医者の覚悟
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第四章
そのうちの一人に風邪をうつされた、そうなってだった。
弱っていた彼はそこから肺炎になった、身体の抵抗力が極限にまで落ちていたからだ。
熱が四十度を超え咳も止まらない、だがそうした状況でも彼は診察を続けるのだった。その顔にマスクをしつつ。
二人共本当に限界だった、いや限界を超えていると言ってよかった。
その中で難民達と働き続け遂にだった。
応援が来た、難民達のところに医師団が来た。その彼等に出会えて。
ほっとしてだ、二人は遂に倒れた。隆則は極度の全身疲労、嘉一は肺炎で。
医師団を見てその場で倒れた、医師達はその二人を慌てて助け起こしてそのうえでこう言ったのであった。
「まさか二人共今までか」
「たった二人で頑張っていたのか」
「これだけの数の難民を」
「そして働いていたのか」
「何て無茶を」
難民達の数は多い、とても二人でやりきれるものではなかった。
だが、だ。それでもだったのだ。その難民達は。
「皆手当をしているな」
「子供達もご老人も」
「何とかしたんだな」
「たった二人で」
「本当に無茶だろ」
驚愕を禁じ得ないという顔だった、そして。
二人はすぐにその身体を休まさせられた、安全な場所まで運ばれてそこで絶対安静となった。暫くしてから診察の医師にこう言われた。
「何でまたこうなるまで頑張られたんですか?」
「難民の人達への診察か」
「それですね」
「そうですよ、本当に無茶ですよ」
こう話すのだった。
「お二人共死んでも不思議じゃなかったですよ」
「しかし生きている」
ベッドの中からだ、隆則は言う。
「こうしてな」
「いや、そういう問題じゃないですから」
「無茶をしたことがか」
「そうですよ、お二人共ですよ」
隆則だけでなくだ、嘉一もだというのだ。医師は二人を見てそのうえで呆れた顔でこう言ったのである。
「無茶をし過ぎですよ」
「しかしな、あそこには俺達しかいなかった」
「ですからね」
嘉一も言ってきた。
「何とかやった」
「それだけですよ」
「それで、ですか」
「一人でも多くな」
「何とかしたいと思っていまして」
診察、治療をしたというのだ。
「俺達しかいないのならそうするしかないだろう」
「違いますか?医者なら」
「それはそうですけれどね」
「そのことについてあれこれ言われてもな」
「俺達は聞きませんよ」
「やれやれですね。しかし」
それでもだとだ、医師はここで表情を変えた。
「そのお二人のお陰で多くの人が助かりましたよ」
「そうか」
「何とかなってるんですね」
「はい、お二人のお陰ですよ」
このことは紛れもない事実だというのだ。
「多くの人が助かりましたし」
「だといいがな」
「それですと」
二人で言う。
「皆助けられなかったがな」
「死んだ人もいますけれど」
「それは仕方ないですね」
医師もこのことは、というのだった。
「どうしても」
「ああ、そのことはな」
「俺達もわかtyています」
二人も医者だ、どうしても助けられない患者がいることもわかっている。人は絶対に死ぬものであり極論すれば医者はその死を先延ばしにしているだけだ。
だから全ての命を助けられないこともわかっている、だがそれでもだった。
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