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弱者の足掻き

作者:七織
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二話 「準備。そして移動」

 
前書き
オリ主なので基本支店は主人公固定の一人称みたいな書き方です。なので()での考えは、その時の視点の人物一人だけです。視点が変わる際は行を開けて視点変え、書き方を変えます。
 

 
もう、誰もいない家の中へと足を進める
忍だった両親の物には残しておくわけにはいかないものがある
明日にはそれを処分するために人が来るので、必要なものの確保、そして出るための準備を今日中にしなければならない
まず第一に、両親のアカデミー時代の教本。そして父親が書いてくれた術を記した巻物を手に取り、白紙の巻物の中に紛れ込ませる
前者はともかく、後者はまず間違いなく持ち出しなど許されないだろう
だが、原作を知っている以上力を持たず、無力のままでいるなど論外だ。少しでもいきる可能性を上げるためにこれは是非とも必要だ
無論、簡単に持ち出せるとは思わない。子供だということを利用して演技をし、荷物の検査を誤魔化すか、いざとなれば近くの森林の地面かどこかにでも埋めるとしよう。巻物のことを知る人物はいないはずだからなんとかなるはずだ
代わりに、不振に思われないようにそれ以外の関係物には余り手を触れるわけにはいかない

親が自分のために用意してくれた物一式を集めながら、何かないかと辺りを探し回るとポーチとホルスターを見つけ、中を見ると苦無や千本などが入っていたので持っていくことにする
これならば遺品として持っていきたいといえば恐らく大丈夫だろう
こんなところかと漁るのをやめ、母親の部屋へと向かい、床を外す

「あったあった。さすがに全部は無理か」

どの世界でも、ある程度の資産を紙幣などではなく物品で保管する人という者はいる。母はそれに該当する人であったため、そこに隠されていた金や宝石などの嵩張らず、価値のあるものを荷物へと運ぶ

「こんなもんか。後は明日になってからだな。朝早く起きなきゃならんのだからさっさと寝るか」

自分にも無理なく背負えるよう、比較的小さなバックはすでに一杯だ
することを終え、明日に備えてイツキは布団へと向かった







「では、親戚を頼るということで良いんだな」
「はい」
「そうか。なら少し待て。機密に関わるものを回収したら連れていく。一応、お前の荷物も確認させてもらう」

既に時間は昼近く。何度か会ったことがある知り合いの忍、確かイサクと言う名前の忍はそう言い、昨日用意した荷物に目を通していく

「特に問題は無さそうだな。……この金はどうした?」
「それは……お母さんが、何かあったときにって」
「そうか。まあ子供とはいえ先立つものは必要か。個人の財産に手をだすわけにもいくまい」

そう言い、出したものを戻している相手に近づき、意識して悲しみを堪えるようなイメージをしながら持つものを前に出す

「後、これも持っていっていいですか? 」

手に持つのは昨日見つけたポーチとホルスターだ
それを受け取った相手は怪訝そうな表情でこちらをみる

「何でまた、こんなものを? 親から教えられていたのか?」
「お父さん達からは簡単な基礎しか教えてもらってません。ただ、何かお父さん達の物を持っていたくて……」

自分でも良く出るものだと思いながら言葉を紡ぐ
そんな此方に同情でもしたのか、中を確認して返してくれた

「苦無ならそれほど問題はないか。最低限の知識さえ有ればそう危なくもあるまい。だが、起爆札だけは抜かせてもらう」

中を確認してみると、確かに有った札がなくなっていたがその程度なら問題はない

「イサクさん、中の確認は終わりました 」
「そうか。ならお前達は回収したものを持って先に戻れ。俺はこいつを連れていく」
「了解」

家の中から出てきた人に指示を出し、イサクは此方に荷物を積め直したバックを返し、背を向ける

「親戚の所に行くぞ。着いてこい」






(落ち着いているものだな)

静かに横を歩いている子供のことを伊朔(いさく)は思う
同僚であった彼の親から大人しく素直な子だとは聞いていたが、親の死にさほどの動揺を見せぬイツキの事は、大人しいなどというのとは違うように思える
昨日、墓場の前でのことならばわかる。あの時、この子供の顔に浮かんでいたのは拒絶に似た何か。恐らく、事態を理解できていなかったのだろう。そのための無感情
だが、一晩たった今、この子供は感情を荒れさせてはいない
考えられるのは二つ。未だ理解することを拒んでいるのか、それとも、理解した上で受け入れたのか
前者ならば、時間と共に理解し、苦しむだろう
後者ならば、異常だと言わざるを得ない
聞いた話だと、基礎的な訓練は親から受けていたらしい。その中に精神鍛練でもあったのか
人間の倫理観とは、その根幹となる部分は幼少の時期に養われる。ならば、早い時期からの鍛練は、この少年の精神を、親の死を仕方の無いものだとするようにでも固めたというのか

(儘ならないものだ……)

余りにも早い精神早熟。それが少し残酷にさえ思える
下げていた手をあげ、少年の頭に乗せる
不思議そうに此方を見上げる少年の顔を見ながら、自己満足とも言えることばを吐く

「何か困ったことでも有れば、来い。暇さえあれば力になろう」
(もっとも、そんな暇があればだがな……)





(善意が痛い……)

つい先日、外道とも思える宣言をした自分には突き刺さる言葉だ。大方、両親が死んだのに取り乱さない自分を心配でもしたのだろう。此方の事情を相手が知らず、子供である事を使っている自分としてはその言葉が非常に痛い。なんだろう、無意識に謝りたくなる

「……有り難う、ございます」

だが、利用できるならば利用しよう。この人も中々に優秀だったはずだ。いざという時の人脈は広い方が良い。そんなことを考えながら礼を返す
そんなやり取りをしながら、しばらく歩くと一軒の家が見えてくる。その前にいる人が、例の親戚なのだろうか。聞いた話では商人だというが

「すみません。あなたが、(いおり)さんでしょうか?」

……なんだろう、このイの字のオンパレードは。親の名前も先頭がイだったのに親戚といい知り合いといい、なんか伝統でもあるのだろうか
霧の里のイの字一族
スゴク……カッコ悪いです

「———では、そういう訳なのでお願いします」
「リョーカイだぁ。ま、ガキの一人ぐらいなんとかなんだろ」
「一応、あいつらの家の中にあった資産で持ち運びが容易なものは幾つか持ってきましたのでどうぞ」
「んなもんあったのか。……へぇ。ま、ガキ一人の面倒見る分には問題ねぇな。貰っとく。おいガキ、こっち来い」

アホなこと考えてる間に話しが終わったらしく、呼ばれたので近寄る
改めてみたその男性はやや大柄で、無精ひげを生やした黒い短髪の容姿。職人の様なイメージで、煙草でも合いそうな印象を受ける

(パッと見三十半ばってとこか……)
「俺は沚島庵だ。お前、名前は?」
「天白イツキです」
「イツキ、ね。まあいい、とりあえず事情は理解してんだよな?」
「はい」
「……ならいい。お前はこれから俺について来てもらうことになる。じゃ、そちらさんはこれで用は終わりだろ」
「ええ。では、これで失礼します。……強く生きろよ」

最後に一言自分に向けて告げ、イサクは軽く手を振って去っていった
それを見送っていると、イオリに声をかけられる

「とりあえず家ん中入るぞ。準備もあるしな」
「あ、分かりました。……準備ってなんですか?」
「出かける準備だ。お前が来るって聞いて予定伸ばしといたんだよ。もっとも、お前の荷物足すだけだから直ぐだけどよ。それとお前、体力はあるか?」
「お父さんたちに少しだけ教えてもらっていたので、少し自信はあります」
(商人というくらいだし、遠出でもするのか?)
「……そうか……なら、なんとかなんだろ」

そうこうしている内に荷物が纏められる。思っていたよりもさほど大きくないが、そんなものなのだろうか

「さて、と。これから出かけるが、何かしとくことがあんなら今のうちにしとけ」
「あ……なら、お父さんたちのお墓にもう一度行ってきていいですか?」
「別にいいが……一緒に行った方がいいか?」
「えっと、ひとりで大丈夫です」
「そうか……なら行って来い。道は分かるだろ」
「はい」

軽く返事を返し、記憶にある場所まで小走りを始めた




「ここだここ。……周りにはだれもいないよな?」

墓地に着き、周囲を見渡して人気がないことを確認する。元々外れた場所にあるので人気は少ないが、万が一という事もある
誰もいないことを十分に確認してから、墓地の前の地面。周囲と色がやや違う部分の土を掘りだす

「……あったあった。流石にここまですりゃ気付かれねぇよな」

掘り出したのは早朝早くに埋めた巻物。見つかったらアウトの術の物だ
検分がある可能性があった以上、バックに入れるわけにはいかず隠すことにしてここに埋めたのだ
つい先日掘り返したばかりで土の色が違っていっても怪しまれない場所、それも親の墓の場所に埋めれば安全だと思ったが正解だ

「なんか心理的にやっちゃいけないような気もしたが、生きるためだ。許してくれよ父さん達。んじゃ、さっさと戻るか」

やることやったら長居は無用。最後に墓に向けて手を合わせ、さっさと来た道を戻るとしよう







「用はすんだか?」
「はい」
「そうか……なら行くぞ。小せぇバック一つなんだ。自分の荷物は自分で背負えよ」
「分かりました。……そう言えば、僕たちはどこに行くんですか?」
(まあ、どこだろうと知らんがな)
「ああ? そういえば言ってなかったな。俺達が行くのは————」
(知らん以上、どこだって一緒か。聞いたことある場所ならいいけど無理だろ)



「———波の国っつう所だ」
(知ってるとこキター!?)


 
 

 
後書き
話を進むごとに外道さを段々上げてく予定。レベル1 
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