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DQ4TS 導く光の物語(旧題:混沌に導かれし者たち) 五章

作者:あさつき
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五章 導く光の物語
  5-45託されるもの

 ブライのリレミトで洞窟から脱出し、一人で思う存分魔物を倒していたアリーナ、補助をしつつアリーナの勇姿を堪能したクリフトと合流して、ルーラでガーデンブルグの城に戻る。

「これで、マーニャも牢屋から出られるのね?」
「そうですね。でもその前に、女王様の許可を得ないと」
「うん、そうね」


 一行はひとまず玉座の間に向かい、三度(みたび)女王に謁見する。

「話は既に聞きました。真犯人から押収したブロンズの十字架はシスターに返却し、皆さんの疑いは晴れました」
「それは良かった。それでは、仲間を解放して頂けるのですね」
「勿論です」

 女王は疑いをかけたことについては謝罪せず、アリーナもそれを当然のことと受け止める。
 女王が衛兵を呼び寄せて何やら手渡し、衛兵からアリーナに差し出される。

「これは?」
「……牢屋から出るには、鍵を開けねばなりませんから。どうぞそれを、お使いください」

 仲間たちは困惑して顔を見合わせ、アリーナはじっと女王の顔を見据える。
 女王が、言葉を続ける。

「……天空の盾は、この城の地下室に安置してあります。その鍵があれば、地下室に入ることも出来ます。持って行かれるがいいでしょう」
「良いのですか?」
「皆さんの実力の程も、兵士から報告を受けました。相当な実力者である盗人を、ものともしなかったとか。伝説や予言の真偽はともかく、世界が不穏な情勢にあることは、私も感じております。強力な武具は、それを役立てられる実力者が持つべきです。皆さんの実力、人柄共に、天空の盾を託すに足ると判断しました」
「ありがとうございます。ありがたく、使わせて頂きます」
「それと。秘されるうちに詳細が失われて、今では知る者もおりませんが。この城にはもうひとつ、隠された地下室があるはずです。そこにも強力な武具が保管されているとか。見つけ出すことが出来たなら、それも皆さんに託しましょう。それから、ここから南の秘境にあるというロザリーヒルの村には、かつて魔族が住んでいたとか。皆さんが倒そうとしている地獄の帝王のことも、何かわかるかもしれません。行ってみると良いでしょう」
「本当に、何から何までありがとうございます」
「いえ。使わない物を差し出すことや、聞きかじった程度の情報をお伝えするのが、何程のことか。このような形でしかお力添え出来ないことを、情けなく思います」

 常に毅然と前を向き、言葉を紡いでいた女王が、少し顔を俯かせる。

「……女王などと、偉そうに名乗ってはいても。肩書きを外せばただの娘に過ぎない私に出来ることなど、本当に……」

 俯く女王に向かい、アリーナが静かに口を開く。

「……僭越ながら。私と歳も変わらぬお若い身の上で、一国の王たる重圧を背負われるのは、並大抵のことでは無いでしょう。王として、自国の守りを第一に考えるのも当然。そのような中、巻き込まれる形とは言え貴国で問題を起こしてしまった我々に、お力添えくださっただけでも十分に有り難いことです。どうかそのように、御身(おんみ)を卑下なさいませんように。女王としてお力添え頂いた他にも、ひとりの女性の小さな祈りに力付けられることもあります。もしも、そう願って頂けるならば」

 女王が弱々しく顔を上げ、答える。

「……はい。女王としても、ひとりの娘としても。殿下の……皆様の、旅のご無事を祈りましょう」

 女王は微笑む。

「……随分と、お時間を取らせてしまいました。どうぞ早く、お仲間を出して差し上げてください。そしてもうこの国にご用は無いでしょうから、やはり早く。この国をお発ちになってください。もうお会いすることも無いかもしれませんが、どうか皆さん、ご無事で」



 玉座の間を出て地下牢に向かう道すがら、ミネアが呟く。

「アリーナは、本当に……。ライアンさんと同類というか……」
「私とアリーナ殿が、同類ですか。確かに、前衛という意味ではそうですが」
「女王陛下でなく、ただの姫君であれば良かったのじゃがの。惜しいの」
「……女王陛下で、良かったですわ……い、いえ、その。アリーナ様に、そのおつもりは無いようでしたので」

 アリーナから鍵を受け取り、鑑定したトルネコが声を潜めて叫ぶ。

「あらあら、まあまあ!これは、最後の鍵ね!大変なものを、いただいちゃったわね!」
「最後の鍵?なんだ、それは?」

 アリーナの疑問に、トルネコが答える。

「簡単な鍵を開けられる盗賊の鍵と、少し複雑な鍵を開けられる魔法の鍵は、もう持っていますけれど。誰にでもとはいかなくても、現在でも人の手で作れるそれらとは違って、いつ誰が作ったとも知れない、この世にひとつしかない、この世の全ての扉を開くことができると言われているのが、この最後の鍵なんですのよ。まさか、実際に目にすることがあるとは思わなかったわ!」
「そうか。それなら確かに、大変なものだな」
「最後の鍵に、天空の盾に、場所がはっきりしないとはいえ貴重な武具までいただけるなんて!大したこと無いように言っていたけれど、ずいぶん太っ腹ね!早くマーニャさんを迎えに行って、地下室を探しに行きましょう!」
「うん。マーニャを早く、出してあげないとね」


 地下牢に下りる階段に近付くと、階段下から熱気が上がってきた。

「妙に、暑いの」
「先ほど出てきた時は、むしろ冷えるように思いましたが」

 疑問を漏らしながら階下に向かうと、牢屋の前に人集(ひとだか)りができていた。

「はて。珍しい囚人でも入ったのか」
「……珍しい……囚人……」

 ライアンが素朴な疑問を呟き、ミネアが嫌な予感に眉を寄せる。

 人集りから、黄色い歓声が上がる。

「きゃー!マーニャ様ー!こっち向いてー!」
「うるせえな。見世物じゃねえんだ。暑苦しいからあっち行け」
「そういう釣れないところも、素敵ー!」

 マーニャの入る牢を中心として地下室には女性が溢れ、熱気が満ち満ちていた。
 牢番の兵士が一行に気付き、声をかけてくる。

「話は聞いております。行ってしまわれるのですね。寂しくなるなあ……あ、いえ。今、道をあけさせますから」

 女兵士は溢れ返る女性たちを掻き分けて道を作り、周りの牢からは他の囚人の男の愚痴る声が聞こえてくる。

「ほらほら、道をあけなさい。マーニャ殿は無実が証明され、お発ちになるのだから」
「えー!もうお別れだなんて、そんなー!」
「牢から出られるなら、このあと私と!」
「ちょっと!抜け駆けは許さないわよ!」
「ちっ、色男が。ようやく、いなくなりやがるのか」
「馬鹿、滅多なこと言うな!また火の玉が飛んでくるぞ!」
「そうだぞ、次は当てるって言われたろ!」

 聞こえてくる内容に、ミネアの顔がどんどん暗くなる。

「兄さん……。あれほど、大人しくしてろと言ったのに……」
「まあまあ、ミネアさん。当てなかったっていうんだから、いいじゃないの。兵士さんも、怒ってはいないようだし。」
「そういう問題では……」

 あけられた道を通ってアリーナが牢に近付き、鍵を開ける。

「おう。割と早かったな」
「そうだな。俺は待っていただけだが」
「行かなかったのかよ」
「思ったほど強くは無かったらしいからな。待つ間に魔物を散々倒せたし、かえって良かったかもしれない」
「やだ、この子も可愛い!」
「マーニャ様、よかったらこのあと私たちと!お連れの方も一緒に!」
「な!アリーナ様!」

 アリーナにまで矛先が向かったのを感じ取ったクリフトが素早く割って入り、女性たちににこやかな笑顔を向ける。

「皆様。私の主と仲間に、何か?大変申し訳無いのですが、急ぐ旅の途中なのです。こちらの、女王陛下の!要請で、早く旅立つようにも言われておりますし。他にも仲間の、女性たちが!待っておりますので。皆様とは、いずれご縁がありましたらと言うことで。この場は、失礼させて頂きますわ!」

 サントハイムの王城仕込みの洗練された所作に美しい笑顔で有無を言わせず言い切るクリフトに女性たちが怯んだ隙に、マーニャが牢を出て仲間の元に向かい、アリーナも続く。

「なかなかやるもんだな、クリフトも」
「兄さんは、騒ぎを起こさずにはいられないんだね……」
「オレのせいかよ。勝手に群がってきやがったのによ」
「マーニャ。大丈夫だった?」
「問題ねえ」
「そう。よかった」

 まだ何か言いたそうなミネアが口を開く前に、トルネコが明るく声を上げる。

「さあ、さあ!マーニャさんも、無事に出られたことだし!女王さまのためにも、あまり長居はできないわ!早く、用事を済ませてしまいましょう!天空の盾と、お宝を探すわよ!」


 張り切って先を行くトルネコに続いて仲間たちも地下牢を後にし、着いてきたそうな雰囲気を醸し出す女性たちはクリフトが笑顔で牽制して追い払い、まずは天空の盾を回収する。

「さあ、ユウちゃん!装備してみてちょうだいな!」
「うん。……うん、いいみたい」

 兜の時のように光を放つことこそ無いものの、やはり盾も(あつら)えられたかのように、少女の手にしっくりと馴染んだ。

「それもやはり、ライアンには装備できないのか?」
「そうねえ。ちょっと、気になるわねえ。」
「出来るとは思えませんが。ユウ殿、少し宜しいですか?」
「うん。はい」

 少女がライアンに盾を差し出し、受け取ったライアンが構える。

「くっ……、やはり、無理、ですな」

 途端に重量を増した盾にライアンが一瞬ぐらつき、すぐに構えを解く。

「やはり、駄目なのか」
「どういう仕組みなのかしらねえ。不思議ねえ。」
「兜に続いて盾も、となると。やはり、予言と伝説は繋がっていると考えたほうがよさそうですね。天空の武器防具を身に付ける資格を持つ者は、予言の勇者であると」
「あとは、鎧と、剣を探せばいいのね」
「そうですね」
「そうね!でも、その前に!まずは、この城のお宝ね!」


さらに張り切って歩き出したトルネコは宝のにおいを辿り、あっさりと隠された地下室を見つけ出す。

「こんな目立つところにある階段の、誰も気にしない裏側の、隠し扉の先だなんてねえ。においがしなければ、あたしたちだって気付かないわねえ。」
「同じように、特技を使って探す人はいなかったのでしょうか」
「トルネコ殿が当たり前のように使われるゆえ、忘れがちじゃが。商人で、護衛も雇わず危険な道のりを、何度も歩いて移動するような者はそうはおらぬでな。修得できるほどに経験を積むことも、その後に体得することも、本来ならば容易なことでは無い。それほどの商人が、宝を探して歩き回るようなことも有るまいしの」
「あら、やだ。なんだかあたしったら、ずいぶん意地汚いみたいねえ。ちょっと節約しすぎたかしら。商人をやっていた頃も、キメラの翼はほとんど使わなかったから。」
「なんの。主婦の鑑と、誇るべきじゃて」
「あら、やだ。ものは言いようって、このことかしら。でもこんなに貴重なものがたくさんあるお城なのに、なんであの泥棒さんは、わざわざブロンズの十字架なんて盗んだのかしらねえ。」
「元々は、この地下室を探しにきたっつってたな。で、見つからねえから腹いせに、記念になりそうな珍しいもんを盗ってやったとか」
「記念で捕まってれば世話ないね」
「全くな」

 話しながら地下室に足を踏み入れ、中にあった宝箱を開けて、トルネコが大声を上げる。

「まあ!これは!アリーナさん、炎の爪よ!」
「何!以前言っていた、あれか!」
「ええ!武術家用で、知られている中では最高の威力を持つ武器ね!これは当然、アリーナさんが使うべきね!」

 トルネコが取り出した炎の爪を差し出し、受け取ったアリーナが早速手に嵌めて感触を確かめる。

「……これは。初めて持つのに、随分と手に馴染むな。俺には魔力のことはわからないが、それでも何か、強い力を感じる」
「武器と人にも、相性があると言いますものね。アリーナさんと、相性がいいのかもしれませんわね。武器としても強いけれど、道具として使うと火炎の中級魔法程度の威力があるとか。基本的には普通に攻撃したほうがいいでしょうけれど、魔法しか効かないような敵が相手のときには、いいかもしれませんわね。」
「そうだな。覚えておこう」

 話が終わったのを見て、マーニャが口を開く。

「おし、じゃあもう用はねえな。さっさと出ようぜ、こんな国」
「気持ちはわかるけど、最終的にはかなりお世話になったんだから。そんな言い方はやめろよ」
「さっさと出てけって言われてんだろ?問題ねえだろ、別に。で、次はどこ行くんだ」
「一応、目的地はロザリーヒルになるだろうけど」
「なんだ?そのロザリーヒルってのは」
「たぶんだけど。イムルで見た夢と関係ある場所だと思ってる」
「うむ。あの夢で見た娘の名がロザリーであったこと。かつて魔族が済んでおった等とも聞けば、そう考えるのが自然じゃろうの」
「おし、なら行こうぜ。さっさと」
「待ちなされ。直接そこに向かうので無く、先に寄るべきところがあると。ミネア殿は、そう言いたいのであろう?」
「はい。天空の剣と鎧については、在りかの情報が全くありませんから。寄れるところには寄って、所在を確認していくべきかと」
「あら、それなら。まずは、メダル王様のお城に行きましょう!」

 ブライとミネアの話を受けてトルネコが提案し、クリフトとライアンが疑問を投げかける。

「メダル王様、とは?」
「そのような国があるとは、聞いたことがありませんが」
「あら、やだ。国じゃないのよ。小さなメダルを集められてる収集家で、小さなメダルを持っていくと珍しい品物と交換してくださるという、奇特な方でね。ここから東のほうに住んでいるっていうのよ。」
「小さな、メダル?……これのこと?」

 少女が道具袋を探り、数枚のメダルを差し出す。

「ああ、そうそう。さっきの洞窟にもあったけれど、それがそうよ。」
「それなら、私も持っておりますな」
「オレもだな。なんでか捨てられねえから、呪われてんじゃねえかと思ってたが」
「そんなこと思ってたのか……というか、捨てようとしてたのか」
「使わねえもんなら、要らねえだろ。売れもしねえし」
「あら、まあ。捨てられなくて、よかったわ。とにかくそのメダル王様のお城は、ここよ。」

 トルネコが、地図を指し示す。

「ここなら、そこを経由してまだ見ていない場所を回って、ロザリーヒルを目指すのに丁度いいですね」
「そうでしょう。それなら、これからそこを目指すということで、いいかしら。普通なら、宿で一泊していくところだけれど。」
「こんな城の宿に泊まるとか、冗談じゃねえ。落ち着いて寝られやしねえよ。イムルにルーラでもして、船で寝りゃいいだろ」
「そうじゃの。イムルはイムルで、またあの夢を見るとなれば、やはり落ち着いては寝られぬからの」
「メダルを集めてる、メダル王様のお城ね。……王様、なの?国じゃ、ないのに?」
「そうねえ。呼ばれてるのか名乗ってるのかは知らないけれど。とにかく、王様ということになってるわねえ。」
「そうなのね。わかった」
「では、参りましょうか」


 一行はルーラでガーデンブルグを離れ、イムルから海に出て船旅を開始する。 
 

 
後書き
 女王の国の至宝と想いを託され、一行は更なる旅に向かう。
 向かった先の洞窟に、眠るもの。

 次回、『5-46洞窟に眠る宝』。
 10/30(水)午前5:00更新。 
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