問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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短編 一輝と安倍晴明 ①
マヤの一件が有った夏休みも終わり、二週間がたったころ、一輝は制服を着て登校していた。
一輝が高校に通っている理由は二つ。一つは気分。もう一つは仕事である。
「さて、今日も何事もなく一日を過ごせたらいいな~。」
「誰か助けてー!!」
一輝の願望は一秒もかからずに打ち砕かれた。
そして、少し不機嫌になりながら振り返ると、一輝と同じ学校の女子生徒が逃げてくる。
それを追っているのは、背丈二メートル、全身深緑の体毛で覆われ、鶏のようなクチバシを持つ妖怪だ。
「また朝から面倒な・・・今日はなにか嫌なことがありそう。」
一輝はその場に立ち止まり、その妖怪と女子生徒のほうを見て、倉庫の中からペットボトルを取り出す。
ちなみに、一輝は荷物を一切持たずに登校している。
「とりあえず、俺の後ろに隠れてて。」
「え・・・あ、はい!」
女子生徒はそこで一輝の存在を認識したようで、声をかけられたことに驚くが、一輝の顔を見るやいなや、安心したような顔になり一輝の後ろに隠れる。
「にしても・・・コイツは山地乳か?たしか夜に活動する妖怪のはずなんだが!」
一輝はそんなことを言いながら水でその妖怪を切り、自らに魂を、式神に死体を封印する。
「ま、弱いしいっか。終わったよ。」
一輝は自己解決し、後ろにいる女子生徒に声をかける。
「うん、ありがとう一輝君。」
「ん?何で俺の名前、ってなんだ、里香か。珍しく遅いな。」
「たまにはこういう日もあるよ。まあ、今回はあの妖怪のせいな部分も多分にあるけど・・・」
「よくここまで逃げてこれたな。流石は陸上部。」
この少女、清水里香は一輝のクラスの委員長で、陸上部のキャプテンである。
その立場上、いつもは学校が開くと同時くらいには学校にいるのだが、今日はそうも行かなかったようだ。
「一輝君がいてくれて助かったよ~。今度お礼するね。」
「いいよ別に。生徒を妖怪から守るのが、俺の仕事だし。」
「でも、まだ学校についてないんだから、時間外労働じゃない?」
「そういえなくもない・・・かな?じゃあお言葉に甘えて。」
「うんっ。」
さて、今の会話にも出てきた一輝の仕事内容だが、学校にいる間と学校行事中、生徒を妖怪から守ることだ。
これを実行しているため、一輝は私立高校にもかかわらず学費、その他学校で必要な費用を免除され、単位も何もしなくても入る。本来は大人がやる仕事なのだが、一輝はその立場からこの仕事に割り当てられ、楽できるからと一輝もそれに乗っかった。
ちなみに、このシステムが出来た原因は、保護者による子供が妖怪に襲われたらどうするのかという意見で、すべての学校に学年数だけの実力のある陰陽師を配置することが義務づけられた。
「で、さっきの妖怪はなんなの?山地乳って言ってたけど。」
「ああ、それがあいつの名前。やることは、夜寝ている人の枕もとに現れ、唇にあのクチバシを突っ込んで息を吸いだし、生気を吸いきると次に胸をポンポンと叩き、出て行く妖怪。その場には死体が一つだけ残る。」
「キスされて胸まで触られるの・・・」
里香は本気で気持ち悪そうに、顔を真っ青にしている。
「まあ、その様子を第三者に見られたらそいつは出て行き、被害者は健康になって寿命も延びるらしいけど・・・」
「嫌に決まってるでしょ!?」
「だよな。まあもう退治したし、封印したから。にしても・・・追いついたらこの場でやるつもりだったのか?すぐに見つかるって事に気づいてなかったのかな?それとも、ターゲットを決めれてなかった?」
「それはもう考えたくない・・・それより、今日は宿題ちゃんとやってきた?」
里香が委員長らしいことを言うが、一輝の返答は、
「やってないよ。やらなくても問題ないし。」
である。この男、高校に入ってから一回も宿題を出していない。
「また?先生達かな~り怒ってたよ?」
「いくら怒っても、俺に対して何にも出来ないからな。気にしても意味ないよ。」
「一輝君がそれでいいならそれでいいけど・・・大学はどうするの?」
「高校と同じように入るか、陰陽師関係のところに入って楽をするかだな。」
「元々勉強は関係ないんだ?」
「ああ。仕事のための時間も作らないといけないからな。出来る限り時間は削らないと。」
二人はそんな会話をしながら学校に登校した。
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さて、現在は二時間目の授業なのだが・・・一輝は寝ていた。
居眠りとかのレベルではなく、枕を出して毛布をかぶって寝ている。
枕があるのは寝やすいからで、毛布があるのはクーラーの風が直撃する位置に座っているからだ。
もちろん、教師は一輝を起こしたり、問題を出したりするが、一輝はすべて答える。
そして再び一輝は眠りに着く。これが毎回の授業風景である。
唯一体を動かす体育では、“無形物を統べるもの”を使い、楽をしている。真面目に授業を受ける気は一切ないのだ。
一輝はそのまま一日中寝ていようとするが、後十分で授業が終わるタイミングで放送が流れ、そうもいかなくなる。
『寺西一輝君。寺西一輝君。お客様が来ています。至急校長室まで向かってください。繰り返します。寺西一輝君。――――』
《俺に客ってことは・・・陰陽師関係か。面倒だな・・・》
一輝はそう思いながらも立ち上がり、教室を出る。
そのまま校長室に着くと。そこには見覚えのある人物がおり、一輝は顔をしかめる。
「陰陽師課の人間が何のようだ?」
「出会いがしらにその態度はなくないか?」
「攻撃されなかっただけありがたいと思え。で、本当に何のようだ?」
一輝は軽く殺意を滲ませながらそういう。隙あらば自分を利用しようとするやつらだから、悪い印象しかないのだ。
そして、たっぷり二十秒ほど間をおき、一輝のイライラがピークになりそうなタイミングで、そいつは用件を言った。
「晴明神社周辺で異常現象が発生。対処を依頼しにきました。」
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