インフィニット・ア・ライブ
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第十二・五話「贋作 ~fake~」
複数のモニターだけが明かりとなっている、隅にはゴチャゴチャと用途不明の機械が転がる薄暗い部屋の中、キーボードを操作している女性がいた。
「うーん、こいつは何なんだろうね。せっくんのデビューを邪魔するなんて、激おこプンプン丸だよ!」
モニターに映る白式と漆黒の牙狼の戦闘を解析しながら、女性は食い入るように見つめる。
「さてさて、どうしてくれようか?」
玩具を見つけた子供のように、純粋で無邪気な笑みを浮かべる女性。
だが次の瞬間、モニターに『WANNING!!』と表示が出ると、表情を険しいものに一変させる。
「な!?侵入者!?」
〈ジャイアント!ナウ〉
女性が驚愕したのと同じタイミングで、部屋の壁から巨大な手が生えて破壊される。
「よっこらせっと」
破壊された壁の穴から、二人の人影が入って来る。
「ハッキングの跡を辿って来てみたが、ハズレでしたか」
「ご機嫌よう、偽物ほんものさん」
入ってきたのは、琥珀色の仮面を被り、白いローブを羽織った指輪をはめた魔法使いのような格好のクロエと、白い軍服のような服装に紅い宝石のついた金色の杖を持つ月兎であった。
「この束さんに、何の用かな?」
「誤解したままの人形に、用はありませんよ」
「訳分かんないこと言ってるんじゃないよ!!タダで帰れると思うなよ」
女性の合図で、二体の機械のゴーレムのようなISが左右から襲い掛かる。
「くーちゃん」
「御意」
〈チェイン!ナウ〉
ゴーレムもどきのISは、突如現れた白い鎖が締め上げたため、動きが止まる。
「私のビッグバンは、もう止められませんよ」
〈エクスプローション!ナウ〉
クロエが別の指輪にはめ変えてベルトにかざすと、ゴーレムもどきのISは所々から火花を散らすと、床に倒れ伏した。
「そ、そんな!?」
「さてさて、思い出してもらうよ?レイハ」
〈All right〉
ショックで動きが止まっている女性の頭に、月兎は紅い宝石の部分がチカチカ光って返事をする杖を乗せた。
「な、何を!?ッ!!」
杖を乗せた瞬間、女性は頭の中に幾つものヴィジョンが駆け巡り、理解した。
それと同時に、女性の体が急激に年を取ったかのように衰え始める。
「ああ、そうか。私は……」
「そう。本物に仕立てられた偽物さ。末期の言葉ぐらいなら、聞くよ?」
「じゃあ、奴等をブッ飛ばして欲しいな。それから……」
「それから?」
「最後ぐらいは、派手に頼むよ。本物にせものさん」
「いいよ。レイハ」
〈チャージ完了。いつでも撃てます〉
女性の要望を受け、月兎の持つ杖の先端に桃色の光が収束される。
「ディバインバスター」
「ありが、とう」
轟、と閃光が煌めき、女性の体を呑み込んで天井を突き破って空高く昇る。
「束様……」
「…ん。大丈夫大丈夫。初めてじゃないんだからさ。ほら、笑おう?にぱー☆」
自分で頬を伸ばして笑顔を作る月兎だが、クロエの目には空元気に見えてしまう。
「そうですか。それで、彼女を造ったのはやはり……」
「うん。例の教団だよ。さっさと潰しに行こうか。そんでもってあの性悪、今はナイア神父だっけ?あいつをぶっ飛ばそう」
「ええ。奇跡の魔女『ベルンカステル』を、侮ったことを後悔させなければいけませんね」
「ヤメテ!!その名前は黒歴史だから!!」
「格好いいじゃないですか。千年の刻を生き、幾つもの世界を渡った魔女。中二ですね、分かります」
「いっくんが教えたのか!?ナゼェ、ルラギッタンディスカ!?」
いつもの調子に戻った月兎の様子に、密かに安堵しながらクロエは、右手の指輪をはめ変えてベルトにかざす。
〈テレポート!ナウ〉
陽気に会話しながら、二人の姿は施設の中から消えた。
「ちょ!あれ?くーちゃあーん!私、ここにいるよー!クロエさーん!!」
訂正。姿が消したのは、クロエだけであった。
数時間後。衛星から、無人島で謎の爆発が起きた異常を察知した某陽気な大国の軍が駆け付けると、その瓦礫の中から頭がアフロになった一人の女性が救助されたことは、蛇足であろう。
救助された女性は、隊員に発見された時、こう呟いたそうだ。
「やられたらやり返す。倍返しだ!」
ドヤ顔であったことも、追記しておく。
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