港町の闇
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第二十四章
第二十四章
「それがどういう意味かわかるな」
「さて」
本郷はやはりとぼけてみせた。
「俺は頭が悪いんでね。わからないな」
「私を倒せるものは何もないということだ」
「それはどうかな」
「何!?」
「弱点のない奴なんか有り得ないんだよ」
「それが今の私だ」
「それはどうかな」
役も加わってきた。
「魔界においても本当の意味において不死の存在なぞいない」
そうであった。魔界の魔王達でもそうであった。彼等は気の遠くなるような長い時間を生きているが何時かは死ぬのである。また別の身体になり再び生を受けるが彼等もまた死ぬのである。単に生きている時間が長いだけであった。単純に言うとそうなるのである。
「そして何かをすれば死ぬ」
「魔王の中にも何度か死んだ奴がいたな」
「そうだったかな」
実際に魔王達も死ぬことがあった。命が複数あったりあらかじめ魂を分けていたりしている為すぐに魔界に戻るにしてもだ。それでも死ぬことは死ぬのである。
「そして貴様も」
「貴様の命は一つだったな」
「確かに私の命は一つだ」
役の問いに答える。
「だが私は永遠の時を生きる不死の者。何度も言うようにな」
「それは嘘だ」
本郷は言った。
「貴様は今ここで死ぬからだ」
「ならば私を倒せるか」
赤い眼で本郷を見据えてきた。
「その銀貨ですら通用しなくなった私を」
「倒せるさ」
役が答えた。
「魔王達ですら弱点があるように」
「貴様にもあった。そして今の貴様もまた破ることができる」
「ならばやってみるがいい」
ほく笑んだ。
「やれるものならな」
三人がそれを受けて一斉に動いた。本郷がアルノルトの正面につき役と神父がそれぞれアルノルトの斜め後ろにつく。そして彼を見据えていた。
「フン」
アルノルトは腕を一閃させた。すると床から巨大な針が飛び出た。
「おっと!」
本郷は宙に飛びそれをかわす。そして空中で構えた。
「食らえっ!」
「効かぬと言っている」
それはあの銀貨だった。アルノルトはそれを見て不敵に笑った。
「まあやってみるがいい。そして己の愚かさを噛み締めるのだ」
彼には絶対の自信があった。最早かわそうともしない。どうやら本当に効果がないようであった。
だがそれでも本郷はその銀貨を放った。銀貨は唸り声をあげアルノルトに襲い掛かる。
「愚かな」
「それはどうかな」
しかし本郷はアルノルトの言葉を不敵な笑いで消し去った。彼もまた何かを見ていた。
「確かに今のままじゃ御前を倒せはしないだろうな」
「わかっているではないか」
「今のままではな。そう、今のままでは」
「今のままでは、ではない」
アルノルトは言い返した。
「永遠にだ」
「永遠という言葉はない」
役がそれに対して言う。
「貴様は今ここで敗れる。それを見せてやる」
「ふ」
役に対しても不敵に笑い返す。
「楽しい夢を見ておくがいい。今のうちにな」
銀貨がアルノルトを貫いた。しかしやはり効果がなかった。
銀貨は彼を貫いただけであった。傷口はすぐに閉じられてしまう。やはり恐るべき回復能力であった。そして銀貨の無力さだけが伝わった。
「駄目か」
警官達はそれを見て落胆の言葉を漏らした。
「やはり無理か」
「神戸はこれで終わりか」
「終わりではありませんよ」
神父が彼等を励ますようにして言う。その目はアルノルトを見据えたままだ。
「よく言いますね。諦めたらそれで終わりだと」
「ええ」
「そういうことです。決して諦めてはいけませんよ」
「しかし今は」
「頼みの銀貨も効果がないのにどうやって」
「あの銀貨が効かないということはないのです」
神父はそう答えた。
「決してね。何かしらの魔法が彼にかけられていない限り」
「魔法が」
「はい」
そこに答えがあった。
「おそらくは。そこにあるのではないかと」
「魔法、ね」
それは本郷も聞いていた。そして役も。
「こいつの魔法は実に多い」
今までの戦いを振り返りながら着地する。そこに髪の槍が来た。
「この槍に」
それを刀で打ち払う。打ち払いながら考える。
「分身、姿も消していたな」
中華街での戦いだ。他にもあった。
「特に血を使う。使い魔を出したり、それに」
「魔法陣」
二人はそれに気付いた。役はすぐに本郷に目配せをする。
(それだ)
(ええ)
本郷もそれに目で応えた。そして二人はすぐに動いた。
「ふむ。同時に来るか」
その動きを見てアルノルトはそう考えていた。だがそれは違っていた。
「出でよ、我が僕達よ」
役がまた懐から式神を取り出してきた。そしてそれを投げる。
「邪悪なる者を退けよ!」
「何度でも言おう」
アルノルトは鳥となったその式神達を見ながら言った。
「今の私にはその様なものは通用しないとはな」
「俺も何度でも言ってやるぜ」
本郷はその後ろから言った。
「今の御前にはな。そう、今の、だ」
「今の私を倒せなくては意味がないだろう」
「今の貴様を倒す必要はないさ」
「何っ」
「これからの貴様を倒せばな。こうやってな」
そう言いながら今度は小刀を投げた。だがそれはアルノルトを狙ったものではなかった。
「むっ!?」
それは床を狙っていた。そう、床を。
「まさか」
「どうやら図星だったようだな」
眉を顰めたアルノルトを見て本郷はニヤリと笑った。
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