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少年と女神の物語

作者:biwanosin
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第十六話

 さて、とりあえず読んでくれたという前提で二人を待っているわけだが、よくよく考えてみればあの二人がカバンの中を見ていない、という可能性があることに気付いた。
 もしそうだったらどうするか・・・立夏にでも頼んで、動物に直接届けてもらおうか・・・

「兄さん、来たみたいだよ?」
「杞憂だったか・・・ならよかった」

 そんなことを考えていたら、調がそう声をかけてくれた。
 まあ、エリカはともかく護堂は結構真面目だし、ちゃんと宿題とかもしたんだろうな。もしかしたら、授業前にでも気付いたのかもしれない。

「ん?武双と、その二人は妹さんか?」

 余談だが、護堂が俺のことを名前で呼んでるのはただ単に、学校に神代苗字が多いからだ。クラスにも、家族が三人揃ってるし。

「ああ、中学三年の妹だよ。二人とも」
「初めまして。神代調です」
「初めまして!神代切歌デス!」

 さて、自己紹介をしたところで、そろそろ種明かしでもしようか・・・

「ああ、俺は武双と同じクラスの、草薙護堂だ。で、こっちが」
「エリカ・ブランデッリよ。ところで、一つ質問いいかしら?」
「どうぞ、俺たちに答えれることなら」

 まあ、わざわざこっちから種明かしする必要もなさそうだけど。

「じゃあ遠慮なく。この手紙を私と護堂のカバンに入れたのはあなた?」
「おいエリカ。一般人相手にそんなこと、」
「ああ。昨日『投函』の術で入れたのは俺だな」
「は!?」

 護堂は驚いているが、その辺りの説明はエリカに任せよう。

「予想はしていたけど、やっぱり、あの神代なのね?」
「ああ。多分、エリカの予想してる神代は俺たちのことだな」
「おいエリカ。どういうことか説明してくれ!」

 護堂があせったようにエリカに問い詰める。
 まあ、ただの・・・ではないが、クラスメイトが魔術関係者だと知ったら、驚くのが普通だろう。俺も護堂がカンピオーネになったと知ったときにはかなり驚いたし。

「そうね・・・説明する時間くらいはくれるのかしら?」
「まあ、俺もそこまでせっかちじゃないからな。護堂が納得するまで説明をどうぞ」
「じゃあ遠慮なく。護堂は、神代一家について、どれくらい知っているのかしら?」

 エリカによる、神代講座が始まった。

「俺が知ってるのは・・・あそこの家の両親が、孤児とか訳有って家族と暮らせない子供を引き取ってるってことくらいだ」
「そう。確かにそれも正しいのだけど、正確には少し違うわ。正しくは、魔術の才がある孤児、訳有って家族と暮らせない子供を引き取っているのよ」
「じゃあ・・・あの三人も?」
「間違いなく、先天的な才を持つ子供が引き取られたのでしょうね。もしかしたら、拾われたのかもしれないけれど」

 まあ、間違ってはいないんだけど、一つ足りないかな。

「エリカが言ったことのほうがまだ正しいけど、実は後一つ条件があったりするんだな、これが」
「あら、そうなの?だったら、聞かせてもらいたいのだけれど」
「まあ、この条件についてはいるのか少し悩むんだけどな。母さんの希望で、美女、美少女限定だ。あ、もちろんだが、俺は例外な?」

 エリカは軽く呆れたようにしながらも、護堂に説明を続ける。

「そういや、武双の妹やお姉さんには何回かあったことがあるけど、皆綺麗な人ばっかりだったな・・・」

 立夏と静花ちゃんは仲が良いので、そのつながりで護堂は家の家族のほとんどと会ったことがある。

「確かに私もそう思うけど、それについてはそこまで気にしなくて良いわ」

 そして、エリカも何人かと会ったことがあるようだ。
 もしかしたら、クラスにいる二人と今ここにいる二人を指しているのかもしれないが。

「重要なのは、こっちの業界での立ち位置。『神代一家』は、こっちの業界では知らない人がいないレベルなの」
「そこまで有名なのか」
「そう。そして、有名になった理由は二つ。一つ目は、才能のある子供を集めていることよ。とはいっても、このことだけだったころは、一個人が何かしているな、というレベルだったのだけれど」

 でも、今の立ち位置としては全く違う。

「じゃあ、今の立ち位置はどうなんだ?」
「下手に手を出せば組織丸ごと消される、そんな感じね」

 護堂は文字通り、開いた口がふさがらなくなっている。
 いや~笑える!

「信じられないかもしれないけど、これは事実よ。事実、そこにいる才能のある子供目当てで手を出した組織がいたのだけど、幹部クラス以上は皆殺し。事実上組織はつぶれたわ。それも二回」
「マジかよ・・・」
「でも、一つ疑問があるわ」

 エリカはそう言って講義を打ち切り、こちらに話を向ける。

「まず、あの手紙の内容ならあなたたちは護堂が何者か、知っているのよね?」
「まあ、正史編纂委員会ですら知ってるからな。護堂が魔王様だってことくらいは知ってる」

 家の情報網は、正史編纂委員会と大して変わらない。
 もちろん、この地域では負けてる、などはあるが、母さんと父さんが人脈を広げているおかげで特定の地域ならば負けはしない。

「だったら、取るべき行動は友人として振舞うことじゃないはずよね?七人目の『王』に(こうべ)を垂れ、その即位に祝辞を述べ、畏怖と敬意を捧げる。神代の家でも、こう習っているのではなくて?」
「まあ、そう習ってはいるよ。ただ・・・俺はわざわざ後輩に対してそう言う態度を取るつもりはないからな」

 そう言って俺は、両方の手首につけていた鎖状のアクセサリー・・・アテがしているのと同じ素材でできたそれを外して、調と切歌に預ける

「さて、一方的に相手のことを知ってるのも卑怯だからな。俺が本当の七人目の『王』。神殺しの魔王、カンピオーネだよ。一応、初めましてとしておこうか」

 そして、『召喚』の術で槍を二槍手元に出し、右手に持つ槍の穂先を、護堂に向ける。

「悪いけど、こっちにも事情があるからな。本気の決闘に付き合ってもらうぞ」
「ちょ、ちょっと待て!なんでおまえまでドニのアホみたいなことを言うんだ!」

 が、意外なことに護堂は乗ってこなかった。
 たいてい、俺の同属はノリよく戦ってくれるんだけどな・・・

「念のために言っておくと、俺はトトみたいにその場の流れで決闘しよう、って言ってるわけじゃないからな?」
「そうか・・・ってか、武双は本当にカンピオーネなのか?」
「そうね・・・こんな狭い国にカンピオーネが二人いるなんて、とても信じられないわ」

 エリカについては本当に疑うような口ぶりだ。
 魔術関係者ならカンピオーネが生まれる可能性の低さを知ってるし、仕方ないが。

「まあ、それについては本当だよ。何なら、パオロに聞いてみろ。口止めこそしてるが、あいつもそのことは知ってる」

 俺は基本的に外国で暴れることが多かったため、一部の人間には俺がカンピオーネだと知られてしまっている。
 エリカの叔父であるパオロ・ブランデッリもその一人だ。

「叔父さまが?・・・もしもし、私、エリカよ。少し良いかしら?」

 エリカはそう言って携帯を取り出し、電話をかける。
 話の内容からして、相手はパオロだろう。

「・・・それは間違いのですね?・・・はい、ありがとう」

 会話が終わったようで、エリカは携帯をしまった。

「間違いないそうよ。彼、神代武双がカンピオーネであることは」

 エリカは護堂にそう伝え、こちらに頭を垂れる。

「王よ、此度の無礼な振る舞い、心よりお詫びいたします」
「別に気にしなくていい。ってか、同い年のやつからそんな口調で話されるのも違和感しかないからな」
「・・・そう、なら、今までどおりに話させてもらうわ」
「ただ、護堂を説得して欲しい。こっちも、家族がかかわってる話なんでね」

 俺がそう言うと、エリカは護堂の説得を始めた。

「だそうだから、護堂。決闘を受け入れて頂戴」
「お前まで何言ってるんだよ。いつも言ってるだろ、俺は平和主義者なんだ」
「だとしても、向こうは気にしてくれないわよ?神代は、家族のためなら何でもするから。それに、私の命も危ないかもしれないし」
「流石にそのつもりはないけどな。じゃあ護堂。もしも、静花ちゃんに手を出す可能性があるやつがいたら、おまえならどうする?」

 俺の事情なので、俺も説得に参加することにする。
 ちなみに、ここまで切歌と調の二人が一切喋っていないのは、戦うための準備をしているからだ。

「・・・前もって釘を刺す、な」
「じゃあ、そう言うものだと思って戦ってくれないか?もちろん、本気でな。じゃないと意味ないし」
「はあ・・・分かったよ。もちろん、やるからには本気だ」

 よし、これで準備は整った。
 はてさて、今回はどんな楽しい戦いになるのか、楽しみだ。
 
 

 
後書き
切歌の一人称を間違えていたので、直しました。

 
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