Element Magic Trinity
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月は出ているか
「オッサン・・・その腕・・・」
「呪いって、まさか・・・その・・・」
ボボの左腕・・・明らかに人間のモノではない異形の腕に付いて、グレイとルーシィが問いかけようとした。
だがそれとほぼ同時に、ボボの視線が船の前方を向く。
「見えてきた。ガルナ島だ」
遠目で見た感じ、どこにでもある普通の島だ。
「ねぇ・・・オジさん」
ルーシィが島から視線を外し、ボボに声を掛ける、が。
「あれ?オジさん、いないよ?」
そう。
ルーの言う通り、ボボは先ほどまでいた場所から忽然と消えていた。
「落ちた!?」
グレイの言葉に反応し、ハッピーが飛び込み、ルーは水に顔をつける。
「いないよ」
「こっちも」
「うそ?どうなってんの?」
先ほどまでいた人間が煙のように消えたのだ。
驚かずにはいられない。
すると海の水がたぷんと揺れ、ゴゴゴゴゴ・・・と怪しげな音が響く。
そう・・・まるで、危険が近づいて来ているかのような音が・・・。
「な、何の音?」
酔ってずっと黙っていたナツが小さく呟く。
そしてルーシィとグレイ、ルーの視線の先にあったのは・・・。
「きゃあああ!」
「わ~、波だ~!」
「んな気楽なモンじゃねーだろっ!」
巨大な大波だった。
「のまれるぞ!」
「ハッピー!船を持ち上げて飛ぶのよ!」
「無理だよォ!」
「ルー!お前の魔法でどーにかできんだろ!」
「・・・てへっ」
「誤魔化すなぁぁぁぁっ!」
「おぷ」
「つーかコレほどけ!死ぬ!」
「きゃああああ!」
「くそっ!テメェ等のせいで!」
「あー!ナツの目がぐるぐるー!」
そうこう騒いでいる間に、船は波にのまれたのだった。
目を覚ますと、どこかの海岸にいた。
「ここは・・・?」
1番最初に目覚めたルーシィはきょろきょろあたりを見回す。
そして真っ先に目に飛び込んできたのは、倒れている4人だった。
「皆、無事!?」
「ん・・・」
「無事だけどお腹が空いて動けません」
「・・・」
ナツは小さく反応し、ルーは真顔で呟き、グレイは反応なし。
「おおっ!着いたのか!?ガルナ島!」
「どうやら昨日の大波で海辺に押し寄せられたみたいね」
「ハッピー、魚半分ちょうだい。餓死する前に」
「あい!」
がばっと音がしそうな勢いでナツが起き上がる。
そしてそんな事お構いなしにハッピーから貰った魚半分を頬張るルー。
その食いっぷりからして、かなり空腹だったのだろう。
「それにしても何だったんだろ?あの腕・・・悪魔の呪い?それに消えたオジさん」
「気にすんなっ!探検いこーぜ!探検!」
「賛成!」
「あいさー!」
「依頼内容からして最も気にすべき事じゃないかしら!?」
はしゃぐ3人に呆れるルーシィ。
「この島には村が1つあるらしいんだけど、そこの村長さんが今回の依頼主よ。まずはそこを目指しましょ」
「待ちな」
漸く今後の方針が決まった時、倒れていたグレイが起き上がる。
「何だよ!ここまで来たらもう連れ戻せねーぞ!」
「そーだそーだ!」
「いや・・・俺も行く」
ビシッと服を正しながらそう言うグレイを呆気に取られたように見つめる4人。
一応言っておくが『わ!グレイが服をちゃんと着てる!珍しっ』とかそういう意味で呆気に取られた訳ではない。
「やっぱりお前らだけ先に2階行くのもシャクだし、破門になったらそれはそれでつまらん」
グレイの言葉に全員が笑みを浮かべる。
「行こうぜ」
「「「「おおっ!」」」」
『KEEP OUT』
村の入り口には、そう書かれていた。
しかもドデカい門があって、村をドデカい柵が覆い隠している。
「立ち入り禁止だって」
「一体どんな村だよ・・・」
「すいませーん!開けてください!」
ルーシィが門に向かって呼びかけるが、反応なし。
「まいったな・・・壊すか」
「ダメ!」
「何者だ」
ルーシィが怒鳴ったと同時に門の上から2人の男が顔を覗かせた。
「魔導士ギルド、妖精の尻尾の者です・・・あの・・・依頼を見てきたんですけど・・・」
「妖精の尻尾?依頼が受理されたとの報告は入っていない」
「いや・・・あの・・・」
まさか『ギルドの掟を破って来ちゃいました』なんて言えるはずがない。
「何かの手違いで遅れてんだろ。村に入れねぇなら帰るけど」
「俺は帰らんぞ!」
「僕もだよっ!」
グレイの言葉にナツとルーが反論するが、小さく「黙ってろ」と呟き黙らせた。
「全員紋章を見せろ」
そう言われてナツは右肩、ルーシィは右手の甲、グレイは右胸、ハッピーは背中、ルーは左手の甲と、それぞれに刻まれたギルドの紋章を見せた。
「本物の様だぞ」
「うーむ・・・その緑色の髪の『女』の服を脱がせ」
「僕は男だよ」
「そ、そうか・・・では、金髪の女の服を脱がせ」
「何で!?関係ないでしょ!コラ!脱がすな!」
確認とは関係ない事を言う男に対して怒鳴り、真顔でルーシィの服を脱がしにかかるナツとグレイとルーに怒鳴るルーシィ。
「うむ・・・すまん。調子こいた。入りなさい・・・村長を呼んでこよう」
ズズズ・・・と音を立てて、門が開いた。
「よくぞ来て下さった。魔導士の方々・・・ほがほが」
そう言って他の村人より前に出てきているのは、ここの村長である『モカ』。
村人は全員身体全体を覆い隠すローブを身に着けていた。
「早速ですが、これを見て頂きたい。皆の者、布を取りなさい」
モカがそう言うと、村人全員がローブを脱ぎ捨てる。
そこには消えたボボ同様、身体の一部が異形な形になっている村人たちの姿があった。
それはモカのような老人からルーシィ達と歳の変わらなさそうな若者、それより年下の子供にも同じ現象が起こっていた。
「やはり・・・」
予想通りの光景にグレイが呟き、ルーシィが唾を飲み込む。
「スゲェモミアゲ!」
「ヘチマみたいになってるよ!」
「いや・・・見てほしいのはこっちじゃ・・・ほが・・・」
ここに来て見てほしいのはモミアゲ、なんて事はないだろう。
「驚かれましたかな?ほがほが。この島にいる者全て・・・犬や鳥まで例外なく、このような呪いにかかっております。ほが」
「言葉を返すようだが、何を根拠に『呪い』だと?」
「確かに・・・はやり病かなんかとは考えないの?」
「何十人という医者に見てもらいましたが、このような病気はないとの事です。ほが」
疑問に思ったグレイとルーが言うが、モカはそれを否定する。
「それに・・・こんな姿になってしまったのは『月の魔力』が関係しておるのです」
「月の魔力?」
ルーシィが首を傾げる。
「元々この島は古代からの月の光を蓄積し、島全体が月のように輝く美しい島でした。しかし、何年か前に突然月の光が紫色に変わり始めたのです」
「紫!?」
「そんな月見た事ないよ」
「うん」
初めて聞く月の色にナツ達は驚く。
「外から来た者は皆そう言うのです・・・ほがほが。だが・・・現にこの島の月は紫になった・・・そして紫の月が現れてから、ワシ等の姿が変わり出した」
モカがそう語っている間に日が暮れはじめ、空に月が出る。
「月が出てきた!」
「本当だ、紫・・・」
「気味悪ィな、コイツは・・・」
「これは月の魔力の呪いなのです」
モカがそう言った瞬間、カッとモカの身体に異変が起こる。
モカだけではない、後ろにいた村人達にも異変が起こり始めた。
「うっ!うう~!」
「おおおおお・・・」
「え?な、何!?やだ・・・どうしちゃったの!?」
そして呻き声が止むと、そこに先ほどまでの村人たちはいなかった。
村人は全員・・・悪魔のような姿に変貌していたのだ。
それを見たナツ達は目を見開いて驚く。
「驚かして申し訳ない・・・紫の月が出ている間、ワシ等はこのような醜い悪魔の姿へと変わってしまう。これを呪いと言わず・・・何と言えばよいのでしょうか?」
「ひっく・・・ひっく・・・」
「大丈夫・・・大丈夫よ」
「うう・・・」
「う・・・」
村人の何人かは変わり果てた自分の姿を見て泣き出してしまう。
そりゃそうだろう。先ほどまで、一部は違えど人間だったのだ。
それが突然このような悪魔の姿になってしまったら・・・誰だって泣きたくなる。
「朝になれば皆・・・元の姿に戻ります。しかし・・・中には戻れず、心まで失ってしまう者が出てきたのです」
「そんな・・・」
「心を失い魔物と化してしまった者は殺す事に決めたのです」
「えぇっ!?」
「元に戻るかもしれねぇのにか!?」
「殺す」という言葉にルーとナツが驚愕する。
「放っておけば皆がその魔物に殺される・・・ほが。幽閉しても牢などを壊してしまうのです」
そう言ってモカは1枚の写真を取り出す。
「だから・・・ワシも息子を殺しました・・・心まで悪魔になってしまった息子を・・・」
その写真に写っていたのは・・・ナツ達をガルナ島近くまで連れて行ってくれた船乗り・・・ボボだった。
「え!?」
「その人・・・えぇ!?でも・・・あたし達、昨日・・・」
「しっ」
ルーシィが何か言う前にグレイが止める。
「ようやく消えちまった理由が解った。そりゃあ・・・浮かばれねぇわな」
「幽霊」・・・。
その言葉が全員の頭の中をよぎった。
「さぞ高名な魔導士方とお見受けします。どうかこの島を救ってください・・・」
モカが頭を下げ、つられるように後ろにいた村人たちも頭を下げる。
「このままでは全員・・・心が奪われ・・・悪魔に・・・」
「そんな事にはならねぇっ!」
「僕達が絶対絶対何とかするっ!」
泣きながら頼み込むモカを見て、ナツとルーが声を張り上げる。
「私達の呪いを解く方法は1つ・・・」
モカはそこで一呼吸置いた。
「月を破壊してください」
「「「「「え!?」」」」」
ナツ達は、全員同時に声を上げたのだった。
後書き
こんにちは、緋色の空です。
次回、ついに厄災の悪魔が登場します。
感想・批評、お待ちしてます。
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