DQ4TS 導く光の物語(旧題:混沌に導かれし者たち) 五章
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
五章 導く光の物語
5-48異なる想い、重なる願い
ロザリーヒルの塔の最上階、倒れた戦士が守っていた扉を抜けて、部屋へと足を踏み入れる。
部屋の中にいたスライムが一行に気付き、声を上げる。
「あっ!人間だ!……ロザリーちゃんをいじめたら、承知しないよっ!」
奥にいる女性を庇うように、一行の前に果敢に立ちはだかるスライム。
「あ?なんだ、こいつ。燃やすか?」
「やめろよ。話が通じそうな相手を、いきなり攻撃しないでくれよ」
「聞いただろ、だから」
「スライムではな……。まさか強いということは、無いだろうな……」
「強ければ戦いたいようなことを言わないでください」
緊張感無く言い合う男性陣をおいて、少女が口を開く。
「わたしたち。いじめたり、しない。ロザリーさんに、お話を聞きにきたの」
「いじめにきたのじゃないの?」
スライムは頷く少女の瞳を暫し見つめ、安心したように答える。
「……うん!じゃあ、いいことを教えてあげる!エンドールの南西の岬の王家の墓には、変化の杖があるらしいよ!」
「王家の、墓?……変化の、杖?」
「うん!」
「なあに、それ?」
「うーん?なんだろう?」
少女に問われ、首を傾げるかのように身体を揺らすスライム。
スライムに代わるように、ブライが答える。
「王家の墓は、我がサントハイム王家の王族が代々眠る地じゃの。変化の杖とは、使用することで一定時間、姿を変化させる魔法の杖じゃな」
「王家の墓に、そのようなものがあったのですね。モシャスの魔法と同じようなものでしょうか」
同じくサントハイムに仕えるクリフトがさらに問いかけ、またブライが答える。
「うむ。極めれば能力までも映し取れるモシャスの魔法とは違い、変えられるのはあくまで姿のみじゃがの。弱い生き物の姿となるのであれば能力は変わらぬほうが良かろうし、使用者本人だけでなく、仲間全体にその効果を及ぼせるでな。全く同じとはいかぬが、杖ならではの利点もあるの」
「まあまあ。マグマの杖といい、サントハイムではいろいろと珍しいものをお持ちなんですのねえ。さすが、魔法王国ですわねえ。」
「モシャス……」
ブライの解説を聞いた少女が呟き、スライムが明るく口を開く。
「そうなんだ!おばあちゃん、物知りだね!それならその杖を使えば、怪物のお城にも入り込めるね!」
「怪物の、お城?」
「うん!」
「なあに、それ?」
「ピサロさまたちの、お城だよ!場所はわからないんだ、ごめんね」
「そうなの。魔物の、お城ね。本当に、あるのね」
「……あの!」
スライムの後方で黙って話を聞いていた、薔薇色の髪と瞳、白い肌に尖った耳を持つ女性が、もう待ちかねるとでも言うように口を挟む。
「私は、ロザリーと申します。みなさん私の話を聞きに、ここまで来てくださったとか。どうか、どうかお願いです!私の話を、お訊きください!」
切羽詰まった様子の女性、ロザリーを、トルネコが優しく宥める。
「あら、あら。もちろんよ。そのために、ここまで来たんですから。話はちゃんとお聞きしますから、どうぞ落ち着いて。」
「やはり、イムルの宿で夢に現れたのは、貴女でしたか。人間を滅ぼそうとするあの男を、止めて欲しいとか」
トルネコに続いて口を開いたライアンの言葉に、ロザリーがはっとする。
「ああ……!私の想いが、届いていたのですね……!……はい、仰る通り。世界が魔物たちによって滅ぼされようとしています」
ロザリーは気を鎮めるように一旦言葉を切って俯き、再び顔を上げ改めて話し始める。
「……魔物たちを操る者の名は、ピサロ。今はデスピサロと名乗り、進化の秘法で更に恐ろしい存在になろうとしています」
静かに言葉を続けていたロザリーが、声を震わせる。
「……お願いです。ピサロ様の、いえ、デスピサロの野望を、打ち砕いてください!私はあの方に、これ以上の罪を重ねさせたくありません!例えそれが、あのひとの命を奪うことになろうとも……」
瞳を潤ませながら言い終えたロザリーに、少女が静かに問う。
「……あなたは。あのひとの、なに?」
少女の問いかけに、虚を突かれたように一瞬戸惑い、ロザリーが答える。
「……なんでしょうか。……大切に、して頂いて。守って、頂きました。私にとってもあの方は……大切な方、です」
「……そう。あのひとにも、いたのね。大切な、ひと。……なのに、殺したのね」
静かに呟かれた少女の言葉にロザリーがびくっと身を震わせ、また話し出す。
「……私の、せいです。ルビーの涙を狙った人間たちが、私に危害を加えるのに、あの方はとてもお怒りになって。魔物の王となった立場も、関係があったかもしれませんが。世界を、人間を滅ぼすなどという、恐ろしい野望を抱かせてしまいました……」
俯いて聞いていた少女が、また静かに呟く。
「……あなたの、ためかもしれないけど。決めたのも、したのも、あのひとだから。……あなたの、せいじゃない」
少女が顔を上げ、ロザリーを見つめて問いかける。
「……あなたは、いいの?私たちが、あのひとを殺してしまっても。大切なひとが死んでしまうのは……すごく、悲しいのに」
例え、止められたとしても。
大切なひとだから、殺さないでくれと言われても。
自分が抱いた憎しみは無くならないし、殺そうとするのを止めることもできないけれど。
自分がそう思うことと、彼女がどう思うかは別のことだから。
だから少女は問いかけ、彼女は答える。
「……はい。……本当は、もちろん、死なせたくはありません。本当はもっと前に、罪を犯す前に、私が止めたかった。でも私の言葉では、もうあの方を止めることはできないのです。苛められては守られるばかりだった私には、力づくで止めることもできないのです。だから、その力を持った誰かに。世界を守りたいと願う誰かに、あの方を止めて欲しいのです。……きっともう、生きている限り、あの方が止まることは無いから。犯した罪が消えることも無いから、それが必要なことならば。あのひとの命を奪ってでも、どうか……あのひとを、止めてください……」
ロザリーは悲しげに微笑み、その瞳から涙が零れる。
少女はその微笑みを見つめながら無意識に手を差し出し、涙を掌で受け止める。
紅く輝く涙は少女の手の中で雫形の宝石を形取り、そして音も無く崩れ去った。
その様子を見届け、ロザリーの微笑みに視線を戻し、呟く。
「シンシア……」
「……え?」
「……ロザリーさん。……シンシアを、知ってる?あなたに……少し、似てるかも」
「……いいえ。……もしかしたら、知っているかもしれませんが。エルフは元々、個人の名を持ちません。私のこの名も、あの方に付けていただいたもの。そのシンシアさんが私と同じエルフだとして、元々その名を持っていたわけでは無いでしょう」
「そう……」
また俯いた少女に眉を下げ、少し考えたのちにロザリーがまた口を開く。
「……人の足では踏み入れぬ地に、エルフの隠れ里があります。逸れて迷い、道を見失った私には、もう戻ることはできませんが。シンシアさんがエルフならば私と同じく、その隠れ里から来られたのかもしれませんね」
「そう、なのね。……ありがとう」
顔を上げて礼を言う少女に、ロザリーが優しく微笑む。
「いいえ。話を聞いて頂き、ありがとうございました。申し上げた通り、私の覚悟はできていますから。みなさんはみなさんの思う通り、成すべきことをなさってください」
「うん。……ごめんなさい」
「いいえ。ありがとうございます」
わかっていても、失えばきっと悲しいから。
あのひとの守りを失えば、このひともどうなるかわからないから。
それでも倒さないわけにはいかないから、少女は謝る。
それが少女の望みでも、辛いことをさせてしまうには違いないから。
望みを叶えに行く少女に謝るのは違うから、自分には出来ないことを成しに向かう少女に、ロザリーは礼を言う。
そして少女は背を向けて去り、ロザリーはその背中を見送って。
運命に翻弄されるふたりの女性の歩む道は、暫しの邂逅を終えてここで永遠に分かたれる。
違う想いを抱き、同じ願いを叶えるために、祈り続けるひとりと、戦い続けるもうひとりに。
塔を出た一行は、村の広場で再び話し合う。
沈んだ空気を変えるように、トルネコが明るく口を開く。
「……さあ!またスライムくんから、情報をもらえちゃったわね!次は、王家の墓ということになるかしらね!」
「そうですね。魔物の城の場所ならば、リバーサイドの村があるあの島ということになるでしょうが。この姿のままでは潜入は難しいでしょうからね。アリーナ、いいですか?」
「どうせ行くなら、戦いたいところだが。そうはいかないなら、仕方が無いな」
「そうではなくて。……ブライさん」
「うむ。墓に納められた宝物を持ち出すなど、本来ならば考えられぬことじゃが。事情が事情であるゆえ、止むを得まいて。王子、宜しいですな?」
「そういう話か。勿論、構わない」
「なら、まずはエンドールに行きゃいいか。早速、飛ぶか」
「待ってちょうだい!せっかくだから、人間のおじいさんがやっているというお店を、覗いて行きましょう!こんな場所だし、珍しいものもあるかもしれないわ!」
トルネコの提案で村の店を訪ね、品物を眺める。
「武器屋に防具屋に道具屋に、教会までか。ひとりで全部やってんのかよ。どんだけ元気なじいさんだよ」
「神に仕える神父様の身でありながら、商人のように鑑定もこなされるのですね。そのようなことが可能だとは思いませんでした」
「神父様に商人か……。なんだか、対極のような気がするな……」
「うーん。防具は、特に必要なものは無いわね。武器は、迷うところねえ。キラーピアスにまどろみの剣、ドラゴンキラーねえ。」
武器屋の商品を前にして、トルネコが考え込む。
アリーナも覗き込み、声をかける。
「キラーピアスというと、それも以前言っていたものだな。素早く取り回せて手数が増やせるという話だったか」
「そうなんですのよ。場合によっては、炎の爪よりも使えるのじゃないかと思ってねえ。ナイフが得意なマーニャさんにも使えそうだし、買っておこうかしら。」
「別に、威力があるとか特殊効果があるってわけじゃねえんだろ?アリーナはともかく、オレになら要らねえんじゃねえか?」
「そうねえ。だけど、せっかくだから。やっぱりアリーナさんの持ち換え用に、ひとつ買っておきましょう。あとは、ライアンさんに買うかどうかよね。はぐれメタルの剣があるけれど、他に強い武器があれば、他の人に回せるわけだし。どうしようかしら。」
「私は、どちらでも構いませんが。予算の都合と戦力の底上げの兼ね合いを考えると、難しいところですな」
「そうなのよねえ。ここで買ったとして今、別の誰かに回すなら、あたしになるかしら。……やっぱり、いらないかしらね。来ようと思えばルーラで来られるのだし、今日のところはやめておきましょう。」
キラーピアスを購入した後、一行はルーラでエンドールに移動する。
エンドールに家があるトルネコに、マーニャが声をかける。
「姐御は家に帰るんだろ?」
「そうねえ。船旅が続いたし、今日はエンドールで休むのよね?それなら、そうしようかしら。」
「うん。ネネさんと、ポポロが待ってるから。それがいいと思う」
「そうね。……ユウちゃんも、来ない?全員をお泊めするのは、難しいけれど。ユウちゃんひとりくらいなら、なんとでもなるわ!」
暫し考えて少女に誘いをかけたトルネコに、ブライが声を荒げる。
「トルネコ殿!抜け駆けは、許しませぬぞ!」
「あらやだ、抜け駆けだなんて。あたしはただちょっと、ユウちゃんに温かい家庭の空気の中で、ゆっくりしてもらおうとね?なにしろユウちゃんは、まだ子供なんですし?それでうちを気に入ってもらえたとしても、それはそれじゃありませんこと?」
「むむう……!ならば、わしも」
言い合いを始めたブライとトルネコの間に、少女が割って入る。
「あの。わたしは、宿に泊まるから。トルネコはネネさんたちと、ゆっくりしてきて」
「そうじゃの!ユウちゃんはわしらと、宿でゆっくり休むとするかの!」
「ブライ様……トルネコさん……。大人げ無いですわ……」
ブライが我が意を得たりというように得意気に宣言し、クリフトが呆れたように呟く。
マーニャはマーニャで、張り切って宣言する。
「おし!んじゃ、オレはカジノに行ってくらあ」
「兄さん……ほどほどにしてくれよ」
「わかってるよ。旅費の管理は姐御がしてんだからよ、やり過ぎようもねえだろ」
「僕の財布から抜き取るのもやめてくれよ」
「わかってるよ」
「絶対にわかってない。わかってた例がない」
「わかってるって」
渋面で兄を諌めるミネアと軽く答えるマーニャを見て、少女がマーニャを真っ直ぐに見つめて話す。
「マーニャ。家族でも、とったらだめ。どろぼうさんになっちゃう」
責めるでも無く、ひたすら真剣な表情で語る少女の様子に、マーニャがたじろいで微妙に目を逸らしながら、決まり悪げに答える。
「……わかったよ。やらねえから。大丈夫だ」
「そう。よかった」
少女は安心して微笑み、アリーナが思い出したように呟く。
「今は、コロシアムでは結婚式をしているのか。また武術大会でもあれば良かったんだが。目出度いことではあるし、仕方が無いな」
「武術大会ですか。ユウ殿を探して訪れたあの場でお見かけしたアリーナ殿とも、こうして旅をすることになるとは。運命とはわからぬものです」
「あら、そう言えば。アリーナさんは、お姫さまともお知り合いなのよね?お祝いのご挨拶には、行かれましたの?」
「トルネコさん……!それは……!」
気楽に話を振ったトルネコにクリフトが焦って口を開くが、気にした様子も無くアリーナが答える。
「いや。武術大会の後、エンドールに来るのは初めてだからな。我が国の状況を考えれば、正式に挨拶に行くわけにもいかない。武術大会の優勝者が姫と結婚するという話もあったくらいだし、非公式で気軽に来られても、あちらも気まずいだろう。国のことが片付いて、機会があればというところだな」
「そ……そうですよね!今は、お祝いを申し上げに伺うような状況ではありませんものね!」
ほっとして相づちを打つクリフトと、さらに答えるトルネコ。
「あら、そうですの。なら、あたしもやめておこうかしら。どうも招待状をいただいてたらしいんですけれど、気軽にちょっとお会いして、すぐ戻ってくるようなわけにはいきませんものね。あちらもあたしたちも忙しいんですから、結婚式も旅も終わってから、落ち着いた頃にゆっくり伺うほうが、かえっていいかもしれませんわね。」
話を終えてトルネコは家に帰り、一行は宿に部屋を取り、思い思いに時間をすごして、その日は休む。
翌朝、早めに準備を済ませて家を出たトルネコは、宿の食堂で朝食を摂る仲間たちと落ち合い、嬉々として口を開く。
「みなさん!食べながらでいいから、ちょっと聞いてちょうだいな!どうもこのエンドールにね、選ばれたお客さまだけを相手にするお店が、あるらしいのよ!そのお客さまの選び方が、鍵で閉ざされた扉を開ける程度の実力のある、冒険者だということでね!魔法の鍵も最後の鍵も持ってるあたしたちなら、完全に資格があるわね!王家の墓に向かう前に、寄っておきたいのだけれど。いいかしら?」
まだ眠そうなマーニャが、気だるげに答える。
「いいんじゃねえか。買うもんがあるなら、どっか行く前に買っといたほうが。買う金があるならよ」
ミネアが、口を挟む。
「兄さんとは違うから。お金なら、ちゃんとあるよ。トルネコさんが管理しててくれててよかったよ、本当に」
「お前の金だって取ってねえだろ」
「それと、ユウがいてくれてよかった」
軽口を叩き合う兄弟を後目に、ライアンがトルネコに問いかける。
「装備は、かなり整ってきたところですが。何か物珍しい品があるのですか?」
「よく聞いてくれたわ!そうなのよ!この前手に入れた名剣、はぐれメタルの剣と合わせて語られる防具、はぐれメタルの鎧が!そのお店では、普通に売られているらしいのよ!」
ページ上へ戻る