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真・恋姫無双 矛盾の真実 最強の矛と無敵の盾

作者:遊佐
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反董卓の章
  第6話 「伊達に毎日走らせてはいないのだ!」

 
前書き
今週、ちょっと時間ありませんでした。
短くてすいません。ついでに話も進まなくてすいません。 

 




  ―― other side 涼州武威 ――




 西涼と呼ばれる北西の地。
 少し馬を飛ばせば、始皇帝が築いたとされる万里の長城が見える場所。
 そんな平原と農牧の地にも街はある。

 涼州で最も大きな城郭、武威。
 その城にある、本来は罪人を捕らえている牢獄内。

 普段は、盗みや殺人などを犯した罪人が裁きを待つ、静かな場所に。

 怒号が鳴り響いていた。

「あたしゃ、いーやーだ!」
「大姫! いつまで駄々をこねておいでか! これは義なのですぞ!」
「ジジイどもが何を言おうと! あたしは董卓殿の恩義を優先する!」
「何度言えばわかるのです! その董卓が小帝陛下を殺して、漢を乗っ取っておるのですぞ! これを正すことが義でありましょう!?」
「あの董卓殿がそんなコトするわけがないだろ! 全部、踊らされているんだよ!」
「その証拠がどこに!?」
「じゃあ、踊らされてない証拠はどこにあるんだ!?」

『『 うううううううううっ! 』』

「…………ダメだ、こりゃ」

 木の格子を挟んで叫び合うその様子に。
 後ろで様子を見ていた小さな人影が溜め息を漏らした。

「小姫! なんとか言うてくだされ!」
「小姫言うなぁ! あたしちっちゃくないもん!」

 今したがたまで木格子越しに睨み合っていた老人が、小さな人影に振り向き叫ぶ。
 その人影も、叫びつつも木格子越しに、中にいる人物へと目を向けた。

「…………お姉さま。確かに董卓って人には恩義があるけど……事ここに至っては、どうしようもなくない?」
「どうしようもない!? どうしようもないだって!? 蒲公英(たんぽぽ)、お前だって董卓殿に恩義がありながら――」
「だ・か・らぁ! どーしてそう、直球でしかもの考えられないわけぇ? 例えそれがホントでも嘘でも、もう連合で戦うことは決まっちゃてるんだよ!?」
「わかってるさ! だから董卓殿の元に馳せ参じ――」
「おば様や韓遂のおじさまが、董卓に義なしと断じているのに!?」
「うっ…………」

 木格子の中にいた人物の言葉が、思わず詰まる。

「書状は真実って、劉虞とかいう別の皇族まで認めているんでしょ!? 大義名分があるのはそっちじゃん!」
「だ、だけど、それはなにか…………何か訳があって!」
「それを否定できる証拠があるならたんぽぽだって信じるよ! だけど、その証拠は? 傀儡だって言われちゃった献帝陛下だって、何も周囲に正式な書状を出していないのに?」
「うう…………」
「おば様は征西将軍! 立場があるんだよ!? その上で漢の危機だって、これだけ全土に噂が広まっちゃったら……それに加担するか、歯向かうかで涼州の――西涼のみんなの今後が決まるって、本当にわかってる!?」
「……………………っ」
「たんぽぽだって信じたいよ!? 敗走して逃げ帰った時、宦官のいやらしい視線から守ってくれた人だもん! でも、だからって…………やったことは別だもん!」
「っ! 董卓殿は、そんな卑劣なことはしない!」
「だからぁ! その証拠はどこにあるのさっ!」
「だ、大姫様、小姫様、落ち着い――」
「「 大『小』姫、言うな! 」」

 先程まで互いに喧々囂々だった二人の言葉がハモる。
 どちらも似たような顔に怒鳴られた老人は…………額を抑えて溜息をついた。

「では……馬孟起様、馬伯瞻(ばはくせん)様」
「たんぽぽ、字も嫌い! 普通に馬岱でいいよ!」
「どんたけ自分に好き嫌いが多いんだよ、お前は……」

 木格子越しの馬超が、自身の従姉妹の言葉に嘆息する。

「だって! 馬岱伯瞻なんて、なんか『馬体百銭』みたいでいやなんだもん!」
「なんだ、そりゃ……」
「…………はあ。では孟起様に馬岱様! これでよろしかろう! ともかく落ち着いてくだされ…………もう爺は、説得するのに疲れました。要件だけお伝えしてお暇したいと思います」
「あ、そうだった。あたしは――」
「孟起様については、出征なさらなくて結構です」
「いか――え?」

 木格子の中にいる馬超が、きょとんとした目で老人を見る。

「連合が董卓を討ち滅ぼすまで、ここで頭を冷やしていろ。これが寿成様――あなた方のお母上の言葉です」
「なっ!? じゃあ、連合への参加は見合わせ――」
「寿成様の義兄妹で在らせられる文約様……韓遂様は、寿成様に代わって五胡の対応に追われております。病の重い寿成様も連合への合流は無理。ですので……」
「お姉様の代わりに、たんぽぽが行くことになっちゃったんだよね~」
「な、なんだって!?」

 愕然とした面持ちで馬岱を見る馬超。
 まさか、と思っていた。
 母の後継者たる自分さえゴネていれば、最悪涼州が董卓側につかずとも、連合への合流は防ぐことができる。
 そう思っていたのだ。

「たんぽぽだってさ~そんな遠くへ行きたくないんだけど…………おば様と韓遂おじさまに頼まれたら、断りきれなくってさあ」
「お、お前が軍を率いて連合に合流!? 無理だ!」
「ひどっ!? た、たんぽぽだって、やればできるもんっ!」
「無理だ無理! ぜぇ~ったいに、無理だ!」
「そんなことないもん! たんぽぽだって、ちゃんと指揮できるもん!」
「お前の指揮じゃ、まともに軍勢が動かせるもんか!」
「お、お姉様の脳筋指揮よりは、遥かに上手にできる自信があるよ!」
「なんだとっ!?」
「な~にさ!」
「おやめなされ、お二方!」

 木格子越しに、今にも掴みかからん勢いの従兄弟同士に、老人がたまらず声を荒らげた。

「孟起様! 小姫、あいや、馬岱様には兵千での参加をしていただきます。それぐらいならばギリギリ馬岱様でも指揮できるでしょう」
「せ、千!? たった!?」
「現状、五胡の対応に北の鮮卑への警戒と人員が避けないのです。全て騎馬になりますが、千の数は現状出せるギリギリの数なのです」
「…………それはもし、あたしが率いたとしても?」
「……孟起様でしたら、兵の中には自ら名乗りを上げる者がでるかもしれませんが。それでも千五百は越えますまい。これが今の…………涼州の現状なのです」
「……………………」
「まったく……こんな時期にやめてほしいよね、身内で争うなんてさ。周辺みんなが敵の最前線にまで連合に参加しろだなんて……袁紹ってもしかしてバカなの?」
「ダメ元、もしくは出したという既成事実がほしいのかもしれませんな。これに参加すればよし。参加しなければ、後日それを理由に…………ということを狙っておるやもしれません」

 老人の言葉に、馬超は不意に自覚する。
 自らの言葉は、子供のダダではなかったか?
 本当に自分は、涼州のことを考えて董卓殿の援軍に向かおうと主張していたのか?

(あたしは…………)

 董卓に援軍をだして、勝てばいい。
 だが、負けた時は?

 董卓の兵力は……洛陽の武官や守備兵、その周辺兵力をかき集めたとしてもせいぜい十万から二十万程度。
 だが連合は……すでに決まっている面々は、それぞれ数万近くの兵を出してくるはず。
 総数で言えば同数か、それ以上にもなるかもしれない。

 その董卓軍にたった千の兵をだして、何が出来るというのだろうか。
 何もできない…………そもそも、涼州は騎馬兵が主体だ。
 防衛には向かない。

 つまり……援軍など、意味は無いのだ。

「………………」
「少しは落ち着かれましたかな? 姫の義を重んじる気概は、たしかに見事なもの。ですが……国を背負って立つにはまだまだ青い」
「!?」
「これは、寿成様の言葉です。肝に銘じられよ」
「………………」

 あ、あたしは…………

「………………は~ぁ。結局、たんぽぽが率いて連合に参加することになったから。それだけを伝えに来たんだよ。お姉様は、もうちょっと国のことを考えたほうがいいんじゃないのかな?」
「た、たんぽぽ…………」
「じゃあね、お姉様。帰ってくるまでに、もうちょっとは人の上に立つってこと、覚えてね? じゃないと…………おば様が可哀想だよ」
「!!」

 母さんは…………全部、わかった上で。
 …………くっ。

「じゃあ、行ってくるね。爺や、お姉様のことよろしくね」
「いってらっしゃいませ、馬岱様」

 そう言って、牢屋から出ようとするたんぽぽに。
 あたしは、何も声をかけることができなかった。




  ―― 盾二 side 漢中 ――




 出発の日。

 目的地は、連合集結場所として指定された宛のはずだった。
 だが――

「……は?」
「ですから……集合場所が変更になりました。宛でなく、許昌に向かうそうです」
「……なんで?」

 思わず素で朱里に尋ねてしまった。

「それがそのう…………私にもわからないんです。ただ、劉表さんからの連絡で、東の許昌に集合と……」
「許昌……確か、曹操のいる陳留からそう遠くない場所だよね。確かに大軍が布陣できそうな平野が多い場所だけど……」

 わざわざ洛陽から離れた場所に集合って……どういうことだ?
 南陽周辺だって大軍を置いておける場所はいくつかある。

 しかも洛陽に進軍する際に、進軍を妨げる場所は大谷関のみ。
 大軍が集結して平野で決戦するとしても、あそこから攻めるほうがいいのではないだろうか?

「…………雛里、許昌周辺の地図を」
「はい…………これです」
「………………!? そうか、陽人か!?」

 許昌の西にあるのは陽人……連合の孫堅と董卓軍がぶつかった地だ。
 だが……その付近だからというのはこじつけに過ぎる気もする。

 なぜなら孫堅は……

「……陽人が、どうかしたんですか?」
「あ、いや……」

 たしかに反董卓連合において、陽人の戦いは歴史上意味のある地だ。
 それまで劣勢だった反董卓連合の分水嶺にもなった場所。

 ゲン担ぎには最良かもしれない。
 だが、何故袁紹がそんなことを知っている?

 …………いや、違うな。
 これもおそらくはあいつら――仙人たちの入れ知恵。

 ということはやはり、連合内部にも仙人たちの手が入っているのか……

「…………ともあれ、集合場所が変わったのならば仕方ない。糧食の方は?」
「十分に余裕がありますから何とかなりますが…………連合での戦いが長引くと、まずいかもしれません」
「そうか……なら、やはり馬正には残ってもらって糧食を集めてもらうとしよう。輸送には警邏隊を使って後から合流ということで」
「わかりました。馬正さんを呼んでおきます」

 そう言って、朱里は伝令を呼ぶ。

 しばらくして宰相室に顔を出した馬正に、俺は指示を伝えた。

「承知しました。商人を使って糧食の確保に努めましょう。補給は私自ら率いていきますゆえ、ご安心ください」

 そういって馬正が、自身の胸を叩く。
 俺は頷いて、その馬正の肩を叩いた。

「馬正なら安心だ。任せる。とりあえず余剰の金塊を使ってもいいから、食料を集めておいてくれ」
「は。実は、念のためにと巴郡から戻る商人に、糧食の都合を頼んでおります。必要なければ新規の駐屯所用にしようと思いまして」
「……ほんと、気がつく人だよね、馬正は」

 この馬正が二年ほど前まで敵だったなんて、今では全く影も見えない。
 むしろ長年の知り合いのような気さえする。

 武や知は、愛紗たちや朱里たちには遠く及ばないかもしれない。
 だけど組織の潤滑油として、気配りができる馬正は梁州の最も重要な土台だ。

 縁の下の力持ち――まさしく馬正こそが梁州にとって、そして俺にとって添え木とも言える存在なんだ。

「……ありがとうな、馬正」
「ははは。いきなりなんですか。改めて礼などおっしゃらないでください。我が主」

 そう言って笑う馬正。
 髭もないその顔は、この二年で少し精悍な顔つきになっている。

 実は年配の女性からの受けもいいらしい。
 渋い顔に堅実な仕事ということで、意外とモテている。

「連合で董仲穎殿を助けたら、みんなで宴を開くとしよう。その準備もしておいてくれ」
「はい、了解しました…………ですが、主はあまり飲まれませんように」
「わかっているよ。その時は、星に要注意な」
「は。いざとなれば警官隊で押さえ込みましょう」
「……なるほど、その手があったか」

 お互い真剣な顔で話して――ぷっと吹き出した。




  ―― 孔明 side 新野近郊 ――




 漢中を出発してから十日が過ぎました。
 さすがに愛紗さんたち一騎当千の豪傑が鍛えた軍です。

 本来は一日の行軍距離は、八十里(四十km)がいいところ。
 ですが、私達の軍は輜重隊ですら百里(五十km)を一日で走破しています。

 鈴々ちゃんの第二軍など、毎日の行軍速度が遅すぎるのでと、周辺の斥候を兼ねて訓練するぐらい。
 第二軍だけなら、新野までの約八百里(四百km)を五日ぐらいで走りきるかもしれません。

「伊達に毎日走らせてはいないのだ!」

 そういう鈴々ちゃんは元気一杯で、誰よりも先に走っています。
 私なんかじゃとてもついていけません。

 私達が新野につくと、合流予定だった劉表さんがすでに陣を張って待っていました。
 私達はここで劉表さんと合流した上で、連合の集結地となった許昌へと向かうのです。

 それは周囲に『南に三州同盟あり』ということを喧伝するため、私と雛里ちゃんから劉表さんへお願いしたことでした。
 劉表さんはこの要請に二つ返事で了承し、ここで合流したのです。

「……まさか二万を越える数で来るとはの。しかも、予定日を数日繰り上げての到着とは……」
「天候にも恵まれましたしね。雨を見越しての日程でしたから」

 劉備軍を見ながら唸る劉表さんに、ご主人様が答える。
 劉備軍の出兵総数は、二万五千。

 しかも、梁州に予備兵力として警邏隊の八千に、警官隊の四千、計一万二千を残しての数。

 決して少なくはない軍勢に、劉表さんは感嘆の息をこぼしました。

「まったく、たった二年でこれだけの兵力を揃えるじゃと……? どういう妖術を使ったのじゃ?」
「兵を鍛えたのは桃香――玄徳とその臣下の力です。兵を揃えたのは私の臣下の力。私はただ……それらを効率よくさせる手助けをしただけですよ」

 ご主人様は、特に自慢するわけでもなく、ただ事実を述べるといった様子で話す。

 でも、私に言わせれば違います。

 兵を集めるための下地である、州を栄えさせるという大仕事。
 それをほぼ一人で考え、漢中に移る半年以上前から入念に準備して。
 それらをわかりやすく伝え、どうすれば効率よく回るか、どうすれば煩雑な仕事を簡潔に回せるのかを寝ないで書き記した。
 そして州を私達に任せて一年も放浪して、じゃがいもという奇跡の食糧と、漢という国の国家予算並の資金をたった一人で持ち帰った。

 私達が今、こうして精鋭を揃え、糧食を心配せずとも行動し、劉表という漢の重鎮と肩を並べる一大勢力を築き上げたのは。

 まぎれもなく…………天の御遣いである、北郷盾二という傑物の手腕なんです。

「まったく……連れてきた兵力で負けるとは思っておらんかったわ。本当にお前はとんでもないの」
「ですから劉備とその臣下のおかげ……」
「それも含めて貴様の手柄じゃと言っておる。あまり謙遜し過ぎると、逆に嫌味になるわい」

 そんなつもりはない――そんな様子で頬を掻く盾二様。
 本当に……この方は傑物です。

「景升様の軍勢は……およそ一万五千ですか。黄巾の乱、そして白帝城の件があったのに、万単位の出兵が出来るのは流石と思います」
「まあ、錦帆賊を殲滅できたおかげで、水運による収益がかなりのものになったからのう。兵の練度はともかく、数だけは揃えられたわ」
「錦帆賊……そうでしたね。江賊がいないのは、よいことです」

 ?
 盾二様が、少し寂しげな顔をしておられます。
 今の話に、なにか関係があるのでしょうか?

「正直儂は、臣を含めてあまり戦が得意ではない。いざという時は頼るやもしれん。頼むぞ」
「…………はい。こちらも景升様のお力に縋ることになると思います。連携して参りましょう」
「うむ」

 ……!
 さすがご主人様……じゃなかった、盾二様。

 たった一言で、戦場での連携の確約を取りました。
 これで諸侯は劉備軍を無碍に扱うことはできないでしょう。

 なにしろ劉表様は、亡き何進大将軍の右腕と言われた方。
 新興の私達とは、発言力が違うのですから。

「そこで早速なのですが……景升様にお願いがあります」
「もうか! カカカ! よかろう、言ってみよ」

 豪快に笑い飛ばす劉表様。
 でも……その笑いは、次の盾二様の言葉で驚愕と共に止まるのです。
 
 それは――

「実は……連合に合流した時に、劉備軍を先陣に推挙していただきたいのです」




  ―― 袁紹 side 許昌近郊 ――




「まったく! 美羽さんにも困ったものですわ! 自領地に大軍を置くな、だなんて!」

 本当に、なんということですの!?
 わざわざ集結場所に選んであげたというのに、あのわがままぶりは!

「本初様……その事についてですが」
「なんですの、唐周さん」
「実は、私が袁公路様にお伝えしました。宛付近で諸侯の軍を集めると、領地を荒らされる危険がある、と」
「ぬわんですってえ!?」

 あなたの! 貴方のせいですの!?

「どういう理由で――」
「今回の集結場所について、私に相談なされなかったのが問題です。本初様は何故宛に集結を指示なさったので?」
「そ、それは当然ですわ。南には大谷関しかありませんもの。あそこを数で押せば簡単に――」
「それではいけません」
「何故!?」
「本初様……公路様に、連合の戦果の全てをお譲りになられるので?」

 は?
 …………どういうことですの?

「大谷関を攻め落とせたとしましょう。洛陽を落とせたのは自領地を連合に開放し、連合の補給を一手に担った南陽太守、袁公路と人は吹聴するやもしれません」
「そ、それは…………」
「本初様の連合に集合させるならば、本来ならば本初様のお膝元である鄴であるべきでした。ですが……」
「私の領地で、そんな他国の兵を駐屯させるなどありえませんわ!」
「はい。でしたら誰の土地でもない…………そこに集めても、そこの領主の力が小さい場所にするのです。それが――」
「許昌…………確か、あそこは今無主でしたわね」

 前任の太守は、黄巾の乱で死亡していたはず……

「はい。そこに袁紹様が大軍と共に安堵するとしたら――」
「……わたくしの偉大さを、民のみなさんは褒め称える! そういうことですわね!?」

 なるほど…………確かに美羽さんの領地などに集めて、名声を独り占めなんてことは愚かでしたわ。
 それよりもわたくしの偉大さを、漢の隅々まで伝えることが大事でしたわね!

「……唐周さん。よくやりましたわ! 確かに宛などに集めようとしたのはわたくしの間違い……褒めて差し上げましてよ。お~ほっほっほっほっ!」
「お褒めにあずかりまして恐悦至極に存じます。では、我々もそろそろ出発しませぬと――」
「そうですわね。連合の盟主たるわ・た・く・しが! 集合場所に行きませんと、始まりませんわね」
「そのとおりでございます…………準備は整いました。いつでもご出発できましょう」
「わかりましたわ。猪々子さんと斗詩さんに陣触れを出させなさい! 袁本初が、華麗に、見事に、出陣いたしますわ! お~ほっほっほっほ!」
「はっ! 直ちに!」

 そうして部屋から出て行く唐周さん。

 本当に拾いものでしたわね。
 これだけ使える男でしたとは。

 さあ、そんなことよりも!
 わたくしの、わたくしによる、わたくしのためだけの大連合!

 本当に楽しみですわ!




  ―― 唐周 side ――




 ふう……馬鹿の相手は疲れるぜ。
 集合場所一つにおいても、俺の指示を仰げってんだ。

 こっちはあの男にいろいろ指示されてるんだからよ……お前らは虎牢関という死地で兵力を失うんだ、ほどよくな。
 だが安心するといい。

 連合は勝つ、勝たせる。
 あの男は…………そう言ったんだから。

 まあ、なんにせよ。
 もうすぐ……もうすぐだ。

 俺をこんな馬鹿の元でおべっか使わなきゃならなくなった元凶。

 あの董卓、そして張遼という奴らを殺すことが出来る。

 俺はあの砦での事は、一生忘れねぇ。
 あの恨みは……きっちり晴らしてやる。

 そして郷循…………いつかてめえにもだ。

 必ず見つけ出して……………………

 殺してやるよ! 
 

 
後書き
実はちょっとミスがありまして……蒲公英の真名の呼び方、ひらがな表記だったんですね。
まあ、会話枠の名前は漢字表記だったのですが。
なので、今回からひらがな表記で言わせています。

あと、馬岱の字ですが、諸説はあれども一応は伯瞻(はくせん)というらしいです。
なので採用しました。

張勲とか、調べても字がないのも結構いるんですよね。
だから名前読みにさせているんでしょうけど……

ああ、そうそう。
以前から後漢の頃の役職とか軍の階級名がわからないという話がありました。

うちのSSでよく出てくるものを中心に、あげておきます。
軍属と役職で分かれています。
よくでる順に説明しますと。

役職
刺史……後漢時代では行政権を得た州の長の役職。軍事権は本来無い。あるなら私兵。
州牧……○州の牧、といわれる。刺史の権限に軍事権を与えられた新しい州の長。場所によって刺史と混同されやすい。この頃には、後漢の政府機能自体が形骸化していた。
太守……州を細かくした郡の長。刺史や州牧が県知事なら、太守は市長みたいなもの。

軍事
大将軍・驍騎将軍・車騎将軍・衛将軍……総司令官、元帥といえばわかりやすい。将軍は他にも役職として出てくるが、大抵がこれより下の大将・中将・少将・准将と言ったレベル。
長史……公孫瓚の白馬長史で有名。元帥の副官のこと。秘書や参謀などをこなす。参謀長とも中尉ぐらいとも言われるので、実質的な発言権としては判断が分かれる所。その将軍の元なら高い、レベル。
中郎将……東西南北遠征軍の指揮官レベル。少将か中将あたり。五品官という官職でもある。将軍としての名称では最下層。

これ以外の詳しいことは、『所長』という方が詳しくまとめておられるので参考にどうぞ。
私もいつも参考にさせて頂いています。

メインはハーメルンの方で恋姫SSを書いている方ですので、できればそちらをご覧ください(と本人からのお願いでした)。
暁でも『原作:恋姫』で資料が掲載されています。

ご本人に許可いただきましたので、ここにて参照させていただきました。
 
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