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P3二次

作者:チップ
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「どうもこんばんは。伊織順平アワーのお時間です」

 何で六月入ってすぐの夜にこんな馬鹿な話を聞かなきゃいけないのか。
 ゆかりは怖がってるみたいだし、真田先輩と桐条先輩は興味津々。
 最近学校で起きたちょっとした事件についてを面白おかしく話す気なんだろうけど……
 私は正直、それどころじゃない。
 裏瀬くんが最近忙しくて構ってもらえないのだ。
 前にタルタロスに行った時に色々興味を刺激されたようで、独自に調べているらしい。
 そのせいで最近は寮に居る時間も少なくなっていた。
 元々寮に住んでいるわけでもないので、接する時間が更に減っている……

「世の中には、どーも不思議なことってあるようなんですよ……」

 じゅんぺーが芝居がかった言い回しで語り始める。
 それにしても不思議なこと、か。
 例えば――――私が裏瀬くんに一目惚れしたこともそうだよね。
 物語などでは運命なんて陳腐な言葉を使って居るけど、現実では不思議なことだ。

「ご存知ですか? 遅くまで学校にいると……死んだはずの生徒が現れて食われるよって怪談」

 ありがちな怪談だと思う。
 そう言えば月光館学園にも七不思議なんてものがあるのかな?

「私の知り合いに、そうですねえ……仮にAとしておきましょうか。Aがね、言うんですよ」

 雰囲気を作るために妙な言い方しているんだろうけど、逆に滑稽だ。
 けど、ゆかりには効果覿面のようで青い顔をしている。
 真田先輩と桐条先輩は普通に聞いてるけど。

「"伊織さあ、オレ、変なもの見ちゃった"って。あんまり真剣なもんだから、何が~? って私聞きました。彼に」

 友達に聞いた、あるいは友達の友達に聞いた、怪談の常套句だ。
 何の捻りもないのでもう少し工夫して欲しいと思う。

「彼、首傾げながらね、"実は例のE組の子なんだけどね……"」

 あーあ、メール返って来ないなぁ。

「"……事件の前の番、学校来てるとこ見たよ"って言うんです!
"うそだ~、そんなんあるかい、うそだ~"って私、彼に言ってやりましたよ」

 この小芝居にも飽きて来た。
 どうにもこうにも、回りくどくていけない。

「E組の子、夜遊びするような人間じゃない

でも彼、真っ青なんだ顔。確かに見たって、ガタガタガタガタ震えてる……
私、考えましたよ。そうなんだ、倒れていたE組の彼女ぉ?
……食われたんですよ、死んだはずの生徒に! 私、ぞくーっとしました」

 今、裏瀬くん何やっているんだろう?

「まあ、全部私の推測なんですがね」

 私も何か力になれればいいのになぁ……でも、迷惑かけたくないし……
 とりあえずこの怪談ネタ、話しのネタになりそうだしメールしてみよ。

「どう思う、明彦?」
「あら? オレが熱演した件はスルー……?」
「怨霊かはともかく調べる価値はありそうだな」

 あ、返信来た。
 "気になるなら俺の名前を出して、エスカペイドのバーテンにでも調べてもらえ"
 何とも味気ない返事でガッカリ……
 だけど忙しいなら仕方ないよね。

「しっかし、ゆかりッチさ。お化けが苦手とはチョイ情けないよな」
「な!? 情けないって言った!? い、いーわよ順平。だったら調べよーじゃないの」

 しかしエスカペイドのバーテンって……前に案内してくれた人かな?

「お互い、これから一週間、色んな人からテッテーテキに話を聞いて回るワケ。
怪談なんて、ゼッタイ嘘に決まってるし!」

 ガーっと捲し立てるゆかり、こう言うところが可愛いんだよね。

「それは助かる。気味の悪い話だからな」
「じゃ、よろしくな。あー怖い怖い」

 先輩二人の茶化すような言葉にゆかりが呻く。
 しかしどうして桐条先輩達はこの件に興味を示したんだろう?
 S.E.E.S.の活動に関係があるのならば自分で動くのが一番じゃないのかな?
 こう言うこと言うのはどうかと思うけど……桐条なんだし。
 何時だったか裏瀬くんが言っていた。

"いいねえ御嬢様ってのは。金も、人も潤沢に投入出来る。いやまあ、金に関しちゃどうとでもなるが人員はなぁ……"

 プロが配下に居るのが羨ましい、彼はそうぼやいていた。
 何で羨ましがっているのかはよく分からなかったけど……

「ねえねえゆかり」
「何?」

 友達として助け舟くらいは出してあげよう。

「調べるんだったら、エスカペイド行ってみるのもいいかも」
「エスカペイドって……交番の近くのクラブ?」
「うん。さっき裏瀬くんにメールしたら、気になるんならそこに居るバーテンの人を使っていいって言ってた」
「使っていいって……御言葉に甘えて――いいのかな?」
「いいと思うよ。自分の名前出せば問題ないって書いてたし」

 そう言うとゆかりは感心したような呆れたような、そんな表情になった。

「何と言うか……裏瀬ってイメージ違うわよね。関わるまでと全然違って印象変わったわ」
「マジ? オレは何か今もちょい怖いけどな。ゆかりッチって案外懐広い」
「案外って何よ。つーか、風聞とかで人を判断しないだけだっての」

 こう言うことサラっと言える子と友達になれて、自分は恵まれているんだって実感するなぁ。
 ゆかりはホントいい子だよ。
 頭撫でてバナナ大福をあげたいくらい。

「何?」
「ううん、ゆかりのことが更に好きになっただけ」
「な!?」

 照れて顔を赤くするところも可愛い。

「と言うわけでバナナ大福! 美味しいよ?」
「どう言うワケなのかまったく分かんないけど……うん、ありがと」
「いえいえ。これ食べて調査頑張ってね!」
「他人任せ!?」

 だって私、調べものとか向いてないし……

「頑張って!」



 今日は六月五日、一日に話したことの確認会が開かれることになっている。
 私は色んな人と話したり部活したりで忙しかったから知らないけど、順調なのかな?

「と言うわけで約束の週末ね! どう? 二人ども、ちゃんと色んな人に話聞いた?」
「あれ、今日って何かの日だっけ?」

 ジュンペーは馬鹿だなぁと思う。
 どうしてこうも地雷をピンポイントで踏み抜くのか。
 自分から焚き付けておいてそんな態度取ったら、

「はぁ!?」

 ゆかりが怒るの已む無しだよ。

「じょ、冗談だって! 覚えてるっつの」
「冗談ってさ。時と場合を考えて発言しなきゃ意味ないんだよ?」
「ハムッチ何気に辛辣じゃね!?」

 別にそんなことはない。
 思ったことを口にしただけで、それが辛辣に感じてしまうのならば負い目がある証拠だ。
 …………まあ、全然裏瀬くんと会えてないので鬱憤が溜まってたのは否定しないけど。

「まあいいわ。では、月曜に約束した通り、集めた情報の確認会をします」

 そうは言っても私の場合は殆ど――どころかまったく調べてないんだけどね。
 それを口に出すほど馬鹿じゃないから黙ってお口をミッフィーにする。

「お! ノリ気じゃん」
「当然。私的にはバッチリ色々掴んで来たからね。あ、公子。後で裏瀬のアドレス教えて」
「? 何で?」
「……あんた忘れたの? 自分で言ったことじゃん。世話になったらお礼を言うのが筋でしょ」
「あ、バーテンさんね。はいはい、後でゆかりの携帯に送っておくよ」

 ゆかりなら……まあ、大丈夫だろうし。

「ありがと。じゃ、本題に入るけど――――例の噂はやっぱり怨霊の仕業じゃないよ」
「あ、そこ重要なんだ……」

 実際、もしも怨霊ならばどうすれば良かったんだろう?
 シャドウなんて非科学的な怪物と戦ってるけど、怨霊相手のノウハウなんてない。
 ペルソナで怨霊は撃破出来るのか否か、ちょっと気になるかも。

「まず、この怪談騒ぎのそもそもの発端からだけど……校門で倒れてた子の話は、確かにちょっと怪談の内容と似てる」

 と言うかゆかりのノリが何時もと若干違うのは気のせい?
 もしかして伊織順平アワーに触発されちゃった?

「でも、一人がそう言う目に遭っただけでこんな騒ぎになったのは何故でしょう?」

 そんなのは推測するだけで簡単に分かることだ。

「既に被害者が居たから、でしょ?」
「ハイ、正解! ちゃんと調べてたんじゃん」

 いや、情報の中から簡単に推測出来ることだと思うよ。
 まあ、それを馬鹿正直に述べはしないけど。

「て言うか、驚いたよ! 最初の事件のすぐ後に、実は二度も同じことが連発してたんだから!」

 その割に、話題にはなってるけど規模が大きい感じがしない。
 学校側が風聞を気にして何かしたのかな?
 それでも人の口に戸が建てられないから噂が広まった、と。

「怪談と同じシチュエーションで三人も病院送りじゃ、そりゃ騒がれるワケよ」
「だよねえ。にしても、よく調べたね」
「まあね。聞き込みもマメにしたし、何よりエスカペイドのバーテンさん? が集めてくれた情報もあったからさ」

 何となくだけどそのバーテンさんとか、バーテンさんの手下?
 彼らはきっと裏瀬くんにもこうやってコキ使われているんだろうな。
 容易に想像出来てしまうのはその人柄ゆえか。

「えー、では次! 被害に遭った三人はクラスがバラバラで一見、何の関係も無いみたいに思えます。
でも実は、水面下に共通点があったの。その意外な共通点とは何でしょう?」

 意外? 意外って言うぐらいだからそれは……

「よく出家していた!」

 これぐらいの意外さがあるはずだ。
 頻繁に尼僧になっていたとか、字面だけでインパクト抜群だもの。

「出家じゃねーよ。しかもよくって何よ……」

 呆れたような顔で切り捨てられてしまう。

「だってゆかりが意外だって言うんだもん。そりゃ出家くらいはするよ」
「しないっつーの。"出家"じゃなくて"家出"してたの!」

 あー……そう言うことか。
 別にそれって意外でも何でもなくない? とは思うけどやっぱりお口はチャック。
 沈黙は金なりって誰かも言ってるし。

「それも結構ちょくちょく出てたみたい」

 いわゆるヤンキーって言うやつなんだろう。
 だったらエスカペイドのバーテンさん――と言うより裏瀬くんの下に居る人達に聞けば分かるはずだ。
 裏瀬くんってアウトローの総元締めみたいな感じだし。

「いくつかワルいグループと関わってて、路上オールとかしてる時に知り合ったみたい」

 路上オールって……せめて誰かの家で溜まればいいのに。
 万が一影時間に適正があってシャドウに襲われてたら一瞬で影人間になっちゃうよ。

「三人とも、同じ状況で見つかってんだから、この繋がりはゼッタイ何かあると思う」
「だろうね。なければ何か拍子抜けだし」

 何らかの共通点で繋がった者があんな目に遭う。
 怨恨って線が強そうな気もするけど……うん、詳しく調べなきゃ分かんないや。

「よって、更なる真相に近付くべく、現場取材を決行することにしたから」
「は? 現場取材?」

 家出してた子らが発見された校門を調べるのかな?
 刑事ドラマみたいに髪の毛一本から採取して鑑識に……やだ、ドキドキして来た。

「被害者三人が決まって夜明かししてた溜まり場ってのがあるらしいの」
「え、鑑識は?」
「公子……アンタ何言ってんの?」
「つかそんなことより、ゆかりッチ……それ、もしかしてポートアイランド駅前の裏入ったとこじゃ……」

 ポートアイランドの裏路地? あんまり知らないけど有名なのかな?
 こっちに来て二月くらい経つけどそっち方面はあんま行かないからよく知らないなぁ。

「なんだ、知ってたの?」
「あそこヤバいって!」

 悲鳴染みた順平の声。
 ヤバいってどう言うことだろう? 放射能でも漏れてるの?

「あそこ駅のすぐ裏だけどマジ超いろんなヤバい噂あんだぜ?」
「そーなの? なら、尚更皆で行かなきゃ。ねえ、一緒に来るでしょ?」

 ゆかりの視線がこちらを向く。
 行くかどうかって言われたら……

「もちろん! 何だかんだで話聞いてたら私も事件の真相気になって来たし」

 無視したら不完全燃焼のまま終わりそう。
 そんなのはどうにも私の性に合わないので、当然行く。

「だよね」
「オレ、行きたくねーなー……あそこマジ、マンガみたいに荒れてんだよ……」
「情けないわね。女二人が行くって言ってるのにさ」
「つか、そこまでする必要あんの実際!?」

 …………確かにそうだ。
 うん、私は別に構わないけど、ゆかりが入れ込む理由が分からない。
 馬鹿にされたから調べてるだけだと思ってたけど、違うのかな?

「だって、今まで私達、先輩に言われたまんま動いてたでしょ?」

 ゆかりの顔はどこか険しい。
 何となく気付いてたけど、彼女は色んな疑念を抱いているようだ。
 確かに秘密主義な先輩やらに不信感を抱くのも無理はない。
 今まで空気的に聞けなかったけど、私達はあまりに多くを知らなさすぎる。
 例えば、影時間がどうして始まったのか、シャドウやペルソナって何なのか。
 ある程度は教えられているけど、本質と言うものは何も知らない。

「このままでいいのかなって、そう言う風に思わない?」

 ゆかりは裏瀬くんと同じタイプの人間だ。
 私は……自分で言うのも何だけど深くは考えず、割と流されやすいと自覚してる。
 けど、二人は違う。
 気になることがあれば自分の手で解き明かし、そのための労力を惜しまない。
 今ここに居ない裏瀬くんも、この件とは別の何かを調べている。
 それが何かは分からないけど、自分の意思で行動してるのは間違いない。
 そんな二人に少しばかりの憧れを抱いてしまう。

「……や、そうかもしんないけどさぁ……そこで真顔かよ。ズリぃなー」

 順平も薄々は何かを思っていたようだ。
 だから今のその顔は諦め半分、決意半分って感じしてる。
 でも、私はこうも思うのだ。
 総てを知るって言うのは本当に幸せに繋がるのか、と。
 暴いた真実が残酷で、自分自身を傷付けないと、どうして断言出来る?
 私はゆかりが心配だ。
 裏瀬くんはある種超然としているから、どんな真実でも最後には一人でちゃんと呑み込めるだろう。
 けど、ゆかりは違う。
 強いように見えて、本当は誰よりも傷付き易い優しい女の子、私の大事なお友達。
 せめて真実が優しいものであることを祈ることしか――――違う。
 そうじゃない、それでは余りにも友達甲斐がなさすぎる。
 どんなに鋭く、茨のような真実であろうと、支えてあげればいいんだ。
 私はゆかりを友達だと思ってる、だったら傍で支えて、立ち上がれる手伝いをすればいい。
 一人で歩くのが怖いなら、闇の中で一緒に手を繋ごう。
 どんな暗闇であろうとも、誰かと一緒なら――――きっと、乗り越えられるから。

「でも……はぁ……行かなきゃ駄目?」

 順平の声で一気に引き戻される。
 …………どうにも、深く考え込みすぎていたみたい。
 うん、ちょっと反省。

「決まりね。明日の夜に出発だから、そのつもりでよろしく」

 ビビりな順平のリアクションなどガンスルーでゆかりは話を締めくくった。
 トホホと肩を落とす彼の姿は……何だろ、ちょっと笑える。
 コメディリリーフって言うのかな? 順平はそう言うのがよく似合う。
 勿論悪い意味じゃなくて良い意味で。

「まあまあ順平、元気出しなよ」
「キミッチは肝据わりすぎなんだってば……」

 まあ、そりゃ女は愛嬌と度胸を兼ね備えた無敵艦隊だもん。
 でも好きな人の前ではただの乙女に!
 ちょっと痛いフレーズかな?

「ほら、いざとなれば打つ手もあるし」
「打つ手?」
「不良って言うならさ、裏瀬くんの名前出せばいいでしょ?」

 利用するみたいでアレだけど、裏瀬くんの性格からして絶対気にしないはずだ。
 知り合いでも何でもない人が名を騙ったり威を借るとかだったら駄目だろうけど……

「いやでも、それもどうかと思うぜ? 噂なんだけどさ、前に裏瀬の名前使ってやんちゃした奴いるらしいのよ」
「ほうほう、それで?」
「ボッコボコにボコられてブリッジからバンジーさせられたらしいぜ」
「そりゃ自業自得じゃない。緊急避難にくらいだったら怒らないよ」

 そのバンジーさんは裏瀬くんが煩わしいと思うことをやったから見せしめになっただけだと思う。
 長い付き合い――――とは言えないけど、何となくそんな気がする。
 だからちょっとした緊急避難くらいでは目くじらを立てないはず。

「ま、頑張ろ! ね?」
「うーっす……」 
 

 
後書き
基本的にこの物語は主人公の視点で進みます。
が、本筋に関わっていない時は原作女主人公の視点になります。 
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