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第三章

 彼は太らせた肝臓を楽しみ続け家の者達も皆彼がくれる馳走を堪能した、だがここで。
 ある医者がふと彼の家の前を通って働く使用人達を見てだ、驚いてこう言うのだった。
「これはよくないぞ」
「?よくないとは」
 たまたま彼の前を掃除していた若い庭師が応えた。
「一体」
「この家の人達は間もなくです」
「間もなく?」
「死んでしまいますよ」
 こう言うのだ、驚いている声で。
「本当に」
「!?何故ですか!?」
 今度は庭師が驚いた、流石に家の者が皆間もなく死んでしまうと聞いて尋常でいられる筈がなかった。それでだった。
 彼は医者にだ、こう尋ねたのだった。
「まさか流行病ですか?」
「黒死病や天然痘ですか」
「家にそれを持つ悪魔が入り込んでいるのですか」
「いえ、どちらでもありません」
 黒死病も天然痘もないというのだ。
「庭だけを見ていますがこの家は綺麗ですね」
「旦那様が綺麗好きなので」
 庭師は答える、セルバンテスは清潔好きで家の中は庭までいつも綺麗にさせている、彼自身時々風呂に入る。国王ルイ十五世に一月に一回入浴すると話してこのことを褒められもした、あまりにも綺麗好きであると。
「ですから」
「そうです、しかしです」
「私達は皆ですか」
「死にます」
 間もなくだ、そうなるというのだ。
「このままでは」
「ですからそれはどうしてなのでしょうか」
「主の方はおられますか?」
 医者は庭師にその主のことを尋ねた。
「今は」
「はい、おられます」
 いるとだ、庭師は医者にすぐに尋ねた。
「屋敷の中に」
「それはいいことです、では」
「会われますか」
「すぐに案内して下さい」
 医者は庭師に焦った感じの声で応える。
「それでは」
「わかりました」
 こうしてだった、庭師は医者をセルバンテスのところに案内して事情を話した。話を聞いたセルバンテスは落ち着いた態度で医者を迎え話の場を持った。
 屋敷の客室、赤絨毯の上の黒檀のソファーの上に深々と座ってだった、彼は砂糖とクリームをこれでもかと入れたコーヒーを砂糖と卵、ミルクで作ったアイスの上に蜂蜜をかけたものを食べつつ医者と話すのだった。
 そのアイスを食べつつだ、彼は冷静な顔で医者に尋ねた。
「それでなのだが」
「はい、この家の方々のことですね」
「何故皆間もなく死んでしまうのか」
 尋ねるのはこのことだった。
「それは何故だ」
「あの、今ですが」
「今?」
「侯爵は何を召し上がられていますか?」
「アイスクリームだが」
 何処か誇らしげにだ、セルバンテスは医者に答える。
「我が家の菓子担当のシェフの得意料理だ」
「そうですか」
「是非食べるといい」
 セルバンテスは吝嗇ではない、家の者達にも美食を奨励し皆で共に様々な料理を楽しむこともある、だから医者にも勧めるのだ。
「美味いぞ」
「ではお言葉に甘えて。ですが」
「どうしたのだ?」
「コーヒーはそのままでお願いします」
 飲むものについてはこう言うのだった。 
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