義手
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第八章
「やっぱりな、姉貴達は今も俺のこと嫌ってるだろ」
「そのことはね」
「わかってるさ、だからな」
それでだというのだ。
「また何処かで会おうな」
「また来るから」
ジョージの方からだ、そうするというのだ。
「この町にね」
「ああ、来てくれるか」
「来ていいよね」
「俺に拒む権利はないさ」
エドワードは穏やかな笑みでこうジョージに言った。
「だからな」
「それじゃあ」
「ああ、そっちも忙しいだろうけれどな」
それでもだというのだ。
「よかったら来てくれよ」
「うん、そうさせてもらうね」
「俺はずっとここにいるからな」
この町でだ、ひっそりとだというのだ。
「もう動くことはないよ」
「マフィアとか追って来ないんだね」
「逃げたんじゃなくて話をつけて抜けたからな」
それでだというのだ。
「円満じゃなくても後を引くものじゃないよ」
「だから大丈夫なんだ」
「ああ、しかも片手だからな」
銃も満足に持てなくなっている、それでだというのだ。
「ファミリーにとっても俺は死んだのと一緒だよ」
「抗争相手にもなんだ」
「幸い殺しはやってないからな」
殺人、それはしたことがないというのだ。そのことから恨みを買っていないというのだ。やはり殺人での恨みが最も深く恐ろしい。
だがそれがない、それでなのだ。
「だからな」
「そういうこともなんだね」
「大丈夫さ、もう俺はマフィアとは関係ないさ」
ジョージに対して微笑んで話す。
「だから安心してくれよ、今の俺は誰からも狙われないさ」
「じゃあ僕が何時ここに来ても」
「旅行にも行かないからな」
それもしないというのだ。
「だから来てくれるんならな」
「うん、待っていてね」
「楽しみにしてるな、また会う時をな」
「そうしておいてね。じゃあ明日向こうに戻るけれど」
ヒューストン、彼等が生まれ育ったその街にだというのだ。
「今日はまだ時間があるから」
「じゃあどうするんだ?」
「何か食べに行かない?僕叔父さんにいつもご馳走してもらったから」
「今度は御前がか」
「うん、そうしたいんだけれどね」
こうだ、彼はかつて叔父のものだったその右手を動かして話した。
「駄目かな」
「金なら俺も持ってるさ」
叔父は甥の申し出に微笑んで返した。
「それに叔父さんは甥っ子にご馳走するものだろ、だからな」
「それでなんだ」
「金は出すな、気にするな」
「そうなんだ」
「ああ、それでな」
さらに言う彼だった。
「この町にもいい店があるんだよ」
「どんなお店?」
「レストランさ、小さな店だけれどな」
「美味しいんだ」
「そこに行って二人で飲んで食うか」
「久しぶりに会ったから」
「ああ、そうしようか」
「叔父さんがそう言うのなら」
甥である彼は叔父のことがわかっていた、それならだった。
「有り難うね」
「だからお礼はいいって言ってるだろ、それじゃあな」
「教会のお仕事の後でだね」
「そこであの時みたいに二人で楽しもうな、そしてな」
「これからもね」
「ああ、時々そうしような」
長い時を経て再会した二人は笑顔で心を通わせていた、そして。
次の日町を後にするジョージにエドワードは手を差し出した、その手は。
両手だった、左手だけでなく右手もあった。その右手にあったのは。
「義手なんだ」
「ああ、こうした時には付けてるよ」
「何かその手って」
「御前の手に似せたんだよ、何ていうかな」
照れ臭そうに笑っての言葉だった。
「御前のことを思い出してな、申し訳ないとか色々思いながらもな」
「そうだったんだ」
「悪いことしたか、やっぱりな」
「ううん、嬉しいよ」
その義手からも叔父の心を感じ取ってだ、ジョージはこうエドワードに言った。
「その義手、僕がいない間も大切にしてね」
「御前と思ってだよな」
「うん、そうしてね」
「ああ、絶対にそうするよ」
二人はこの時も心を通い合わせてそうしてだった。
両手で固い握手をした、エドワードの右手はとても温かかった。ジョージはその温かさを感じながらそのうえで満足した気持ちで今は別れた。そして再会の時を楽しみにしながら右手に感じたその温もりを思い出すのだった。
義手 完
2013・5・26
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