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エネミーワールド

作者:そうん
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2章 これが「異能者、無能者の会」
  第十四話「顧問の名にかけて」

 
前書き
長らくお待たせしました。最新話です。一昨日投稿予定でしたが、個人の都合より更新が遅れてしまいました。申し訳ございません。以後気をつけるようにしたいと思います。 

 
第十四話「顧問の名にかけて」

その後、顧問は当然、器物損壊などで始末書を書かされることになった。本人は反省した様子をみせないが、悔やんでいたようにも見えた。

シャイン
「ざまぁみろだよな。」

ユウタ
「まぁそうですね。自業自得ですし、俺ら巻き込まれましたしね…。当然の報いですよ。」

ホント、あの人は教師には到底思えない。授業外であるにも関わらず、成績の差し引きや、生徒への粛清と…大問題だなこれは。
どんな始末書を書かされるんだろうか?

メル
「あんたたち、その辺にしたらどうなの?いい加減、今後の事を話し合わないと…」

それは一理ある。この1ヶ月、この部は何かと問題を引き起こしすぎてる気がする。上層部の方でも今後の部の対応を変えるかどうかで議論されているらしい。

シャイン
「それもそうだな、ところでシィラはどうしたんだ?」

メル
「休みよ。熱が出たらしいのよ。今頃、家で寝てるんじゃないかしら。」

それは気の毒に…。というよりあの子、風邪なんて引く人だったか?あの運動神経の良い子だった気がするけど…。いやでもこれはただの僕の偏見にすぎないのかもな。

ユウタ
「とりあえず、どうするんですか?ホントに…。」

メル
「そうね、今回ばかりはふざけている場合じゃないわね。」

シャイン
「そりゃ、そうだろ。」

メル
「ん?何か言った?」

メルは眉をピクリと動かし、引きつった笑みを浮かべながら両手の関節をポキポキと鳴らしている。これは、間違いなく殺されるだろうな。

シャイン
「いや、なんでもないです。」

メル
「うん、それで…よしッ‼」

ユウタ
「ぇ、ちょッ!?」

ズドオオオオオーンッ‼

驚くべき事に、標的になったのは僕じゃなく、ユウタだった。どうして?ユウタは何もしていないはずなのに…。彼は今、腹を抱え、悶絶している。酷い仕打ちだ。

シャイン
「ぇ、ちょ‼何してんすか!?」

メル
「何って見ればわかるじゃない。粛清よ。」

シャイン
「粛清って…。」

粛清とは何なのか考えてみよう。粛清って…なんだ?罪のない人間を全力でいたぶる行為なのか?いや、それは違うはず…たしか…粛清って…罪深き者をそれに見あった罰を与えることじゃなかったっけな…じゃあ、今起きてるこの悲劇はなんだ?虐殺…だよな?

メル
「まぁ粛清とは程遠いかもしれないわね。」

シャイン
「その通りだ。君のその行為は虐殺そのものだと…」

メル
「もう一回言ってみて?次は殺すから…。」

シャイン
「ぁ、はい。」

今、この人…軽々と殺す発言しましたよね。
どういうことですかね?これは…。

メル
「まぁ…そうね。実はというと、殴るのは誰でもよかったのよ。」

シャイン
「は?」

メル
「ぇ、わからないの?そういう時ってないの?」

いや、ないからさ。普通の人ならしませんよ。それに分かりたくもない。
ユウタがとても可哀想だ。わけのわからない思想故に犠牲になったからだ。理不尽すぎる。

シャイン
「まず、話を整理しよう。
君は僕を殴ろうとした。けど止めた。ここまではわかるよな?」

メル
「えぇ。わかるわ。」

シャイン
「分かった。んで、なんでユウタを殴った?」

メル
「殴りたかったから。」

…ダメだこりゃ。ユウタが不憫すぎる…。

シャイン
「えと、じゃあ。なんで殴りたかったの?」

メル
「そんなの知るわけないじゃない。」

シャイン
「…。」

ぇ?なにそれ…。殴る根拠がない。ただ殴りたいだけ…誰でもいいと…。そして自分でさえなんで殴りたかったのかわからない…。はぃ?
これは…なんだ?無差別ってことか?いやもっとゲスいよな。

シャイン
「大問題じゃねーか‼」

メル
「何がよ?どこが問題なのよ?」

シャイン
「いやいやいや‼問題だろ‼あんたのその歪んだ性格が問題だよ‼」

メルは何も理解していないのか首を傾げ、僕に疑問視する目で見つめてくる。
マジでか…。自分の仕出かしたことに罪悪感も感じないとは…。

メル
「私が…嫌いなの?」

シャイン
「いや、誰もそこまで言って…」

メル
「えぃっ‼」

シャイン
「う、うぉ!?」

まただ。あの時のメルそのものだ。また抱きついてきた。どういうことなんだ?人格ごと変わってる気がする。まてよ。この流れ…もしや…

グギギギギギッ‼

シャイン
「ハッ!?ちょちょちょ‼」

僕の首が締まる音…。これはまずい…し、死ぬかもしれんッ‼

メル
「えへへへへへ…。」

シャイン
「ちょちょちょッ‼は…離し…て…」

な、なんなんだ!?別の意味で恐ろしい…。
いつになく笑顔なのは嬉しいけど…こんな形でそれは嫌だ。首が…く…首がァ…

シャイン
「やめろ‼は…離せッ‼」

スドンッ‼

メル
「きゃッ!?」

思わず突き飛ばしてしまった。いくら力が強いといえど、男の腕力には叶わない。メルは勢いよく壁に激突してしまった。

シャイン
「ご、ごめんッ‼」

メル
「…。何よ…。何よ何よ何よ何よ何よ何よッ‼そんなに私が嫌いなの!?そんなに!?」

シャイン
「ぇ?」

予想外だった。こんな変貌をするメルは初めてだ。もしかして…メルは異能者かつ、多重人格者なのか?ありえない。これが本来のメルというのか?じゃあ今まで接してきた僕の知るメルは一体誰なんだ?

メル
「ぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあ‼死んじゃえ死んじゃえッ‼皆まとめて、死んでしまえッ‼」

シャイン
「な、なんだ!?」

また一つ、変貌遂げる。それは僕の知るメルとは程遠い存在…言わば裏の存在。闇に当たる負の部分。僕にもそれはあったように、彼女もなんらかの形で現れていたのだろう。

メル
「ヴァアァアァアァアァア‼コロス‼コロスコロスコロス‼コロス‼ミンナミンナミンナ‼」

シャイン
「メ、メル?」

明らかにおかしい。このままではとんでもないことが起きてもおかしくない。その禍々しいような気力は僕が恐怖を覚えるほど、負の感情に囚われていたような嫌な感じがする。

シャイン
「だ、大丈夫か!?」

メル
「ダイジョウブ?ナニヲイッテイルノ?ワタシガキライナンデショウ?ナラミンナシンデシマエバイインダ。ミンナミンナミンナ…。」

シャイン
「落ち着け、落ち着くんだ。ゆっくり深呼吸し…ぐぶぁ!?」

気がつかなかった。メルは目にも留まらぬ速さで僕を捕らえ、地面に押さえつけた。

シャイン
「ぐはっ!?メ、メル‼︎やめるんだ!!メル‼」

メル
「ウルサイ、ダマレ…ダマレダマレダマレッ‼」

もはや僕の声など届きはしなかった。ついにメルは僕の喉を押さえつけ、殺めようともしている。これは明らかにマズい。とんでもない。抜け出さなければいけない。しかし予想以上の力で押さえつけているせいか、もがけばもがくほど苦しくなる。

シャイン
「ぐぁああ…。メ…ル…やめ…」

メル
「ウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイ…」

もう僕は死んでしまうのか?次第に視界がボヤけてくる。意識も…なくなる。僕の命が…尽きる…。

シャイン
「…ぅ…ぅ…ぁ…。」

メル
「ウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイ…」

もう…ダメだ。
と思った。しかし、唐突にメルは僕の体から離れる。僕は改めて周りを見渡す…。そこにはメルの両腕をガッシリと止める顧問の姿があった。

国語の教師
「なぁ…これはどういうことだ?シャイン君…。何故こうなっているんだい?」

シャイン
「先生…。わかりません…メルが突然おかしくなって…」

国語の教師
「そうか。ならいい。悪かったね。一足遅れてしまって。始末書に手こずらされたよ。まったく…。」

この人…何者なんだ?桁違いの力をもつメルを相手に余裕すら見せている。もともとそういう性格な人だってことはわかる。けどこんなにも平然としているなんて…。

メル
「ウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイ…」

国語の教師
「これは一種のパニック症状かな。確かにこの力じゃシャイン君が敵わないわけだ。なるほどねぇー。」

シャイン
「先生‼感心してる場合じゃないですよ‼ほら、危ないッ‼」

メルは突然、蹴りを放ってきた。しかし顧問はそれをサラッと受け流し、メルを押さえ込んだ。明らかにいつもの顧問ではなかった。あれは真剣の眼差しだった。

国語の教師
「見ておけ…。これが興奮状態を鎮めるための応急措置だ。君はこれからこの子を抑え込まなくてはならない。」

シャイン
「な、何がですか!?」

国語の教師
「今回だけだ。私が見本を見せる。いいか、これからは君がこの子の面倒を見なくてはならない。彼女と同じ異能者である君にしかできないことだ。そして君が彼女の唯一の理解者にならなくてはならない‼」

考える暇も与えられず、僕は困惑する。
唐突すぎて何を言っているのかわからなかった。それ故に僕は、ただその場を眺めることしかできなかった。

国語の教師
「いくぞッ‼」

メル
「ウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイ…」

顧問は押さえ込んだメルに結界のような術式を唱え、それをメルに埋め込んだ。

メル
「グァァァアァァァァァァァアアッ‼」

国語の教師
「そしてこのままねじ伏せるッ‼」

数十秒押さえ込んだ後、メルはその凶暴性を、失い…失神した。

バタッ…。

シャイン
「先生…メルは…どうなったんですか?」

国語の教師
「一時的に眠ってもらった。大丈夫さ、しばらくすれば元に戻っているはずさ。」

シャイン
「よかったぁ…。」

安堵の声を漏らす僕に、顧問はドスの効いた声で僕にも耳打ちした。

国語の教師
「しばらくは大丈夫だが、いずれまた…ああなる。その時は君が、彼女を抑えろ。それが君の使命だ。唐突で意味が通じないだろう。だから、心の準備ができたら私の元に来なさい。詳しくはそっちで話す。」

シャイン
「はい。」

僕は…それしか言う言葉が見つからなかった。どうしたらいいのか、どうすればよいのか…僕には何もわからない。だけど、先生は確実に僕らについて何かを知っているはず…。いずれまた…先生に尋ねてみよう。今後の事、そして今後の対処法を…。 
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