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フロンティア

作者:フィオ
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一部【スサノオ】
  五章【ヒトガタ】

《ようこそ模擬戦闘エリアへ》

門が開いた先には5つのゲートと、それぞれのゲートの脇に腕輪が設置された台。

「いよいよ、って感じだな」

「ですね」

早く始めたいとウズウズしているジャックに対し、零は緊張からか足が微かに震える。
ネットゲームは慣れていても、自ら実際に戦うとなれば話は別。

体力に自信のある方ではない零にとってこの仕様は予想外だったのである。

《では、まずは基本的な説明とお前らに自分の使用する武器を選択してもらう。ゲート脇の台から各々腕輪を取り装着しろ》

Gの言葉に従い、ユーザー達はぞろぞろと台へ移動し腕輪を装着する。

《全員腕輪を装着したらそれに対し『武器種ダウンロード』と言え。それでやっとお前たちは奴等の『餌』から『遊び相手』に昇格できるぞ》

「ぶ、武器種ダウンロード!」

まるでアニメのヒーローもののような行為に恥ずかしくなる零。

すると、声に反応し零の腕輪から様々な種類の武器が記載された電子パネルが現れた。

《では武器種の簡単な説明だ。基本的に武器のレンジにより役割が決まる。刀剣や小手など近距離武器を選択すれば『前衛』。槍や鞭などの中距離武器を選択すれば『前衛補』。銃やナノロッドのような遠距離武器を選択すれば『全体補佐』になる。自分のスタンスにあった武器を選べ》

「自分にあった武器、か」

何の気なしにパネルをタッチする零。
選択した項目は『片手剣』。

《ユーザー零の武器選択を確認しました…》

「はぁっ!?」

《ユーザーデータの武器種ロック開始…》

「ちょっ、まっ…」

予想外の展開にあわてふためく。
しかし、そんな零にかまわず無情にも手元に一振りの剣が形成された。

「男だねぇ。でも、やっぱ現実的に銃だろ」

ニヤリと笑うと、ジャックの手元に一丁のハンドガン。

(俺もそのつもりだったよ…まぁ、あとで変更すれば問題ないか…)

《あと、一度選択した武器は生成後に変更することは不可能なのでそのつもりで。残念ながら何万といるユーザーの武器を支給するため物資は限られているからな》

(マジかよッ!)

ガックリと肩を落とす零。
その様子を見て、間違ってしまったのだと理解したジャックは零の肩にポンと手をおき…

「御愁傷様」

その一言に零は更にガックリと肩を落とす。

《さて、では武器を生成した者から4人1組のチームを組んでもらう。この模擬戦闘エリアでは基本的戦闘方法と集団での役割を理解してもらうためにな》

「軍隊かよ…」

ジャックはあからさまに嫌そうな顔をすると、零のほうへと視線を向けた。

「んじゃぁ、零!俺と組むか!さっき会ったばっかだけど知らない顔じゃないだけやりやすいだろ?」

と、ニカッと笑って見せるジャック。

「あぁ、はい俺でよければ…」

「おいおい、おんなじチームなんだから堅苦しくなるなよ。タメ口でいいんだぜ?」

そういってジャックが零の背中を強く叩く。

「あ、えぇっと…じゃぁ慣れてきたら…」

いつ慣れるんだよ、と更に強く叩くジャック。

「さて、と。あと二人か…周りは粗方組み終わっちまったみたいだし俺たちは余りも…」

と、ジャックは言葉を途中で切ると見渡していた視線を止めた。
その視線の先には先ほどGMに質問していた女性の姿。

「さっきの女か。…まぁ、余り物同士仲良くなれるだろ。なっ、零!」

「だといいですけど…」

すっかりジャックのペース。
ジャックはその女性へと歩み寄ると誘い始めた。

「なぁ、あんたも余った口だろ?俺たちとチーム組もうぜ?」

「はい?」

不機嫌そうに振り向く女性。
銀髪の長い髪の毛がさらりとなびく。
さっきは暗くてわからなかったが、シルクハットに赤いジャケット…一見どこぞの手品師のような外見をしていた。

白い綺麗な肌に茶色の瞳。
黙っていれば中々の美人だろう。
…そう、黙っていれば。

「余り物とは心外ですわね。貴殿みたいに気持ち悪い人と一緒にしないでくださる?」

…毒舌に漫画のようなコテコテのお嬢様節。
零は唖然とするジャックを見て笑いをこらえるので必死だった。

「マジかよ…なんだそれ、キャラ作りなのか?…マジでそのキャラだったら流石の俺でも引くぞ…」


「ほんと、なんなんですの!?失礼が止まらない方ですわね!このゲス!」

(どっちがだよ…)

おそらくジャックも心の中で同じツッコミをいれたのだろう。
非常に困った顔をしている。

「まぁまぁ、そう怒らないでくれよ。失礼馴れ馴れしいは俺の性分なんだ」

「なんなんですのまったく!」

「でもまぁ、どの道もう俺と零とアンタの3人しかいないんだから組む他ないんだ。仲良くしようぜ」

「零?もしかしてそっちの冴えない男のことですの?冗談でしょ…」

女性に睨み付けられ、零は「冗談でしょはこっちのセリフだよ」と思いながらも苦笑いで返した。

「ところで、アンタの名前は?ずっとアンタじゃ気分悪いだろ?」

すっかりジャックのペースにのせられため息をつく。

「クラウリーですわ。まったく、いいですこと?貴殿方と組むのはこれで最後ですからね!」

「はいはい。ちなみに俺の名前はジャックだ。よろしくな!」

握手しようとジャックがスッと右手を出すが、クラウリーはそれを無視して武器を選択する。

クラウリーの手元に出現したのは意外にも、外見や話し方に似合わない身の丈を大きく超える槍だった。

「これはまた…」

反応に困るジャック。

「悪いかしら?一人で戦っていくにはこれが一番よくってよ。弾数に限りのある銃や馬鹿みたいに敵に近づかなきゃいけない片手剣なんてナンセンスじゃなくて?」

相変わらずの毒舌。
ダメだコイツと言わんばかりに、もう苦笑いでしか返せない二人だった。
そんな二人を気にもとめず、クラウリーは辺りをキョロキョロ見渡す。

「でも、どうしますの?あと1人足りませんわよ?…まぁ、私は3人だろうが1人だろうが構わないですけれど」

ふん、と鼻で笑って見せるクラウリー。
そんなクラウリーの背後から声がしたのはその直後だった。

「これで4人1組だな」

いきなりの登場に3人とも驚き、その声の主から慌てて離れる。

そこにいたのは、オールバックのいかつい大男。

「4人1組でチームを組む。さっき俺はそう言ったな?」

「アンタまさか…」

男の言葉に3人は確信する。
そう、目の前の大男はGMのGであると。

「ありなんですか?GMが俺たちプレイヤーと組むなんて?」

零の言葉を笑い飛ばすG。

「別に構わんさ。ここでは俺がルールだ」

そう言うと、Gは他のチームにゲートを潜れと指示をだす。

「女、一つ良いことを教えてやろう」

クラウリーを鋭い眼光で睨み付けると、Gは静かに、かつ怒りを秘めた声で言い放つ。

「お前と同じように1人で生き延びれてる奴は全体の1%にも満たない」

「なっ…っっ!」

Gの凄まじいほどの威厳に反論しようにもクラウリーからは言葉が出てこない。

「さぁ、お前らもゲートを選べ。こんなところで死に急ぎのバカに説教垂れても時間の無駄だからな」

クラウリーの表情からは溢れんばかりの怒りが読み取れた。

「さて、と…んじゃ、まぁ最初だしゲートなんてどこ潜っても一緒だろ。一番右でいいか?」

「俺は構いませんよ」

「私もどこだって構いませんわ」

いい加減ながらも一番右に決定し、進む四人。
ゲートを潜ると続くのは狭いトンネル。
沈黙の中、口を開いたのはまたもやクラウリーだった。

「いいんですの?皆に教えなければいけない貴方のような方が私たちと居て?」

「お前が心配する事ではない、この広い施設に管理者が俺だけだとでも思っているのか?」

「貴方、リアルでも相当嫌な人なんでしょうね」

「そうだな、よく言われる」

笑って流したGに、それ以上クラウリーが話しかけることはなかった。

程なくして零たちが出たのは草原のような場所だった。

「さて、では戦闘について説明しよう。『アーカイブ』起動『ミラージュドール』『ラット』」

Gの指示で零達の目の前に四匹の大きなネズミのような生物が出現する。

「これが練習相手ってか?」

楽勝だぜ、と有無を言わさずジャックはその生物へと発砲する。

「あ?」

が、ジャックの放った弾丸はその生物に当たった瞬間弾き飛ばされた。

さらに最悪なことに、その一撃でグルグルと威嚇すると、その生物はジャックへと襲いかかる。

「ジャック!」

焦りジャックの前へ飛び出すと、零は剣を振り下ろし生物を弾き飛ばした。

「マジか…悪い、俺お前のことちょっとヘタレだと思ってたわ…」

零の行動に驚くジャック。
しかし、それ以上に驚いていたのは紛れもない零自信だった。

「体が軽い…?」

そこへ、呆れたように前へ出るG。

「話を最後まで聞かないからそうなる。お前らの使ってるその素体は只の人間のそれとは違う。身体能力は常人の約8倍。だが、普通の人間相手ならともかく、そいつらネイティブエネミー相手では簡単に殺されるぞ」

と、Gが零達へと一枚の小型チップを渡す。

「それをお前らの武器についている挿入口に差し込んでからもう一度攻撃してみろ」

言われるがままにチップを差し込む零達。

《データインストール完了…》

《実戦用へ書き換え完了…》

零達は剣を振り下ろし、弾丸を放ち、槍で貫く。

「おっ!」

先程とは違い、それぞれの一撃は確実に生物を仕留めていた。

「それが『エクステンドチップ』だ。今のはただお前らの実戦モードをアンロックするものだが、例えば奴らを倒しそいつらのDNAを採取するとその特性に合わせた機能がインストールされる。ちなみに、採取方法は奴らの死体からコアを剥ぎ取り街の『ラボ』へ持っていけばいい」

「コアってなんだよ?」

「お前らがいま倒したやつの死体をよく見てみろ。目のような部分…そこが結晶化してるのがわかるな?」

Gの言う通り、その目は宝石のように結晶のようなしていた。

「それがコアだ。ちなみに倒したらかならず採取もしくは破壊しろ。それはやつらの卵になっていてほおっておくとまた新たなネイティブが産まれるからな」

「まぁ、独特な繁殖方法ですこと」

「奴等にはメスもオスもない。産まれながらにして卵を持ち、死ぬと再び孵化して甦る。厄介な奴等だよ…俺がお前らにコイツらの討伐を優先と進めたのは人類の移住にとってコイツらが一番の問題だからだ」

「まぁ、薄々感ずいちゃいたが、つまり俺たちは移住計画の為の作業員って事か」

「そうだ」

冷たくいい放つG。

「だが、実際に死ぬ事はほぼない上に大金を手に入れるチャンスまであるわけだ。何か問題があるわけではあるまい?」

「そうだな、そのほぼ『死なない』ってとこ以外はな」

「ちょ、ちょっとジャックさん」

執拗に噛みつくジャックに戸惑う零。
ジャックとGの間に嫌な沈黙の時がながれる。

「どうでもいいですわ。作業員でしょうがなんでしょうが。嫌ならやめてしまえば良いのではなくて?」

二人の間へ割ってはいるクラウリー。
それは零にとっては救いの手だった。

「そ、そうですよ。取り敢えず二人とも落ち着いてください…」

「…そうだな。俺はこんなところでウダウダやる気もやめる気もないしな。……悪かったよ」

頭を下げるジャックを見て一言もなく顔を背けるG。

「いい忘れたが、そいつらから採取したDNA情報が換金されて現実のお前らの報酬金になる。倒したら持っている物でも必ず採取することだな。…さて、次は新たな開拓地へと踏み込んだ時に打ち込むビーコンの使い方だ」

待ってましたと言わんばかりのクラウリーの目。

彼女は一攫千金目的なのだろうか?

「使い方は単純だ。『ビーコン』『打ち込み』この二言をすでに開拓された土地から20キロ以上離れた新開拓地の地点で腕輪へ指示する。それだけだ。もしその圏内に先にビーコンを打ち込んでる奴らがいなければお前たちは大金を手にできる」

「ちなみに、どういった条件でしたら報酬金が高くなりますの?」

「主に生産性のある土地だ。農作業に適している土地や、開拓に必要な施設を建設できるような土地ならば報酬金がはねあがる。…だが、フロンティア1にいる今のお前たちにはまだ無縁な話だ」

「すぐにフロンティア4までいって見せますわ」

クラウリーの目がギラギラと輝く。

「女、ここで稼ぐ一番の術を教えてやろう。それは…」

《トラブルコード02…繰り返しますトラブルコード02》

Gの言葉を遮り、突如鳴り響く緊急アナウンス。
それと同時に今まで写し出されていた草原の映像が切れ、本来の鉄壁が姿をあらわす。

《模擬戦闘エリアBフロアにて緊急ログアウト発生…トラブル解決のため模擬戦闘エリアの全ゲートを封鎖》

「なんだ…これ」

「ちょ、トラブルって!?」

「いきなりなんなのよっ!?なんなのよ!?」

いきなりの出来事にあわてふためく三人。
そんななか、Gは手元に無骨な大剣を生成しただ一点を見据えていた。

「お前ら、ログアウトしろ」

その一点から少しも目をそらさずGは3人へと静かに告げる。

「くっそっ!」

「冗談じゃないわ!後で説明しなさいよねっ!」

訳もわらないままログアウトするジャックとクラウリー。
しかし、零は…

「ちょっと!ログアウトってどうやって……」

《エリア内にゲームマスター確認…》

《至急トラブル解決にあたってください…》

《エリア内隔離壁解放…》

哲二にも、誰にもログアウトの方法を教えられておらず取り残された零。
しかし、無情にも周りの壁は次々と下がり続ける。

「残念だが説明している暇はない…安心しろ、やられても現実に死にはしない。……たぶんな」

「た、たぶんってっ!?」

叫びもむなしく完全に壁は取り払われ、その全貌が露になる。
殺風景な広いただの四角い鉄箱と化したその奥には…

「う…嘘だろ…」

散乱した…先程まで元気だったプレイヤー達の死体の山だった。
そしてそのさらに奥に佇んでいる人影。
いや、人に似た何か…

「『ヒトガタ』か…」

『ヒトガタ』と呼ばれた何かがゆっくりと振り向く。

外見こそ人間ではあるが…顔面や手や肩に付いた大きな結晶。
それは、人ではないと認識するのに十分すぎるものだった。 
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