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札樽ラプソディー

作者:hiroki08
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 札樽ラプソディー

 
前書き
池脇律子27歳
 札幌市街地の
 携帯ショップ店員
 
 
 彼氏にふられ家を失くし、
 楽しみにしていたライブ
 も見れなかった。
 
 散々な一日を終え、
 仕方なく実家の小樽に
 タクシーで帰ること
 にした。 

 





 
 

 
 



    人物
池脇律子(27) 携帯ショップ店員
赤川琢己(55) カニ無線ドライバー
佐々宗孝(30) カラオケボックス店員
金井麻奈(23) 携帯ショップ店員
長 亘〈わたる〉(42) 携帯ショップ店長
野積 廉(27) 律子の彼氏(元彼)











○携帯ショップ・店内(夜)
  電気が消えてる。
池脇律子(29)のスマートフォンに店長
・長亘(42)からの着信。
しかめっ面をしながらスマートフォンを
耳に当てる律子。
律子「お疲れ様です」
長 「はーい。お疲れ様、いまどこ?」
律子「まだ店です。今電気消して帰ります」
長 「エアコン切った? ちゃんと在庫室閉
  めた」
律子「やりましたよ」
  眉間のしわが増す律子。
長 「そう。最近またスマホ強盗が流行って
  るみたいだから見落としは勘弁ね」
律子「はいはい。ダブルチェックしまーす」

○携帯ショップ・通用口外(夜)
ドアを閉め、歩道へと歩き出す律子。
律子「やっべ。もう九時じゃん」
と時計を見ながら大声をだす。
よっぱらい男性A(54)とAを介抱する
よっぱらい男性B(58)が律子に近づい
てくる。
A 「たなべだよ」
  と律子に自分の顔を寄せながら言う。
B 「あんた田中でしょ」
  Aの髪を後ろから引っ張るB。
律子「わっ。髪とれた」
Bの手にはAの部分カツラ。
B 「ぎょめん」
  と下に顔を大きく振る。
  Bの入れ歯が律子の足元に飛んできた。
律子「わっ」
  と小刻みに足踏をする。
律子「おちてますよ」
と体を反らし入れ歯を左手で指差す。
B 「ごめん。ごめん」
BはAの腰に手を回しながら入れ歯を取
り、自分のスーツのお尻部分で拭き、口
に戻す。
A 「三秒ルール、遵守」
  と両手を広げる。
律子「すっげえ」
B 「さあ、行こうか」
Aの手をたたんでBは動き出す。
足元に向けて鼻をクンクンさせる律子。
律子「臭いのっこてるよ。たく、酔酔(す
いすい)介抱すんなよ」

○ライブハウス・入場口(夜)
マキシムザホルモン・ぶっ生き返すが微
かに聞こえる。
受付の女性A(25)と言い合いをする律
子。
A 「ですから、入場はできかねます」
律子「入れてよ。ばれないように入るから」
女性スタッフB(30)が会場の方から
駆け寄ってくる。
  AがBに目を向ける。
A 「チーフお願いします」
  Bは律子の正面に立つ。
B 「お客様只今最後のアンコール曲からお
別れの挨拶に入るところでして入場はで
きかねます」
律子「ホルモンが挨拶なんてするかよ。ファ
ック」
と両手中指を立てBに向ける。
B 「申し訳ありません」
Bは律子に頭をさげ、薄ら笑いを浮かべ
る。
律子「じゃあ、払い戻しして下さい。この二
枚」
バックからライブチケットを二枚取り出
し、Bに差し出す。
B 「払い戻しはできかねます」
と頭を下げる。
律子「できませんって言え。紛らわしいな」

○(回想)携帯ショップ・職員休憩室
テーブル席に腰掛け 、スマートフォン
に耳をあてる律子。
スマートフォンから掃除機の音が漏れる。
律子「もし、もし。うしろうるさいよ」

○(回想)マンション一室
スマートフォンを耳に当てる野積 廉
(27)。
野積の後ろで掃除機をかける女(24)。
野積「ちょいまち。外出るから」
 
○(回想)職員休憩室
律子「うん」
となりの席に弁当を食べる金井麻奈(2
3)。
麻奈「いいですね。昼間からいちゃついて」
律子は耳にスマートフォンをあてたまま。
律子「まあね」
 
○(回想)マンション踊り場
  マンションのドアが半分開いてる。
  掃除機の音。
  ドアを閉め野積が出てくる。
  微かに聞こえる掃除機の音。
手に持つスマートフォンを耳にあてる野
積。
野積「なに」
律子の声「今日。残業入っちゃった。だから
行く前こっち寄りーのチッケット持ちー
の先に会場行ってて」
野積「あのさ。今日お前といけないわ」
律子の声「なんで」
マンションのドアが開く。
掃除機の女が出てくる。
掃除機の音が大きくなる。
ドアが閉まる。
微かに聞こえる掃除機の音。
女 「ちょっと、かわって」
野積のスママートを取り上げる女。
困惑した顔の野積。
女 「この寄生虫が」
律子の声「あんたなんなの」
野積「おい。かわれ」
女がスマートフォンを野積に向かって
ふわっと投げる。
それを両手でキャッチする野積。
野積「おい。あっぶねえよ」
律子の声「ねえ。無視しないでよ」
野積「あんさ。そういうことなんだよね」
野積の後ろで女がドアを開ける。
掃除機の音が大きくなる。
ドアが閉まる。
掃除機の音小さくなる。
律子の声「あの女だしなさいよ」
  という叫び声。
野積「うるさいよ」
律子の声「ベルサイユ」

○ライブ会場前(夜)
律子は建物に寄りかかり、たばこをふか  
しながら貧乏揺すりをする。
律子「なに食べようかな」
建物から人が次々と出てくる。
その方向を睨みつける律子。
律子のM「お前らみんな死ね」 
煙を思いっきり吐き出す律子。
人の流れを縫って野積と手をつなぐあの
女が律子に近づいてくる。
野積「よう」
律子は煙を吐き出す。
女 「なんだこの女」
野積「荷物、小樽におくっといたから」
律子「は?」
野積「じゃあな」
野積たちは律子に背を向けて歩き出す。
律子「ボックスオールナイト決定」

○カラオケボックス・個室(夜)
中島みゆき・誕生を熱唱する律子。
ドアをノックする音。
律子「なんですか」
マイクで叫ぶ律子。
キーという音が室内に響く。
ドアが開き、男A(20)、男B(19)
が耳をふさぎながら部屋に入ってくる。
男A「ねえ、おねえさん。俺らも一緒に歌っ
ていいかな」
男B「いいとも」
と右拳を突き上げる。
依然、演奏が続いてる。
開いてるドアをノックする店員・佐々宗
孝(30)。
佐々「すいません。ドア開けっ放しは困るん
ですよ」
律子「私も困ってるんですよ」
佐々「そうですよね」
男B「はあ?」
顔を後ろに向け佐々を睨む男AとB。
佐々「あのう。お客様がお困りになってるの 
で自室にお戻りください」
男A「俺らは孤独死しそうなおばさんをいた
わってただけ。言われなくても戻るよ」
律子「おばさんビーム」
とジョッキに入ってるウーロンハイをA
に向かってかけた。
男A「ババアこのやろ」
男B「あつしさん。正当防衛だ。やろう」
佐々が律子と男達の間に入る。
佐々「そういうのやめましょう。歌う場所な
  んで」
男B「なんだこら?」
と睨みをきかしながらが佐々のむなぐら
を掴む。
佐々「さわんな。バカ」
佐々は男Bの手を外して、部屋の外に突
き飛ばす。
男A「おい。こら」
佐々に殴りかかる男A。
佐々「だっせえパンチ」
佐々はパンチかわして男Bをタックルで
倒す。
佐々「まだやる?」
男Aはすぐさま立ち上がりドアに向かう。
律子「くらえ。おばさんロック」
とジョッキに入ってる氷を取り出し男A
の背中にぶつける。
男Aは部屋を飛び出す。
佐々「やりすぎ」
  演奏が止まる。
佐々は床に落ちた氷を拾い、テーブルの
下のゴミ箱に捨てる。
律子「これ使ってないから使って」
とおしぼりを佐々に渡す。
佐々「ありがとう」
律子「こちらこそ」
中島みゆき・誕生の演奏が再び始まる。
佐々「曲はじまったし、おれはこれで失礼し
ます」
とおしぼりを持ったまま部屋を出てドア
を閉める。
閉まったドアを見つめる律子。
律子「今晩添い寝してくんねえかな」

○すすきの交差点(夜)
交差点中央に立つ、時計塔の時計〈一二
時二二分〉。
  路肩で手をあげる律子。
律子「全然とまんない。やっぱ朝までさわい
でればよかった」
タクシー、車が次々と通り過ぎる。
上着のポケットからライター入りのシガ
ーケースを取り出す律子。
一台のタクシーが近づいてくる。
律子「おーい」
シガーケースを持った右手を上げ大きく
振る。
ライターが隙間から落ちる。
タクシーは通り過ぎてゆく。
律子「回送かい」
  とライターを拾う。
× × ×
律子は顔をうつむいて、煙を吐き出した
らタバコの持つ手を上にあげる動作を繰
り返す。 
ルーフに蟹のロゴをのせているタクシー
がウィンカーをあげ、減速して止まる。
律子「やっと来たかい」

○タクシー・車内(夜)
  赤川琢己(55)がレバーを引いてドア 
を開ける。
  車に乗り込む律子。
赤川「ドア閉めます」
律子「はい」
ドアが閉まる。
赤川「のろし上げてくれてたから助かりまし
たよ」
赤川「あっこれ」
火のついてるタバコを掲げる律子。
赤川「どちらまで」
  タバコに口をつける律子。
律子「下の道[ 高速を使わないでという意味]で小樽」
  煙を吐き出す律子。
赤川「はい了解」
車が動き出す。
赤川「あのタバコ」
律子「やっぱだめですよね」
赤川「長距離なんで大丈夫ですよ。外に向け 
て吸ってもらえば」
律子側の窓が少し開く。
律子「すいません」
× × ×
前髪をなびかせながらタバコを吸う律子。
  ラジオから流れる野球のニュース。
赤川「あしたは吉川様かい。連敗止めてくれ
よ」
運転席シートの背に入ってるチラシをみ
つめ携帯灰皿に吸殻を入れる律子。
律子「女性限定、女性運転手にチェンジサー
ビスカッコ無料やってるんですね」
赤川「使いますか。少し待つことになります
  けど」
律子「女性だから安心とか私は思わないんで
結構です」
赤川「はあ。そうですね」
  窓がゆっくりと閉まる。
  × × ×
律子のスマートフォンにメールが届く。
律子「送料着払いって。あいつ鬼か」
とスマートフォンにつばを飛ばしながら
叫ぶ。
赤川がラジオをFMに変える。
野狐禅・カモメが流れてる。
律子「なんでこれが流れるかな」
律子がにこやかな表情になる。

○(回送)海沿いの幹線道路・歩道(朝)
T・5年前
手を繋いで歩く律子と野積。
律子「もう何時間歩いた?」
野積「わからん。けどやっと海みえたな」
  朝日があがり始める。
律子「海風さぶっ。生きて帰れるかな」
野積「これ着ろよ」
  とジャンパーを律子に差し出す。
律子「あんがとう。ついでそれも」
と野積の耳についてるイヤフォンを指差 
す。
野積「しょうがねえな」
とイヤフォンのついてるIPODを律子
に渡す。
× × ×
手を繋いで歩く律子と野積。
律子「この曲いいね」
野積「どれ聞かしてみ」
  律子は片方のイヤフォン野積につける。
律子「青を塗って白を塗って」
野積「一息ついてから最後に僕の気持ちを塗 
った」
と口ずさむ二人。

○タクシー・車内(夜)
  ラジオから流れる野狐禅・カモメ。
ラジオの声「空の絵を描いていたつもりが海
みたいになってしまってひらきなおって
カモメを描いた」
律子の頬を伝う涙。
赤川が運転しながら左手に持つティッシ
ュを防護盤の隙間から律子に差し出す。
律子「ありがとうございます」
ティッシュを受け取る律子。
赤川「もう六月って言うのに夜は冷えるよね」
鼻をすすりながら涙をティッシュで拭く
律子。
律子「すいません。とめてください」
赤川「えっ。まだ銭函だよ」
律子「いいんです。とめて」
車が減速してとまる。
赤川「お金ないならコンビに寄るよ」
律子「いいんです。開けてください」
  つり銭受けに代金を置く律子。
赤川「じゃあ、気をつけるんだよ」
ドアが開く。
律子がタクシーから出る。

○海沿いの幹線道路・歩道(夜)
海見ながら歩く律子。
律子「札樽間歩くなんてなんであんあバカし
たんだろ。若さってこえー」 
ポツポツとアスファルトに雨が落ちる。
律子「まじかよ。まっいか、こんぐらい」
× × ×
本降りの雨。
大型トラックがライトで律子を照らし、 
水をかけて通り過ぎる。
律子「ふざけんな。誰の仕業だ。かまってち
ゃんばっか聞いて書いてるあのバカヤロ
ウか」
と上を向いて叫ぶ。
× × ×
近づいてくるタクシーがライトで律子を
照らす。
振り向く律子。
律子「もう車くんなよ。あっ、蟹サンタクシ
  ー」
減速して止まるタクシー。
運転席の窓が開く。
赤川「早く乗れ」
ドアが開く
車に乗り込む律子。
ドアが閉まる。

○タクシー・車内
ラジオからファンキーモンキーベイビー 
ズ ちっぽけな勇気が流れる。
赤川「ほれ」
ジャンパーとタオルを防護盤の隙間から
差し出す。
受け取る律子。
動き出す車。
律子「私結婚するつもりだったのに寄生虫な
  んだってさ」
涙と雨のしずくがまざりがら下に落ちて
いく。
赤川「この歌最悪だよな。ねそうだろ、ねそ 
うだろって俺ら殺す気か。この催眠歌手」
と荒くラジオチューナーのボタンを押す。
天気情報が流れる。
上着を脱ぎタオルで水分をふき取る律子。
赤川「今日は晴れるでしょう。晴れてないで
しょうだよ。このヤロウ」
ジャンパーを着て横たわり、目を瞑る律
子。
律子のM「眠ったら小樽駅に捨てていってい
  いよ」
                 
                終わり

 
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