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銀色の魔法少女

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第四十五話 仲間

 side はやて

「はやて、こっちこっち!」

 ヴィータが青い草原の中を元気に走り回る。

「少しは落ち着いたらどうだ、転びでもすれば主が悲しむぞ」

 そう言ってゆっくりと私に合わせて歩いてくれるシグナム。

「…………眠い」

「はい、遼ちゃんホットミルク、これで目を覚ましてね」

 その側に眠たそうな遼ちゃんと、楽しそうなすずかちゃん。

 今日はみんなでピクニック。

 お友達と行く、初めてのお出かけ。

 普段やったら楽しい出来事。

 一生心の中で輝き続けるほどの楽しい思い出。



 けど、私にはそれが信じられなかった。



 私は下を、自分の足を見る。

 歩けなかったはずの私の足は目が覚めたら自由に動くようになってた。

 それだけやない。

 私は後ろを振り返る。

 少し離れた所に、両親が仲睦まじく寄り添って歩いている。

 死んだはずの両親も生き返って、まるで死んだのかなかったかのようになってた。

(今までのは、悪い夢やったのやろうか……)

 そう思えるほど、ここは現実的だった。

 草の香りも、太陽の温かみも、全てが私の感覚を刺激する。

 夢にしては、出来すぎている。

 けど、私の中の何かが、ここは夢だと告げている。

 両親が死んで、シグナムたちも殺されたあそここそが現実だと、叫んでいる。

「はやて?」「はやてちゃん?」

 すずかちゃんと遼ちゃんが心配そうに私を見つめる。

「ううん、なんでもないよ」

 そう言って、私は彼女たちのもとへ歩き出した。





 side ALL

 夜空に銀と黒の光が何度も衝突を繰り返す。

 遼の攻撃を、闇の書は難なく防ぎ、闇の書の攻撃を遼は避ける。

 戦場 遼と闇の書の戦いは現時点では互角であった。

「虚刀流・『蒲公「吸収」、おおっと!?」

 遼の前方に展開された魔法陣をぎりぎり避け、闇の書と距離を離す。

「……どうやら、あなたにはこれは通じないようですね」

「できれば、諦めて大人しくしてくれるとありがたいんだけど」

「それは叶わぬこと」

「だよね」

 遼はちらりと辺りを見渡す。

(なのはたちの姿が見えない、何か作戦でもあるのかな)

 それならいいんだけど、と彼女は思う。

 今のところは互角だが、あと三十分もすれば先に倒れるのは遼の方だ。

 遼の繰り出す攻撃は強力だが、同時に魔力とスタミナを大量に消費する。

 それに彼女がまだ小学生という幼い体に加え、体中の違和感が彼女を駆り立てていた。

(さっきから全身が痛い、……嫌な予感しかしないなぁ)

 体を造り変えられるような感覚。

 間違いなく侵食の影響だった。

 今までと異なるのは痛みが出始めたこと。

 詳しく調べたいところだったが、そんな暇はない。

「少々手荒くはなるが、致し方ない」

 闇の書が手をかざす。

 すると地面が割れ、幾本もの触手が遼を捕らえようと迫り来る。

「御神流・『虎乱』!」

 避けきれないと感じた遼は、二本の氷刀で全て斬り裂く。

 けれど、闇の書の攻撃はまだ終わらない。

「穿うがて、ブラッディダガー」

『Bloodydagger』
 
 二十本もの鋼の短剣が、遼目掛けて放たれる。

「神速!」

 遼の視界から色が消える。

(からの、クナイ!)

 氷刀を消し、代りに小さいクナイを造り、短剣へ投げつける。

 クナイが触れた途端、短剣は爆発し、クナイを跡形もなく吹き飛ばす。

「!?」

 爆煙がはれると、そこに遼の姿はない。

 彼女は魔力探査も並行して行っているが、それにも反応はない。

「どこに」「ここだよ」

 その声に驚いて振り返るも、遅い。



               壱:切落(きりおろし)


               弐:袈裟斬り(けさぎり)


               参:右薙(みぎなぎ)


               肆:右斬上(みぎきりあげ)


               伍:逆風(さかかぜ)


               陸:左斬上(ひだりきりあげ)


               漆:左薙(ひだりなぎ)


               捌:逆袈裟(さかげさ)
 

               玖:刺突(つき)

 

 神速の斬撃を九つ同時に放つ故に、一度発動してしまえば回避不可能。



 その名は飛天御剣流『九頭龍閃』

 それが、完璧に闇の書に叩き込まれた。

 けれど、

「……やっぱ無理か」

 所々負傷はしているものの、闇の書は未だ健在だった。

(習得してない技を体を操って無理やり発動、ってところまでは良かったけど、微調整がきかないや、それに……)

 遼は自分の体を恨めしげに見つめる。

 そう、遼の体の90%以上は既に別の物質に変化してはいるが、身体能力は以前の彼女となんら変わりはない。

 つまり、技を発動しても耐えられる筋肉があるのに、それを十全に発揮する筋力が彼女にはない。

 端的に言えば軽いのだ、九つの斬撃全て合わせても、闇の書を沈めるには至らないほどに。

 変身魔法を使えば筋力の問題は解決されるが、今の彼女にそれに割り振るだけの余計な魔力はない。

 所詮は小学三年生。

 そのことを彼女はこの短い間に何度も思い知らされた。

(なんで……)

 彼女は今まで血のにじむような訓練をしていた。

(どうして……)

 けれど、足りない。

(私じゃ、ダメなの?)

 力が、年齢が、体力が、そして何より仲間が、彼女には足りない。

(私じゃ、はやてを救えないの?)

 一度生まれた疑惑は、消えない。

 そして、それが彼女の致命傷となる。

「闇に、沈め」

 闇の書を中心に、膨大な魔力攻撃が放たれる。

「しまっ!?」

 そして、反応が遅れた遼にシールドを張る暇すら与えず、それは彼女を飲み込んだ。




「あ、う…………」

 遼は、かろうじて意識を保っていた。

 倒れそうになる体にムチをうち、闇の書に向き合っていた。

「やあ、あなたも夢の中へ」

 彼女がゆっくりと手を差し出す。

「い、や……」

 遼は力なく、それを拒絶する。

「どうしてそこでまで夢を拒む、夢の中ならあなたは普通の少女でいられる、悲しい事故も、争いもない、穏やかな世界、平和な世界、あなたもそれを望んでいるはずだ」

 それは紛れもない事実。

 けど、彼女は納得しない。

『た、しかに、私は、幸せになれる、かもね、だけど』

 声も出せず、念話で話していても、その疲労が伺えるが、彼女の意志は変わらない。

『それは、否定なの、今まで生きてきた、人たちを、否定するなんて、誰にもできな、い』

 この広い空の下には、幾千、幾万の人達がいて、いろんな人が願いや思いを抱いて暮らしていて。

 その人だけの大切な思いがあって、思い出があって、優しさがあって、なすべきこと、なさねばらならいことがあって、大切な人がいて、だから一生懸命に、精一杯に、本当に精一杯に前に向かって生きている。

 彼女の両親もそうだった。

 彼女を大切に思い、家族を大切に思い、研究に一生懸命だった。

 その結果があの事故だとしても、遼はそれを否定しない。

 その事実を受け止めて、前に向かって生きていく。

 けれど、それは彼女には重すぎた。

 それを受け止めた結果、彼女は歪み、狂い、壊れた。

 前に進むことが、必ずしも良い結果を残すとは限らないことを彼女は知らない。

 時には立ち止まって、後ろを振り返ることも大事なことを、彼女は知らない。

 一人で抱え込まず、人に頼ることも大切なのを、遼は知らなかった。

 結果、彼女は負けた。

 運命、必然、予定調和。

 様々な言い方があるが、彼女が一人で抱え込んだ時点で、この結末は必至だった。

 この敗北は、決まっていた。


















――――――――――――しかし、彼女の人生は無駄ではなかった――――――――――――――





















                 「はるかちゃん!」




 聞こえる。





                「はるか、しっかりして!」






     「ほら、しっかりおし! あんたには言いたいことがたくさんあるんだから」






             「てめえ、勝手にくたばってんじゃねえぞ!」






 なのはの、フェイトの、アルフの、刃の、声が聞こえる。
 
「すまない、術式の作成に手間取った、ほらフェレットモドキ」

「誰がフェレットモドキだ! 誰が! ってそんな場合じゃないね、今治療するよ」

「私も手伝う!」

 緑と黄色の暖かい光が、遼を包む。

 そして、三人をかばうように佇む人影が三人。

「よくも遼を、この罪は万死に値します!」

「こ、殺しちゃうのダメだよ! あの中にははやてちゃんがいるんでしょ! せめて半殺しくらいなら――」

「少しは落ち着きなさい二人共、……それにすずか、あなたは初陣なのだから十分に気をつけることね」

「は、はい、気をつけます……」

(ああ、そうだったんだ……)

 遼はようやく気がつく。

 なぜクリムが悲しんだのか、どうしてなのはが泣いたのかを、やっと理解した。

(私って、意外と愛されてたんだなあ……)

 彼女の目に映るすべてが暖かい。

 一人だとできないと思っていたことが、彼女たちとなら何でもできる気がする。

(それに気がつかないなんて……、私ってほんとバカ、だなぁ……)

 遼のひとみから涙がこぼれ落ちる。

 しかし悲哀はなく、彼女の心は喜びに満ちていた。



 
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