インフィニット・ストラトスの世界に生まれて
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海に行ったら、黄昏る その一
織斑一夏。
世界初の男性IS操縦者。
世界中で名前が有名だというだけなら俺もそうなのだが、IS学園内に限って言えば、群を抜き、輪をかけて、一段上を行くのが織斑一夏である。
織斑千冬。
第一回、IS世界大会優勝者。
優勝者に与えられる『ブリュンヒルデ』という称号を持つ人間。
織斑一夏はその弟ということでとりわけ有名だ。
ISを作った篠ノ之束の妹である篠ノ之箒やフランスのIS製作メーカーデュノア社の令嬢、シャルロット・デュノア。
あと、イギリスの名家、オルコット家のお嬢様、セシリア・オルコットなんかも有名なのかもしれない。
そんな彼女たちをそばに侍らせ、今ではラウラ・ボーデヴィッヒまでもハーレム要員に加えている。
自分の周りに五人も女子を侍らせている気分はどうなのだろうか。
一夏を見ていると、まるでリアルのギャルゲー主人公を見ているようだ。
しかも一夏の周りにいる女子たちは、みんな美少女といっていい容姿をしているのだ。 現在の一夏ハーレム要員は、篠ノ之箒、セシリア・オルコット、凰鈴音、シャルロット・デュノア、そしてラウラ・ボーデヴィッヒの五人。
ハーレム要員はこれからも増える予定だろうが、今のところは一夏ハーレム五人衆と言ったところか。
せっかく五人も美少女が集まっているんだからIS美少女戦隊とか言って戦隊ヒーローショウで全国行脚でもすればいいんじゃないか? みんな美少女だから歌でも歌えばファンが一杯出来るかもしれない。
こんな美少女たちに好意を寄せられる一夏を見れば世界中の男たちからは羨望と嫉妬、両方の目で見られることだろう。
目を瞑れば、謁見の間にあるような玉座に座った織斑一夏が、周りに女子を侍らせ、高笑いをしているという光景が浮かぶようだよ、織斑先生。
誤解しないで欲しいが、織斑一夏本人はハーレムを形成しているなどという自覚はない。
仲の良い女子が周りに――というか、それ以外もいるんだが、集まっているとしか思っていないだろう。
特に男女の恋愛事情には、いや、女子の気持ちには鈍いヤツだからな。
一夏の話はとりあえずその辺に置いておくとして、突然だが海と言われれば何を思い浮かべるだろうか。
人によって違うだろうが、一般的には夏のイメージが強いのではないかと思う。
かくいう俺も、海といえば旅行会社のパンフレットにありそうなバカンスを南の島で過ごそうみたいなうたい文句と、その島の周りに広がる紺碧の海の写真を思い起こしてしまう。
何で俺がこんなことを話しているかというと、IS学園の一年生である俺たちは海に来ているからだ。
遊びに来ているなら良かったのだが、生憎と今日は、臨海学校の初日だ。
ここだけの話なんだがはっきりと言えばIS学園のイベント関係にはあまり参加したくない。
なぜかと問われれば理由なんて言わなくても解るだろうが、まるで名探偵がどこかに出歩く度に事件に巻き込まれるように、一夏がIS学園のイベントに参加するたびに何か事件が起き、中止になるのが解っているからである。
今回もそうなるだろう。
無駄な努力とまでは言わないが、事件が起こると解っていてそれに巻き込まれるのはご免被りたいところだ。
まあ、こんなことは原作知識がある俺だからこそ言えることなのだろうが。
今回は一夏の命がかかっているからな、協力してくれと言われれば協力するにやぶさかではない。
IS学園の一年生の生徒たちはバス四台に乗り込んで目的地の旅館に向かうわけだが、着くまでにバスの中で散々騒ぎ倒し、気がつけばいつの間にか目的地まで運ばれていたなんてことになっているかもしれない。
バスの中で騒ぎ過ぎて旅館に着いた頃にはすでに疲れ切っているヤツもいるんじゃないだろうか。
俺の予想通り、バスの中で散々騒ぎ倒して目的地に着いた俺たちは、バスから順次降り、今日からお世話になる和風建築二階建の旅館の前に整列をした。
正面からは建物全体を見渡せないが、IS学園の一年生全員と引率の教師が泊まれるほどなんだから旅館はよほど大きい建物なのだろう。
「それでは、ここが今日から三日間お世話になる花月荘だ。全員、従業員の仕事を増やさないように注意しろ」
一年一組の担任教師、今日も黒のスーツにタイトスカートといういでたちの織斑先生のありがたいお言葉を拝聴した俺たちは、
「よろしくお願いします」
と元気に挨拶をする。
挨拶をした相手は織斑先生にではなくて旅館の入り口の前に立つ女性にだ。
「はい、こちらこそ。今年の一年生も元気があってよろしいですね」
笑顔で挨拶を返してくれたのは着物姿のよく似合う女将さんらしき人だ。
年の頃は三十代……いや、女性は年を気にする人が多いからな、こういう場合は二十代後半に見えると言っておこう。
接客業の練達者といった感じで、気品があり、物腰やわらかく、落ち着いた大人の雰囲気を漂わせている。
そういえば、この旅館には毎年ISがお世話になっているらしい。
ちなみにさっき俺たちが挨拶をした人は、この旅館の女将さんで清洲景子さんというそうだ。
その人に挨拶を終えた生徒たちは事前に作られてる部屋割りにそって自分たちの部屋に向かうことになるのだが、俺と一夏はというとその部屋割りには名前が存在しない。
俺たちの名前がないのは、安全対策の一環だと思っておこう。
外敵に襲われる可能性がないとはいえないが、どちらかといえば女子の対しての対策といっていいだろう。
もし先生方の目の届かない男しかいない部屋の場所をうっかり漏らそうものなら、その部屋には女子たちが押し寄せる津波のようにどっと押し寄せてくるのは目に見えている。
あっという間に部屋は立見席が必要なほど満員御礼になるだろう。
俺が一夏と同じ部屋なら、その被害は当然のように俺も被ることになるのだから他人事ではない。
一夏の予想では廊下で寝るんじゃないかと言っていたが、それを聞いたのほほんさんが、
「私もそうする~」
何てことを言っていた。
俺はそんなのご免だ。
布団部屋でもいいからプライベート空間が欲しいよ。
アニメ版のほほんさんは一夏と遊ぶために遊び道具を持参していたのだから、ここにいるリアルのほほんさんもきっとそうなのだろう。
そろそろ声が掛かる頃だろうと身構えていると、予想通りというか、ご存知の通りというか、ここで俺と一夏は声を掛けられることになった。
「織斑、お前の部屋はこっちだ。、ついてこい。それからベインズ。お前は山田先生に着いていけ」
そう告げた織斑先生は一夏を引きつれていった。
「じゃあ、またあとでな」
俺と一夏、どっちが先だったかは知らないが、両方の口から自然とそんなセリフが出た。
一年一組の副担任、山田真耶先生。
背丈は生徒とほとんど変わらない緑髪の眼鏡っ娘。
先生だと言われなければ先生だと思えないような容姿。
そんな先生だが強力な武器を持っていた。
山田先生は――とても、とてつもなく、魅力的な胸部をお持ちだった。
まあ俺も、IS学園に転校して以来ずっと山田先生を見ていたのだから、今では慣れたもので、年頃の男子である俺であっても、悟りの境地に至ったお坊さんのように、そこに存在するだけでは何の問題もないくらいには慣れた。
どんな強力な武器も当たらなければどうという事はないだろう。
この場合の『当たる』とは俺の身体に触れるって事だが、俺の背中に山田先生がしがみついてみたり、腕にしがみついてみたり、ましてや胸に飛び込んで来るなんてシチュエーションがあるわけでもないのだから、俺にとってはまったく脅威の対象になりえないといっていいだろう。
「行きましょう、ベインズくん」
山田先生に促され、俺は後ろを着いていくことになった。
まるで飼い主に売られた子牛の気分になってくる。
ドナドナってやつだ。
そんなことを思いながら歩いていると、間もなく俺は寝泊まりすることになる部屋に到着した。
「ここです!」
不動産屋が、我が社の所有する物件で一番のお薦めですみたいな表情で、右手で部屋を指し示した山田先生はそう言った。
「……あの、この部屋って」
「はい、わたしの部屋です」
にっこり笑い、胸を張り、自信に満ちあふれたその言葉。
文末に『てへ』とか『ハートマーク』がくっついていそうな勢いだ。
スライド式のドアの正面には、『教員室』と書かれた貼り紙がしてあった。
「ここって教師用の部屋ですよね?」
「そうですよ。でも、学園でも一緒に暮らしている仲じゃないですか。遠慮しないで部屋に入ってください」
遠慮したくなってきた。
一夏はまだいい、姉弟なんだからさ。
年頃の男女が一つの部屋で寝起きするのはどうなんだろうな。
それを言い出したら、山田先生と学園で一緒に暮らしているだろう何て言われそうだが、学園にいる時と違って、海とか山とか自然に近い所にいると精神が解放的になるからな、危険度は臨海学校の方が断然高いだろう。
廊下で寝る方がいいような気がしてきたよ。
「さあさあ、部屋に入りましょう」
山田先生は俺の背中に回るとぐいぐいと押してくる。
俺は『教員室』と張り紙された部屋にお邪魔することになった。
自分の荷物を部屋の隅に置いた俺は、せっかくなので部屋の実地検分を始めることにした。
部屋は和室で、広さは十畳くらいはあるだろうか。
二人で使うには、かなりゆったりした間取りになっている。
部屋の一番奥には大きな窓があり、そこからの眺めは海が見えることもありなかなかだ。
その窓の手前には、小さな四角いテーブルと背もたれと肘あてがある二脚の椅子、その場所と部屋を仕切るように手前には障子戸がある。
その他の設備は、トイレと男でも足が伸ばせるくらいの浴槽がある浴室、洗面台も専用の個室になっていた。
とりあえず寝泊りすることになる部屋の実地検分を終えた俺は、部屋の中央付近に腰を下ろす。
遅れて俺の正面に正座で座った山田先生は、背筋をすっと伸ばし、腿に手を置いた。
そして俺と視線が合うと、
「この部屋にベインズくんと二人だけでいるなんて、まるで新婚旅行みたいですね」
何てことを言いながら、少し俯き加減になると照れくさそうにもじもじとしている。
それを聞いた俺は噴き出した。
冷静に考えれば、IS学園一年生全員と一緒の新婚旅行とはまたずいぶんと安上がりというか、事のついでというか、やけに大人数だとか、まるでやっつけ仕事のような新婚旅行だと思うだろう。
山田先生は俺をからかっているのだろうが、時々本気なんじゃないかと思わせることがある。
最近は俺をからかうことが巧みになってきた。
さらにやるようにらったな、山田先生。
今回のもたぶん冗談だと思う。
そんな山田先生は、顔に真面目な表情を作ると、
「あ、あのですね、ベインズくん。旅館にある大浴場のことなんですが、男子は二人しかいませんから一部の時間しか使えません。好きな時間に入りたければ部屋のお風呂を使って下さいね。それから今日一日は自由時間ですから織斑くんと海に行ったらどうですか? 着替えるための更衣室は別館にあるんですが、一番端を使うようにして下さい。そこが男子専用になっています」
海の話をする頃には幾分表情は緩んでいた。
「了解です」
「わたしは他の先生方と連絡とか確認とか色々とすることがあるので、気にしないで楽しんできてくださいね」
言い終わると立ち上がった山田先生は部屋を出ていった。
気にしないでなんて言っていたが、まさか用事がなかったら俺と行くつもりだったとかじゃないだろうな。
山田先生が部屋から出ていくのを見送ってから、俺はタオルとか水着の入ったバックを荷物から引っ張り出すと、小脇に抱えて部屋を後にした。
今、織斑先生の部屋に行けば一夏に直接会えるかもしれないが、山田先生と一緒に行こうものなら織斑先生はすかさず、
「夫婦揃って挨拶にでも来たのか?」
なんてからかってくる光景が目に浮かぶ。
一夏の所に直接行くのは止めておくとしよう。
海に行けば会えるだろうと思い、とりあえず着替えるために別館にある更衣室へと向かった。
更衣室の一番端を使うように言われていた俺は、当然そこで着替える訳だが、他の場所では女子たちがわいわいと賑やかに会話を楽しみながら着替えているわけで、年頃の男子の妄想を掻き立てるような会話が繰り広げられていた。
「胸、おっきいねー」
「ちょっと、胸揉まないでよ!」
「良いではないか、良いではないか」
とこんな感じである。
俺は、聞いちゃダメだ、聞いちゃダメだ、聞いちゃダメだと、まるで念仏を唱えるお坊さんのように心の中で唱える。
心頭滅却すればエロまた涼しの心境だ。
そう言えば、臨海学校前、一夏がシャルロットと水着を買いに行って、二人一緒に試着室に入り、シャルロットがその場で着替え始めるという大胆極まりない行動に出た時、一夏はどうしていたっけ? 確か、
「π、イコール――」
なんて円周率を頭の中で行っていた気がするな。
円周率なんて数ケタしか知らない俺にとっては何の意味もなさそうな方法ではある。
エロ関連のイベントがあると円周率とか素数を言ったりしているが、あれは流行しているのだろうか。
ともかく、この更衣室から早く立ち去るべく着替えるスピードをアップし、お着替え選手権世界大会でも入賞くらいは出来るであろうタイムで着替えを終えた俺は、更衣室から飛び出した。
「あれ、ベインズくん。お嫁さんと一緒じゃないの?」
近くの更衣室で着替えを終え出てきたであろう女子は、俺を見るなりそう言うとクスクスと笑い声を上げる。
「おい、嫁さんって」
「ごめん、冗談だよって、あっ! 織斑くんだ。織斑くーん。あとでビーチバレーしよ~」
俺に謝ったかと思うと、一夏を発見した女子たちは一夏めがけて走り去った。
「おー、時間があればいいぜ」
なんて一夏の声が聞こえてくる。
更衣室に着替えに来たのだろう。
俺は一夏に「よう」と挨拶をし、先に着替えた事のあらましを説明すると、「お前も苦労してるな」と慰められた。
どっちかというと俺よりも一夏の方が大変だろうと言いたい所だ。
俺は一夏に一足先に行っているぞと言って砂浜に向かった。
俺の目の前に広がる光景は、天候は晴れ、青い空には白い雲、その空には地上を照りつける太陽、白い砂浜に打ち寄せる波。
ありがちな表現だがこんな感じだろう。
俺は人類初めて月面に足跡を残したフォンブラウンのように、砂浜に第一歩を踏み出した。
足裏が熱かった。
冗談じゃなく。
紛れもなく。
洒落にならないほどに。
砂浜に着いた足が焼けるような熱さが伝わってくる。
その刹那、俺は一歩飛び退いた。
熱いというレベルじゃないぞ。
波打ち際に着くまでに足裏がヤケドするんじゃないか? これ。
などと思いながらさっき砂浜に着けた足をヤケドしていないか確認をする。
どうしようかと悩んだ俺だが、アルプス越えを決意したハンニバルのように砂浜に一歩を踏み出し、海水に浸かるまでの我慢だと足を動かした。
なるべく足裏が砂浜への接地時間を減らすために、まるで水面を走る要領で足を素早く動かし、海へとひた走った。
周りから見ればずいぶんと滑稽な走り方に見えただろう。
足を素早く動かしている割には前に進んでいないからな。
現に、砂浜のあちこちから笑い声が聞こえていた。
何とか波打ち際までたどり着いた俺は、足を海水で冷やす。
適度に冷たい海水と、水分を含んだ砂が何とも心地よい。
しばらくその感触を楽しんでから砂浜に戻って適当な所に座る。
表面の熱い砂は蹴り飛ばしてやった。
「しけた顔してるわね、アーサー。せっかく海に着いたのに泳がないの?」
砂浜で体育座りをして海を見ながら黄昏ているこの俺に声を掛けてきたのは、鈴だ。
俺は女子の着ける水着にはあまり詳しくないが、オレンジ色をしたスポーティなタンキニンタイプって言うんだっけ? そんなやつで、へそが見えている。
こうやって声を掛けてくれるのは、一夏ハーレム五人衆のなかでは鈴は比較的仲がいいからだ。
「遠慮しておくよ。海は泳ぐより眺める方が好きなんだ」
「ふーん……。アーサー、もしかして泳げないんだ」
何で解った? そうだよ泳げないんだよ。
海に入ると深海へと急速潜行潜航する潜水艦のように、ダウントリム三十、メインタンク注水ってな感じで海底に向かって一気に沈降していくんだ。
俺にとって海は――いや、プールでもそうだが、足の届かない深さの水ってのは恐怖以外の何物でもない。
「解るのか?」
「そのくらいわかるわよ。すっごい嫌そうな顔してたもの。何なら浮き輪でも用意してあげようか?」
「遠慮しておくよ。女子と違っていい歳をして浮き輪を抱えて泳ぐのは恥ずかし過ぎる。砂浜で遊ぶなら誘ってくれ、それならいくらでも相手できる」
「解ったわ、そん時は呼ぶから覚悟してなさい」
何を覚悟すればいいのか解らないが、そう言って鈴は手を振りながら去って行った。
「妻帯者の分際で若い女と浮気か? いいご身分だな、ベインズ」
背後から声を掛けられた。
振り返ると、織斑先生と山田先生がそこにいた。
「冗談は止めてください」
黒のビキニタイプをまとった織斑先生は、はははと女性とは思えない男らしい笑い方をした。
これが一夏とシャルロットが水着を買いに行った時、試着室でくんずほぐれつしていたのを織斑先生と山田先生に見つかり、正座で説教を受けた挙句、その後一夏が織斑先生のために似合いそうな水着を選んであげたっていう例の水着か。
「ひどいです、ベインズくん。わたしというものがありながら、若い女性と浮気なんて」
ちょっと拗ねたような言い方をしているが、顔には笑顔のある山田先生。
グレーのパーカーを着ているのでどんな水着か見えないが、腰の辺りにちらりと見えたのは黄色だった。
そういえば最近、山田先生の事を俺の学園妻なんて呼んでいる女子がいる。
まあ、原因の一端は俺にもある。
IS学園、転校初日。
俺は一年一組の教室でクラスメイトの前で山田先生に告白じみたことをやらかした。
それが原因の一旦ではあるけれど、最大の原因は、俺の部屋はいまだに寮にはなく、現在進行形で山田先生の部屋に居候を続けている現実があるからだ。
そんなわけで、IS学園公認の同棲、学園妻なんて言ってからかっているのだ。
織斑先生も生徒の噂話を耳にして知っているのでこんなことをいってくるのだろう。
俺と山田先生の関係は健全だ。
疑われるような事は何もない、本当にだ。
最近は部屋に山田先生が居るのにも慣れてきたので、今のままでも、一人部屋でも、どっちでもいいんじゃないかと思い始めている自分がいる。
俺は山田先生の事を部屋に備え付けの家庭教師くらいに思っている、というか思うようにしていると言った方がいいだろう。
授業で解らなかったことを、その日のうちに聞きなおせるという点では非常にいい環境だろう。
「ベインズ。お前は織斑の所にいかないのか?」
俺に気を使っているのか、それとも一夏に気を使っているのか、多分両方なんだろう。
織斑先生はそんなことを行ってくる。
「アレを見てくださいよ。とても行く気にはなりませんね」
俺が指を指した先には、俺に声を掛ける前にセシリアと鈴に捕まっただろい一夏が、砂浜に敷物を敷きうつ伏せに寝転がっているセシリアに、衆人環視の元でサンオイルを塗りというプレイをやらかしていた。
始めは一夏がセシリアの背中にオイルを塗ってあげていたが、そばにいた鈴がセシリアがうつ伏せになっていることをいい事に、無理矢理一夏と交代し、オイルまみれにして散々弄んだ。
セシリアは当然怒り、オイルを塗るために上の水着をとっていたのだろうそれを忘れ、状態を起してしまい、一夏に女性の大事な部分を晒してしまう事になった。
セシリアが悲鳴を上げている。
一夏は女性の見てはいけない部位を見てしまったのだろう。
セシリアが部分展開したISの右腕で一夏は顔を殴られていた。
一夏がギャグ補正というレアスキル持ちじゃなかったら、顎の骨は見事に砕けていただろう。
それを俺と一緒に見ていた織斑先生はこう言った。
「そう言わずに織斑の所に行ってやれ。あいつだってお前がいた方が気が楽だろう。それに、何でお前は一夏の周りにいる女どもに遠慮しているのかは知らないが、あいつらが一夏にどういう感情を持っていようとお前には関係のない話だろう」
「確かにそうなんですが、でも一夏があそこでやっているラブコメ的展開を見ていたいという気もするんですよ。自分がやるのは大変そうですが、他人のを見ている分には面白いですからね」
俺の言葉を聞いた織斑先生はクククと堪えるような笑い方をすると、
「とっとと織斑の所に行け」
と言った。
俺はおもむろに立ち上がると、了解と返事をし、一夏に向かって歩きだした。
この後、何が起こったかといえば、まるで電車がレールの上を走るかのように知っている出来事が起きた。
つまり原作知識通りになったということだ。
鈴が海で溺れ、それを一夏が助けたり、ボーデヴィッヒが一夏水着を見せるのが恥ずかしいからと全身タオルでぐるぐる巻きになって登場したり、皆でビーチバレーをやったりとそんな感じだった。
予定調和といった感じか? この世界は始点と終点が同じなら、その途中が多少違っても問題ないということなのだろうか。
転生者というイレギュラーが存在しても、この世界ではそんなに影響しないのかもしれない。
原作知識として持っている以外のことはどうなるのか知らないが、どうせ俺はこの世界の歴史を積極的に変えようなんて思ってもいないのだ。
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