久遠の神話
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第五十三話 十一人目の影その十
「悪酔いするから」
「あれしたからなのね」
「多分さ、日本酒だけだとあそこまで酔わなかったよ」
「一升飲んでもなの」
「普通に酔ってるだけで」
今の様にだというのだ。
「最初に爆弾酒なんてやったから」
「あれ叔父さんが勧めたからね」
「あの人だね、善和叔父さん」
「そう、あの人の仕事先で教えてもらったお酒って」
それを勧められたというのだ。
「飲んだからよね」
「ビールだけならいいんだよ」
零もビールはましだとする。
「それでもね。ウイスキーとちゃんぽんしたら」
「悪酔いするわよね」
「かなりね、それで飲んでからだったから」
「悪酔いしたのね」
「覚えてないでしょ、一升飲んでから」
「私具体的に何したの?」
「何って。絡むし笑うし」
またこの話をする零だった。
「で、そこからまた酒飲んで本当に泥酔した女子大生だったから」
「ううん、それは」
「反省した?」
「したわ。記憶はなかったけれど」
ついでに言えば二日酔いもなかった、どうやら樹里はアルコール分解は相当いい体質らしい。彼女にとって幸いなことに。
「もうああした飲み方はしないわ」
「それがいいよ。日本酒だけでね」
飲むのならというのだ。
「ビールならビールだけで」
「爆弾酒は、よね」
「あれは止めた方がいいね」
これについては駄目出しする零だった。
「違うお酒を同時に飲むのはよくないよ」
「そうみたいね」
「あ姉ちゃん今はワインだけだからいいと思うよ」
「けれど二本までよね」
「それ位で止めた方がいいよ」
こう姉に話す。
「健康の為にね」
「そういうことね。じゃあワインはこれ位にして」
「後片付け出来るよね」
「安心して、あとポトフ作ったけれど」
今度は樹里から話す。
「食べる?熱したら日持ちするわよ」
「それじゃあ晩にでも」
「そうしてね。もう卵は全部使ったから」
上城と一緒にオムレツにして食べたからだ。食べ物は食べればなくなってしまう。
「晩のおかずはもう買ってあるけれどね」
「晩は何なの?」
「コロッケよ」
それだというのは。
「安売りのコロッケ買ったから」
「それでなんだ」
「そう、お父さんの分も買ってあるから」
「用意がいいね、いつも通り」
零は笑って姉のそうしたところは認めて褒めた。
「やっぱりお姉ちゃんってお母さん気質だね」
「そうかしら」
「うん、そう思うよ」
こう笑顔で姉に言う。
「上城さんも幸せだよね。頼りになる相手で」
「うん、村山さんと一緒にいればね」
上城は零の言葉の意味を少し誤解して答えた。
「落ち着くしね」
「じゃあ一緒にいればどうかな」
零は少し隠して言った。
「これからもね」
「いいね、じゃあ今はね」
上城はまだ全く気付いていない。それは樹里も同じだ。
気付いていない男が気付いていない女にこう言ったのだった。
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