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フロンティア

作者:フィオ
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一部【スサノオ】
  九章【罪】

「これは人類の罪だよ…」

驚愕し、体が硬直する三人の前へと歩み出るウォルター。

「皆、もうエクステンドは……いや、武器ももう必要ないよ」

ナノロッドをオンショウ達へと向けるウォルター。
すると、ナノロッドの先から霧状のものが散布される。

「君たちはまだ手を汚すべき時じゃない」

『ソードモード』とウォルターが静かに呟くと、散布された霧は剣へと形を変えオンショウの頭上へと降り注ぐ。

刃が突き刺さる生々しい音と断末魔。
すかさずウォルターは…

「『オプション』発動『バースト』…」

言い終わると同時に爆散するオンショウ達。
それをウォルターは悲しげに見つめながらも決して視線を逸らさない。

「このフロンティア計画が始まるずっと昔…そう、この惑星が見つかった時の話さ…」

零達へと語りながらもウォルターは止まらない。
次々と爆散させ、少しずつ奥へと歩みを進めてゆく。

「人類はこのネイティブたちと出会い、危険性を見出して掃討作戦を展開したんだ…」

ナノロッドのエネルギー源である『ナノバッテリー』が空になり装填しなおすウォルター。

「もちろんそのころの人類にこのネイティブ達に対抗できる力なんかなくてね…次々と殺されて…凄惨だったよ」

繰り広げられている目の前の光景、ウォルターの語る歴史。
そのすべてに困惑する3人はその場を動けない。

そんな3人を見て、ウォルターは「すまないね」とつぶやく。

「その死体に卵…つまりコアを植え付け、人を名前そのまま温床(おんしょう)にしたのさ」

「ちょ、ちょっと待てよ…じゃぁ…」

「そう、この子達は…人間さ」

装填し終わったウォルターは再びオンショウの駆逐に取り掛かる。

「だから、君たちはそこで見届けてくれるだけでいい…ただ、この人たちの事は覚えておいてほしい…この人たちは自分の家族を友人を…君たち全員を救いたいと勇敢にもネイティブ達へと向かい力尽きた『英雄』なんだから」

次々と洞窟内に響き渡る爆発音。
しかし、大量のオンショウの群れはなかなか減らず、音に反応し次々と痛々しく、這いずりながら寄ってくる。

まるで…死という救済を求めるかのように。

「君たちには本当にすまないことをした…こんなつもりじゃ……」

ウォルターが言葉を言い終わる前に響くゴウン、という一発の重々しい銃声。
驚きウォルターが振り向くと、そこには銃を構えるジャックの姿。

「しらねぇよ…そんな事」

言うと、一発、二発ジャックは何回も引き金を引きオンショウを撃ち抜いてゆく。

「手を汚したくないとか…しらねぇんだよ。ここに居合わせて、目の前でアンタが手を汚してんのによ」

ジャックの頬を伝う一滴の涙。

「俺には、アンタに全部押し付けて俺だけ手を汚さないなんてこと…できねぇよ」

震えるジャックの手。
無理もない。目の前のオンショウは確かにネイティブエネミーであるが、同時に人間なのだから。

「そう、ですわね」

ジャックの言葉に、クラウリーもまたクーフーリン発動により更に無骨な形状と化した槍を振るい駆け出す。

凄惨な光景の中に舞う華麗な槍捌きは、確実に一体一体オンショウのコアを破壊し討伐してゆく。

時にその強大な力によろけながらも、必死にキッと目を見開き苦しまぬよう一瞬で討伐する。

「君たち…」

ジャック達の予想外の行動に驚き、ナノロッドを下げるウォルター。

しかし、そんな中で零は動けないでいた。
いや、零のその状況こそ普通なのかもしれない。
どう割り切ろうと目の前に居るそれは人間なのだから。

人を殺す覚悟など、できるはずがない。

「や、やめろ!その人たちは人間なんだろ!?」

零の取った選択は、オンショウをかばう事だった。

「零!そんな偽善的な事言うなッ!こいつらを殺してやることが…それがこいつらにとっても救いなんだよッ!」

「でもッ!」

ジャックの目の前に立ちふさがる零。
そこで見たジャックの顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。

「それでも…助かる可能性は…」

「無いんだよ、零君…」

無慈悲なウォルターの一言。

「見てわかるだろう?コアを植え付けられた時点で、彼らは人間としての存在を『終わらされた』んだ」

絶望する零の脇を通り抜ける弾丸。
それは零の真後ろまで迫っていたオンショウを貫く。

「どけ零!そいつのコアを全部破壊するんだ!!!」

しかし、零の耳には届かない…。

「零!どきなさい!!!」

走ってきたクラウリーが零を突き飛ばし、息絶える寸前のオンショウへと斬りかかる。
が、その瞬間オンショウのコアから瘴気が噴き出しクラウリーを吹き飛ばす。

「きゃぁっ!!」

吹き飛ばされ地面を転げるクラウリー。

「まずいッ!?零君!!」

瘴気の中からきらめく一閃。
それが零へと届こうとしたその瞬間間一髪ウォルターが抱え離脱したおかげで事なきを得る。

「ちっくしょ…!」

瘴気の中へと銃弾を撃ち込むジャック。
しかし、無情にも『それ』は瘴気の中から現れた。

「こいつ…なの!?」

やっと体を起こし、その姿を確認するクラウリー。

一歩、また一歩…瘴気の中から現れたその姿は…

「俺の…せいだ…」

蘇る悪夢…そこに居たのは、あの時と同じ…いや、あの時より進化したヒトガタだった。
頭部には目のように二つに増えたコアと右手には結晶の鉄球の代わりに剣。
そして、より人間へと近づいた姿。

「ログアウトだ!みんな、早くログアウトするんだ!!」

「するかよ…こんどはなッ!エクステンド、オズワルド!!!」

エクステンドしたジャックは間をおかずヒトガタへと銃を乱射する。

「……」

だが、その場から動くことなくそのすべてを剣で叩き斬るヒトガタ。

「ならッ!」

見事なコンビネーションだった。銃撃を対処している隙にヒトガタの無防備な背へと周り込むクラウリー。

()った!」

槍を全力で振り払うクラウリー。

「えっ!?」

しかしそこにヒトガタの姿はない。

「くそぅ…クラウリー君そこをどくんだ!!!」

ウォルターはナノロッドを振るいクラウリーがどいた瞬間に地面より大量の刃を出現させる。
そう、ヒトガタはちょうどクラウリーを真上から押しつぶそうと落下している最中だったのだ。

剣を構え、真下の剣を叩き割ろうとするヒトガタだが…

「バーストッ」

絶妙なタイミング。
ヒトガタを爆心地のより近くで刃を爆破するウォルター。

「油断しねぇ…」

更にそこへありったけの銃弾を浴びせるジャック。

「今度こそ!」

踏み出し、爆炎上がるなか一つ見える影…そこへ槍を突き立てるクラウリー。

「手ごたえあったわ!」

が…
嫌な感触。
何かに力強く捕まれているその感覚はまぎれもなくまだやつが生きている証拠。

次の瞬間、クラウリーは宙へと舞った。

《ユーザー【クラウリー】強制ログアウト確認…》

腕輪から流れるアナウンス音声と、
上空から真っ二つにされ、ナノマシンの起動停止に伴い崩壊を始めるクラウリーの身体。

「どんだけタフなんだ!?」

ドンッと凄まじい衝撃音を立て着地するヒトガタ。
その衝撃で爆炎は完全に掻き消される。

不気味なそのヒトガタの顔がゆらりと頭を上げる。

ジャックを見据えると、バカッっと開く口元。
その口元から白い煙が吐き出されると、その煙を残しヒトガタの姿が消える。

「ジャック君!」

「わかってるんだよッ!」

身構えるジャック。
しかし…

ザシュッという斬撃音と共に飛んだのはウォルターの首の方だった。

「ッ!?」

《ゲームマスター【ウォルター】強制ログアウト確認…》

《異常事態としフロンティア1から4まで警戒通達開始…》

膝から力なく崩れ落ちるウォルターの身体。
倒れこむとまた、ウォルターの身体は朽ち果てる。

「こいつは…まずいな…零!逃げるぞ!!!」

ゆらりと二人を品定めするように見比べるヒトガタ。

…俺が、止めたせいで。

自責の念にとらわれもはや周りが見えてない零。

「しっかりしろッ!!!!」

零へと走り出すジャック。
だがそれと同時にヒトガタもジャックの方へと走り出す。

「まずいッ!」

うかつに動いた自らを責めるジャック。
迫るヒトガタに、ジャックは覚悟し目を固く閉じる。

が、数秒…

「まじ…か」

うっすら目を開けると、そこにはヒトガタの姿はなく。
居るのは零と少数残ったオンショウだけだった。

「は、ははは…」

その場へとジャックはバタっと仰向けに倒れる。

「忘れてた…そういや死なないんだった…」

あまりのリアリティと先ほどまで直面していた『人間の死』からかそのことをすっかり忘れていたジャック。
だが、安心からかやられても死ぬことはないということを思い出し笑いが込み上げる。
ひとしきり笑うと、ジャックは立ち上がり零へと歩み寄る。

「大丈夫か?ほらっ」

手を差し伸べるジャック。
だが、零は…

「ごめんなさい…俺が…俺が邪魔しなければ…」

「んなこといいって。お前の行動は人として間違っちゃいなかったよ。まぁ、俺の行動は状況的に間違っていなかったとも思うけどな」

ニカッと笑って零の手を引き力強く立ち上がらせるジャック。

「でも…」

まだ続けようとする零。
しかし…

ガッ、という音と共に零はよろける。
それは、ジャックが零の頬を殴り飛ばした音だった。

「それ以上言うな。やっちまったもんは仕方ねぇんだ…幸いアイツを取り逃がしたところで『こっちの世界』じゃもう死人はでねぇ」

何をされたのかよくわかってない零をよそに真剣な顔つきでつづけるジャック。

「その後の処理はGMやフロンティア4の精鋭とやらがしてくれるんだろうさ。……だけどよ、俺たちの不始末は俺たちで片付けないといけないよな?」

「え、あ…」

ジャックは再びニカッと笑みを見せる。

「いつまでも呆けてるなよ!お前のお人よしな行動のせい、俺やクラウリーの未熟さのせいでまいちまった種だ…やろうぜ、俺たちでよ」

「あ、はい…」

よくはわからない…よくはわからないが、とんでもない失敗をしてしまった自分を軽蔑も見捨てもせず……それどころか『一緒に』やろうと再び手を差し伸べるジャックに零は不思議な感覚にとらわれた。

「逃げんなよ?零はなんかそんな感じっぽそうだからな!」

そう言ってジャックは悪戯っぽく笑って見せる。

「はいっ!」

少しだけ、この不思議な感覚がわかった気がする。
これが、決意、意志…。
目の前で失敗してもなお見捨てないジャックを裏切らないためにも、期待してくれていたウォルターの期待を裏切らないためにも…やり遂げなければいけないという決意。

「さてと…」

ジャックは再び銃を取り、オンショウへと向かう。

「こいつらだけは俺に任せろ。零に無理やり人殺しさせようとはおもわねぇよ」

銃を構え、引き金へと指をかけるジャック。
だが、その前へと再び零が立ちふさがる。

「お、おい!?」

しかしその出で立ちは先ほどとは違う。
強い決意…そんなものを感じさせる地に足の着いたしっかりとした後姿だった。

「ジャックさん…俺もやるよ。あとは俺が…」

剣を強く握りしめ、零は再びアマテラスをエクステンドする。
だが、その剣は先ほどとは違い、鋭くどこか神々しい形へと変化していた。

「零…」

力強く地を蹴り走り出す零…。
クラウリーとウォルターがGと精鋭を引き連れ姿を現したのはそれから1時間ほど経った後だった。 
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