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とある碧空の暴風族(ストームライダー)

作者:七の名
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時宮遭遇
  Trick50_なんのつもりかしら、“碧空(スカイ)”



病院に到着してから2時間後、美雪はようやく落ち着いて眠りについていた。
むろん信乃は傍におり、手はガッチリ繋いだい状態である。

病院に到着、むしろ突入に近い形で10階のカエル医者の部屋に窓から
直接入って行った。

いきなりのことで驚いた顔をしてさらにカエルっぽくなったが
そこはさすが名医、信乃の抱える2人を見てすぐに医者の顔に戻った。

内線電話で看護婦を呼び、まずは白井を診察。

信乃に抱きしめられている美雪よりも、ぐったりとしている彼女を優先させた。

診察は10秒も掛からず終了。
喉という急所にダメージを負っていたが、後遺症の心配もない程度らしい。

部屋に入ってきた看護婦に指示を言い、ストレッチャーに乗せられて
白井は部屋から治療室に連れ出された。

そして美雪を診察しようとして近づいてきたが、近づいてくる足音だけで
美雪は震えて信乃へと今以上に強く抱きついた。

話す能力を封じられていなければ間違いなく大声で叫んでいただろう。
激しく恐怖で震える背中が、そう感じさせずにはいられなかった。

美雪への直接の診察は不可能と判断し、信乃への質問。
そして気付かれないように脳波測定装置を頭に付けさせた(もちろん信乃が付けた)。

微かな音も出さず、気配も出来るだけ消して美雪へ負担を、恐怖を与えない配慮は
さすが命医(めいい)といったところだ。

それから1時間も慎重に診察は続けられた。



「(ヒソ)先生、ありがとうございます」

「(ヒソ)別に構わないよ? 小さい時から知っている仲だからね」

このカエル医者とは、信乃が4年前の飛行機事故で死亡扱いされる
前から付き合いがある。

薬が効きづらい体質の信乃をどうにかしてくれると考えて訪れたのが始めだった。

信乃の体質を変えることは出来なかったが、美雪を薬剤師としての道に誘ったのは
カエル医者である。

いわば医者として美雪の師匠に当たる人物であった。

そして現在(2時間後)は特別個室で美雪と信乃が共にベットに腰かけていた。

美雪は診察中は震え続けていたが、診察が終わって信乃が
励ましながら頭と背中を撫で続けたおかげで、今は落ち着きを取り戻して眠っている。

それでも信乃からは離れようとせずに腕はしっかりと信乃の背中でホールドしていた。

隣同士に座り、全体重を信乃に預けるようにして美雪は眠っていた。
美雪が眠ったのを確認し、起こさないように細心の注意を払いながらベットへと横たえさせた。

その後、ナースコールからカエル医者を呼んで
起こさないように細心の注意を払いながら話をしていた。

「どうですか、美雪の体は?」

「怪我などは全く問題ないようだね?

脳波など頭も調べたけど全体的に見れば異常はなかった」

「全体的に見れば、ですか」

「ああ。信乃くんから『見えない』『話せない』ことは聞いたいたから
脳で視覚や言語を司る部分を中心に注意して調べたよ。

それでようやく解った。視覚や言語を司る部分が働いていなかった」

「それは・・・・治りますか?」

「症状としては見た事がある。

強力な催眠により脳の活性、非活性状態の研究論文があったはずだ」

「つまり催眠術によるものだ、ということでいいですか?」

「その通り。調べる限りでは症状が進む気配は見当たらないから
今以上にひどくなることはないよ?

 あと、 君が連れてきた風紀委員の女の子も軽傷だから安心してくれ」

「そう・・・ですか・・・・

 先生、お願いします。美雪を助けてください」

「当然だよ。絶対に助ける。それが僕の仕事だ」

≪全力を尽くす≫などという医者が普通に言う言葉ではなく、力強い確約を返してくれた。
時宮の催眠術が強力な事はこの医者も知っている。
何故なら半月前、蛇谷たちのそうそう術を治療担当をしたのが彼だからだ。

正確に言えば、今も担当している。
そう、現在も2人は完治していない。暴れない代わりに眠り続けている。

世界一といっても過言じゃない医者の実力を持ってしても、未だに直す事が
出来ていないのだ。

だが信乃は知っていた。この医者なら絶対に助けてくれる事を。

「よろしくお願いします。

美雪へのメンタルケアは私が請け負いますから」

「当然だよ。僕は治す事は出来ても支えることはできないからね。

美雪くんの心を支えてあげられるのは家族の、信乃くんの役目だよ?」

「・・・・はい」

「いい返事だ。

美雪くんの状態だと、まともに食事も取れそうにないから点滴をあとで持って来るよ。

あとは君の治療だけど・・・・」

「それは美雪の調合した塗り薬を自分で使いますから。
調合データは病院にありますよね」

「それは疲弊した足に効果のある薬だよ。今の君はそれだけじゃない。
 血を吐いたんだ、それを少し自覚してくれ。

本当ならば君が真っ先に治療する必要があるのだけどね。
何をどうやったら、体、特に足にそんな負担をかけられるんだい?」

「・・・・やっぱり重症ですか?」

自覚があったのか、苦笑いをしながら聞いた。

「血を吐いた原因は肺への損傷だが、それは問題ないレベルだ。特に処置の必要はない。

 足はさっきの簡単な触診だけで、はっきりとした結果は言えないけど
 疲労骨折の寸前だよ。ヒビは複数個所に入っている。

 そもそも少し前に絶対安静の大怪我をしてきた人間が
 どうやってこうなるまで動いたのか不思議でしょうがない」

「・・・根性?」

「・・・・まあ、いいよ。

君は学園都市理事の氏神くんと知り合いだったね?
と言う事は裏の事情に関わるだろうから深くは聞かない。

代わりに、大怪我しても死ぬ前に僕の所に来てくれよ?
絶対に助けるから」

「・・・優しいですね」

「それ以上に、君に抱かれている可愛い弟子が大泣きするからね。
可愛い女の子には笑顔でいてもらわないと」

「同感です。死ぬ前には絶対に会いに行きますし、
美雪に泣かれるのは絶対に嫌ですから」

答えを聞いてカエル医者はニンマリと笑い、病室から出て行った。




それから数分後は静かな時が流れた。

美雪は安定した寝息をたてている。

病状?も進行することが無いのは命医からのお墨付き。
ならば今は大人しく美雪の面倒を見ることが信乃の仕事だ。

と、自分自身ではそう思っていた。


カツ、カツ、カツ

廊下から響くヒールの音が聞こえた。

信乃達がいるのは特別個室。部屋だけでなく階全てが一般病室とは違う。

この階に訪れる人間は許可を取った特別な人間、もしくは病院関係者だ。

病院関係者が不安定な足元のヒールを履くはずがない。

ならば病室に訪れる事を許可を取った人間だろう。

ヒールの音は信乃たちがいる部屋に近付いてくる。

そして一番音が大きくなったときにドアが開かれた。

赤髪の女性が信乃を睨みながら入ってきた。

「なんのつもりかしら、“碧空(スカイ)”?」

「・・・・やっぱりあなたでしたか、氏神クロム。

 できれば静かにしてもらえませんか? 美雪が眠っているので」

許可を取れる人物は限られているし、自分を訪ねて入院をして数時間後に来る
人物はさらに限られる。

この2つの条件を満たす人間は、学園都市にはこの人しかいない。

学園統括理事の一人にして四神一鏡のトップ

 氏神 クロム

「私の知った事ではないわよ。

 そんなことより、なんのつもりかしら?」

病人に対して≪そんなこと≫と言って切り捨てた。

いつもの姿はない。

ジュディスの母親として優しい表情も、小烏丸の支援をして微笑む表情もない。

「たかが学生一人が襲われただけよ。

 あなたは早く戻ってハラザキの調査に参加しなさい、“碧空”。
 無理すれば動けるでしょ。

 そこにいる“大笑化薬(グッドラック)”は私の方でどうにかする」

「人を呼称ではなく、名前で呼んでもらえませんか?」

名前ではなく、呼称を使う。

それは人間を“人”として見るのではなく、“存在”または“物”として認識しているときだ。
普段の彼女ではない、『氏神 クロム』というトップに立つ人間の思考。

完全に“スイッチ”が入った状態だった。
ならば一筋縄ではいかない。信乃も意識を切り替えて“スイッチ”を入れる。


アカを持つ5族を取り纏める長と、アオを持つ玖族(くぞく)から追放された末裔の少年。

艶やかな赤髪の女性と、透き通るような碧眼の少年が睨みあいになった。

「どうしても聞けないと言うの?」

「当然ですよ。今限定で言えば、俺以外に美雪を支えられる人いない」

「どこからその自信は来るのかしら?」

「家族だから。それ以上でもそれ以下でもない。

もっと細かい理由が欲しいなら言いますけど?」

「あなたの惚気話を聞いている暇はないの。早く行きなさい」

「お断りします」

「そう、“話し合い”は通じないようね」

「話し合い? 一方的に自分の主張を押し付けるのが話し合いですか?

 それで話し合いが通じないなら、どうするつもりです?」

「もちろん、暴力よ。“枯れた樹海”(ラストカーペット)」

右手を上げ、パンチ! と指を鳴らして合図を出した。

空いたままの病室のドアから一人、入ってくる。

見なれた仲間、神理楽高校二年十三組所属、宗像形。
十三組所属ということは、四神一鏡の所属部隊でもある。

それはつまり、氏神の下僕と同意義であった。

「宗像・・・・」

「信乃、俺が言いたいことは分かるな?」

「もちろんだよ」


「「殺す」」


物騒な言葉を同時に言う2人。

だが言葉には殺気も闘気もやる気も一切含まれていなかった。

「く・・・・くくくくく」

「おいおい、何で笑いを堪えてんだよ宗像・・・クク」

宗像が入ってきた時の、信乃とクロムが話していた時の雰囲気は全くなくなっていた。

「ちょっと、宗像、あんた・・・」

その雰囲気にクロムは困惑した。

しかし信乃も宗像もいつもと変わらず話し合っていく。

「いや、僕のことをよく分かっていると思ってね」

「別に殺人者の考えなんて理解したくもないけどな」

「そんな冷たい事を言わないでほしい。ショックで思わず自殺したくなる」

「殺人者が自殺? ハッ! 面白いこと言うじゃないか。

 やるっていうなら無償で手伝うよ。
 丁度俺も、お前に死んで欲しいと思っていたところなんだ、奇遇だな」

「へぇ、気が合うね。僕も君に死んでくれたら、どれほど幸福だろうと
 以前から常々考えていたんだ」

「ま、楽しみは後に取っとかねぇとな」

「その通り」

宗像は笑う。

信乃は笑わなかった。

「な、なによあんた達は!?」

赤髪の女性が怒鳴る。

「「仲良しさ」」

信乃と宗像が声を揃えて言う。

そして宗像はクロムを真正面から見た。

「さて、氏神クロム。あなたは重要な事を忘れている。

 僕は神理楽高校二年十三組所属だ。

 つまりは四神一鏡直属部隊、神理楽(ルール)に属している。
 あなたの部下だ。

 さらには生涯孤独の僕の後継人のようなことをしてくれた。感謝しているよ。


 だが
   しかし
     だからといって

      僕は言う事を聞くだけの人形じゃない。


 それ以前にあなた以上に信乃に恩がある。

 宗しい像でしかなかった僕を人間に戻した、空という楽しみを教えてもらったんだ。

 そもそも氏神クロム、あなたに僕を紹介したのは信乃だ。

 小烏丸に入るのだって、あなたの命令以上に僕の意思だ。

 色々な事を含めて、あなたよりも信乃に付く理由の方が大きい。

 だからあなたとの契約をこの場を持って、殺す」

「あなた・・・・本気?

 私を裏切る事は・・・四神一鏡を、世界の4分の1を敵に回すつもり?」

「それはつまり世界の4分の1を殺してもいいと言う事か?」

「待て宗像。半分は俺の獲物だ」

「仕方ない。8分の1殺しで我慢しよう」

「なんだか半殺しに似ている言葉表現だな。
 それと比べると8分の1殺しってかなり優しい状態に感じるのは気のせいかな?」

「ふむ、確かに。僕も色々な殺し方に精通しているが、
 今度は優しい殺し方について研究してみよう」

「殺しの時点で優しくない。良くて生易しいだ。
 むしろ生易しい殺し方ってのは拷問って意味じゃないか?」

全く関係の無い、緊張感の無い議論を始めた信乃と宗像。

「本気なの!? 私達の勢力は! あなた達が思っているよりも大きいのよ!!

 それを2人で相手になんて!!」

「逆に聞きたい、クロムさん。

 いいのか?」

「な、なにがよ?」

「勢力はたった世界の4分の1でいいのかと聞いているだよ」

「・・・・くっ」

クロムは脅しのつもりで言った。聞きわけが無ければ実力行使も考えていた。

だがこの2人には通用していない。
脅しでは無くとも、本当に戦うつもりだろう。

そして2人は負けるつもりもない。

「まさか、たった2人に怯んでいる自分がいるなんて信じられないわ・・・」

冷や汗が頬を伝う。

言い負かせられてしまった。こんな小僧2人に。
論理的な会話ではないことは知っている。
むしろ暴力的な会話なら四神一鏡の得意分野のはずだが、負けてしまった。

「・・・わかったわ。今回はあなた達を強制的に動かした方が損をするみたいね。

 出撃命令は取り消す。これは大きな貸しよ、“碧空”、“枯れた樹海”(ラストカーペット)」

「さすが財政力の世界の長。

 自分たちの一族、いや五族を皆殺しにされる機会を貸しに変えるなんて計算高い」

「僕たちに出来ないことを平気でやってのけるなんて」

「そこに痺れる~」

「憧れる」

「もう、あなた達のキャラが壊れていると思うのは私だけかしら・・・

 “宗像”、あなたには別の任務を与える。

 “信乃”と“美雪ちゃん”の護衛任務よ。それでいいでしょ?」

すでに入室時の雰囲気は皆無。いつもの氏神クロムに戻っていた。
戻り過ぎて、バカ二人を相手にして頭痛で米神を抑えていた。

「了解。その任務、請け負いました」

「まったく、調子のいいことだけはいい返事をするのね。

 美雪ちゃんが無事に完治したらバリバリに働いてもらうからね」

「はい。あと、Dr.カエルに渡した携帯電話は受け取りましたか?」

「ええ。これから、くなぎ・・・・位置外水に渡すわ。現場検証も神理楽(ルール)がしている」

「つーちゃんに、ですか。それなら安心ですね。

 彼女の実力は国連のDBにハッキングどころか、
 システムの書き換えが出来るほどですから」

「僕が思うに、≪樹形図の設計者≫(ツリーダイアグラム)へのハッキングも出来るんじゃないか?」

「え、宗像さん、知らないんですか?」

「・・・・信乃、なにを驚いた反応しているんだ?

 僕は世界最高のコンピュータにでも負けないじゃないかと
 仲間(チームメイト)を評価しつつ、冗談を言ったつもりだが・・・

 ・・・まさか・・・」

「え、いや、確かにつーちゃんなら可能ですが、私が驚いているのは
 宗像さんが≪樹形図の設計者≫とつーちゃんの関係を知らなかったということで」

「ハッキング出来るのか!? って、その言い方だとハッキングレベルが
 勝ち負けに聞こえないんだが・・・」

「負ける負けない以前のレベルですね。それ以前というか、それ以上というか、
 そいつ異常というか」

「・・・・」

「別に知らなくてもいいことですよ。

 昔の偉い人が言っていました。“無知は時にして救いだ”と」

「それは絶対救われない」

「はいはいはい! そこの偽善者(ばか)殺人者(ばか)、漫才はそこまでにしなさい!

 宗像は警備!
 病室だと範囲が狭すぎるし、美雪ちゃんに変に気疲れさせちゃダメだから
 基本は病院全体を警備して。

 信乃! あんたは美雪ちゃんとイチャラブでもしてなさい! 以上」

「了解した」

「イチャラブじゃなくて美雪の面倒を見るだけなんですけど」

「「それが恋人同士ならイチャラブでしょ(だろ)?」」

「変にハモるな! それに恋人じゃなくて家族!」

「あっそ、家族(ふうふ)ね。それじゃナニに励みなさい」

「適当に流さないで下さい! ってナニって何!?」

「護衛は任せておけ。病院全体を護衛しているから
 病室から声が出ても聞こえないよ。例え彼女の妙に熱っぽい喘いだような声とかでも」

「そんな事こんな所でしない!」

「へぇ・・・美雪は声が出ない状態だ、っていう否定ではないんだね。
 それに≪そんな事≫って何か詳しく知りたいところだ」

「ぐ! それは! その!」

言い訳を聞く事無く、笑いながら宗像は出て行った。



つづく
 
 

 
後書き
作中で不明、疑問などありましたらご連絡ください。
後書き、または補足話の投稿などでお答えします。
誤字脱字がありましたら教えて頂くと嬉しいです。

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