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久遠の神話

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第五十四話 富の為にその九

「今から案内しよう」
「そしてそこでだな」
「君は死ぬ」
 倒されそしてだというのだ。
「そこが君の墓標jになる」
「あんたじゃないんだな」
「私は勝つからね」
 自信も見せる、笑みとして。
「それはないよ」
「簡単な答えだな。しかしその答えはあんただけのものだ」
「君の答えだけじゃない」
「そしてこの場合俺の方が正しい」
 つまり生き残るのは彼だけだというのだ。
「倒れるのはあんただ」
「言うものだね。日本人は謙虚だというけれど」
「謙虚なのは俺も同じだ」
「そうは見えないけれどね」
「謙虚だが嘘は言わない」 
 笑う王に毅然として返す。
「今もそうだ」
「ではその真実を見せてもらおうかな」
「案内させてもらおう、その地下室にな」
「実は今私は休憩中なんだ」
 見れば彼の服は白いコックのものだ、ただし靴は白のビニールの長靴ではなく普通の靴をはいている。厨房の外なのでそれだった。
「その間に終わらせるよ」
「短期戦さ」
「戦いは料理と違ってね」
 口の両端を吊り上げた笑みになった、それまでの笑みとは違っていた。
「時間をかけてやるものじゃない」
「一瞬だな」
「料理は芸術であり医術でもあり仕事でもある」
 中国の医食同源の思想も出る。
「それならね」
「時間をかけるか」
「かけるものはね」
「面白いな、俺も時間をかけて作った料理は好きだ」
「じゃあそうした中華料理も」
「好きだ」
 にこりとせずに王に返す。
「豚バラ煮込みもな」
「あれが好きなんだね」
「他にも好きな料理は多いがな」
「あれはね。薬味と一緒に皮付きの豚バラを煮るんだよ」
 王は楽しげ首を右に傾けて広瀬に話しだした。
「毛は事前に炙ってなくしてそれから煮るんだよ」
「何時間もかけてだな」
「四時間ね」 
 それだけだというのだ。
「それ位かけてじっくりと煮るんだよ」
「時間がかかるな」
「だから開店前から煮ておくんだ」
「誰も注文してこない場合もあるな」
「その場合は店の中で食べるからね」
 無駄はないというのだ。
「まあ。お店をしていると色々と難しいことは実際にあるよ」
「注文の都合があるからな」
「日本で馬鹿みたいに続いている料理漫画、あれは駄目だね」
「ああ、あの漫画か」
「新聞社員やその父親が偉そうに威張り散らしているけれどね」
 まさにそうした漫画だ、この漫画での登場人物は不自然なまでに短気な野蛮人しか出ない、原作者の品性や人格が出ているのだろうか。
「あれは似非だよ」
「似非の料理漫画か」
「自称美食漫画とも言っていいね」
 どっちにしても偽ものでしかないというのだ。
「お店のことが何もわかってないよ」
「ついでに言うと文明もだな」
「.そう、けれどそれでも手間をかけた料理はいいね」
「美味い」
 今度は一言で言う広瀬だった。
「実にな」
「わかってるね、君は通みたいだね」
「通かどうかは知らないが食べることは好きだ」
 美味いものをだというのだ。 
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