ソードアート・オンライン ~双子の剣士~
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第五章 第一層攻略会議①
《ソードアート・オンライン》がデスゲームと化して一ヶ月が経過しようとしていた
一ヶ月という短い期間で二千人ものプレイヤーが死んでしまった
まだ第一層も攻略されていないという絶望的な状況の中、《トールバーナ》という町で《第一層フロアボス攻略会議》が開かれていた
「⋯四十四人か」
「⋯⋯少ない⋯よね」
「⋯ああ、これじゃ連結(レイド)一つの上限すら満たせない」
ボスを死者ゼロで倒そうとするならレイドを二つ組んで交代制でやっていく必要がある
キリトが広場に来たプレイヤーを眺め、考え事をしているとノアがキリトの服の袖を引っ張ってきた
⋯⋯最近のノアの癖である
「ん?どうした?」
「会議、始まるみたいだよ」
ちょうどその時
パン、パンという手を叩く音とともに、よく通る叫び声が広場に流れた
「はーい!それじゃ、五分遅れだけどそろそろ始めさせてもらいます!」
実に堂々たる喋り主は長身の各所に金属の防具を煌めかせた片手剣使いだった
「今日は、オレの呼びかけに応じてくれてありがとう!知っている人もいると思うけど、改めて自己紹介しとくな!
オレはディアベル、職業は気持ち的に《ナイト》やってます!」
すると、噴水近くの一団がどっと湧き、口笛や拍手に混じって
「ホントは《勇者》って言いてーんだろ!」
などという冷やかしの声が飛んだ
SAOには、システム的な《職(クラス)》は存在しない
「⋯ねぇ、お兄ちゃん」
「⋯ん?」
「⋯SAOに《クラス》なんてないよね?」
「⋯ああ、無いよ⋯⋯まぁ、名乗るのは自由だろ」
ディアベルと名乗る男は装備がまさにナイト系装備とも言えなくはない
「さて、こうして最前線で活動してる、言わばトッププレイヤーのみんなに集まってもらった理由は、もう言わずもがなだと思うけど⋯⋯」
青髪の騎士は、ざっと右手を振り上げ、街並みの彼方にうっすらとそびえる巨塔⋯⋯⋯第一層迷宮区を指し示しながら続けた
「⋯⋯今日、オレたちのパーティーが、あの塔の最上階へ続く階段を発見した、つまり、明日か、遅くとも明後日には、ついに辿り着くってことだ、第一層の⋯⋯⋯ボス部屋に!」
どよどよ、とプレイヤーがざわめく
「⋯やっとか」
「⋯そうだね、でも、お兄ちゃんが本気を出せば一日で第一層攻略できたよね?」
「⋯⋯それは前のアインクラッドの話だ、それにアルゴに渡す情報収集もしなきゃならないから時間がかかるんだよ」
アルゴとは《情報屋・鼠のアルゴ》のことである
騎士の演説が再開する
「一ヶ月、ここまで、一ヶ月もかかったけど⋯⋯それでも、オレたちは、示さなきゃならない
ボスを倒し、第二層に到達して、このデスゲームそのものもいつかクリアできるんだってことをみんなに伝えなきゃならない
それが、今この場にいるオレたちトッププレイヤーの義務なんだ!そうだろ、みんな!」
再びの喝采
今度は、ディアベルの仲間たち以外にも手を叩いている者がいる
その時
「ちょお待ってんか、ナイトはん」
そんな声が低く流れた
歓声がぴたりと止まり、前方の人垣がふたつに割れる
そこに立っていたのは、サボテン頭の男だった
「そん前に、こいつだけは言わしてもらわんと、仲間ごっこはでけへんな」
唐突な乱入に、ディアベルは余裕あふれる笑顔で対応する
「こいつっていうのは何かな?まぁ何にせよ、意見は大歓迎さ
でも、発言するなら一応名乗ってもらいたいな」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯フン」
サボテン頭は盛大に鼻を慣らすと、一、ニ歩進み出て、こちらに振り向いた
「わいはキバオウってもんや」
そう名乗ったサボテン頭は、小さめながら鋭く光る両眼で広場の全プレイヤーを睥睨する
「こん中に、五人か十人、ワビぃ入れなあかん奴らがおるはずや」
「詫び?誰にだい?」
ディアベルの方を見ることなく、キバオウは憎々しげに吐き捨てる
「はっ、決まっとるやろ、今までに死んでった二千人に、や
奴らが何もかんも独り占めしたから、一ヶ月で二千人も死んでしもたんや!せやろが!!!」
途端に低くざわめいていた約四十人の聴衆が、ぴたりと押し黙った
キバオウが何を言わんとしているのか、やっと理解したのだろう
「⋯⋯キバオウさん、君の言う《奴ら》とはつまり⋯⋯元ベータテスターの人たちのこと、かな?」
「決まっとるやろ、ベータ上がりどもは、こんクソゲームが始まったその日に、ダッシュではじまりの街から消えよった、右も左も分からん九千何百人のビギナーを見捨てて、な
奴らはウマい狩場やらボロいクエスト独り占めして、ジブンらだけぽんぽん強うなって、その後もずーっと知らんぷりや
⋯⋯こん中にもちょっとはおるはずやで、ベータ上がりっちゅうのを隠して、ボス攻略の仲間に入れてもらお考えてる小狡い奴らが
そいつらに土下座さして、貯め込んだ金やアイテムをこん作戦のために軒並み吐き出してもらわな、パーティーメンバーとして命は預けられんし、預かれんと、ワイはそう言うとるんや!」
名前のとおりの牙の人咬みにも似た糾弾が途切れても、やはり声をあげようとする者はいなかった
その時
「発言、いいか」
豊かな張りのあるバリトンが、夕暮れの広場に響き渡った
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