ゲルググSEED DESTINY
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第五十九話 視線の先には
ウズミの遺産とも言えるカガリとアカツキ。その一人と一機は未だにオーブに公式的には現在存在していない――――しかし、それはあくまでも公式的には、という話であった。
「ウナト、ユウナ――――すまなかったと思っている」
オーブのモルゲンレーテの一室、そこには軍事再建という名目で来ていたユウナとウナトがカガリと向かい合っていた。元々ユウナもウナトも軍事は専門外の事であり、そういった事は先日の戦いで奮闘したトダカ准将等に任せるべきことである。にも拘らず彼らがここに来ていたのはカガリがモルゲンレーテに匿われているという報告を受け、会う為の場を用意する為だった。
カガリは頭を下げており、国家元首あるまじき行為だと普段なら諌められていた状況だっただろう。しかし、この場にいるのはユウナとセイラン、そしてモルゲンレーテに所属しアカツキの詳細を知っていたエリカと頭を下げている本人であるカガリの計四人であった。
「私自身、国を守るという意志こそあれど、その形を間違えたのは自覚している。この有事の際に己の任を全うできず、ただ自分のわがままで国を守ろうなどと勘違いしていた」
ユウナとウナトは彼女のその頭を下げる様子を見て『アスハ代表』などと軽んずることは出来ないだろうと思う。元々真っ直ぐな気質を持った大勢に好かれやすい気質の人間だ。道を違えたことも一度や二度ではないが彼女自身の性格はユウナが好意を抱くぐらいには好ましいものである。
「うん、わかっている。でも国を守ろうとしたその気持ちは同じものだと僕は信じているよ。だけど、カガリはこれからどうする気なんだい?」
今ユウナだけでなくカガリやオーブにとって最も重要な要項の一つ。カガリがどのように動くかについてである。カガリだけはない、アークエンジェルやカガリの護衛でありユウナにとっては恋敵でもあるアレックスことアスランなどと聞きたいこと知りたいことなどは山ほど存在する。それらの情報がオーブという国を左右するモノの一端であり、責任問題などを押し通す際にどのようなカードとなるかが重要なのだから。
「ああ、私は……」
一度口を開くが、躊躇うように口籠り、意を決して問いかける。
「正直に教えてほしい。私がオーブに対してどう行動するのが最善だと思っている?」
聞きづらい事を一番最初に聞いてきたことに対してユウナは苦笑いを、ウナトは真剣な表情でカガリを見る。カガリは目をそらすことなくそれに真っ向から向き合っていた。
「――――成長なされた、というべきかもしれんな。ウズミの影が見えたような気がする。年は取りたくないものですな」
そう言いながら一息ついてウナトはカガリの成長に内心喜ぶ。今のカガリになら国を任せれるのではないか。以前のようにお飾りの代表としてではなく、自分たちは支える側の人間として国を纏める事が出来るのではないか。しかし、現実は非情だ。
これが平時ならばともかく今はロゴスによって世界中に大きな影響が及ぼされた状況での戦時下だ。カガリが今オーブに戻って来るのはセイランにとってではなく国にとって都合が悪い。最も、平時であったならカガリがこれほどの成長を見せる切っ掛けを得れたかは怪しい所だが。
「カガリには本当にすまないと思うが、国に戻っていると発言するのも、アークエンジェルに向かうのも非常に危険だ」
ユウナがカガリに対して言い辛そうに紡ぐ。言葉を選ぶべきかとも思ったが、そういった余計な遠慮はするべきではないだろうと思いユウナは本音で話すことにした。
「やはり、私のこれまでの行いが原因か……」
カガリ自身も分かっていたのだろう。自分の行いがどういった方向性で国を危機に曝したかのかは今回のロゴスの件で大いに理解した。否、させられたというべきだろう。方法はいくらだってあったはずなのだ。もし、などという仮定の話は政治家が使う様な言葉ではないだろうが、もし最初からユウナとの婚約をハッキリと否定してたなら、アークエンジェルでキラ達に説得されず国に戻ってきていたなら、ザフトがロゴスを討つと発言した段階でオーブに戻ってきていたなら――――すべては過ぎ去った以上こういったことを考えても線のないことだが、どうしても頭の中でそういった考えが浮かんでしまう。
「そうだね――――でも、正直に言ってしまえば問題なのはカガリではなくあのアークエンジェルに関してだ。あの艦の立場は君が想像しているものよりも危うい」
オーブという一国家の国家元首と所属不明の一隻の艦。どちらが重要なのかと言われれば普通に考えれば国家元首の方が重要視されるだろう。しかし、あの艦だけは例外である。
「彼らの存在は、彼ら自身が思っている以上に評価されている。無論、良い意味でも悪い意味でもね……」
アークエンジェル――――前大戦で連合初のMS運用を目的とした戦艦。その後もストライクと共に獅子奮迅の活躍を見せ、ザフトの核搭載機であるフリーダムと共に連合を離脱するとともにオーブ戦に参加。その際にフリーダムの兄弟機であるジャスティスが彼らと共に行動し、宇宙に上がってからは三隻同盟とまで言われる一騎当千の英雄的存在だ。
しかし一方で今回の大戦は彼らの立ち位置を大きく変動させた。戦争への介入と共に連合、オーブ共同軍とザフトに対しての無差別的な介入。戦場に出ては無意味に場を混乱させるだけとまで言われる始末。彼らの存在は疎んじられ始めたと言ってもいい。更にはオーブの防衛戦の直前にデュランダル議長がメディアを通じて彼らという存在を悪だと報じたのだ。愚盲ではなくとも近視眼的な見方しかできない民衆大勢は彼らを悪だと思っている筈である。そうした中で彼らという存在は注目の的といえよう。
元々上層の人間は一部の例外を除いて彼らという存在を疎んじていた。彼らの持つ力は非常に大きく、ましてや軍の絶対条件である数の力が通用しないのだ。もし彼らが敵となって自分たちを討ってきたならば――――そう考えれば彼らを疎んじるのは当然のことだと言えよう。そして、彼らが敵に回ったその時の為に連合はエースでなくともエースに勝つ手段として大型MAの製作やエクステンデット等のファントムペインの部隊を用意し、ザフトは自らの陣営にエースを引き込んだり生み出せばいいと判断した。
「だからこそ、彼らはこの戦争の劇薬的な存在だ。そして一時でもカガリが行動を共にしていた以上、オーブとして少なくとも表立って君の事を公表することも支援することも出来ない」
「……分かっている」
苦々しい顔をしながらもカガリは己を納得させる。彼らアークエンジェルの存在を今、オーブが認めるわけにはいかないのだ。ただでさえ、オーブは窮地に立たされている。メディアではオーブはロゴスの被害を受けた国という形で報道されているが、ロゴスが崩壊した現在、次の矛先がオーブに向かわないとは限らない。
今キラ達が宇宙に上がっている最中も、オーブが支援するわけにはいかない。無論、カガリがアークエンジェルに向かう事もよしとすることは出来ない。
エターナルの所在は未だにわかっていないのだろうか?キラ達は無事に予定通り月の中立都市であるコペルニクスに辿り着けたのだろうか?不安になる気持ちはある。だが、国を思えば、ましてやキラ達の意志を思えば動くわけにはいかない。
「――――ただ、所属艦の中にはまだオーブで正式な手続きを済ませていない艦とMSが無い訳じゃない」
突然、関係のない話をしだすユウナ。その意図が分からずカガリはユウナを見る。ユウナはいきなり目線を向けられたことで少々仰け反るが、一つ咳払いをして話し始める。
「オーブが立て直されたのはほんの二年前だっていうのは言うまでもないことだけど、その際に生き残りの艦が何隻かあるのは皆知っての通りだと思う。イズモ級のクサナギ艦だ。その艦は何故かオーブでの最終検査が二年前から終わっていない――――でしょ、エリカ・シモンズさん?」
そのあからさますぎる発言にウナトやカガリも、ユウナが何が言いたいのかを理解する。
「ええ、確かにある理由でイズモ級クサナギは最終検査を受けていないわ。だからクサナギはアークエンジェルと同じ所属不明艦って事にまだなっているわね」
「ユウナ、エリカ――――」
「残念ながら、クサナギは宇宙用の船だからね。オーブ国内でいる限りは場所を塞ぐだけの邪魔な存在でしかないんだよ――――これが今のオーブに出来る最大限の支援だと考えてほしい」
表立って支援できないのは当然であり、しかしながらも今のオーブに出来る最大限の支援の方法をユウナは考えていたのだろう。普通に考えていくらクサナギが二年前の三隻同盟の船だからといって放置されている筈がない。おそらくユウナは配属されていたクサナギを自身の権限をもって解任させ、アークエンジェルと同じように、秘密裏に整備、改良を加えられていたという事なのだろう。
「ありがとう、ユウナ。感謝する」
もう一度、カガリは最初の時と同じように頭を下げた。
◇
「貴様……デュランダルッ!?」
アズラエルがザフトの兵士によって拘束されながら連れてこられたのはギルバート・デュランダルの私室であった。一瞬で怒りによって頭が沸騰し、殴りかかろうとするが、周りのザフト兵に取り押さえられ動くことなど出来ない。
「やあ、アズラエル。この場合、我々は初めましてというべきかね?」
「クッ――――何が初めましてだ!!」
自分たちを破滅へと導いた張本人が目の前にいるにもかかわらず何一つ手を出すことが出来ない。そしてアズラエルはデュランダルが見せるその余裕の態度も気に入らない。
「いや、アズラエル。その怒りは尤もな話だ。しかし、私としても自身の夢――――いや野望の為にはロゴスという存在はいらなかったのでな」
ここで言葉を繕う必要はないとばかりに野望と言い放ちながら微笑を浮かべるデュランダルにアズラエルはますます怒りを高める。だが、次に発言した一言が彼の頭上から水を被せたかのように頭を冷やさせた。
「私の送ったデータは気に入ってくれたかね?」
デュランダルの送ったデータ――――一体何の話だ?こいつは何を言っている。そうアズラエルの脳裏にはよぎるがデュランダルは構わず続ける。
「忘れたわけではないだろう?ムルタ・アズラエルが残した諜報部から受け取ったデータ。それはね、全て私が用意させたものだよ」
頭が凍ったように思考が停止する。こいつは今、何を言った、という風に。
「君は私の想い通りに動いてくれたよ。ジブリール以上に役に立ってくれた。『一族』がいなくなっていたことが幸いだったな。諜報部の存在が『一族』に気取られる前に自滅してくれたのはありがたかったよ」
アズラエルの思考の停止を無視したままに彼は言葉を続けていく。淀みなく台詞を言う彼はまるで舞台に立つ役者のようだ。
「G‐Vもビグロも、ノイエ・ジールも――――ましてやコロニーレーザーなどは大いに役に立っただろう?」
「な、何故そんな事をしたというのだ!?明らかに不条理だぞ!」
ようやく動き出した思考の中、まず思いつくのは何故そんな事をしたのかという疑問だった。当たり前だ。どうして自軍を危険にさらすような真似をする必要があるというのだ。
「考えることを放棄し、他者に答えを求めようとするのは無知以上に滑稽なことだと私は思うよ。今の君を見るとね――――だが、疑問には答えようではないか」
芝居がかったように歩きながら普段から使っているチェス盤の前に立ち、答えを言う。
「私にとって敵とはロゴスという組織やアークエンジェルを中心とした個人の集団ではないのだよ。そして、私が危惧する真の敵と相対するためには技術や軍事力は必要不可欠だ。だが、ザフトという一組織の枠ではそれは補いきれない。だからこそ、ロゴス、連合、ジャンク屋、ファクトリーあらゆる組織に対して情報を少しずつ与えた。そして、その成果は総て私の手元にある」
「馬鹿な……なら我々は、私はその真の敵とやらを討つための壁でしかないとそう言うつもりか!?」
「いいや――――路傍の石ころを壁だと恐怖する人間などいないだろう?」
そして、今ここで初めてデュランダルの目を見て恐怖する。あまりにも器が違う。だが、それは人間のものとは思えないほどの深い情景だ。
「き、貴様は狂っている!狂っているぞ、デュランダル!?」
その言葉を前にしても笑みを崩すことのないデュランダルの様子にアズラエルは腰を抜かして震える。こいつは本当に同じ人間なのか?
「視点の違う他者の行動を見た所で、その意義を理解することは出来ないさ。ましてや見ようとしている道筋が見当違いの方向にあればなおさら――――」
新たな成果を生み出してきた人間は常人には理解できない不可解な行動を起こすことがあるという。それは総てを見据えた理性的なものなのか、本能的にそれが正しい行いだという優れた嗅覚をもっているのかはさておき、多くの天才と呼ばれた人間にあることだ。
「全ては私の筋書き通りだったというわけだ。役者が良ければありきたりなこの芝居も良いものとなっただろうが、アズラエル――――君という存在は最早力不足だ。せめてこの舞台が己の身の丈に合っているうちに消えておきたまえ」
テーブルに置かれていた拳銃を手に取り、アズラエルに向けて構える。
「貴様の言う真の敵とは、一体何だというのだ……」
恐怖が限界を通り越し、自分でもなぜこんなことを聞いたのかが理解できぬままにそれを尋ねた。
「なに、簡単なことだ――――」
拳銃の引き金を引き、一発の凶弾が放たれるとともに彼はその答えを口にする。
「――――人類という自らの種そのものだ」
後書き
というわけで今回はデュランダル議長のターン。連合への技術の流出は議長が原因でした。
議長相手には普通にノーガードなクラウのデータは流出し放題というわけです(笑)
何故彼が技術を流出させたかというと、機体限度数が決まっている中で機体を造るための策としてです。規格の合わない機体を量産するのは不合理なのでだったら他人に造らせればいいという逆転の発想。その為に自軍が犠牲になっても気にしないあたり議長はかなり鬼畜(笑)
これってばれたら確実に議長処刑コースだよね……。
議長「命が惜しかったら、貴様に兵器の情報など与えるものか」
クラウ「馬鹿にして。そうやって貴様は、永遠に他人を見下すことしかしないんだ」
ステラ「何やってるの~?」
クラウ「いや、ちょっと思いついたネタをしてみたくて……」
一応言っておきますけど作者のクラウの声のイメージはアムロではないですよ(笑)
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