アムリタ
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第三章
「そうなるのです」
「そうなのか」
「そうなっても宜しいでしょうか」
真剣な顔でだ、彼は王に問うた。
「永遠に生きられて」
「考えさせてくれるか」
即答はしなかった、しかしだった。
王はこのことから考える様になった、それでもアムリタの捜索は続けられた。だがその不老不死の霊薬はというと。
一向に見つからなかった、国の至る場所はおろか他の国を巡ってもだ。全く何も見つかりはしなかったのだった。
それでだ、王はある時こう言った。
「もういい」
「いいのですか」
「捜索をですか」
「そうだ、もう止めるのだ」
こう家臣達に言うのだった。
「これでな」
「そうですか、それでは」
「このことは」
「アムリタはいい」
また言う王だった。
「仮に手に入れたとしても」
「不老不死になってもですか」
「それでも」
「それでどうなるか」
「楽しみが永遠に続きますが」
「馳走に美酒に美女が」
家臣達は王が常に楽しんでいるものを話に出した、即ち楽しみそのものだ。
だが、だ。こう言う王だった。
「この世にあるものは楽しみだけではない」
「といいますと」
「一体」
「悲しみもある」
台風と洪水で死んだ民達のこと、愛していた寵妃のことを想っての言葉だ。
「痛みもな」
「もう足は治りましたが」
「それでもですか」
「そうだ、足の痛みも心の痛みもだ」
心身のその双方でだというのだ。
「感じることになる」
「生きていればですか」
「そうなると」
「そうだ、そうなりだ」
そしてだった。
「苦しみもある、生きていればそうしたものも全て味わうことになる」
「だからですか」
「もうアムリタは」
「わかったのだ、人は不老不死になるべきではない」
達観した目でだ、王は言った。
「限りある生を生きて死に生まれ変わりまた生きる」
「輪廻の中で生きるべきですか」
「永遠に今の生を生きるのではなく」
「そうあるべきだ」
こう言うのだった。
「そのことがわかった」
「だからですか」
「もうアムリタはいいのですね」
「今までご苦労だった」
労いの言葉もだ、王は彼等に告げた。
「余の我儘に付き合ってくれてな」
「いえ、勿体ないお言葉」
「その様なお言葉は」
恐縮だと返す彼等だった、常に民を大事に思う王は家臣達にも民達にも慕われている。それ故の言葉であった。
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