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東方虚空伝

作者:TAKAYA
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第二章   [ 神 鳴 ]
  十七話 王の使い

 久しぶりにやる事が何も無く二人で部屋の中をゴロゴロしていた。
 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ…………部屋の端から端まで転がってはまた戻るそんな暇つぶしに耽る。

「……お父様、いい加減飽きた」

「……奇遇だね、僕もだよ」

 紫の発言に同意し回転を止める。確かに紫の言うとおり飽きたのだが他にやることも無い。

「……山に夕飯の材料でも探しに行こうかな?」

 そんな事を思った時、ドンドンと戸を叩く音が響く。

「はーい」

 紫が返事をしながら玄関に向かい戸を開ける。そこにはこの村の住人である司郎が立っていた。

「あぁ、紫ちゃんこんにちは。七枷様はいらっしゃるかい?」

 そう紫に問いかける。

「お父様ー、お客さんよ」

「うん、わかった」

 紫にそう返しながら玄関に向かう。

「すみません七枷様。すぐに村長の家に来ていただけないでしょうか。七枷様にお会いしたいという方がいらっしゃってます」

 また何かの討伐依頼の話でもきたのかな。村長の所に他の村から依頼がくるのは珍しい事じゃない。

「わかった。すぐに行くよ」

「すみません。ではお願いします」

 司郎はそう言って立ち去る。簡単に身支度を整え村長の家に向かう事にする。

「じゃぁちょっと行ってくるよ」

「いってらっしゃい」

 紫に見送られながら村長の家を目指した。




□   ■   □   ■   □   ■   □   ■   □   ■




「入るよ村長」

 そう声を掛け玄関の戸を開ける。家の中には村長と岩さん、そして数人の村人と知らない女の子が1人いた。

「七枷様わざわざ御足労申し訳ございません」

「いいよ、そんな事気にしないで」

 頭を下げる村長にそう返す。

「それでお客さんはその子かい?」

 僕は村長の正面に座っている女の子を見る。
 長い亜麻色の髪で右のサイドテール、髪と同じ色の双眸、見た目は16,7位に見えるけどこの感じこの子、神だね。椿が描かれている桃色の振袖を着て朱色の帯を締めている。
 そんな事を考えながら岩さんの隣に腰を下ろした。僕が座るのを確かめると女の子が自己紹介を始める。

「お初にお目に掛かります、神狩様。私は洩矢 諏訪子(もりや すわこ)様に仕えている白輪 楓(しらわ かえで)と申します」

 深々と頭を下げる。やたら礼儀正しい子だな。と言うか、

「楓だね。君の用件を聞く前に聞きたい事が2つあるんだけどいいかな?」

「はい、なんでしょうか?」

 失礼かと思ったけど先に聞いておく事にした。

神狩(かみがり)って何?」

「え?」

 僕の質問が意外だったのか楓はキョトンとしていた。

「神狩ってお父様の通り名よ。知らなかったの?」

「うひゃぁーーーー!!!!」

 突如空間に亀裂が走りその隙間から紫が身を乗り出してきた。その光景に楓が素っ頓狂な悲鳴をあげて後ろに倒れる。
 紫の能力で創ったスキマは空間と空間を繋げて移動することが出来る。これが出来る様になった頃、紫は村中をスキマで移動して村人達を驚かせていたな。でも今では慣れたものでひっくり返った楓に苦笑いを浮かべていた。

「こら、留守番してろとは言ってないけど急に出てくると客がビックリするだろう」

「えへ☆ごめんなさい♪」

 全然悪びれた様子も無くそう返してきた。実は紫が付いて来ている事には気付いていた。

「大丈夫かい楓。紫ちゃんと自己紹介しなさい」

 おっかなびっくりな感じでこっちを見ていた楓の前に紫が移動する。

「突然で申し訳ありませんでした。私は七枷虚空の娘で七枷紫と申します。どうぞ見知りおきを」

 そう言うと優雅に腰を折る。そんな礼節どこで憶えたのだろうか。

「え、は、はい。わ、私は白輪楓と言います」

 すこし混乱気味に紫に返事を返していた。多分紫が妖怪なのに僕の娘と言ったのが気になっているんだろう。説明してあげてもいいけど、まぁ後でいいか。それよりも、

「えーと、そうそう僕の通り名が神狩って事だったね。でもなんで《神》狩なのさ?」

 その通り名だと僕が神殺ししているみたいじゃないか。

「さぁ?私は知らないわ」

 と紫、

「も、申し訳ありません。存じ上げないです」

 と楓、

「わし等も分かりませんな。何時の間にかそう呼ばれていましたので」

 と村長、

「多分語呂がいいからでは?深い意味は無いと思いますぞ」

 と最後は岩さん。語呂ね。

「まぁいいか。別に聞く事でも無かったし」

「「「「 だったら聞くなよ!!! 」」」」

 僕の発言に村人達からツッコミが入る。

「……えーと、あと1つは何でしょうか?」

 楓が控えめに聞いてきた。

「あぁごめんね。こっちもあまり重要じゃないんだけど」

 僕がそう言うと楓の視線が若干険しくなった。とりあえず聞くだけ聞いておこう。

「諏訪子って誰?」

「「「「 ……………… 」」」」」

 そう聞くと部屋を不気味な位の静寂が支配した。見渡すと紫以外の全員が唖然としたような表情を浮かべている。

「……七枷殿」

 何故か頬を引きつらせながら岩さんが話しかけてきた。

「何、岩さん?」

「……この国の名前は知っておりますな?」

 そんな事を聞いてくる。

「諏訪の国。常識じゃないか」

 胸を張ってそう答える。

「よろしい。では国である以上そこを治める主、つまり王がいるというのも理解できますな。この国の王の名が洩矢諏訪子様です」

「…………おお!!」

「ちなみに“常識”ですぞ」

 最後にそんな嫌味を言われてしまった。

「こほん、それで王に仕えている君が何故僕の所に?」

「無理矢理話題変えてるし」

 そんな事言ってはダメだよ紫。

「……諏訪子様が神狩様と一度お会いしたいと云う旨を預かってまいりました。お手数ですが都までご同行願えませんか?」

 少しばかり冷たくなった視線を向けながら僕に用件を伝えてきた。一度会いたいね……どうしようかな。

「それって断ってもいいの?」

 僕としては軽い気持ちで言ったのだが事態は予想外の展開を見せた。

「な!何を言ってるんです!「馬鹿な事を!「断るって「良い訳が「何を考えて!「すぐに行って「畏れ多い事を「バーカバーカ

 村長をはじめその場に居た村人達からも怒られた。ちなみに最後の台詞は紫である。
 たしかに王様に対して失礼かもしれないけどそこまで怒らなくてもいいのに。この状況に少し面食らっていた僕に岩さんが話しかけてくる。

「皆の者落ち着きなさい。七枷殿は諏訪子様の名前すら知らなかったですから諏訪子様が何の神かもご存知ないでしょう」

「うん、知らない」

 そう言うと岩さんが説明してくれた。

「諏訪子様のその格の高さは周辺諸国に類を見ないほどで土着神の頂点とまで謳われております。そして神格は祟り神なのです」

 祟り神か。なるほどね。えーと確か御霊信仰だったっけ?恩恵にも災厄にもなる神。土着神の頂点って言われてる祟り神、そりゃ普通の人は恐いよね。

「ここで僕がその諏訪子の用件を断ったりしたら村が祟られちゃう訳か」

 それなら皆があんなに怒ったのも納得がいく。だけどそんな僕の発言に反論の声が上がった。

「諏訪子様はそのような理由で祟ったりなどしません!!!」

 楓だった。怒りの篭った視線で僕を睨み付けていた。どうやら彼女の逆鱗に触れたらしい。

「ごめんね、今のは全面的に僕が悪かった」

 よく知りもせず軽い発言だったしきちんと謝罪しておこう。

「い、いえこちらこそ声を荒げてしまい申し訳ございません」

「それよりお父様、何か断る理由でもあったの?」

「いや?何も無いよ。ただ少し面倒だなーって」

 紫の質問に正直に返したら何故か皆の視線が冷たくなった。

「……村長さん、この方はいつもこの様な感じなのですか?」

「いえ、いつもは……いつもは……すみませんこんな感じでした」

 なにやら楓と村長が話しているけど、まぁ置いといて

「それじゃ行こうか、諏訪子の所に。行くなら早くしないと日が暮れるしね」

 立ち上がり玄関に向かう。

「紫はどうする、一緒に行くかい?」

「もちろん。お父様1人じゃ心配だしね、いろいろ」

 そう言うと紫はスキマの中に飛び込んだ。

「楓~ほら早く行くよ」

「……はぁ、今行きます」

 楓は何故か疲れた様な顔をしていた。どうしたんだろうか。
 さてどんな子なのかな、諏訪子は。

 
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