問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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短編 一輝とお姫様 ②
「私としては、あのお方に依頼したいのですが。」
一輝の事務所を出てから、マヤは車の中で黒服のリーダーにそう言った。
「駄目です。あのような無礼者。マヤ様の護衛など、任せるわけには行きませんから。」
「ですが、彼並の実力者はそういません。それに、私は歳の離れた人に頼むのは反対です。」
「分かっております。ですが、あの無礼者の実力が桁違いなだけで護衛を任せられるだけの実力者がいないわけではありませんから。」
「・・・分かりました。では、そちらには貴方達だけで行って下さい。私はホテルに戻り、休ませてもらいます。」
「会わなくてもよろしいのですか?」
「はい。貴方がその基準で判断するのなら、どのような方が来るのかは予想が付きますし、パーティーで話すことも決めなければなりませんから。」
「明後日ですから、それは考えなければなりませんね。」
黒服は滞在予定のホテルへと向かうよう、部下に命令した。
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「ふう、依頼はなしか。なら、別口で一件仕事とするか。」
一輝はマヤたちが出て行ってから、パソコンを使って何か討伐依頼が出ていないかの確認をする。
結果、特に面白いものはない。
「ここまでないか・・・雑魚は新人の訓練用だろうから俺がやってもだし・・・」
一輝がどうしようか悩んでいると、電話が入る。
「はいもしもし。寺西一輝です。」
『すいません。川に河童の群れが出て、子供が遊べず、釣りも出来ずで困っているのですが・・・』
「分かりました。川の場所と、貴方の名前を教えてください。」
『寺林茂男、といいます。川の場所は――――』
「はい、では、今すぐ向かわせてもらいます。」
一輝は電話を切り、すぐに準備をして家を出た。
一輝はそのまま、河童と、大量発生の原因を退治しに向かった。
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「マヤ様、到着しました。」
「ありがとうございます。」
マヤが車から降りると、リーダー以外の黒服が全員降りる。
「・・・では、私は部屋にいますので。」
「はい。私も護衛を任せられる人を連れて戻ります。」
黒服のリーダーを乗せた車はその場を去っていく。
そして、マヤも部屋に戻り、黒服たちはそれぞれ、ホテル内の所定の位置に付く。
「はあ・・・あぜこんなことになったのでしょう。」
マヤは部屋で一人になると、本音を言い出す。
「それに、私は気を使いたくないから同年代がいいといったのに・・・これでは気を使うことになりそうです。」
マヤはそう言いながら、スピーチなどの内容を考える。
真面目な子なので任せられたことを投げ出すことはできないのだ。
――――1時間後――――
「こんなものですかね。まだ陰陽師の方も来ないようですし・・・お手洗いに行きがてら、少し散歩でもしましょうか。」
と言っても、ホテルから出ることは出来ないのですが、と言いながら、マヤは部屋を出て、まずトイレに向かう。
マヤの本音ではホテルの外に出て遊びたいのだが、黒服をつれて回るのはいやだろうし、どうにか交渉の末、陰陽師の護衛となら、と許可を得たがそれもまだ来ていない。
そして、用を足してトイレから出ると、マヤは「ここを開けてくださーい・・・」と言う小さな声を聞く。
「え?今のはどこから・・・」
「こっちです・・・この物入れに・・・」
マヤが左を見ると、そこには掃除道具でも入れるようなロッカーがあった。
「でも・・・ここには人がいないはずじゃ・・・」
「出れなくなってしまったんです・・・少しでいいので、ここを・・・」
「・・・分かりました。でも、貴方が誰なのか分からない以上、付いてきてもらうことになりますよ?」
マヤは、その弱々しい声に負け、ロッカーを開けてしまう。
「はい、これでいい」
「やっぱり、お姫様はだましやすいな。」
急に声が強気になり、マヤはロッカーを閉めようとするが、黒い手に引きずり込まれてしまった。
その手の主の、妖怪としての空間に。
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「これで最後!」
一輝は場所が川と言うこともあり、河童相手に無双し、最後の一匹を退治した。
もう既に大量発生の原因は殴り、斬り、潰し、封印したのでこれ以上は出てこないだろう。
「さて・・・茂男さん!終わったー!」
一輝は川原で見ていた依頼者、寺林茂男にそう返す。
「本当に、ありがとうございます。」
「これも仕事だからね。むしろ、被害が出る前に依頼してくれた、茂男さんのほうが凄いよ。」
「当たり前のことですよ。中にはある程度被害が出るまで放置する人もいますが、お金で被害者を出さずに済むのなら、それに越したことはないんです。」
一輝はこの人に会い、少し話をしてすばらしい人だと分かったからさん付けで呼んでいる。
「で、依頼量はいくらでしょうか?」
「ああ、ちょっと待って。」
一輝は倉庫の中から領収書などが入っているかばんを取り出す。
一輝がこんなことが出来るということは、会ってすぐに倉庫からものを取り出したので、茂雄も驚かない。
「では、遠出分はサービスして、千円で。」
「・・・それだけでいいのかい?」
普通なら、河童一匹でとるレベルの代金なので、茂男は驚いている。
「ああ。まあ、一つ条件がるけど。」
「なるほど・・・なんでしょう?」
「これからも、俺に依頼してくれる、って条件。こんだけ有名でも、俺はまだ卵だからな。何があるか分からないし、お得意様が出来るとかなり安心なんだよ。
それに、あの量の河童のおかげで別口でもお金が入るし。」
「そんなことでいいのなら、喜んで。家族全員、一輝さんに依頼させていただきます。」
一輝はその場で領収書を書き、茂男からお金を受け取る。
「では、これで失礼します。」
「あ、ちょっと待ってくれ。これ、うちで取れた野菜だ。ぜひ、どうぞ。」
「ありがとうございます。」
一輝は野菜を受け取り、夕食の献立を考えながら、水に乗ってその場を去った。
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