問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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短編 一輝とお姫様 ⑥
二人はその後、一輝の家に帰り食事を食べ、また同じ布団で眠りに付いた。
一輝は帰りに布団をもう一組買おうとしたのだが、マヤがもったいないと拒否し、こうなった。
そして、次の日の夜、パーティが始まる一時間前。
「さて、最後に確認しとくけど、マヤはパーティが始まった十分後に会場に入ってスピーチを始めるんだよね?」
「うん、その予定だったはず。もしかしたらスケジュールが変わってるかもだけど。」
「まあ、そうなったらその場で対処すればいいだろ。そのためにここにいるんだし。」
二人はホテルに忍び込み、簡単に確認を行っていた。
忍び込み方としては、水に乗って屋上に入り、ピッキングで屋上から中に入ると言うもの。
一輝のギフトで鍵を回したので、ピッキングでいいのかは微妙だが。
「さて、そろそろ人が入場し始めるころだし、マヤは予定通りに隠れててもらっても?」
「うん、タイミングは教えてね。」
マヤはそう言いながら、作戦で決めた位置に隠れる。
「さて、上手くいけばいいけど・・・たぶんあいつはな・・・」
一輝はまだ確証がないため、マヤにも話していないことがあるのだが、それがどう転ぶのかを心配していた。
=================
「それでは、マヤ様のスピーチに移りたいと思います。」
そのまま時間が過ぎ、パーティが始まってマヤのスピーチに移った。
そのままマヤ(偽物)が会場に入り、マイクの前に立つと、
ズガン!!
入り口のドアが蹴り飛ばされ、マヤ(偽物)の横を通っていった。
「すいませーん、お邪魔します。」
「そいつを捕らえろ!」
そして、ドアのなくなった入り口から一輝が入ると、すぐに周りを黒服に囲まれる。
「お前・・・あの時の陰陽師か?」
「だから、俺は卵だって。依頼があったから来たんだけど、通してもらえない?」
「おいお前ら!早くそいつを捕らえろ!」
一輝の言葉は無視され、黒服が一輝を捕らえようと迫る。
「はあ・・・邪魔。」
「な・・・」
一輝はそいつらに向かって腕を一振りし、風でそいつらを吹き飛ばす。
「さて・・・パーティに参加されている御偉い様方、無粋にも邪魔してしまい申し訳ありません。ですが、今しばらくご容赦願いたい。」
一輝はそう言って参加者を落ち着かせ、マヤ(偽物)を見る。
「なんでしょう?出来る限り手短に済ませていただけますか?」
「ああ。そこまで面倒な依頼は入ってないからな。もし協力してくれればすぐに終わる。」
「では、その内容を教えてください。出来る限り協力させていただきます。」
「そう?それは助かる。じゃあ、殺されてくれない?」
一輝が気軽にそう言うと、その場の空気が固まる。
そして、最初に動いたのは黒服のリーダー、ダムだった。
「キサマ!ふざけたことを抜かすな!姫様を殺害など、」
「いやいや、俺は一言もマヤを殺すとは言ってないぜ?ただ、そこにいるやつを殺すって言ったんだ。」
「こちらにいるのがマヤ様だろうが!」
「違うよ。なあ、偽物?」
一輝はマヤ(偽物)に話を振る。
「・・・何の事だか分かりかねますが、どうしてそのように?」
「まあ、お前が偽物だからだな。」
「証拠はあるのですか?」
「ああ。凄く分かりやすいのがな。なあ、マヤ?」
一輝はそう言いながら倉庫の扉を開ける。
「ええ、この私自身が、その証拠です。」
そして、倉庫の中からマヤが出てくる。
「マヤ様が二人・・・?」
「一体何が・・?」
参加者はその光景に驚いており、まともに行動できているのは一輝、マヤ、マヤ(偽物)、ダム。そして、護衛についている陰陽師の五人だけだ。
「そんなもの、キサマの式神だろう?」
「いや、そうじゃねえよ。それはお前が証明してくれるんじゃないか?護衛に付いた陰陽師さん?」
「・・・ああ。確かにそれは、式神ではないな。」
「ってことは、こっちのマヤが本物だって証言してくれるんだな?」
「そうするしかないだろう。にしても・・・一輝、俺はいつから面倒ごとに巻き込まれていたんだ?」
「最初から。将人が依頼を受けた時点で入れ替わってたよ。だから言っただろ?物事を少しぐらいは疑えって。」
「これからはそうしたほうがよさそうだな。」
二人は会話を交わし、一輝の言っていることの証明をする。
そして、この会話から分かるかもしれないがこの二人は知り合いだ。
「さて、これで分かってくれたかな?こっちが本物でそっちが偽物だって。」
「・・・では、私は一体なんだと?」
マヤが一輝にそう聞いてくる。
既にバレると諦めているためか、軽く妖気がもれており、ダムが距離を置いている。
「お前の正体は天邪鬼。人の感情を逆なでして遊ぶ鬼だろ?」
「はあ・・・そこまでばれてるなら仕方ないか。ああ、正解だよ。」
一輝に言い当てられ、本性を現していく。
体が黒くなっていき、形も鬼の形になる。
「さて、こいつは俺にやらせてくれないか?汚名返上したいんだが。」
「お前への依頼は護衛。で、それは開始した時点で失敗してるんだ。俺が受けた依頼だよ、これは。」
「はぁ・・・分かったよ。クソ、何とかして汚名返上しねえと・・・」
「礼儀正しくしてたらどうだ?」
「今はそんな気分じゃねえよ。」
ちなみに、将人は既に奥義を習得しており、陰陽師を名乗れる立場である。
「にしても、後で見に行ったらいなくなってたが、まさか連れて行かれてるとはな。おかげで演じ続けることになった。」
「お前のミスのおかげでな。油断して妖気をもらすからだ。」
「あっそ。でも、卵程度なら俺でもやれるぜ!」
そこで天邪鬼が包丁を持ち、一輝に襲い掛かる。
一輝はそれをよけ、距離を置く。
「逃げるだけかよ!」
「ここはパーティの会場だぞ?荒らすわけにはいかねえだろ!」
一輝はそう言いながら広くなっているところまで誘導する。
「さて、観客もいることだし、少しは頑張ってみるか。」
「は、卵ごときが何言ってんだ!」
天邪鬼はすぐそばのテーブルをつかみ、一輝に向かって投げる。
が、それとそれに乗っていたものは全て空中でとまり、別の位置に運ばれて並べなおされる。
「空気で支えるには重いんだぞ?出来る限り飛ばすんじゃねえよ。」
一輝はそう言いながらペットボトルを逆さにし、自分の周りに水を漂わせる。
「へえ、それがテメエの能力か?」
「まあ、そうなるかな。水だからって甘く見るなよ!」
一輝は水の槍を形成し、飛ばす。
天邪鬼はそれを避けるが、槍は方向転換をして天邪鬼を追い続ける。
「これは・・・ちょっとまずいか?」
「いや、チェックメイト。」
そして、天邪鬼の意識が完全に槍に移った瞬間、一輝は空気の刃で天邪鬼を斬る。
「な・・・」
「はいおしまい。」
一輝はそのまま水と空気で斬り刻み、バラバラにしたものを水で包んでその場を汚さない。
そして、光る小さな玉、魂が一輝の中に入ると、一輝は式神を出してその死体を封印する。
「おい、あの少年水で妖怪を・・・」
「ああ。式神すら使わずに、卵がここまでするとは・・・」
「まさか、噂になってる型破りの・・・?」
一輝の様子を見た観客はそんなことを言っている。
そして、一輝はその人たちのほうを向くと、
「ああ、正解。俺がその型破りだけど?」
さらっとそう伝える。
「それは、本当に・・・?」
「ああ。俺が日本の第三席、型破りこと寺西一輝だ。」
一輝からすれば、ここまで宣伝できる時もないので出来る限り知名度を上げていく。
そして、今言った第三席とは日本内のランキングのことだ。
霊獣を倒したことでこの席についている。
そして、国内ランキング10位までは式神の使用許可など、様々なことが許されており、その旨はライセンスに明記されているので店員は驚いていたのだ。
「じゃあ、彼が霊獣殺しの一人か?」
「まさかまだ卵だとは・・・」
「それに、まだ子供だぞ・・・」
ちなみに、このあたりの情報は一輝の年齢もありあまり公表されていない。
国のお偉いさんが調べれば突き止めることは出来るが、ただ偉いだけの人は知ることが出来る内容ではない情報となっている。まあ、この一件で一気に情報はバレたが。
「さて、これで妖怪は退治できましたが、まだやることが残ってるのでまだ時間をもらいますよ。」
一輝はそう言いながらダムのほうに近づいていく。
「さあ、これで依頼は終わったから次は個人的な用事に移ってもいいか?」
「・・・ああ、なんだ?報酬でも欲しいのか?」
「そうじゃねえよ。俺はアンタに用事があるんだ。」
「何のようだ?早く再開したいからな。さっさと済ませろ。」
「じゃあ単刀直入に、アンタを野良の妖怪と取引した罪で拘束する。大人しくしてもらおうか。」
一輝の言葉に一瞬マヤとダムが固まるが、すぐに取り直す。
「一輝、一体何を言ってるの?」
「マヤ様の言うとおり、何の事だかさっぱり分からないな。いつ俺がどの妖怪と取引したと?」
「マヤに聞いたが、お前は先に日本に来てたんだろ?その時にあの天邪鬼と取引したんだ。でないと、このホテルに天邪鬼程度が入り込めるわけがない。」
ここはお偉いさん用のホテル。そういったものに対するセキュリティがないわけがない。
「なるほど、その時間を使えば可能だろうな。だが証拠はあるのか?」
「まあ、あるな。取引の様子の録音が。」
一輝はICレコーダーを取り出す。
それを見た黒服の顔が険しくなり、
「・・・いつ録った?」
そう聞いてくる。
マヤは一輝の顔が真剣なものだったため、口をつぐんでいる。
「今朝、ちょっと過去に戻ってきた。寒戸に頼めば過去にもいけるからな。」
「は、そんな妖怪を放置しているわけがないだろ?」
「いや、俺がこの倉庫の中に匿ってるからな。俺の立場ならそれも許可されてる。」
「・・・・・・」
「じゃあ、おとなしく捕まってくれるか?」
一輝はそう聞きながら、ICレコーダーを再生する。
そこからは、天邪鬼がマヤと入れ替わり、本物のマヤはダムが好きにしていいという取引の内容が流れる。
「は・・・ははは・・・そうさ。俺があの妖怪に攫ってもらった。」
「認めるんだな?」
「そこまでの証拠を出されたらな。」
「なぜ、こんなことをした?」
「・・・マヤ様を俺のものにするためだ。」
そんなことを薄笑いを浮かべながら言うダムに、マヤが怯えて距離をとる。
「俺が護衛に付いたのは!全てマヤ様を俺のものにするためだ!この美貌は、俺が求める究極のもの!だから誰かに汚される前に俺が」
「ああ、キモい黙れ。」
一輝はダムの言葉を遮り、殴り飛ばした。
「マヤが怯えまくってるし、もう黙ってろ。いっそ殺してしまいたいが・・・いいか?」
「駄目だよ!」
「これ、ストーカーと言えると思うんだけど?」
「うん、かなり怖かったけど・・・それでも殺すのは・・・」
「優しいねえ。ま、それなら拘束するだけでいいか。」
一輝は手と足に手錠をかけ、さらに縄でぐるぐる巻きにし、式神二体を監視につけて倉庫に放り込む。
「じゃ、後は任せた。」
「いや、一輝も参加していけば?一人参加者減ったし、ちょうどいいよ。」
「えー・・・この空気の中参加するの?」
「この空気を作ったのは一輝でしょ?さっきの水とかで盛り上げてよ。」
「はぁ・・・分かりましたよ。やらせていただきます。」
一輝はその後、投げやり気味に水や火を操り、その場を盛り上げた。
=================
次の日、空港にて。
「じゃあ、私は帰るね。」
「ああ、またな。あと、これ渡しとく。」
一輝はポケットの中から名刺のような物を取り出す。
「何、これ?」
「俺のプライベートのほうの連絡先。何かあったらメールしてよ。助けに行くから。」
「どうやってくるつもり?外国だよ?」
「俺は、無断での入国を許されてるよ。」
一輝は国でのトップランクなのだから、もちろん世界的にもトップランクだ。
そして、もうこれでもか、と言うほどにいろいろなことを許されている。
いざという時に対処が出来るように、と言う名目のもとだが、乱用している人物はかなり多い。
一輝はまだしていないほうだが。
「そうだったね・・・じゃあ、お願いしてもいいの?」
「ああ、友達を助けるのは当然だよ。」
「友達・・・ね。まあ、家族になる方法は他にもあるか。」
マヤはそうつぶやくが、もちろん一輝には聞こえていない。
「マヤ様、そろそろお時間が・・・」
「分かった、すぐに行く!」
マヤがそう返すのを見て、一輝は微笑を浮かべる。
「頑張ってるな。」
「うん、国に帰ったらまずは家族相手にこれで話してみる。」
「そうしとけ。後から後悔するのは、結構つらいからな。」
「一輝も、妹さんに会ったら素でいきなさいよ?」
「まあ、暴走しないといいんだがな。」
「溜まった家族愛なら、仕方ないでしょ。あ、そうだ。ひとつ忘れてた。」
「何を忘れてたんだ?」
「えっと、ちょっと目をつむっててくれる?」
「別にいいけど・・・」
一輝が目を瞑ると、一輝の頬にマヤがキスをする。
「え・・・は!?」
「お、初めて一輝を動揺させた!なるほど、直接行けばうまくいったのか。」
「いや、お前・・・何してんだ・・・?」
「今回のお礼、だよ。ありがたく受け取りなさい。」
マヤはそう言い残すと、飛行機に乗っていった。
そして、一輝はしばらくその場でボーッとし、どうにか意識を取り戻したところで、
「あ・・・変態ストーカーのこと忘れてた。」
あわてて刑務所に行き、ダムを警察に引き渡し、後のことを全て任せた。
後日のニュースでは、ダムは永久拘束になったと流れていた。
一般人が妖怪と取引、契約をすることは禁止されており、この永久拘束とは無期懲役とは違い、本当に死ぬまで出れず、こき使われ続けるというものだが・・・まあ変態ストーカーにはちょうどいい罰だろう。
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