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とある碧空の暴風族(ストームライダー)

作者:七の名
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時宮遭遇
  Trick48_そんな血筋だと知ったのは1年ほど前です

常盤台で御坂達に報告を終えた後、信乃はそのまま氏神ビルへと向かった。
目的は常盤台と同じく襲撃事件の直接報告。

四神一鏡(こちら)への報告は食蜂とは違い、
報告書だけでなく信乃に取り調べを行ない、根ほり葉ほり問い詰められていた。

そして数時間後、全ての受け答えを終わり、ビルの最上階である氏神クロムの部屋にいた。



「ふ~、疲れました」

大きく一呼吸。客人用の豪華なソファーに身をゆだねて信乃は呟く。
紅茶の入ったカップを信乃の前に置き、自分の分のカップを持ってクロムも座った。

「今日の尋問、事件直後に出した報告書と全く変わらなかったわね」

「・・私が嘘を言っているか疑っていることより、尋問って単語が気になるんですが」

「ペンチを使って爪を剥いだ方が良かったかしら?」

「それは拷問です」

すかさず信乃のツッコミ。

しかし四神一鏡の幹部が言ってしまうと冗談に聞こえない。
クロムの人柄を抜きにしても、この組織ならそれぐらいやるだろう。

「でも仕方が無いわ。

 私個人が信乃君に持っている信頼は、私の部下には意味がない。

 特にあなたの場合は“名字と血筋”に一癖も弐癖もあるもの」

「そんな血筋だと知ったのは1年ほど前ですし、自覚もありません。
 今後もあそこに所属するつもりはありませんよ。

 私の祖父を追い出した機関なんかには特に」

「なら四神一鏡(うち)に正式所属しなさいよ。今以上に優遇するわ」

「ありがたいお誘いですが、私は自由気ままな野良猫生活が気に入っていますから」

「あら、フられちゃったわ。お姉さん悲しい」

出会ってから半年近くになるが、クロムと信乃との間で10回以上となる
お誘いとお断りが今回も出てきた。

「そういえば、明日から合宿よね? あなたはどうするの?」

「この状態では普通の参加はできそうにないですね、ハハハ・・・」

信乃は苦笑いを浮かべた。

「どうするのよ? あなたは小烏丸のリーダーであり、
 A・Tの先輩でしょ?

 上級の宗像なら1人で訓練もできるけど、
 まだ初級の黒妻は教える人がいなければ合宿での成果は望めないんじゃない?」

「そうですね、あと佐天さんも同じですね」

「あ、そういえば居たわね、あの子も」

「もう、クロムさんは・・。佐天さんが有能なのに自分の経営する
 学校に入ってないからって、忘れたふりなんて意地悪をしないでくださいよ」

「べつに~。そんなこと思っていないし」

「何いじけているんですか、大人げない」

「でも信乃、小烏丸にいるのに、普通の学校に通い続けるのは少しまずくない?
 学校側で防衛の体勢なんて敷いていないでしょう?」

「佐天さんの注目すべき点は、能力の伸びしろにあります。
 むしろ現段階では、相手にしては眼中にないでしょう。

 ですから、この合宿中に初級から中級になってもらう予定です」

「で、具体的にはどうするの? あなたは参加できないでしょう?」

「ええ。それを踏まえて、クロムさんにお願いがあります。
 黒妻さんと佐天さんに、これを渡して下さい」

信乃がテーブルの上に置いたのは黒、白が1つずつのA・T用ケースだった。
そして1台のノート型PC。

「これは?」

「中級に上がるために通るべき『道』です。
 A・Tは2人に合わせて調律(チューニング)は完了しています。

 そしてPCですが、これに2人の師匠になってもらいます」

「と、言う事はPCに入っているのね?」

「ええ、位置外に協力をしてもらい、『あの人』をPCに入ってもらいました。
 私よりも的確な指示を、指導をしてもらえるはずです」

「・・・・このPC、四神一鏡(うち)で中身を調べてもいいかしら」

「ん~、構いませんが、骨折り損になると思います。
 ハードもソフトも作成者は位置外水、彼女です。
 学園都市“程度”では解析は出来ないと思いますよ」

「あー、やっぱりそうか。それじゃ諦めることにするわ」

「意外に引き際が良いんですね」

「確かに欲しい技術と『人』だけど、位置外に勝ているとは思っていないし。
 あの子、“樹形図の設計者”(ツリーダイアグラム)の製作者の子供でしょ、無理よ。

 それに信乃、あなただって調べてほしいとは思っていないでしょ?」

「ええ、まぁそうですね。『あの人』は私の師匠でもありますし、
 手を出されたくは無いですね」

「だからよ。あなたの好感度を上げておけば、後でいいことがあるしね」

茶目っけのウインクをしながら、冷めた紅茶の口に含んで氏神クロムは笑った。

「さて、陽も傾いてきましたし、御いとませてもらいます」

「下に車を回すわ。乗っていきなさい」

「ありがたい言葉ですが今日は遠慮しておきます。

 リハビリも兼ねて歩いて帰りますが、家に着いたとき美雪に車を見られたら大変ですから。
 クロムさんが怪我人を呼んだってことで怒り狂いますよ。

 あくまで、今日は私が勝手に家を出て散歩したに過ぎません」

信乃はシニカルに笑い、部屋の扉へと向かう。
松葉杖を使い、ゆっくりと少し不安定な足取りで進む。

「怪我しているのに悪かったわね」

「そう思うなら呼ばないで下さい」

「それは無理よ。これでも四神一鏡のトップなのよ?
 あなたは特殊とはいえ傭兵なの。傭兵の怪我なんて気にしてられないわ」

クロムは少し悲しそうな顔をしていたが、窓から入る夕陽が影を作り彼女の表情を深く読み取ることはできなかった。





氏神ビルのロビーから外に向かう。
自動ドアのガラスから見える景色は夕陽色に染まっていた。

「こりゃ、早く帰るだけでなく言い訳も考えないとな」

美雪に内緒で信乃は出掛けていた。

学校を休んで信乃の看病をしていた美雪だが、今日が終業式と言う理由で
信乃が説得し、学校へと行かせた。

1週間近く休んでいた為、連絡事項や手続きなどで遅くなるだろう。
その前に帰らないといけないが、勘のいい美雪には信乃が出掛けたのは気付かれているかもしれない。

だから出来るだけ機嫌取りを考えながら足を進めた。

「さて、と」

外に出る前に信乃は意識を集中させる。


 魂感知能力


それは“死神”と呼ばれている一族が使えるスキル。
信乃が学園都市に来る前の旅の途中で出会った男から教えてもらった技術だ。

この技術は魔力を使う訳でもなく、超能力に区分されるものでもない。
完全なる人間の持つ力で使用するスキルだ。
故にそういった方面でも才能が皆無の信乃でも使え、こと状況判断が必要な場面では使い勝手が良かった。
今もいつものように建物から出るという狙われやすい状況では癖として発動させる。

「ん・・・?」

違和感がある魂を見つけた。

別に自分を監視しているわけではないだろう。

変な魂があるのは1kmほど先。
場所は複数の建物郡の向こう側、自分の記憶の地図が正しいのであれば路地裏だろう。

かなりの透視能力者でもない限り監視ができない状況だ。
むしろ数km先から望遠鏡で覗いた方が確実かつバレないだろう。

と言う事は男が信乃の感知範囲にいたのは偶然。
信乃へ敵対の為に配置した人間ではない、はずだ。


では対処はどのようにするか。

見つけた人物は“違和感”がある程度。
“敵”というわけでもなく、魂の異常に“確信”がある訳ではない。

更に、現在の信乃は怪我を負っている。
無理をすればA・Tを使えるが、良くて中級者程度だ。
立ち回れて、戦えるとは言えない。
更に今持っているA・Tは調律すらしていないド・ノーマル仕様。

そのマイナス要素の中、信乃が出した結果は“向かう”であった。
信乃が学園都市に来たのは“ハラザキ”と相対するため。

だが、ハラザキが直接に関わっている事件にはあまり遭遇率が低い。
学園都市の理事の力を借りても未だに影の端しか見えない。

だから僅かな可能性でも賭けてみるしかないのだ。
氏神ビルから近い路地裏へと自然に入り、早々にA・Tを装着する。

「それじゃ、当たりでありますように」

足の症状が悪くならない程度の速度で、しかし苦痛を伴う走りで目的地へと向かった。


つづく
 
 

 
後書き
作中で不明、疑問などありましたらご連絡ください。
後書き、または補足話の投稿などでお答えします。
誤字脱字がありましたら教えて頂くと嬉しいです。

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