魔法少女リリカルなのは~過去を捨て今を生きる者~
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空白期編
陽龍
前書き
最近また本編が多くなったり少なくなったりを繰り返している気がする。
一体、どうすればいいんだよ・・・ッ!
あ、違う。
一体、どうすればいいんだってばよ・・・ッ!
みたいな?
あと、いつも通りタイトルに深い意味はありません。
それではっ
再び幸せと思える日々が壊れたのは、あれから一ヶ月後の十二月。
地球ではクリスマスだというのに、管理局で働いているオレたちは仕事をしていた。
その日の仕事は未開拓世界での調査が目的とされ、なのはとヴィータが一緒だった。
「あー、くっそ寒い」
オレはバリアジャケットに身を包んでいるからある程度の体温調節はできるのだが、それを含めた上での寒さだ。
「そうだな・・・。そのうちに雪でも降るんじゃないか?なあ、なのは」
さっきの言葉に律儀に返してくれるヴィータはそう言って、近くにいるなのはに話しかける。
「・・・・・」
しかしなのははヴィータの声が聞こえなかったのか、無反応。
「おーい、なのは?」
「・・・え、あ、なにかな、ヴィータちゃん?」
もう一度話しかけると、少し間を空けてから返事が帰ってくる。
「ったく、慎吾みてぇにボーっとしてると怪我するぞ?」
「陽龍、さも当たり前かのように慎吾をけなしたなぁ・・・ある意味すげえ。でもなのは、陽龍の言うとおりだぞ?ほら、もうすぐここの調査も終わると思うし、気い抜くなよ」
ヴィータはそう言ってオレたちから少し離れ、周囲の警戒を始めた。
「さてなのは、オレらも最後の警戒を・・・」
始めようか。そう言おうとヴィータの方に向けていた顔をなのはの方に戻すと、ここにはいて欲しくないものが存在していた。
ガジェット。
それは攻撃型のロボット。希に管理局の仕事をしていると遭遇するもので、一つ一つはそれほど強くはない。
しかしガジェットは一気に何十体と固まって現れることがあるため、油断はできなかった。
そんなガジェットが、またボーっとしているなのはの背後に迫っていた。
幸いにも数は一体。
オレは考えることもせずに、ただ飛んだ。
「なのは、避けろッ!!」
そしてオレはガジェットがなのはに攻撃を加える前に間に入り込み、思いっきりなのはの肩を押す。
「・・・え?」
その結果なのはは数歩後ろに下がり、刃を向けるガジェットから離れることができた。
「ぐっ・・・」
しかし中間に存在するオレは迫る刃からは逃げられず、防御もできずに攻撃を受けた。
思っていた以上にガジェットの刃は鋭く、オレの背中に突き刺さった。
「放・・・て・・・ッ!」
<りょ、了解です!>
刃が刺さったままオレはヤミを振る。
流石に異物が刺さっている状態での魔法は辛く、オレは自身の魔力を操作できずに地面に落ちていく。
そして地面に倒れた頃には意識すらも薄れていった。
そんな中、オレはうっすらと見える視界を見続けていた。
完全に意識がなくなる頃、大粒の雪が降り始めた。
あぁ、今年はホワイトクリスマスか。
家に帰ったらクリスマスケーキを作っているアリシアを手伝ったり、つまみ食いしようとする美愛を怒鳴らないと。
そんなのんきなことを考えながら、完全にオレの意識は闇に飲み込まれてしまった。
場所は変わって、ミッドの病院。
そこではさっき背中から刺された少年、浅賀陽龍・・・おにぃの手術が行われていた。
手術室の前で私は立ち尽くし、どうしてこうなってしまったのだろうと考えていた。
今日の私は用事がなく、家でケーキを作るアリシアを少し手伝いながらこっそりつまみ食いをしていた。
あと少しでおにぃの仕事が終わる。
帰ってきたら最後の仕上げをしてもらい、今日は非番にしたおとーさんとおかーさんと一緒にご飯を食べよう。
今回のケーキはおにぃとアリシアが数日前から準備していたのだから、すごく美味しいはずだ。
はやく帰ってこないかな・・・。
あとはおにぃの仕上げだけとなったケーキを眺めながら、帰りを待つ。
「うそ・・・うそ、でしょう・・・?」
おかーさんの声が聞こえた。
たぶん念話で話していたんだろうけど、そんなに驚くことだったのか、口に出していた。
おかーさんの声はとても小さく、驚きと焦りの混じったように感じる。
「どうかしたのー?」
同じように聞こえていたアリシアが話しかける。
するとおかーさんはこっちを向いて両目に涙を溜めた状態で、言った。
「陽龍が・・・」
戸惑うおかーさんの言うことを理解するのに、時間はかからなかった。
私たちは一言もじゃべることなく地下に行き、おにぃが運ばれたミッドの病院へ行った。
そして今。
手術室の前には私たち浅賀家以外にも高町家、ハラオウン家、慎吾、八神家、が集まっていた。
普段ならばいろんな話をするが、今は状況が違う。ただひたすらに無言が続く。
先に来ていたリンディさんにおにぃのことを聞くと、予想以上におにぃの身体はボロボロらしい。
ガジェットに刺されるだけでも、それなりに重症だ。
バリアジャケットを着ていたから威力は多少落ちたものの、それでもガジェットに向けていた背中を刺された。
なのはを押した反動で刺さった刃はより深くめり込んで骨、内蔵にも傷ができてしまった。
地球の医療だったら、助からない可能性だってある。
しかしここは魔法の存在する世界。完治とまではいかなくても、ある程度の回復はできるはずだった。
でも、おにぃの怪我はそれだけではない。
地面に落ちた時に刃は抜けたらしいが、衝突の時に全身打撲。
両足の骨が砕けたらしい。
これがアニメの世界だったらどんだけだよと笑えるかもしれないが、実際におにぃがそうなっている。
手術はシャマルを筆頭に行われているからいくらかの安心はできるが、最悪の結果が待ち受けているかもしれない。
その可能性は、ゼロ%では、ない。
どんどん思考が悪い方へ向かっていったとき、手術中の赤いランプが消えた。
そして中からシャマルが出てくる。
「シャマル!おにぃは、おにぃは大丈夫なの!?」
私はすぐさま近づき、言う。
「落ち着いて美愛ちゃん。なんとか手術は成功したわ。陽龍くんはもう大丈夫よ」
その言葉を聞いて、私はその場に座り込んでしまう。
良かった。あの最悪な妄想が現実に起こらなくって。
これでまた一緒に馬鹿なことができる。
心配させた罰として、毎晩デザートを作ってもらおう。
「でも、やっぱり完治とまではいかなかったわ」
これからおにぃとしたいことを考えていると、そんなことをシャマルが言った。
「身体は今現在は動かないと思う。でもリハビリを続ければ生活に支障がない程度には回復できる。そこから先は陽龍くん次第ね。そして、一番の問題。彼はもう、魔法を使えないかもしれない。詳しいことを話したいので、ご両親はついてきてくれますか?」
シャマルはそう言って二人を連れて何処かへ行ってしまった。
そのすぐあと、眠ったままのおにぃが出てくる。
おにぃは本当にただ眠っているだけのようで、いつものように朝起きれない私を焔火で無理やり起こそてくれそうだ。
しかし、もうそんなこともできないかもしれない。
魔法が使えないってことは、それだけではない。
春香・ヴァレスティアを誘拐した犯人、ジェイル・スカリエッティを捕まえられない。
普段は私たちと馬鹿みたいなことを、話をしているおにぃだが、本当はおにぃは割と豆腐メンタルで、人一倍背負い込もうとする。
そんなおにぃが、アイツを捕まえられないと知ったら。
きっともう、今までのような関係を保つことはできないだろう。
今まで以上に打たれ弱くなって、しゃべることが少なくなるかもしれない。
今まで以上に背負い込んで私たちを困らせて、勝手に潰れちゃうかもしれない。
なにより、もうあの楽しかった日々が戻ってこないかもしれない。
おにぃに話したらそんなわけねぇだろって言われると思う。
でも、きっと間違ってないと思う。
生まれたから十一年間、一緒に過ごしてきた双子の妹である私がいうんだから。
そして、おにぃの妹だからこそわかる。
そろそろこのウザったいしんみりムードを終わらせないと。
私は立ち上がり、思いっきり息を吸い込む。
立ち上がった時にわかったんだけど、その場にはもうおにぃはいない。
居るのは両親以外のみんな。
みんな、暗い顔をしている。
うん、だったらこれは必要なこと。
病院?だからなんだってんだ。
そんなのは関係ない。
ただ、私がやりたいからする。
それだけのことでしょう?
「しゅーーーーーーーりょーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!」
だから叫んじゃったぜ☆
俯いていた人は顔を上げ、暗い顔をしていた人はポカンとした顔をする。
「もう疲れた飽きたこのうっざいしんみりムード終了はいじゃあみんな好きなようにしていつまでもこんな場所に溜まってないで自分がしなきゃいけないことをしろ何もない奴はもう帰る!」
私は息継ぎなしですべて言い切った。
ちょっとスッキリ。
そして満足。
「え、いや、あの、美愛?ここ病院なんだけど?しかも陽龍重症なんだけど??」
「だからなんだ影薄慎吾!おにぃが重症?そんなことわかってるよ!わかってても、私たちには何もできないでしょ!だったら今自分がしなきゃいけないことをする!それだけ!」
私の言葉をしっかりと受け止められてないのか、誰も喋らない。
いや、受け止めてはいるけど、理解はしてないのかな?
「・・・あはは、うん、そうだね。美愛の言うとおりだ」
少しすると軽く笑いながらフェイトが言った。
「うん。いまわたしたちがここにいても、なにもできない。だから」
「陽龍の分まで、できることをしないとな」
アリシア、慎吾が言った。
私たちの言葉を聞いて大人たちもしっかりと現状を理解し、そして少しだけどいつもの雰囲気に戻る。
でも、一人だけ例外がいた。
なのはだった。
「私にはそうやって受け入れることなんでできない・・・!だって陽龍くんは私のせいでこんなことに・・・!私は無傷なのに、陽龍くんだけ!こんなことになるんなら、助けて欲しくなかった!私が怪我をすれば・・・ッ!」
瞬間。周囲にパァンという音がとってもよく響き渡った。
「巫山戯ないで!なのは、流石にそれは酷いよ!そうやって事実から目をそらして「助けて欲しくなかった」「私が怪我をすればよかった」?おにぃが身体を張ってまで助けてくれたのに、よくそんなことが言えるね!意味わかんない!普通なのはが言わなきゃいけないのはそんなことじゃないでしょ!?「助けてくれてありがとう」って、言うはずでしょ!?なのになんでそんな言葉が出てくるの!そんなの、私たちの知ってるなのはじゃないッ!」
「でも・・・!」
「でもじゃない、この馬鹿なのは!おにぃが・・・おにぃが助けてくれたのに、どうして素直に喜べないの!?なのはは「ありがとう」が言えないような人だったの?違うでしょ!?」
「・・・ごめん、なさい」
「ねえ、なにがごめんなの?誰に対して謝ってるの?そもそもなんでなのはは今謝ったの?人の話聞いてた?今なのはは誰に、何を言わなきゃいけないの?」
「陽龍くんに、助けてくれてありがとうって」
「わかったのならよし!じゃあなのはは今すぐ病室行ってこい!おにぃが起きてても、起きてなくてもとりあえず謝る!おーけー?」
「おっけー、なの!って、病室しらないよ!」
「聞いて来い!れっつごー!!」
「さー、いえっさー!」
そしてなのははさっきまでの暗い雰囲気をある程度なくし、病院の人に病室を聞きに行った。
・・・うん、今いいこと言ったよね?間違ったこと、言ってないよね?
なら、なんでだろう。
こんなにもみんなの視線が突き刺さっているのは。
「・・・あの、何かした?」
私はちょっと耐え切れなくなって聞いてみる。
すると代表かなにかで慎吾が口を開く。
なぜ慎吾?
「えっと、まずお前は美愛・・・だよな?実は陽龍とかアリサとかじゃなくて」
「いや、確かにおにぃと私は双子だから似てるけど、アリサが選択肢に出てきた理由がわからない!」
「いや、だってアリサって去年なのはに怒鳴ったことあったじゃん?あれに似てたし」
それを言うならひと月前のお前もだろ、とかツッコミたい。
「・・・とりあえず影薄慎吾爆発」
「なんでだよ!・・・でもまあ、これでやっといつもの雰囲気に戻ったの・・・か?」
慎吾はそう言って軽く周囲を見る。
そこにはいつものメンバーとその家族。
家族の方はまだなんとなく暗い気もするけど、メンバーが普段に近づいてきているからか、少し明るくなった気もする。
「そう、だね。じゃあみんなはこれからどうする?」
「私は・・・少しだけ陽龍を見て、それから帰ろっかな。リンディさん、クロノ、いい?」
「私は構わないわ。あと、お母さんね」
フェイトはリンディさんに言われ、少し顔を赤くする。
結局フェイトは戸籍上では一人だったが、最近になってフェイト・テスタロッサ・ハラオウンになった。
そのためリンディさんはお母さん、クロノがお兄ちゃんなのだが、まだ恥ずかしいのか呼べないらしい。
「ウチらはヴィータがどーしても会いたいいうから、会ってくかなぁ」
はやては隣に座ってまだ少し俯いているヴィータを見ながら言う。
「高町家はなのはを待たないとだから、もう少し残るのかな。じゃあこのままだと慎吾ぼっちだね」
「ぼっち言うな!別に俺はぼっちじゃねーよ!クリミナルいるし!」
「・・・そんなに友達いなかったんだね。ごめんね、慎吾。少し待ってればフェイトやなのはが来るだろうから待ってな?」
「その悲しみ、哀れみ、笑いの混じった顔やめろ!・・・まあ待つけど」
流石の私も涙・・・と笑いが少々。
「じゃあ、逝こうか」
「逝くなバカ!!」
後書き
美愛がでばった。
前回は慎吾、今回は美愛になっちゃった。
前回って打つと何故か全壊ってなる。不思議。
影薄にも花を持たせてやろうという作者の心意気に全作者が驚いた。
そしてどうでもいい。
それではっ
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