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神器持ちの魔法使い

作者:リリック
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ディアボロス
  第08話 日常を過ごしたい

「俺、彼女が出来たんだ!」

「ん? そうなのか。おめっとさん」

翌日の昼休み、突如教室に現れた一誠に屋上へと連れられた。
そして、そんな報告をもらってお祝いの言葉を投げた。

「おう! ……って、そんだけなのか?」

「なにが」

「いや、お前もあいつらみたいに嘆く……はないにしろ、否定するとかしないのか?」

その言葉に納得する。
あいつら、というのは一誠がいつもつるんでいる変態の二人のことだろう。

「なんだ、毒吐いて欲しいのか? 仕方ない、そこまで言うならやってやろう。言葉攻めされたいとかM気質だな」

「そういう意味じゃねえよ!?」

いい笑みを浮かべると一誠は全力で否定してきた。

「ったく、冗談だよ」

「……冗談の顔じゃなかった気がするんだけどな」

「まあいいだろ。それよりも用件は自慢しに来ただけか? あらあらうふふを妄想してきた一誠のことだ。初めてのデート何したらいいんだ!? とか初な相談しに来たと……」

「……そんなわかりやすいか、俺」

「だてにお前との付き合い長くないさ」

ガクッと項垂れる様を呆れ顔で見る。

「とはいえ、彼女なんて作ったことのない俺にそれを聞くあたりどうかと思うぞ」

「……あの二人に聞いてなんかいい返事が返って来ると思うか? 悪いけど友人とはいえ、俺はそうは思えない」

「あー……。返って来ても嫉妬の嵐か」

だてに変態三人組と呼ばれてないからな。
口を開けば品の無いNGワード。
趣味は覗きに卑猥なDVD観賞などとその名に恥じない言動をとっている。
もうちょっとまともな会話ができれば周りの反応も変わるというのに……っと、ずれたな。

「でも、まあ、必死で相手のことを考えて計画練ったらいいさ。本当にいい娘だったらわかってくれるだろうし」

そう言ってカバンを漁って雑誌を手渡す。

「これは?」

「グルメ情報目当てに買ってる週刊誌。確かそれにデートについての記事があったはずだからやるよ」

「いいのか!」

「それを参考に練ってみ。俺にはそんくらいしか役にたてそうにないからな」

「サンキューな、秋人。俺、頑張ってみるよ!」

「おーう。頑張れよー」

雑誌を抱え、屋上を後にする一誠を見送った。

そしてその二日後、「夕麻ちゃんのこと覚えてないのかよ!?」と何故か悪魔になった一誠の姿があった。



◇―――――――――◇



「まさか堕天使に襲われてたとは……チッ」

グレモリーさんなら一誠が悪魔になった理由を知っているのではと思い、聞いてみると案の定だった。

グレモリーさん曰く、やはり一誠の中に眠る神器が原因であると。
前に伝えていた堕天使の男の仲間と思われる堕天使の女が一誠の彼女という形で近寄り殺害。
死ぬ間際、生きたいという願いに反応してグレモリーの紋様が入った簡易魔法陣(チラシ)に呼び出されたグレモリーさんが自身の眷属として蘇らせたと。

「一誠が悪魔か……。もしもあいつが宿している神器がドラゴンに属するものなら最悪だな。弱かれ強かれドラゴンというのは力ある存在を引き寄せてしまう。本人の意思に関係なく。そうなら波乱の人生の始まりかだな。ま、グレモリーさんの眷属悪魔になった時点で波乱は変わらんだろうけど」

そうこう考えているうちに帰宅。

「ただいまー」

誰もいないとわかっていてもつい言ってしまうこの一言。

「あ、お帰りなさい」

誰もいないと……誰もいない……………は?

「私もいますよ」

「んな!?」

不意に現れた気配に驚きを隠せない。

前を見ればエプロン姿の魔女っ娘。
後ろを見れば買い物袋を持ったメガネのイケメン。

「……なんでお前らがいんだよ。つか、人が不在中に勝手に入んな。ルフェイ、アーサー」

アーサー・ペンドラゴンにルフェイ・ペンドラゴン。
ペンドラゴンでわかるが、二人は彼の有名なアーサー・ペンドラゴンの末裔だとか。

二人との出会いは本当に偶然で、きっかけはルフェイが転移魔法の試運転中に座標を誤ってこの家に転移してきたことだ。
細かいことは省くとして、そんなためにこの家に誤って転移してしまった上に魔力切れになったと説明を受けた。
その数時間後、ルフェイを見つけたアーサーがやって来た。
これまた家ん中に、それも空間を裂いて。

「ちょうど暇でしたから久々に秋人の顔でも見ようかと」

「はぁ……そーかい。で、その手に持ってるそれは?」

何となく予想はつくが……

「夕飯の食材ですよ。ルフェイに頼まれまして」

「……やっぱし」

「何ですかその目!? 私にだってカレーくらい作れます!」

知ってます。
ただそんな視線を向けただけです、はい。
世界を巡ってますもんね、暇人。

「……なんか失礼なこと考えてませんか?」

「はてさてなんのことやら」

ルフェイがジト目を向けるが、すぐにため息を吐いた。

「ため息吐くと幸せ逃げるぞ?」

「秋人のせいです!」

そう叫ぶとアーサーの持つ買い物袋をもぎ取って台所へ行ってしまった。

「あなたは毎回ルフェイをイジるんですから」

「あはは、スマン。つい」

呆れ顔のアーサー。
悪意がないことがわかっているためか軽い注意で済ませる。
……まあ、悪乗りしてくれる時もごく稀にあるけどな。

「まったく、あなたはいつも……」

「いいじゃんか、減るもんじゃないし。というか俺にそうさせる可愛いルフェイが悪い」

!?!?!?

「……ふむ、身内の私が言うのもアレですが、確かにルフェイは可愛いですね」

ッ〜〜〜!?

「だからなかなかやめれないんだよ。ほら、よく言うだろ? 相手を可愛いと思うあまりに苛めたくなるって」

ガタッ!?

「……アーサー」

「……ええ」

短い言葉を交わし、無駄に気配を消して台所を二人して覗く。
声なき声が聞こえたかと思うと、今度は変な音が聞こえた。
……まあ、原因はわかっているとはいえ確かめる。

そこには、野菜をリズムよく切るルフェイの後ろ姿が。
まるで、先程の音がなかったことにするかのように。

しかし、よく見てみると薄っすらと耳が赤く染まっている。

(さすがにこれ以上はやめといた方がいいか)

(そのようですね)

これ以上は流石にかわいそうだろうと判断し、その場から離れた。



◇――――――――――◇



「ごちそうさま」

「お粗末様です」

ルフェイの作った食事を食べ終え、手を合わせた。

「アーサーのやつ、もう少しゆっくりしていけばいいのにな」

「兄は兄でいろいろな事情やら何やらがありますから」

ルフェイが夕食の終える前にどこかへと出て行ってしまった。

「そういえば最近何かありました?」

そう切り出してくるルフェイ。
この家に来るたびに聞いてくることで、俺の日常について知りたがっているみたいだ。
自分自身が学校にも通わず、世界中を飛び回り、世間一般に言われている普通の生活というものからかけ離れた生活を送っていることもあり興味があるとかどうとか以前に言っていた。

「前に来たのは年明けて少しした頃だろ? それからといっても、学校でもこれといったイベントはなかったし、進学しても特に何も変わらない。そんな日常だからな。だから……」

そのまま「ない」と続けようとしたが、自身の周りで変わったことがあったことを思い出した。

「どうかしました?」

「……あったよ、変わった出来事が」

首をかしげるルフェイ。

「俺、数日前に堕天使に襲われたんよ。何でも俺の神器持ちだからって理由で。……まあ、灰すら残んなかったけど」

「うわぁー、その堕天使さんにはご愁傷様ですね」

「で、さらに数日後、というか今日だな。なんか俺の幼馴染が堕天使に殺されたみたいで悪魔になってたな」

「何というか、日常が非日常に変わってますね」

「言うなよ。……でも、前々からなんとなくこんな感じになるんだろうなとは考えていたんだけどな」

ハァ、とひとつ溜息を吐く。
そんな俺に苦笑するルフェイ。

「この頃は巻き込まれてる感がすごいからな。この町に禍が強く引き寄せられているのかね」

悪魔然り、堕天使然り、人間然り。
力あるものがこの町に、この町の何かに。

「んー、物語が加速しているとでもいうのか?」

「何言ってるんです?」

くすくすと笑みを零すルフェイにつられて一緒に笑う。
ああ、願わくは必要以上に変なことに巻き込まれないようにしてほしいな。 
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