほどに。

そして

「1」

キッ

一台のバイクが要の家の前で止まった。

「チッ。時間通りに来やがって」

舌打ちしながら立ち上がると、そばに置いてあった学ランを掴み、袖を通す。

まぁこの学ランも、不機嫌の種の1つなのだが。

「やぁ」

「やぁ、じゃねぇよ。何でバイクの二人乗りなんざしなきゃなんねぇんだよ」

実はなぜか、花見場所へは雲雀のバイクで二人乗りをしていくことになっていた。

一応要だって持っているし、扱えるのだが。

「停めるところがないからね」

「へー」

興味なさげに返事すると、要は雲雀の後ろに座った。

そして二人は、(まさかのノーヘルで)花見会場へと向かうのだった。



†‡†‡†‡†‡†‡



キッ

バイクが止まる。

その時の衝撃で前のめりになり、前にいる恭にぶつかった。

その背中は思っていたよりも柔らかくて暖かかった。

柄にもなくオレは、その温もりに触れていたくなって、寄りかかったままでいた。

「要、邪魔」

「あ……悪ぃ」

恭に言われて慌ててどく。

バイクを降りて見上げたそこは、綺麗だった。

「すげぇ」

思わず声が漏れる。

空を覆い尽くす満開の桜たち。

まるで異次元にでも来たかのような感覚だった。

花見なんて何年ぶりだろうな……。

ふと、恭がいなくなっていることに気づく。

辺りを見ると、向こうの方に学ランが姿を消すのを見つけた。

「お、おい!」

慌ててそのあとを追いかける。

追い付いたときには、恭はいつもと変わらずムスッとしていた。

「呆けてる君が悪いんだよ。向こうの方で場所を取らせてあるから」

「楽しみにしてるぜ、委員長様♪」

「バカにしてるの?」

「別にー? 約束をドタキャンした分は楽しませてもらわないとなーって」

言っておくが、オレはかなり根に持つタイプだ。

しばらく歩いていくと、だんだん人気(ひとけ)がなくなってきた。

その代わり、奥の方、向かう先の方から騒がしい声が聞こえ始めてきた。

うー……嫌な予感しかしねぇ……。

「きょー……」

「誰か群れてるね。行くよ」

「やっぱしー?」

うーとかあ゙ーとか呻きながら後についていく。

だってこの声、聞き覚えあんだもん。

明らかに沢田たちの声だもん。

絶対にチビ介いるもん。

絶対に長谷川いるもん。

着いた先は、恭が取らせていた隠れ名所。

んで案の定、沢田たちがいた。

「君、使えないね」

んで案の定、場所取りをしていた下っ端が、トンファーで制裁、言わば咬み殺されていた。

「僕は人の上に立つのが苦手なようでね。屍の上の方が落ち着く」

「嘘をつくな」

いっけね、思わず突っ込んじまった。

だってさ、人の上に立つのが苦手なら何で委員長が務まるんだよ。

矛盾してっから。

「って、雲雀さんに霜月さん!?」

「やぁ小動物」

トンファーを握りしめながら沢田を見る恭。

あ、これ、沢田が咬み殺されるパターンじゃね?

でも確か原作ではチビ介が乱入して云々かんぬんだった気がする。

「よっ雲雀」

「赤ん坊かい?」

あ、やっぱり?

「悪いけど、今僕はイラついてるんだ」

「オレたちは花見をしに来ただけだぞ」

「そう。でも、ここは風紀委員が先約してる」

あ、そうなんですか。

って、恭が取らせていたって時点でそっか。

そのわりには恭とオレとさっきの下っ端以外、誰も風紀委員見てないんだが?

「なら、ツナたちとここをめぐって勝負しねーか?」

「勝負? ……面白そうだね」

でさ、さっきからオレの存在が無視されてる気がするんだが?

チビ介も恭もオレがいること忘れてねぇか?

「それなら、僕と要で勝負を受けるよ」

何でそこでオレの名前!?

「君たちと僕たちのサシの勝負だ。膝を付いた方を負けとして、僕か要が膝をついたらここを譲ることにするよ」

しかも何気に責任重大!?

はぁ……何でオレまでやんなきゃいけねぇんだよ……。

え、風紀委員だから?

知ってる。

「雲雀の相手はオレだ!」

「んじゃ、要の相手はオレがするのな」

てなわけで、第一戦は恭vs獄寺、オレvs武になった。

「見ててくださいね、10代目!」

「忠犬乙」

「んだと霜月!」

うるせぇなあいつ。

イチイチめんどくせぇっつうの。

カァンッ

チビ介が開始のゴングをならす。

何でもってんの!?

「行くぜ、2倍ボム!」

獄寺がダイナマイトを投げる。

もちろん恭はそれを難なく避ける。

が、

「かかったな。食らえ、ボムプレス!」

ベルトに隠してあったダイナマイトが、恭のすぐそばで撒き散らされた。

思いの外導火線が短く、避ける間もなく爆発の連鎖が起こる。

「わぉ、すっげ」

「よそ見してる暇はないぜ」

キィィンッ

斬りかかって来る刀を、逆手持ちした短刀で防ぐ。

まぁ、普通に考えれば武の力に敵いっこないんだが、そこはブレスの力を借りてるわけで。

「危ねぇなあ。一瞬の敵とは言え、親友に斬りかかるなんて」

「ははっ。峰打ちだから心配ないぜ」

「ありま、ホントだ」

峰打ちだなんて器用なことするぜ。

高さから見て、一撃でオレを気絶させて終わらせる気だったみたいだな。

さすがは、生まれながらの殺し屋ってことか。

「ま、恭の方も全然OKみたいだし」

「な!?」

オレの言葉で武の視線が移動する。

その先では、恭の周囲にあった煙が一気に晴れたとこだった。

「トンファーで爆風を!」

「よそ見してる暇は、あるのかな」

注意の逸れた武の足を払う。

気が付いたときには後の祭、バランスを崩した武の膝は、地面にしっかりとついていた。

一方の獄寺も、爆煙から現れた恭の攻撃を避けるために膝をついてしまい、アウト。

「霜月さん、あなたの相手は私がしましょう」

「ちっ」

ねぇ、吐いていいかな?

何でオレの相手がこいつな訳?

せめて沢田にしてほしかったんですけど。

「あら、刀をしまうなんてどういうつもりですか? まさか、降伏でしょうか?」

「だァホ、テメェ相手に刀なんか使えるかっつーの。素手で充分だ」

「なるほど。しかしそれでは死んでしまいますよ?」

「殺れるもんならやってみやがれ。加減はしねぇからな」

動きやすいように学ランを脱ぐ。

因みに学ランの下は常にワイシャツである。

ブラウス?

やなこった。

「あ、そうだ。因みに言っとくけど、オレって空手で全国優勝したことあるんだよね」

『は?』

嘘は言ってない。

恭でさえあり得ないって顔してるけど、決して嘘じゃない。

確かにオレは運動音痴だったけど、母さんの喜ぶ顔が見たかったから、それで唯一得意としたが空手だ。

とは言っても、 優勝したのはキッズ大会で4歳の時の話だ。

けど一度やったことは染み付くみたいで、空手をやってたことで、喧嘩はかなりできていた。

え、応用場所間違ってるって?

知ってる。

まぁ、だから、こいつは素手で充分だ。

「蔑ろにはできませんが、信じる価値もあるとは思えません。すぐに終わらせましょう。
 水天逆巻け、捻花」

お、解放したか。

正直言って、これを折りたくてウズウズしてたんだよ。

マジでお前BLEACHに謝れ。

つかもう海燕に謝れ。

オレたちみたいな異世界者が使っていいもんじゃねぇっての。

つー訳で、

「バイビー」

降り下ろされた捻花を回し蹴りで真っ二つに折る。

ごめんね海燕、お前に恨みはないよ。

「悔しかったらBLEACHの世界に転生しやがれってんだ」

「くっ……」

さーってと、恭の方はどうなってんのかなぁ。

確か原作では死ぬ気の沢田がはたきを持ってた気がするけど。

「死ぬ気で倒す!」

あ、ホントに持ってた。

でー……この先どうなるんだっけ?

沢田がはたき持って恭とバトルとこまでしか覚えてないんだけど。

なんかさ、誰か忘れてる気が……。

どさっ

『え……?』

先に膝を付いたのは、恭だった。

そうだ、確か……

「あいつの仕業だぞ」

「Dr.シャマル!」

そうだ、Dr.シャマルだ。

本当ならオレたちがここに来たときに恭に絡んでくるはずなのに、それがなかったから忘れてた。

て言うか、こいつ見るの初なんですけど。

「やつが雲雀に使ったのは、桜を見ると立っていられなくなる『桜クラ病』だ」

「「何でまたそんな面倒な病気を……」」

思わず沢田とハモったオレだった。

「約束だ。ここを明け渡すよ。帰るよ要」

「へーい。んで、立てんの?」

「…………」

「肩ぐらい貸しますよ」

ムスッとしている恭の腕を取り、半ば担ぐような形になる。

そのまま背負ってやろうと思ったけど、沢田たちの目前、やめた。

歩きながらケータイを取り出すと、草壁に電話を入れる。

『はい』

「すんませーん、お花見取り止めっす。ついでに恭のバイクの回収頼みまーす」

『わかりました。それで、委員長は?』

「機嫌と調子が最悪なんでオレが家まで送っとく」

『了解しました』

てことで、家に帰りますか、恭さん。



†‡†‡†‡†‡†‡



一方、要たちが立ち去ったその頃。

「ねぇ、霜月さんと雲雀さんってさ」ツナ

「できてるな」リボーン

「確実にね」やちる

「そーっすか?」獄寺

違う話題で盛り上がっていた。

ただ一人を除いて。

「…………」

山本である。

彼はただ一人、黙って要たちが去った方向を見ていた。

とても複雑な表情をしながら。



†‡†‡†‡†‡†‡



「これ、もう家じゃない。屋敷のレベル」

初めて恭の家に来たのはいいんだが、なんだここは。

THE和風のお屋敷じゃねぇかよ。

あ、そういえばコローレにちらっと載っていた気がしなくもない。

気づけば寝てしまっていた恭を背負い直すと、どでかい門を押し開けて中に入った。

「誰もいねぇな。留守……いや、一人暮らしか」

こんなに広いくせに生活感が全くない。

これで留守なんて言うものなら怪しすぎる。

とりあえず、一番生活感が強い部屋(たぶんリビング)にたどり着き、そこにあったソファに恭を寝かせた。

ったく、最強の風紀委員長様も、寝てる時は無防備なんだな。

つーかこいつ、どんだけ髪サラサラなんだよ。

軽く殺意沸いたんですけど。

「今日の分、あとで絶対に払ってもらうからな」

寝てるうちにと思い、髪に指を通してみたり、ほっぺをつついたりする。

これ、バレたら死ぬな。

「じゃあな」

軽く手を振って、オレは恭の家を後にした。

その後きっちり凪たちと花見に行ったからな!




















クスッ

「後でたっぷり咬み殺してあげるよ」 
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