真・恋姫無双 矛盾の真実 最強の矛と無敵の盾
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拠点フェイズ 3
拠点フェイズ 劉備 (桃色) 「我愛你」
前書き
今回はあとがきなしで、まえがきにて失礼します。
まずはやっと出せました、諸葛菜。感想で「あちゃーネタ先越された」と頭を抱えたのもいい思い出。なかなか出せずに苦労しました。とりあえず孔明が感謝されたことに由来しているので、感謝される理由をださないとねw
次に、伏線の服屋がようやく使えました。于吉、サイテーw 理由は本文で。
最後に……ネタアンケートにお応えいただいた方々に感謝!
局部描写がないから18禁にならないはず……勧告来たら修正しますけど。
結構控えめにしているから多分大丈夫……多分w
これが最後でもないしね。
それではお楽しみください。(今までで最長の文章量になりました)
―― 曹操 side 陳留 ――
「おはようございます、華琳様。本日のご報告をさせていただきます」
陳留内城の王座の間。
ここにいるのは、我が曹操陣営の精鋭。
私の両脇に控える曹の剣である夏侯元譲こと、春蘭。
そして曹の弓である夏侯妙才こと、秋蘭。
そして私の前にて跪くのは、王佐の才といわれた荀文若こと、桂花。
今いるこの三名こそが、私のーーこの曹孟徳の腹心中の腹心達。
「華琳様が州牧となられてから、本日でちょうど一年になります。現在のところ、陳留を始め各領地での屯田兵制度は順調に施行されています」
「そう。国庫の方はどうかしら?」
「はい。昨年に比べて国庫への歳入は倍以上になっております。歳出としての賃金を差し引いたとしても、昨年の歳入……その半分以上の上増しが確認されております」
「よろしい。今後、農地の拡大する場合は、全て屯田兵制度として行うように。歳入も増やしつつ、兵も増える……桂花、貴方の案は見事だわ」
「はっ。お褒めに預かりまして、恐悦至極です」
桂花が頭を下げる。
言葉の丁寧さに反して、若干紅潮しつつ息が荒い。
どうやら興奮しているようね……ふふふ。
今夜にでも閨にて褒美を与えなければならないかしら。
「んんっ……内政面での特筆すべきことは以上です。次に諸国の状況についてですが……北の幽州にて、暴動が起こりました」
「……そう。またなのね」
「はい。今回の原因も、劉虞の愚かな搾取によるものです。今回は農民に対してではなく、街の豪商たちの資産を奪ったようです」
「なんという愚かな……商人たちは、資金を生む潤滑油だというのに。それから強引に取り上げたら、物が動かなくなる」
「はい……今回は、商人が一丸となって暴動を起こしました。しかし……」
桂花が、若干目を伏せがちに逡巡する。
あら……めずらしいわね。
この子が言い淀むなんて。
「……どうしたのかしら? 桂花、報告なさい」
「…………は。暴動は、公孫賛の手により鎮圧されました。主に説得の形式をとったようですが……劉虞は、その申し立ての場で投降した商人を火炙りにした上、その家族を奴隷にして農奴に落としたそうです」
「なっ……」
投降した相手をだまし討ちにして、その上家族を奴隷に!?
なんて……愚かなことを。
「このことで、領地からは大量の逃散民が出ておりまして……我が方の領地にも、逃散民が流れてきております」
「当然ね……幽州はもう終わりね。完全に人心を失ったわ。たった一年でよくもそこまで……」
宗正である劉虞については、人が良いという評判があったけど……まさかそこまで最悪の愚物であったとは。
「以前より確執があった公孫賛との中は冷えきっています。北平においては、公孫賛の地元ということもあり、逃散民を受け入れておりますが……劉虞からの元の土地に連行する命令を拒否したことにより、代わりに逃散民一人あたり一石の納税を課せられました」
「……よく我慢しているわね、公孫賛は。私なら、逆に劉虞を追放するわよ?」
「公孫賛は、華琳様ほどの実力も人望もありません。しかし、漢王朝に対する忠誠が高い為に、上司である劉虞の無茶な命令には逆らえないようです」
「……哀れね。だが、それで沈むならその程度ということよ」
公孫賛……もう少し野心が強ければ、私の覇道を阻む好敵手となりえたかもしれない。
だが、やはり公孫賛では物足りないということか。
そう、私の相手になるとするならば……
「……北のことはわかったわ。それより、他に報告があるでしょう?」
「…………………………劉備、ですね」
私の言葉に、苦虫をかみ潰したような顔をする桂花。
…………その様子からすると、かなり深刻なようね。
「桂花……報告なさい」
「…………はっ。先日来より、細作を千人規模で放ったのですが……帰ってきたのは数人でした」
「数人だと!?」
突如、私の隣に居た秋蘭が声をあげる。
無理もない。
細作の教育は……秋蘭が、直に行っていたのだから。
「私も信じられなかったわ。一向に入ってこない情報に、今回過剰とも思える細作を放ったのだけど……梁州の他国からの防諜能力は、尋常じゃないのよ。細作は、漢中に入った途端に捕らえられているわ」
「なんと……一体どういう理由で」
「大手門から入る際に、警備の兵に質問されるのだけど……不審な点があると、密かに追跡されて捕縛されるそうよ。今回帰ってこられた細作が、その現場を見たそうだけど……警備の兵だけでなく、住民たち自身が怪しい人物を取り押さえようとするらしいわ」
「民が……だと?」
「ええ。漢中にいる、数十万の民が、よ。市場でも市場の商人たちが自発的に犯罪を防ごうとするし、ちょっとでも大通りで喧嘩でもあろうものなら即座に警備兵に通報がいく。その警備兵……警官とかいうらしいけれど、その一人ひとりが高い士気を持っていて、常に漢中を走り回っているわ」
「………………」
桂花の報告に、青い顔で言葉を失う秋蘭。
私も言葉がない。
一体、劉備は……いえ、あの男――天の御遣いは、なにをしたというのか。
私と秋蘭が言葉を失っているのを見た春蘭が、おずおずと口を開く。
「しかしな、桂花よ。私は思うのだが……正攻法で侵入しなくても、細作ならば夜間に忍びこむなど出来るのではないか?」
「あんた馬鹿じゃないの!? それが出来ているならこんなこと報告していないわよ! 忍び込もうとした細作の半数は、向こうの細作に捕らえられているのよ!」
「な、なにぃ!? 一体、どんな間抜けを派遣したというの……あ」
「姉者……」
「あ、いや、べ、別に秋蘭の教育が悪かったというのではなく、だな。その、細作の不甲斐なさを口にしただけで、べ、別に秋蘭のせいってわけじゃ……」
「その間抜けを鍛えたのが私だからな……」
「いや、だから……しゅぅらぁん~」
泣きそうになりながら、秋蘭にすがりつく春蘭。
まったく……
「春蘭。秋蘭が鍛えた細作よ。この大陸でも有数の力を持っていると私も思うわ。でも、相手はその上をいっただけよ。別にそれを咎めようとは思わないわ」
「そ、そうですよね、華琳様! 秋蘭は悪くないぞ、うん!」
「…………ご温情、痛み入ります。ですが、細作を失ったのは事実。今後は、より一層厳しく育成いたします」
「ならばよし。期待しているわ」
私の言葉に頭を下げる秋蘭。
そして何故かそれに習って頭を下げる春蘭。
ふふふ……やはり姉妹ね。
「こほん……それで桂花。数人が戻ってこられたのなら、なにか収穫があったということね?」
「はい……漢中では、大規模な農業政策が行われていました。それがこれです」
そう言って、懐から小さい石のようなものを取り出す桂花。
なにかしら……見たことないわね。
「これは『じゃがいも』と呼ばれる植物です。南の方で最近流通し始めた食料だそうですが……これを梁州全域で栽培させているようです」
「じゃがいも……見たことはないわね。でも、それを梁州全土で?」
「はい……このじゃがいもですが、とにかく数が取れます。しかも三月ほどで、年二回の栽培が可能だとか」
「……そんなに?」
「はい。その上、難しい栽培法も必要ではなく、どんな寒暖地でも育成できるようです」
「これが……」
桂花の手にある丸っこい石のような塊。
それが、どんな黄金よりもすばらしい物に見えてくる。
「梁州では、陸稲を廃止してまでこの作物を優先的に広めているそうです。そのため、一時的に梁州の国庫が空になるくらい窮乏したようで、収穫までは質素倹約を国中で行っていた節があります」
「そこまでして広める価値があったということね……これ、どうやって食べるのかしら?」
「蒸したり茹でたり、炒めてもいいそうです。ただ……少し問題がありまして」
「問題?」
「この作物、間違って食べると……毒があるようです」
「毒!?」
毒がある作物を梁州で……?
「主に芽に毒があるようです。とれば問題ないそうですが……知らずに食べた細作の一人が、帰る途中で手を付けたそうですが。顔と腹、手足が腫れ、唇や耳が紫になり、意識を失って十日ほどで亡くなったそうです」
「……つまり、なにも知らないで広めれば、同じようなことが大陸全土で起こると」
「はい。ですので、この作物の梁州外への持ち出しは禁止されており、流通には一つあたり十倍の関税がかけられています。また、食べ方には必ず売る側から注意を促されるそうです」
「その欠点を補って余りある生産力ということね……これ、栽培できないかしら?」
「……正直、私はおすすめできません。新しい作物ですし、どんな副作用があるか……」
毒を持つ植物ですものね。
でも、あの御遣いが広めるほどなら……研究する価値はあるでしょう。
「いいわ。この作物を研究させなさい。栽培方法や、どれだけ収穫できるか……新しく開墾させた邑での研究を許可するわ。桂花、あなたが指揮を取りなさい」
「御意……」
「他にはなにかつかめたのかしら?」
「あとは……じゃがいものみならず、食糧増産がはかられているのは確かです。野菜の流通量がどの土地よりも豊富でした」
「確かに梁州の南は、大陸でも有数の穀倉地帯だけど……生産量自体が、かなりあがっているようね」
「はい。それらを推進したのは、あの御遣いの臣と言われる諸葛亮と呼ばれる者だそうです」
「諸葛亮……」
聞いたことがないわね。
でも、劉備の臣でなく、あの御遣いの臣と自称するぐらいであれば……おそらくは、かなりの才覚の持ち主なのでしょう。
「現在、梁州の宰相ともいわれており、領民の支持を集めています。民はその施政に感謝している証に、じゃがいも同様に広めた野菜に『蕪』というのがあるのですが、それを『諸葛菜』と呼称しているほどです」
「……農業政策を推し進めているのが、その諸葛亮というわけね。あの御遣いはどうしたの?」
「は、それが……どうやら一年ほど前から行方不明のようで」
「……なんですって?」
あの御遣いが居ない……?
ちょっと待ちなさい。
ということは……御遣いが居ないにも拘らず、梁州はあそこまで発展したというの!?
まさか、これを成し得たのは、あの劉備だと……?
「……本当に居ないの?」
「はい。それは確認済みです。梁州にいるのは、劉備とその配下である関羽、張飛。そして御遣いの臣と言われる諸葛亮と鳳統のみです。もう一人、男の臣がいるそうですが、こちらは無視してよいでしょう」
「……そう」
あの御遣いが、梁州にいない……
では、あの御遣いは一体何処に行ったというのか。
(……でも、必ず私の前に立ちふさがる。そんな確信めいた予感が、確かにある)
あの覇気、そしてあの双眸。
私と同種の者にして、おそらくは劉備を越える私の生涯の天敵。
一体今は、どこで何をしているのか――
―― 盾二 side 漢中 ――
「ふぇーっくしょん!」
「きゃっ! び、びっくりしたよー」
「ぐずっ……すまん、桃香。誰か噂している……か?」
急に鼻がムズムズした。
確かに肌寒くなってきた季節ではあるが……
今は平時なので、AMスーツを着ていないから体温調節がされていない。
どうにもこの時代の服は、麻や木綿で出来ているから通気性がいいけど、保温性がない。
絹みたいな上等なものも献上されているんだが……基本女性ものばかりだ。
まあ、服屋で絹の服を仕立てるかな。
幸い、資金的にも余裕があるし……
「で、どこにいくんだ?」
俺は桃香に問いかける。
今日は、桃香が漢中を案内したいというから付き添っている。
先日、朱里に指示した案内図のこともあるし、漢中全体を把握しておいたほうが、都合がいいだろう。
「えっとね? 愛紗ちゃんがいつもお世話になっている服屋さんがあるの。そこで、ご主人様に服を選んでもらおうかなって」
「は? 見廻りじゃないの?」
「え? うん、も、もちろん、見廻りでもあるよ? あるけど……ダメ?」
「いや、別にダメという訳じゃないけど……ちょうど俺も服欲しいと思っていたし」
「ほんと!? やった! じゃあいこ!」
桃香が満面の笑みとなって、俺の手を取り、引っ張る。
「お、おい、桃香! そんなに慌てなくても……」
「いいからいいから! さあ、早く!」
俺は手を引っ張られながら、どこか楽しげな桃香の姿に思わず見惚れる。
考えてみれば桃香も年頃の女の子……しかも、美少女だ。
こんな子に慕われているなんて、男冥利に尽きるというもの。
(元の世界……向こうより殺伐とした世界なのに、桃香たちのアイデンティティーが現代の女性とあまり変わらない……やっぱり一刀が作った世界は、何処かおかしいよな)
その事実に、思わず苦笑してしまう。
考えてみれば、おかしな世界なのだ、ここは。
(生と死が隣り合わせなのに、およそ生き死にと無縁の……そう、日本のような雰囲気がある世界。この世界の住人の違和感……生に対する必死さが感じられないんだ)
戦となれば人が死ぬ。
剣を携えていれば、いつでも誰かを殺せる。
そんな世界であるにも拘らず、だ。
無論、俺だってその違和感が悪いことだとは思わない。
ただ、やはりその違和感を感じずにはいられない。
(……ああ、そうか。だから俺は、あんなに必死になっていたのか……)
不意に思い至る。
俺が宛で、何ヶ月も自室に篭って指示書を書いたのは。
現代の日本のような……民が武器を持たずに済むような、平和に暮らせる場所を作りたかったんだ。
(……一刀のこと笑えないな、こりゃ)
とんだ甘ちゃん思考だったってことだ。
ガキくさい考えだった。
(……この違和感を違和感でなくすために、平和な国を作りたいだなんて)
俺が俺のために。
俺が、違和感を感じなくて済むように。
平和な……日本のような場所を作りたかっただけなのだ。
(甘い幻想、甘い夢……荒唐無稽な夢物語。わかっている……いや、わかっていた、はず。でも……出来てきちゃったじゃないか)
今の漢中、その現状は……俺が指示した成果。
俺はただ……指示しただけだった。
にも拘らず……まさか、こんなにもうまくいくとは思っていなかった。
ここは、朱里や雛里、桃香たちが懸命にその夢を形にしてくれた場所。
ここが俺の……理想郷。
(俺は……また桃香に、多大な恩を受けたんだな)
その事実に気づいて、桃香の手の温もりが、不意にとてつもなく愛おしく感じる。
この手が、俺と一刀を救ってくれた。
この手が、俺にかけがえのない臣をくれた。
この手が……俺の夢を、形にしてくれた。
(……俺は、桃香に何を返したらいいのだろう)
蜀王として、曹操に負けない陣営にすることが、恩を返すことだと思っていた。
だが、本当に……それだけでいいのだろうか?
(俺が為すべきことは――)
「ここだよ、ご主人様っ!」
不意に桃香が振り返る。
その笑顔に――胸の高鳴りが跳ね上がる。
「? どうしたの、ご主人様?」
桃香が、手を握ったまま首を傾げる。
その姿に、昨日まで感じなかった感情が溢れて……桃香を抱き寄せ――
「あ、きたのだ。お兄ちゃん、こっちこっちー!」
……はっ!?
お、俺、今なにしようとした!?
危うく手を引っ張り、桃香を抱きしめようとしていた事に驚愕する。
「あ、鈴々ちゃーん。おまたせー!」
ぱっと離れた、桃香の手。
その手にどこか寂しく、どこか安心したような――そんな複雑な思いのまま。
俺は、自分の手を見つめていた。
―― 劉備 side ――
ふわー……どっきどきしたよー。
ご主人様の手って、暖かいんだ……
「にゃ? お姉ちゃん、ちょっと顔が赤いのだ。どうしたのだ?」
「え? な、なにが? なんでもないよ?」
慌てて自分の頬をぱしぱし叩いてごまかす。
まさか鈴々ちゃんに、『ご主人様と手をつないじゃった』なんて言えないよね。
はあ……思わず勢いで手を握っちゃったけど、変じゃなかったかな?
ちらっとご主人様を見ると、自分の手をじっと見ている。
あれ……も、もしかして、手に汗が付いちゃった?
いやー!
「鈴々、桃香様は……桃香様、なにを悶えておいでなのですか?」
あ、愛紗ちゃん。
「え? あ、うううん。な、なんでもないよ!? そ、それより……どお?」
私は、ご主人様に聞こえないように声をひそめる。
「……はい。一応、種類は揃えましたけど……本当にやるんですか?」
「もちろんやるよ! 星ちゃんに負けていられないもん!」
星ちゃんは協力して~と言っていたけど。
あの眼は抜け駆けする気まんまんだったし!
「ご主人様が何を気に入るかわからないけど……とにかく、いろいろ試そう!」
「……桃香様。その、大変申し上げにくいのですが」
……へ?
「星だけでなく、朱里と雛里もおります……すいません。鈴々が……」
「え!? り、鈴々ちゃん、三人に声かけちゃったの!?」
「にゃ? まずかったのか?」
がーん……わ、私の計画がぁ~
「普段やらないことをやろうとするからですよ……桃香様に『計画』とか、『作戦』とか似合いませんから」
「なにげにひどいよ、愛紗ちゃん……」
だーと流れる涙で悔やむ。
「ともあれ、用意はできております。ささ、こちらへ……鈴々、ご主人様を連れてきてくれ」
「わかったのだー!」
―― 張飛 side ――
「お兄ちゃん、なにをしているのだ。早く入るのだ」
「え? あ、ああ……あれ? 桃香は?」
「お姉ちゃんなら、もう中に入ったのだ。さあ、急ぐのだ!」
「え、ちょ、鈴々!?」
ぼーっとしていたお兄ちゃんの背を押して、服屋の中へと押しやる。
なんか知らないけれど、お姉ちゃんたちがそうしろというのだ。
「いったいなに、が……」
服屋の中に入ったお兄ちゃんが、言葉を失ったのだ。
そこには……
「おや、ようやくきましたな、主」
「はわっ! じゅ、盾二様!」
「あわわ~……」
そこに居たのは胸と腰を隠しただけの星、それに薄衣一枚の朱里と雛里がいたのだ。
「な、なんだそりゃ!? なんでこの世界に水着があるんだよ!」
お兄ちゃんがなにか吠えているのだ。
どうしたのだ?
「何を叫んでおいでか。この服は実に素晴らしいですぞ。なんといっても、水に濡れても透けないという素材で出来ておるそうです」
「ああ、そう……って、どういうことだ! 水着なんて何処からそんな知識が――」
「なんでも店主は、巴郡一の織物師から秘伝の裁縫を伝授されたそうで……この服は、巴郡では水辺でよく着ている服だそうですぞ」
「………………あ~い~つ~か~! あの、ゲイ仙人め! お前は保守派じゃなかったのか!? こんな所で時代崩壊させてんじゃねぇぇぇっ!」
お兄ちゃんが、天井に向かって叫んでいるのだ。
これは……アレだ、アレ。
えーと……
「主よ、なにをキレておいでか」
ああ、そうそう。
キレる、だったのだ。
「……ナンデモナイヨー。ナンデモナインダヨー……はあ。まあいいや。にしても……結構きわどくないか?」
「そうですか? たしかにこの股の切れ込みは、毛の処理をしていないとはみ出そうで怖いですが」
「ブッ!」
おお、お兄ちゃんが吹いたのだ。
星……さすがにその発言は、鈴々もどうかと思うのだ。
「あうあう……朱里ちゃん、どうしよう。私生えてな……」
「わーわーわー! 雛里ちゃん! 場所選ぼうよ!」
後ろの二人がうるさいのだ。
「ところでどうですかな、この水着とやら。主の感想は?」
「え? あ、ああ、ビキニか……に、似合っているよ。星はやっぱり白が似合うね」
「ふふふ……そうですか。私的には青も捨てがたいのですが……主が仰るなら白にしますか」
あ、星が後手で拳を握っているのだ。
あれは、お兄ちゃんが言ってた『勝利のポーズ』に違いないのだ。
「はわわ……じゅ、盾二様。わ、私達はどうでしょうかっ!」
「あわわ……は、恥ずかしいです」
「え? ああ……朱里も雛里もよく似合うよ。でも……なぜにスクール水着? しかも、朱里は紺、雛里は白って……マニアックだなぁ」
すくうる水着というのか。
鈴々もアレを勧められてたなー……色は桃色だったけど。
「えへへ……褒められたよ、朱里ちゃん」
「うん、やったね、雛里ちゃん」
二人で手を叩いて喜んでいる。
鈴々も着ればよかったかなー?
「ちょ、桃香様、本当にこれでいくのですか!?」
「女は度胸だよ、愛紗ちゃん! さあさあ!」
「ひ、ひっぱらないでください! 紐がまだ……」
「ご主人様~、見てみて~!」
あ、桃香お姉ちゃんと愛紗が出てきたのだ。
「………………………………………………」
はにゃ?
お兄ちゃんが、固まっているのだ。
「と、桃香様……や、やっぱり私はこんな服は」
「見てみて、この服。私の胸にぴったりなんだよ! どうかなあ?」
「………………………………………………」
「お兄ちゃん、固まっているのだ」
「えーっ!? に、似合ってないかなぁ……」
お姉ちゃんがちょっと涙目になると、はっとしたお兄ちゃんが、急にそっぽ向いだのだ。
「い、いや、その……よ、よく似あっている、よ。その……桃香にぴったりな桃色の水着」
「ほんと!?」
ぱあっと明るくなったお姉ちゃん。
その横で、もじもじしつつ身体を隠そうとする愛紗。
「あ、愛紗も、その……み、水色がすごく、似合っている。ふたりとも、本当に……」
「よかった~似合うって言ってもらってよかったね、愛紗ちゃん!」
「と、桃香さまぁ……」
愛紗の顔がまっかっかなのだ。
はしゃいでいる桃香お姉ちゃんの顔も、若干赤いのだがなー
「鈴々ちゃんは着ないの?」
「鈴々は別にいいのだ。さっきもう着て包んでもらっているのだ」
「ふっふっふ……それで主よ。どの水着が一番好みですかな?」
ぎしっ。
星の言葉に、またお兄ちゃんが固まったのだ。
「できたら、どの辺りが主の好みなのかもお教えいただきたいものです。胸が際立つ方がいいのか、それともお尻をだしたほうがよいのか……ああ、忘れておりました。そのあとは下着の色なども主の好みを……」
「星ちゃん、星ちゃん」
「ん? いかがされましたか、桃香様」
「ご主人様、いないよ」
はにゃ?
さっきまで鈴々の横にいたのに、お兄ちゃんは何処に消えたのだ?
「星さんが喋り始めたら、かき消えるように出て行きました」
「見えているのに存在が薄くなって……驚いて声も出せませんでした」
「ちぃ……逃げられたかっ!」
ふわー……さすがお師匠様なのだ!
「むう……まあよい。次は夜の宴! 今日は主を酔い潰して、ねんごろに……ふっふっふ」
どうでもいいけど、考えていることがだだ漏れなのだ。
―― 関羽 side ――
「……どうしてもこの姿で宴に出なければいけないのか?」
「愛紗よ。この宴には我ら以外誰もはいってこん。あの馬正に入り口を固めさせている。問題はないぞ」
「そういう問題ではなく……いや、確かにそれは助かるのだが。私が言いたいのは、何故私達がこんな格好をせねばならぬのかと……」
「おやおや。愛紗は主に奉仕するのがいやだと?」
「そ、そのようなことは断じて無い! ない、が……」
「では覚悟を決めよ……そろそろ参られるぞ」
「くっ……」
扉の前でご主人様の声がする。
おそらく、馬正殿が控えていることを不審に思われている様子だ。
馬正殿には、朱里と雛里からの涙ながらの恫喝が効いているようだ。
ひとしきり話した後、扉が開かれる。
そして、中に入ってこられるご主人様に――
「「「「「おかえりなさいませ、ご主人様!」」」」」
私たちの大合唱が、出迎えた。
「………………………………………………」
口をあんぐりと……いや、顎が外れているのかもしれない。
ご主人様の呆れ果てた顔がそこにある。
くっ……だから嫌だったのに!
「どうされました、ご主人様?」
星がニヤニヤとしながら声をかける。
ご主人様は、片手で顎を持ち上げた後、後ろを向いて……しゃがみこんだ。
「夢だ……そう、夢なんだ……いるわけない……ここにメイドなんて……いるわけないんだ……」
ブツブツと呟いた後――
「ちくしょー! 于吉! 次あったら、お前を殴る! 殴ってやる! 和洋折衷にもほどがあるだろうが!」
突如、天に向かって吠えた。
……いったい、何がご主人様の琴線に触れたのだろうか。
やっぱりこの服装しか考えられんが……
「ささ、ご主人様。貴方様のためだけの宴ですぞ。朱里、雛里、お席にご案内するのだ」
「は、はい……ご、ご主人様っ♪ どうぞお席に♪」
「あうあう……ご、ご主人様っ♪ こちらへ……やたっ。ご主人様って呼べる(ぼそっ)」
二人の幼女に両手を取られながら席へ座るご主人様。
「……誰の仕掛けだ。って、言うまでもないな……星。これも服屋の入れ知恵か?」
「いえいえ~ご主人様。こちらは、巴郡の喫茶茶屋「はにぃめいど」で修行した、飲茶の店『ヤムヤム』の主人からお聞きしました」
「喫茶茶屋から飲茶……はにぃめいどでヤムヤム? どうなっているんだ、ほんとに……」
ご主人様が盛大に溜息をつかれている。
というより、疲れている……といったほうがいいかもしれない。
「はっはっは! 深く考えなさるな……じゃない、深く考えちゃダメん、ご主人サ・マ♪」
「……頼む。その口調だけはやめてくれ。俺のヒットポイントがガリガリ削られるから」
「よくわかりませんが、イヤです♪」
「だろうな、こんちくしょうめ」
ご主人様がやさぐれ始めているように見えるのは、気のせいだろうか……?
「お兄ちゃ……じゃない、ご主人さまー! これが菜譜になりますのだー!」
「これ、鈴々。もっとシナを作らんか」
「しなってなんだ?」
「もっとこう、くねっと。くねっとだ」
「……やめてくれ。俺の弟子に変なこと教えないでくれ……」
若干、涙目にもなっておられる。
……まあ、私も鈴々が女性らしさを出せるとは思えないのだが。
「えーとぉ……ご主人様! 今日はこちらの『愛情たっぷり、卵炒飯』がオススメですよ♪」
「……桃香まで。ちなみにオムライスじゃないのね……いや、ないだろうけど」
「あはは……星ちゃんがこう言えって。ちなみに炒飯は、ちゃんと料理人が作っているから美味しいよ」
「そりゃありがたいが……じゃあ、とりあえずそれで」
「かしこまりました―……えーと。なんだっけ…………………………あ、えと、愛情たーっぷり、卵炒飯を愛情一杯でお作りします♪」
「……………………もう、好きにしてくれ」
ご主人様が白い灰になりつつある。
ああ……次は私の番なのか。
うううううううううううう……
「(ぼそっ)何をしている、愛紗! すぐに炒飯をとってこんか」
「(ぼそっ)ど、どうしてもやるのか?」
「(ぼそっ)主を私が独り占めしていいのなら、私がやるが……」
「(ぼそっ)くっ……この関雲長。ここで退いては武人の恥辱!」
もう、やけくそだ!
すぐ傍に用意してある炒飯を皿に盛りつけ、レンゲを乗せてご主人様の前に立つ。
「お、おおおおおおおお……(ぶるぶる)」
「あ、愛紗……無理すんな」
「お待たせしました! あ、あああああ愛情たっぷり卵炒飯ですっ♪ 私の愛を込めましたので、美味しく食べてくださいね♪」
「………………はい」
ああああああああああああああああああああああああああああ……
「愛紗! 科白! 科白を忘れているぞ!」
「くぅぅぅ……あ、後で憶えておれよ、星。くく………………お、美味しくなぁ~れ! 萌え萌えきゅん♪」
「「「「「萌え萌えきゅん♪」」」」」
ガンッ!
ご主人様が、食卓に頭を打ち付けられた。
うーあーあーあー……この、このむず痒い衝動をどこにぶつけたらいいのだー!?
「…………………………俺、今すっげえ于吉殺したい。アイツのせいだ、全部アイツのせいだ……」
ご、ご主人様。
涙声でよくわからないことを呟かないでください。
私が泣きたいです!
「くっ……くそお! 食べてやるよ! ちくしょうめ! 元の世界だってメイド喫茶なんて行ったことねぇよ、こんちくしょう!」
ガツガツと炒飯を食べておられるご主人様。
ううう……なんだ、この耐え様もない恥ずかしさは!
見れば桃香様を始め、朱里や雛里まで顔が赤い。
鈴々は、何やら楽しそうだが……というか、星よ。
貴様も真っ赤になるほど恥ずかしいなら、こんなことをやらせるな!
「お、思った以上に恥ずかしいものだな……ごほん! ささ、次の料理を……」
「ゴホッ! んぐっ……まだやるのかっ!?」
「はっはっは……もちろんです。宴ですからな……少々お待ちくだされ」
―― 盾二 side ――
くっ……めっちゃ恥ずかしい。
なんで俺、炒飯やけ食いしてるんだろ。
まさかメイドでくるとは思わなかった。
入り口で馬正に『ご愁傷さまです、主……私は無力ですので、諦めてくだされ』と言われた意味がようやく分かった。
つまり、これは……悪魔の晩餐だったのだ。
こ、こんな状況、羞恥プレイ以外なんでもねぇぞ!
「お待たせしました~」
星の言葉が、部屋の奥にある衝立の裏から聞こえる。
いったい今度はなにを……
「「「「「「い、いらっしゃいませー!」」」」」」
そこから出てきた星たちの姿に。
俺はまた、テーブルに頭を打ち付ける。
「こ、今度は………………バニーガール、だとぉ!?」
しかも網タイツまで……どうやっている、どうやって仕立てたんだ!
ふざけんな、馬鹿野郎!
于吉は殺す。ぜってー殺す!
「はっはっは……いかがですか、主! よりどりみどりですぞ!」
「にゃははははは! この耳、うさぎみたいで面白いのだー!」
腰に手を当て、高らかに笑う星と鈴々。
それとは対照的に……
「わわっ……これ、胸見えちゃうよ。せ、星ちゃん、もっと胸が大きいのはなかったの!?」
「………………(愛紗は、耳まで真っ赤になって震えている)」
「あうう……この服、胸がないのがまるわかりだよぅ……」
「……胸がある人なんかもげろ。背が高い人ももげろ。おっぱいは敵だ……」
……これ、着ている人の方がダメージないか?
「はっはっは……さあ、主。今夜はとことん飲みましょう! 綺麗どころのお酌です。まさか断りは、しますまいな?」
くっ……星。
白蓮のところで、深酒しようとするとすぐに席を外していたのを根に持ってやがるのか。
俺の手に、両手で抱えるような盃を渡して、その中になみなみと酒を注ぎ入れてゆく。
俺は記憶がなくなるタイプだから、節制しているってのに!
「まずは一献……さあ、皆! 音頭を取るのだ!」
「「「「「……ご、ご主人様の、ちょっと良いとこ見てみたい! あ、そ~れ、イッキ、イッキ、イッキッキ!」」」」」
「だからなんで知ってるんだよ! くそぅ…………もう知らねぇ! 今日はもう、どうなっても知らねぇからな!」
手に持つ盃は、戦国武将が両手で飲み干すような大きな盃。
それに淵まで注がれた酒は、おそらく一斗ほど。
ふっふっふ……もういい。
もう限界だ。
俺の精神よ、解き放たれるがいい!
そして俺は――
その後のことを何も覚えていない。
―― other side ――
「ごくっ、ごくっ、ごくっ、ごくっ、ごくっ、ごくっ………………げふぅぅぅぅぅぅぅぅ」
「おお! イケる口ではありませんか、主! ささ、もういっこ――」
「うひ」
にへら、と笑う盾二。
その端正な顔が、とたんに崩れた。
「おや?」
「にゃ?」
「あれ?」
「……む?」
「はわっ?」
「あわっ?」
六人のバニースーツの女性に囲まれる中。
盾二が――壊れた。
「うひゃははははははははははははははははははははははははははははははははは!」
だらしなく垂れたような顔。
いつもの鋭さが全くなくなった、とろんとした双眸。
そして……隙だらけの風体。
「おお! 主……実はかなり弱かったのですな」
「うひ、うひひ、そーなんです……そうなんでーすっ! おりゃあ、お酒なんてぇ……ふぅぅぅぅ」
ふらふらと頭が揺れて、前後不覚の様子がはっきりと見て取れる。
「しゅ、朱里ちゃん。ご主人様って、霞ちゃんや翠ちゃんの宴会の時はこうじゃなかったよね!?」
「あ、あの時はちびちび飲んでおられましたし……すぐに天幕に向かわれてしまわれたので」
「ご、ご主人、さま……?」
心配した関羽が、おそるおそる盾二へ水を差し出そうとする。
だが、その手をはしっと握りしめた盾二は――
「好きだ!」
「うひぇっ!?」
突然の告白に、関羽のみならず、周囲の女性全員の時が止まった。
「あ、あの、ごごごごごごごごごごごごしゅ、ごしゅじ……え、えと、ごしゅ……」
「君は俺が嫌いか?」
「そ、そんな、めっそうも……めっそうも……ひっく」
盾二の告白に驚きつつも、信じられない幸福に、思わず涙がでる関羽。
だが、彼女は気づくべきだった。
盾二は今……酔っているのだ。
「だから愛紗……いただきます」
「へっ……むぐっ!?」
ずちゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるっ!
「ひっ!?」
「うわっ!?」
「にゃ!?」
「はわわっ!?」
「あわわ……」
関羽を除く、五人の乙女の目の前で。
盛大にその唇にキスをして、あまつさえその口を吸い上げた。
「!? !? ??? !? ~~~~~~~~~~~~っ!?」
ずちゅずちゃずちゅるじゅちゃずちゅじゅじゅるずちゃるずちゅちゅじゅるるるるっ!
「「「「「うわっ……」」」」」
その勢いに、五人がドン引きする中。
ぴくぴくと痙攣するように身体を震わせた関羽と、盾二の口がようやく離れる。
そしてーー関羽は、ぱたっとその場に倒れた。
「あ、愛紗……ちゃん?」
「…………………………」
その体は小刻みにビクン、ビクンと跳ねながら気絶している。
しかし、その顔は……
「うわっ……あ、愛紗ちゃんが、愛紗ちゃんが!」
「……見るな、鈴々」
「にゃ? 愛紗がどうしたのだ、星?」
「はわわ……あ、愛紗さん、なんて幸せそうな……というか、なんというか……」
「しゅ、しゅしゅしゅ朱里ちゃん、わた、私、書物で見たことあるよ。こ、これって、これって……官能の極みの……」
五人が五人……約一名、よくわかっていないのもいるが。
それぞれが驚愕に慄く中で。
「んーっ、ずちゅっ……くちゅ、くちゅ……んくっ……ふう。このお水、美味しいね……」
そう呟きつつ、口の周りを唾液まみれにした盾二が、据わった眼で五人に視線を送る。
「「「「ひいっ!?」」」」
「にゃ?」
その視線を受けた五人……もとい、四人は体をこわばらせ、なにもわかっていない一人は、首を傾げる。
「うっふっふ……りんりーん。ちょっときてー?」
「にゃ? なんなのだー?」
「いかん、りんり――」
ずちゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるっ!
「…………………………」
ぱたり。
純真無垢。穢れ無き魂。
その象徴とも思えた一人の少女の純血は……
ここに散った。
「り、鈴々ちゃん……」
「ま、まずい……ま、まさか、主の酒癖がここまでひどいとは……」
「しゅ、朱里ちゃん、わた、私、怖い……」
「お、おおおおおお落ち着いて、雛里ちゃん! じゅ、盾二様だよ! 盾二様なんだよ! 私達が敬愛する――」
だが、その言葉は最後まで続かなかった。
「敬愛する……ほんとに?」
「!? ひっ!?」
孔明のすぐ後ろに立った盾二が、その小柄な身体を抱え上げた。
「オレのこと……好き?」
「は、はわわ……す、す、す……好きです」
「俺も……好き」
ずちゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるっ!
はむちゅばくちゅうにゅぬくちゅくじゅつくちゅずちゅちゅうにゅちゅちゅちゅぱっ!
「………………しゅ、朱里ちゃ」
「……おいで、雛里。君も一緒だ」
ずちゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるっ!
「い、いかん……と、桃香様。ここは私が囮になります。すぐにここを出られませい」
「え!? で、でも……」
「このままでは全滅です! 私が時間を稼ぎますゆえ、桃香様だけでも!」
「そ、そんな……あ、あれはご主人様だよ? きっと……きっと目を覚ませば元に戻ってくれるよ。私がお水を飲ませるから、星ちゃんは……星ちゃん?」
ぱたり。
ぴくぴくと小刻みに身体を震わせながら、その場に倒れ伏したのは――趙雲その人。
「………………」
「桃香……」
「ひゃ、ひゃいっ!?」
劉備が振り返ると――
そこには、彼女が最も愛した人がいた。
「ご、ごしゅ……」
「桃香……」
「ま、待って!」
劉備が、弾けるように盾二の腕から逃れようとする。
だが、その腕を絡めるように掴む盾二に、あっさりその胸の中に納まった。
「あ……や、ご、ご主人さま……こんな……こんなの……」
「桃香……好き……いや、違う……」
「え?」
それまでの五人とは、明らかに違う雰囲気。
顔は真っ赤で、目も潤んでいるが……先程までの崩れた表情はどこにもなかった。
「桃香……俺は君に……惚れている」
「え……?」
「君は俺の……恩人であり、尊敬する人であり、俺に夢をくれた人――」
「そ、そんな、私はなにもして――」
劉備が顔を背けようとする。
だが――その顔の方向に回りこんで……軽くキスをする。
「あっ……」
「君は……俺のガキくさい夢を叶えてくれた人。俺の……俺だけの愛する人――我愛你」
「……嘘」
劉備の眼が大きく開かれ――その瞳に涙があふれた。
「嘘、だよ……ご主人様、酔ってるもん……そんなの……ずるいよ……」
「俺は……酔っているかもしれない……たぶん、夜が明ければ憶えてない……でも、今の気持ちは……偽りない俺の心だよ」
「……ほんと? 本当に……?」
「俺の……一刀じゃない、俺だけの愛する人……だめ、かな? 俺の気持ちは……受け取ってもらえない、かな……?」
「ずるいよ……ご主人様。そんな言い方、ずるいよ……」
劉備の伏せた眼から、止めどなく流れる涙。
それは、悲しみか、喜びか……本人も、わからない。
「……抱くよ?」
「……はい」
盾二の唇が、劉備の首をつたい、胸をつたい、その先端をつたう。
「んぅ……ふっ……ふぅ……」
盾二の顔が動くたび、それを抱えるように抱きしめる劉備の身体が、ビクンッと跳ねる。
その頬は紅潮し……その眼は潤んだまま、愛しい人を見ている。
先端を舌が這い、その双房が大きな手で上下左右に動く。
「あっはぁ……んっく……ふぁん!」
その仕草に、盾二の頭を両腕で囲むように抱きしめる。
額にはうっすらと汗が滲んだ。
「……痛い?」
盾二の声。
優しげな……愛おしい声に、劉備は返事代わりにその額にキスをする。
そのまま、盾二の手は徐々に下半身へとつたい……
くちゅ。
「ふぁっ! そ、そこは……」
触れた場所の刺激に、劉備の身体が跳ね上がる。
それでも盾二は、その手を……指を止めない。
「あふっ……あう、ふぁ……あっく……くぅん……はあっ……ああああっ!」
びくっ、びくっと震える自分の身体。
それを押さえつけるように、目の前にある盾二の頭を抱え込む劉備。
すでにその眼は、とろけきっており――その口からは、快感のあまりに漏れた涎が、つぅっと垂れる。
「……あ、お水だ」
盾二はその雫を、自分の口で啜りながら――劉備の口まで吸い取り、その口内を舐め上げる。
その舌業ともいうべき快感の刺激に――
「んむっ! ふむぅ! ふぅんんんんんっ!」
高められていた、劉備の全身の快楽神経が極限に達した。
その、刺激に身体の四肢は痙攣を起こし、息もできないほどに肺が酸素を求める。
「あっく……あっく……はっ……あふっ……あ……」
「……いっちゃった?」
「い、く……?」
劉備は、快楽で今にも意識が飛んでしまいそうな中で、盾二の言葉を反芻する。
その顔は、もはや漢中の長でも、英雄でもない。
一人の妖艶な……少女の姿だった。
「桃香……いつかきっと……お酒に頼らずに、君を抱くよ。それまで……待っていてくれる?」
「……はい。ごしゅじん、さま……お待ちして、ます」
その言葉と共に。
劉備の意識は、幸せの中で途切れた。
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