緋弾のアリア-諧調の担い手-
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そして彼の道行きは
プロローグⅡ
前書き
生前、主人公が暮らしていた世界も十分にファンタジーな世界です。
ある程度、更新したらそっちも始めたいと思います。
霧嗣side
《生と死の狭間》
???時???分
「それで、試験中に居眠りとは…夜更かしでもしてたの?」
妄想に浸る少女をなんとか往なし、現実に引き戻した俺。
神様が神力とやら淹れてくれた紅茶を一口飲み、試験中に居眠りをしていた理由を尋ねていた。
「ふむ、おいしいな」
不意に、そう口の中で呟く。
紅茶の味は茶葉の風味が際立っており、鼻腔を擽る。
味も今まで飲んだ紅茶の中では上位に入るだろう。ハーブティーが気分を宥めてくれる。
俺は彼女に言葉を問い掛け、群青色のカップを傾ける。
そうして、何処か言いにくそうに口窄んでいる少女に目を向けた。
「えっと…友人に薦められたラノべが面白くて、つい」
そう言い難そうに少女は切り出し。
先程虚空より取り出し、テーブルに置いてあった文庫本に視線を落す。
…まぁ解ってはいたけど、最初に“0”と自称したのは、このラノベが大元か。
俺もこの小説は読んだし、面白いと思った。続きが気になるのは十分に解る。
まぁ、それで人の事を無駄死にさせるのは、どうかと思うが。
「…あぅ、すみません」
「次からは気を付けてくれ。まぁ、もし次があっても困るけどね。…後、自然に心内を読むな」
「はい、今後はこの様な事態は絶対に起こさない様にしますので……本当に、申し訳ありませんでした!」
そう誠意の籠もった言葉を口にして、正に誠心誠意といった具合で少女は頭を俺へと下げる。
それに俺は、直ぐに頭を上げてくれと制する。
女の子に頭を下げさせるなんて、正直な所気が引ける。第三者の視線が有る無し関わらずだ。
別にそこまで少女に対して怒ってはいない。軽く呆れてはいるが。
「まぁ…以後気を付けてくれれば、それでいいよ」
というか、神様の世界にもラノベとか人間世界の物が存在してるんだな。
案外、オタクな神様とかいそうな感じだ。
「はい、私も人間界のアニメや漫画、小説などは見ますけど、北欧の主神のオーディン様は更に酷いですよ」
「だから人の心読むの禁止だ…って、オタクって事か?」
「はい。もろにオタクですね、オーディン様は。私も両親との交流でお勧めの作品とかについて語り合ったりしますし」
「…えっ…なにそれこわい」
そんな主神まるで想像出来ない。というか、想像したくない。
戦争と死を司る神様なのに、威厳も何もあったものじゃないな。シュールすぎる。
俺達人間が知る神話上の神様とは、やはり何処かズレがあるのか。
あれなのか。
北欧神話で有名なミーミルの泉はその水を飲む事により知識を得る事が出来るらしいが。
要らぬ方向に知識を蓄えてしまったのか。
「まぁ、その主神様の事はとりあえず置いておこうか」
「そうですね、本当に話が脱線してしまいました」
神様に新たに紅茶を淹れて貰う。
それを口にしつつ、脱線した話を本筋に引き戻す。
「それで俺に転生しろって言ったっけ?一体俺はどうなるんだ」
「あっ、はい。えっと、私の力を使って別の世界に転生して貰う事になります」
「それはどういう?」
「えっと、ちょっと待って下さいね」
少女は空間に窓枠を展開して、其処に三つの作品が表示される。
この表示から察するに、この提示されたのが俺が転生する世界の候補なのだろう。
・『緋弾のアリア』
・『カンピオーネ!』
・『ハイスクールD×D』
どの作品も生前に読んだ事がある。アニメ化もされた人気作品だ…とは言えだ。
何処の世界も物騒極まりない、死亡フラグが満載な世界だ。
「……この三つの世界以外に転生出来る場所はないか?死亡フラグが立ちすぎてすぐ死にそうなんだけど」
どの世界も死亡フラグ満載だが、掲示された下二つの世界は絶対に嫌だぞ。
何の力も持たない俺が人外どもと相対なんてしたら、せっかく転生したのに瞬殺され兼ねない。
よく見る二次創作の転生物では、原作介入がデフォであったりするしな。
「…すみません。私の力で転生させられるのは、この三つの世界だけです。後、転生の際にですが幾らかの特典を付ける事が出来ます」
「…特典?」
―――特典。
これも二次創作物ではお約束か。
「はい、既存の作品の能力や武器、基礎能力アップとかですね。私はまだ未熟なので、5つが限度です」
「ふむ」
「あっ…後、強すぎる力や物は枠を大きく消費するので気を付けてくださいね。」
俺は少女のその言葉に、考える様な仕草をとる。
そうなると、貰う能力によってはあそこが一番平穏に過ごせるか。
原作介入の事などは口にしていないし。俺が嫁と呼ぶ、その作品で一番好きな少女もいる。
「よし、決めた。俺は緋弾のアリアの世界に転生するよ」
「わかりました。能力の方はどうしますか?」
「そうだな、永遠神剣は解るな?」
「はい、我々神の中にも神剣の担い手は存在しますから」
「その中から上位の永遠神剣が欲しい」
永遠神剣。それはこの世界、神剣宇宙に置いて。
始まりの一本と呼ばれる永遠神剣から剥離した存在。超常の力を翳す刀剣の類だ。
上位の神剣は、一撃で並行世界を複数消し飛ばしたり、空想を具現化してしまったりする。
そう言う、言い伝え等も確かに残っている。けれど、俺の欲しいのはそう言ったモノではない。
その永遠神剣シリーズを題材としたゲーム作品も登場している。
“永遠のアセリア”“聖なるかな”等だ。
「……上位の永遠神剣ですか」
「ああ、無理にとは言わないよ」
今度は俺が少女の言葉に是と頷く。
そう頷くと、少女は真摯な瞳と表情で俺を見据える。俺もそれに負けない様に見据え返す。
俺が欲しいのは、その大切な物を守る為の一振りだ。
全てを守り、包み込む、絶対的な力。そこには俺自身の願い、渇望が確かに込められている。
「それクラスの代物でしたら、枠を三つは使用しますよ?」
「ああ、構わないよ。出来ないとは言わないんだな?」
「はい。流浪の身であり、主を持たない神剣等も世界には存在しますから」
そう俺の質問に答え、言葉を紡ぐ。
「それにもし、神剣を手にしてもです。その神剣が貴方を主として認めない可能性もありますよ。神剣というのはそれ程までに強大な力なのです」
少女の言う事も、確かに理解出来る。
永遠神剣という存在は、使用者に絶対的な恩恵を与えるが意思を持つ。
人同様、その性格はそれぞれ千差万別で個性がある。
主に従順な者、捻くれ者な奴。中には所有者の身体を乗っ取る様な存在もいる。
手にしても、俺という存在を主として認めなければ、俺はその膨大な力の前に身体を乗っ取られたり、消失する可能性もあるのだ。その部分を少女は言っているのだろう。
「まぁ、きっと何とかなるさ」
きっと何とかなる。何処か謎めいた、そんな確信が俺の胸の内にはあった。
強くてニューゲームをさせて貰えるのだ、ある程度のリスクは承知の上だ。
「わかりました。では、残りの枠は二つですね」
「うむ、身体能力のアップかな」
「貴方にそれ系統の能力は必要ないのでは?」
「何でだよ?」
「“あの状態”になれば、思考能力、判断能力、反射神経、運動能力が常人の約15倍まで跳ね上がるんですよ?」
…この少女は俺の生前の特異性について知っているのか。
「実習中に貴方の個人情報は書類で拝見させて頂いているので、それぐらいは」
人権侵害だな…って、神様にそんな事を言っても意味はないか。
心も読まれまくりだし、プラベートも何もあったものじゃない。
俺のその特異性。確かに我ながらに超人的でチートな力だと思う。
「なら、どうするかな…」
身体能力のアップを頭の隅に追いやり、顎に手を当てて別の特典を模索する。
……そうだ。ふと、その考えが頭を過ぎる。
「なぁ、一つ君が決めてくれないか?」
「私が、ですか?」
「そう、別にそこまで拘りとかないしさ」
俺のその問い掛けに少女は驚いた様に目をパチクり…と瞬きをする。
と言うか、今更の事だが俺。
この目の前の神様少女を君とかとしか呼ばずに、その名前を知らない。
当然“0”と名乗ったのは当然偽名であるし、俺の個人情報は知られているのに、どこかフェアじゃない気がする。
「そういや俺今更だけど、君の名前を知らないんだけど?」
「私の名前、ですか?」
「そうだ。俺の事は知ってるだろうけど、改めまして…俺は暮桜霧嗣」
俺は0と名乗った神様に視線を向ける。次は君の番だという意味を込めて。
俺の意図を汲み取ったのか、少女がコホン…っと軽く咳払いをして、自らの名前を口にする。
「では改めまして、私の名前は“ユーミル”と申します。宜しくお願いしますね、暮桜さん」
「あまり名字で呼ばれるのは慣れてないんだ…出来れば名前で呼んでくれないか?」
俺がそう告げると、ユーミルの様子に変化が現れる。
彼女は顔を仄かに赤く染め、もじもじ…として何事か呟き、恥ずかしそうにしている。
……何故?どこに恥ずかしがる要素があった?
「えっと……その、では…霧嗣、さん?」
小さく、か細い声。
耳を澄まして漸く聞こえる様な声で俺の名前を口にした。
「…その、無理なら名字でもいいよ?」
「はうぅ…無理とかじゃないんです!その、同年代の男性に知り合いがいないので…そのぉ」
神様の世界の事はよくは知らないが、同年代の異性と接した事がないのだろう。
女子の名前を呼びたくても呼べない、思春期の少年の様なものか。
何処と無く少女の、その心情が俺にも理解出来る。
「…そうか。まぁ、無理そうなら名字でもいいよ。ユーミル、それで話を戻すけど……ユーミル?」
俺がそう名前を口にすると、ユーミルは何処か顔を赤く染めて、上の空の様な感じに陥る。
声を掛けても、聞こえていない様に見える。
「―――ユーミル!」
「…あっ。はい、どうしました?」
少しばかり声を大きくすると、ハッ…と言った感じで少女の意識が現実に引き戻される。
「話を戻すけどいいか?君に一つ決めて貰いたいんだけど」
「そうでしたね。…そう、ですね」
顎にその白く細い指を当て、思案顔になるユーミル。
彼女のその容姿も相まってか、何処か様になって知性的に見える。
そして少しの熟考の後、ユーミルはその口を開いた。
「ハイスクールD×Dからなのですが、神器はどうですか?」
「んっ、どんなやつ?」
「はい、架空のモノになりますが“心剣創造”と言った能力です」
ユーミルは展開してあったモニターに能力の説明を映し出す。
能力的にはハイスクールD×Dの原作に出てきた神器「魔剣創造」や「聖剣創造」の亜種と言った所か。
自身の感情、人間が持つ六つの感情、喜・怒・哀・楽・愛・憎。
その六情に当て嵌まる、属性の刀剣を作り出す能力。
「いいんじゃないかな、中々に面白い。それで神器というからには禁手化もあるだろう?」
「…それはご自身で発言させてからお確かめください」
そう言葉にして、ユーミルは何処か悪戯っぽく微笑む。
「ふむ、ならその時を楽しみにしておくよ」
「ええ、そうしてください。特典の方は残り一つですね。既に決まっていますか?」
「あぁ、決まってるよ」
俺はそれに肯定の意を込めて確りと頷く。
ユーミルは考えている間に、俺は自身の考えを纏めていた。
最後の俺の望み。これは直接は転生の特典とは関係ないが、これが最後の一つ。
「最後の望みだが、特典とは関係ないがいいかな?」
「…ええ、内容にもよりますけども?」
俺のその問いに、ユーミルは困惑気味にそう答える。
生前の人生に未練はないと確かに言ったが、心残りがない訳ではない。
故に、過去を払拭する為に俺はそう宣言した。
「―――俺の存在を、記憶を世界から抹消して欲しい」
それが俺の最後の願いだ。
俺がこれまでの人生で連なってきた人達に、迷惑は掛けたくない。
それは親代わりに俺を育ててくれた父の妹夫婦であったり、親友であったり、大学のちょっと無口な後輩であったり、酒飲みでよく絡んできた先輩であったり。
「俺を、暮桜霧嗣という存在を世界から抹消してくれ」
それは俺の身勝手な願い、それは解っている。
残される者達にその追憶の想いすらも許さない、ただの我が侭だ。
「…いいのですか?そんな事をしてしまえば、きっと……」
「いいんだ。どうせ俺は死んだ人間だ、死して皆に迷惑は掛けたくはない」
俺は転生といった形で新たな生を歩む。
きっと俺が死んだ事を彼らが知れば心を痛めてくれる事だろう。
叔母さんやおじさんは子供が出来なくて、俺を本当の息子の様に育ててくれた。
俺の“両親”ならきっと「私達の息子は死しても自慢の息子だ」と涙しても、言ってくれるだろう。
そんな人達に迷惑は掛けたくない。それに俺は―――
「後悔はしてないよ、たとえそれがユーミルの間違えによって起きた事でも。あの子を救うと決めたのは俺だ…だから、後悔なんてない」
「……解りました。ではあなたという存在を世界から抹消します……本当に宜しいんですか?」
「ああ、大丈夫だ」
確かな意思を込めて、俺は頷いた。
それに対して、ユーミルはわかりました…と頷き、俺の意思を汲み取ってくれた。
「これで、特典も決め終わったな。…いつ転生すればいいんだ?」
「転生の方は準備が出来ているので…そこの扉を潜って頂ければ、それと同時に貴方は世界から抹消されます。」
ユーミルの視線の先、そこには先程まで存在していなかった群青色のドアが存在していた。
「そうか、それじゃあ行こう」
俺はチェアを立ち、ユーミルに背を向ける様に扉に手を伸ばす。
すると背後から声を掛けられた。それに顔だけ後ろに向ける。
「……あの霧嗣さん」
「んっ?」
「私が言うのはおかしいですけど、貴方の新たな生に幸あらん事を」
「ああ。じゃあな、ユーミル」
ドアに向き直り、薄く笑みを浮かべながら俺はドアを開いた。
その日、俺はその群青色の空間より、世界よりその存在を消した。
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