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少年と女神の物語

作者:biwanosin
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第八話

 結果だけいえば、あの量の食材は全て四人の胃の中に消えた。
 聞けば俺は二日間寝ており、アテは自分の力を抑え続け、立夏は結界を張り続け、とリズ姉以外皆エネルギーが足りなさ過ぎたのだ。
 割合としては、アテ、立夏が二人前ずつ、リズ姉が一人前、残りは全て俺、と言った感じだ。

「さて、食べ終わったのはいいけど、この感じは落ち着かないな・・・」
「でしょうね。神殺しである武双と、女神である私がこんなに近くにいるのですから」

 カンピオーネは神を倒すために、神と遭遇した場合力が湧いてくるのだ。
 さらに言えば闘争本能が戦えと訴えてくるので、一瞬でも気を抜くと無意識のうちに攻撃してしまいそうになる。

「どうにかして、アー姉の神性を抑えれるといいんだけどね・・・リズ姉は何か良い案ない?」
「あるわけがないだろう・・・確かに私は術式にたけているが、もはやそれは人の領分ではない。アイデアがあるとすれば、武双かアテのほうだろう」

 神性を抑えるアイデアか・・・なんかあったはずなんだけど・・・

「あ、そうだ。グレイプニルの術式を変えれば、それでいけるって言ってた」

 俺がそう言うと、三人がこっちを向いた。

「確かに、武双はいけると思うとは言っていましたが・・・誰ができるといっていたのですか?」
「それは・・・あれ?誰だっけ?」

 結構親しい立場の人に聞いたはずなんだけど・・・あれ?人だったっけ?

「覚えてないけど、間違いない。それは自信がある」
「なんでソウ兄はそんな曖昧な情報で動けるのかな・・・?」
「それに、その作業がどれだけ大変か、分かっているの?」

 姉と妹から同時に批判された。

「でも、これしか手段がないし。それとも、他に何かアイデアが?」
「それは・・・確かにないな。仕方ない、やるとするか」

 俺の質問に対し、リズ姉は肯定を返してグレイプニルを召喚する。

「全部を取り出すには場所が足りないが、その必要はないだろうし、大丈夫かな」
「うん、そうだね。でも、呪力はどうするの?リズ姉だけだと足りないよね?」
「そうだが、それについてはガソリンタンクがいるだろう?」

 呪力のガソリンタンクといわれると、少しばかり心当たりがあるんだけど・・・
 そんなことを考えていると、リズ姉は俺の目の前まで歩いてきて、

「というわけで、呪力を貰うよ?」
「はいはい、分かりまし、ムグ!?」

 自分の唇を、俺のそれに重ねた。
・・・っておい、ちょっと待て!!

「プハッ、リズ姉!アンタなにやってんだ!?」
「何って、キスだけど?」
「さらっと言ってんじゃねえ!」

 なんで当たり前のように言うのかな!?リズ姉以外皆顔が真っ赤だぞ!

「だって、武双はカンピオーネになったんだから、こうしないと術がかからないし」
「だったら俺からかけて送れば良いだろ!」
「そっちのペースで注ぎ込まれると、私なんかの器じゃもたない。まあ家族なんだし、これくらい気にしない。分かったら大人しくしてる」
「いや、だからそうじゃなくて・・・ムグ!?」

 リズ姉は再びキスをしてきて、俺の中から呪力を吸い出しながら、グレイプニルに手を当ててその術式を書き換えていく。

 これはもう、抵抗しても無駄だな・・・俺は術式の書き換えが終わるまで、二人の家族の視線を痛く感じながら大人しくしていた。
 あ、待て。舌は入れるな!



◇◆◇◆◇



「さて、封印するものは完成したわけだけど、こんなでかいものを常につけてるのは無理。そこはどうするの?」

 作業が終わってから、リズ姉は何もなかったかのように話し始め、俺とアテ、立夏は顔が赤いまま、下を向いて話に参加する。

「と、とりあえず、溶かしたりしてアクセサリーにしたらどうかな!?」
「そ、それいいな。普段からつけていても違和感がないものなら、暮らしていく上でも楽だろうし!」
「ですね!指輪やブレスレッド、ペンダントなどならいいとおもいます!」

 だからか、どうしても声を張り上げてしまう。お願いします、誰か助けてください。

「あのねえ・・・神話に登場するような鎖を、どうやって加工するの?」

 そしてリズ姉、アンタは本当に冷静だな。姉弟だからこそ、あれは駄目だろ!?血の繋がりに関係なく!

「そんなことができるのは、神か神殺し、そんなことは決まりきってる」
「でも、今この場にいる神と神殺しは、どっちも鍛冶に関係ないぞ?」

 どうにか落ち着いてきたので、俺は顔を上げる。
 顔の色も、元に戻っているだろう。

「そう、そこが問題になる。でも、偶然にもこの案件を解決できるかもしれない」
「?そんなこと、どうやって・・・」
「ムーくーん!」

 俺がリズ姉に聞こうとすると、急に部屋のドアが開いて、誰かが俺に抱きついてきた。
 まあ、呼び方で想像はついてるんだけど・・・

「林姉!?どうしてここに!?」
「だって、可愛い弟のムー君が七人目のカンピオーネになったって言うのよ!?飛んでくるに決まってるじゃない!」

 林姉は、俺の頬に頬ずりをしながらそう答えた。

 神代依林(かみしろイーリン)、俺の三つ上の、神代家の長女で、現在は城楠学院の高等部二年だ。髪は黒髪のストレートを伸ばしており、身長は高い。胸はないが、それでも十分にスタイルはいいと思う。
 確か、今は生まれ故郷の中国に旅行に行ってる筈なんだけど・・・

「あの・・・あなたはどちら様でしょうか?」
「ん?見たことのない子だけど・・・あなたがアテちゃんね!私の新しい妹の!」
「え、ええ。そうですけど・・・」

 アテが肯定するや否や、林姉はアテに飛びつき、頬ずりを始めたのでリズ姉に質問することにする。

「リズ姉・・・もしかして林姉がさっき言ってた偶然、に関わってたりする?」
「うん、正解。旅行中に面白いものを見つけたらしいんだ・・・イーリン!早くこいつらに説明してくれ!」

 自分で説明する来は無いようで、リズ姉は林姉を呼ぶ。
 リズ姉が林姉のことを呼び捨てなことに、特に意味はない。リズ姉は姉弟(姉妹)の事は例外なく呼び捨てで呼んでいる、ただそれだけのことである。

「んもう・・・そんなに焦らなくてもいいじゃない・・・ねえ、アーちゃん?」
「はい・・・そう、ですね・・・」

 アテはかなり疲れた様子で、特に何も考えずにそういっているのが一目で分かった。
 疲れすぎて力が暴走、とかにならないといいんだけど・・・

「まあ、説明といってもたいした説明はないんだけどね。ちょっと、旅行中に神様を見つけた、ってだけのことだし」
「「「いや、それはかなりの大事態」」です」

 まあ、相変わらず呑気な林姉だった。
 
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