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DQ4TS 導く光の物語(旧題:混沌に導かれし者たち) 五章

作者:あさつき
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五章 導く光の物語
  5-41帰還と再会

「助かったぜ、パノン」
「いえいえ、そんな滅相も無い。みなさんも、お気付きだったでしょう?」

 おどけた様子で目配せするパノンに、ブライが答える。

「そうじゃがの。円満に事をおさめようと思えば、わしらでは無理のあることであったからの。芸人たるパノン殿の実績、国に縛られぬ立場、相手を立てる話術。それらがあって初めて、成し得たことじゃて」
「お役に立てたなら、幸いです」
「それじゃ、パノンさん。これ。少ないけれど、取っておいて。」

 トルネコが差し出した皮袋を、パノンが押し返す。

「とんでもない。頂けませんよ」
「いえいえ、いけないわ。劇場のお仕事を中断してまで、お付き合いいただいたんだから。これくらい、受け取っていただかないと。」
「いいえ。みなさんの旅が、意味するところを思えば。これは断じて、受け取れません」
「それは、まあ、ねえ。世界が滅んでしまえば、あたしにしろパノンさんにしろ。商売だのお笑いだの、言ってはいられないけれど。」

 断固たるパノンの調子に、トルネコが勢いを弱め、パノンが畳み掛ける。

「その通り。みなさんは、世界中の人々が安心してお笑いを楽しめる世の中を、取り戻してくださるのでしょう?それは、私の利益にもなることです。それ以外に、報酬など必要ありません」
「そうは、言ってもねえ。」
「それに今回、私はお笑い芸人としての仕事をしたわけではありませんから。笑いのひとつも取っていない以上、芸人の誇りにかけても、報酬など頂くわけには参りません!」

 最後は冗談めかして締め(くく)ったパノンに、トルネコが苦笑する。

「そういうことなら。お言葉に、甘えさせてもらおうかしら。」
「そうしてください。では、私はこれで!お触れもまだ撤回されないそうですし、小手先の笑いでも、みなさんが目的を遂げられるまでの、繋ぎにはなるでしょう。この国を少し明るくしたのちに、世界を巡り、笑いを振り撒く旅に出ようと思います。みなさん、どうぞお元気で!」


 満面に笑顔を浮かべ、手を振りながら町に出ていくパノンを見送った後、ミネアが口を開く。

「さて、このあとですが。天空の盾の情報があることですし、兄さんのルーラですぐにも向かえるし。次の目的地はバトランドということで、いいでしょうか」
「うむ。それが、良かろうの」

 ブライが答えるのに、トルネコも頷いて同意を示しながら提案する。

「それなら、その前に。武器屋と防具屋に、寄りましょう。あたしたちはいいけれど、ライアンさんの装備がね。誂えられた趣味のいいものではあるけれど、鉄の鎧に、鉄の盾では。一番前に出る戦士さまがそれでは、この先、厳しいのではないかしら。」
「確かに、国からの支給品ゆえ、そう性能の高い物ではありませんが。国に戻るのであれば、これを着ぬ訳にも」
「王様にお目通りするときには、それを着ていればいいわよ。そういう事情なら、どちらにしろ、手放すわけにはいかないのだし。戦士さまなんだから、装備は充実させておかないと。ユウちゃんの盾にも、なれないわよ。」

 守るべき少女を引き合いに出され、ライアンが熟考の後、頷く。

「……仰る通りですな。では、参りましょうか」


 ライアンが納得したところで一行は防具屋に移動し、ドラゴンメイルを購入する。
 試着して調整を受けているライアンに、仲間たちが感想を述べる。

「嬢ちゃんだと、鎧に着られてる感があったが。さすがに本職の戦士ともなると、違うな」
「また兄さんは。でも確かにユウは、まだまだ可愛いもののほうが似合う歳だからね」
「うん。ライアン、かっこいい」
「うむ。凛々しいという言葉は、ライアン殿のためにあるようなものじゃの」
「素敵です……はっ!いえ、私はそんな、気の多い人間では、決して!ただ、素敵だというだけで!」
「鍛練には、特に関係無いが。敵との戦いでは、ますます硬くなるわけだな。俺も負けていられないな」
「まあ、まあ。惚れ惚れしちゃうわねえ。ドラゴンシールドも、あればよかったのだけど。リバーサイドにも、寄ってもらおうかしら。」

 トルネコの呟きに、ライアンが返す。

「そう、焦ることも無いでしょう。元々の装備でも、これまで十分にやってこられたのです。キングレオとサントハイムの敵を倒し、当面は大きな相手も居らぬでしょうから。追々、揃えて頂ければ」
「それもそうね。今日のところは、鎧だけでいいことにしましょう。」


 鎧の調整を終え、武器屋に移動する。

 この店の最高の品であるというバトルアックスを手に取り、ライアンが軽く振る。

「さすがに、余裕ですわねえ。」
「とは言え私の剣、破邪の剣でしたか。これと比べてさほど差が無いのであれば、買い替える程のことでも無いでしょう」
「そうね。これもドラゴンキラーがあれば、よかったのだけど。それも追々ということで、いいかしらね。」

 スタンシアラ城下町での買い物を終え、一行はマーニャのルーラでバトランド城下町に移動する。



 ライアンの先導で城へと向かう道すがら、マーニャが町を見回して口を開く。

「ど田舎ってほどでも、ねえんだが。酒場はねえし、まあ面白味のねえとこではあるな」
「兄さん。だからどうしていちいち、そういうことを言うかな」
「国王陛下が質実剛健を旨とされている故か、酒場は出来ても流行らぬようでな。過去にあったことはあったが、続いているものは無いな。酒ならば火酒の有名なものがいくつかあるが、各々の家で飲むことが多いな」
「なんだよ、国ごと真面目なのかよ。俺にゃ合いそうもねえな」

 ぼやくマーニャに、アリーナが異議を唱える。

「王宮には、屈強な戦士が揃っているんだろう。こんなに面白い国も、そうは無いと思うが」
「王宮戦士団の精強さに関しては、間違い無く誇れるところではありますな」
「ホイミンは?あとで、会える?」
「勿論です。皆に会えるのを楽しみに待っているでしょう。後で、連れて参ります」
「それは、楽しみじゃの。しかしまずは、用件を済ませねばの」
「そうですわね!天空の盾か、その情報か。うまく、見つかるといいのだけど。」
「……あの。何だか、町の方々から。……視線を感じるような、気がするのですが」

 居心地悪そうに口を開いたクリフトに、マーニャが答える。

「ああ。ライアンがいるからな」
「ライアンさん、ですか?」
「前に来たときもそうでな。ライアンの上司だっておっさんに聞いたら結構な有名人らしくてな、こいつは。王宮の山猿どころか、王宮の天使だってよ、今じゃ」
「王宮の、天使、ですか」
「山猿よりは、納得できるわねえ。」
「そのような儚げな感じは、受けぬがの」
「なんでも、こいつの笑顔が天使の微笑だとか言ってよ。入れ込んでる奴が、男にも女にも多いとかでな。一緒に歩いてるだけで、睨まれて大変だったぜ」
「そういう意味で兄さんが睨まれるなんて、珍しい状況だね。いつもは逆なのに」
「流し目くれてやったら怯んでたがな」
「それは普通に想像できる」

 仲間たちの会話に、ライアンが首を傾げる。

「はて。初耳ですな。何かの間違いではないでしょうか」
「あれだけ見られて自覚しねえってのも信じられねえが、らしいっちゃらしいな。ま、気にならねえなら、気にすんな」


 王宮に入ったところで、際立って体格の良い戦士が声をかけてくる。

「ライアン!来たのか」
「中隊長」
「よう、おっさん」
「おう、マーニャ。この前は、ライアンとホイミンちゃんが世話になったな」
「たいしたこたねえよ」
「ライアンさんの、上司の方ですね」

 ミネアに話を振られ、戦士が砕けた態度を改める。

「ああ。バトランドの王宮に、ようこそ。皆さんのことは、ライアンとマーニャ殿、それにホイミンから聞いている。伝説の勇者殿と、その御一行の方々。早速、国王陛下に目通って頂きたいが、宜しいか」


 戦士に先導されて一行は玉座の間に通され、バトランド国王に謁見する。

「よくぞ戻った、ライアンよ!勇者殿を見付け出し、引き続き旅に同行するとか。そちらの少女が、勇者殿であるか」
「はい。こちらが、私の探していた予言の勇者。ユウ殿です」
「ふむ。本当に、まだ幼い少女であるのだな」

 国王がライアンから少女に向き直り、改まって言葉をかける。

其方(そなた)のような幼気(いたいけ)な少女が、斯様(かよう)に重い運命を背負わされるとは、痛ましい限りじゃが。このライアンは、若い女性の身でありながら、我が王宮戦士団においても指折りの実力者じゃ。きっと、其方らの旅の助けとなろう。ライアンの他にも、力強い旅の仲間がおられるとか。予言にあるからには、ユウ殿の力無くば、世界は救えぬのであろうが。決して一人で全てを背負おうとはせず、仲間を頼るのじゃぞ。旅に同行し、直接に助けることは出来ずとも、わしも出来得る限り力となるでな」

 少女が、答える。

「はい。お言葉を、ありがとうございます。ライアン、さん、も、他のみんなも。みんな強いし、よく助けてくれます。今までの敵も、私ひとりでは、きっと倒せませんでした。これからも、みんなの力を借りて。きっと、目的を果たせるように、頑張ります」

 国王が少女に微笑んで頷きかけ、再びライアンに向き直る。

「ライアンよ。改めて言うが、心してユウ殿をお守りし、職務に励むように」
「は。身命を賭してお守りし、世界を救い、国を守る王宮戦士の使命を果たす所存です」
「うむ。ところで、話は変わるが。其方らの旅に何か役立てぬかと思い、調べさせたのじゃが。この城にはかつて、天空の盾という強力な品があったそうじゃ」

 国王の言葉に、トルネコが思わずといった様子で声を上げる。

「まあ!天空の盾が!……あら、ごめんあそばせ。あたしったら、とんだ失礼を。」
「良い。続けて、構わぬかな?」
「もちろん、お願いしますわ。」
「うむ。過去にはあったのだが、わしの爺様の代に、ガーデンブルグの女王に贈ってしまったらしい」

 今度はブライが声を上げる。

「なんと!そのような希少な品を他国の王に、おいそれと!……む、これは、わしとしたことが。失礼した」
「いや、良い。全く以て、情けないことじゃ。特にこれと言った理由も無く、只の助平心かららしいというのが、またのう。今もこの城にあるのであれば、一も二も無く与えるところであるが。済まぬな」
「いえ。在処(ありか)がわかっただけ、助かります。しかし、ガーデンブルグと言えば」
「うむ。岩山に囲まれ、唯一の連絡通路であった洞窟が、火山の爆発で塞がっておるな。マグマの杖でもあれば、岩山を溶かすことも出来ようが」

 マーニャが口を挟む。

「おお。マグマの杖なら、あるじゃねえか。……っと、まずかったか?」

 ミネアに睨まれ、周りを見回すマーニャに、国王が鷹揚に答える。

「構わぬよ。既に持っておるとは、流石じゃの。天晴れじゃ!では、ライアンよ。路銀を用立てたゆえ、旅立つ前に受け取ってゆくように。ライアンは経験して知っておろうが、ガーデンブルグまでの道のりは、険しい山道であるゆえ。十分に備え、気を付けて向かうのじゃぞ!」


 国王の御前を辞して、戦士に連れられ、城内の一角を目指す。

「使いをやっておいたから、妻がホイミンちゃんを連れて来てるはずだ。陛下からの金も、すぐに渡せるからな」
「すみません、中隊長」
「手回しがいいじゃねえか、おっさん」
「中間管理職なんてのは、気と手を回すのが仕事みたいなもんだからな。本来は、柄じゃ無いんだがなあ」
「確かに、ちまちました仕事が似合う見た目じゃねえな」
「兄さん。どれだけ打ち解けたにしろ、失礼だろう」
「ははは。いいんだよ、その通りだからな」
「中隊長殿も、強そうだな!機会があれば、手合わせを願いたい」
「光栄です。機会があれば、是非に」


 案内された部屋には、数名の王宮戦士とひとりの女性、それにホイミンが待っていた。

「ライアンさん!みんな!」

 一行を目にしてホイミンが顔を輝かせ、駆け寄ってライアンに抱き付く。

「ホイミン。変わり無いようだな」
「うん!ライアンさんも、元気でよかった!」

 ライアンが女性に顔を向ける。

「奥方。わざわざご足労頂き、(かたじけ)ない」

 女性が微笑み、応じる。

「いいのよ、気にしなくて。どうせ暇だし、ライアンちゃんに会いたかったしね!今日は、イムルに泊まるのよね?ホイミンちゃんにもお泊まりの準備をさせてきたから、連れて行ってあげてね!」
「む。しかし」

 言い淀み、仲間たちに目をやるライアンに、マーニャが軽い調子で言う。

「いいじゃねえか。すぐ近くの村なんだろ?明日はルーラで送ってやるし、船も馬車もあるんだ。危ねえってほどのことも、ねえだろ」
「そうよ。ホイミンちゃんも、縁のある村なのよね?それなら、人間になれた報告を、しに行かないとね!」

 トルネコも同調し、他の仲間にも異論が無いのを受けて、ライアンも頷く。

「ではイムルへは、ホイミンも連れて向かうとしましょう。お気遣いありがとうございます」
「いいのよ。楽しんできてね!」


 国王からの路銀を受け取り、ホイミンを連れて、一行は城下町に出る。

「この町じゃない、別の村の宿屋さんに泊まるの?」
「はい。イムルの村の宿屋には広い風呂が有りますし、城下町からよりもガーデンブルグに出やすいですから。少しの距離ではありますが、移動出来るならしておいた方が良いでしょう」

 少女の疑問にライアンが答え、ホイミンが楽しげに言葉を続ける。

「ププルくんの宿屋さんだよね!ププルくん、びっくりするかな?楽しみだな!」
「ププルくん?ホイミンの、おともだち?」
「そうなの!ライアンさんと一緒に、悪い魔物から助けた子なんだ!」


 城下町を出て馬車で移動し、船に乗って川を渡り、船を降りて更に移動を重ね、イムルの村に着く。

「こっち、こっち!宿屋さんは、こっちだよ!」

 はしゃぐホイミンは少女の手を引いて宿屋に走り、大人たちはのんびりと後に続く。

 宿屋に駆け込んだホイミンは、開口一番に宿屋の主人に告げる。

「こんにちは!ププルくん、いますか!」

 宿屋の主人は目を丸くし、微笑んで答える。

「おお、これは可愛らしいお嬢さんだ。うちの悪ガキに、こんな可愛らしい知り合いがいたとは。今呼ぶから、ちょっと待ってくれな。おーい、ププル!」

 宿屋の主人は奥に向かって呼びかけ、奥から少年が現れる。

「なんだよ、父ちゃん。手伝いなら、しないよ」
「馬鹿野郎、お前にお客さんだよ。こんな可愛いお嬢さんの前で、馬鹿な口利きやがって!」

 父親の言葉に少年がホイミンと少女に顔を向け、目を丸くする。

「え?ぼくに?……知らない子、だと思う、けど」

 目を白黒させる少年に、ホイミンが少し照れたように微笑んで言う。

「えへへ、やっぱりわかんないよね!ぼく、ホイミン!人間に、なれたんだ!」

 少年が、更に目を丸くする。

「え?ホイミン、くん?え?人間?……女の子?……ええええ!?」
「うん、ぼく、男だと思ってたんだけど。女の子だった!」
「ええっ!?だって、ぼく……一緒に、お風呂に、……こんな、可愛い……。……う、うわああああ!!」

 少年は真っ赤になり、脱兎の如く奥に向かって走り去る。

「え?……ププルくん?」

 戸惑う、ホイミン。

 息子と同じく目を丸くしていた宿の主人が、走り去った息子に気の毒そうな視線を向けた後、ホイミンに向き直る。

「あー、ホイミンくん、いやホイミンちゃんか。なんていうかな、男には、色々あるんだよ。そのうち、落ち着くと思うから。少し、待ってやってくれるかな」
「……うん。わかった」
「そっか。男の子だと思ってたのね、ホイミンのこと」
「そっちのお嬢さんは、ホイミンちゃんのお友達かい?一緒に、遊びに来たのかな?」
「おともだちは、そうだけど。今日はみんなで、泊まりにきたの」

 少女が言ったところで、他の仲間たちも追い付いてくる。

「おお、お客さんでしたか。それは、ありがたいことですが。近ごろ、うちの宿に泊まると不思議な夢を見るそうで、客足がさっぱりなんですよ。それでもよろしいですか?」 
 

 
後書き
 戦士の旧知の村で得た、不可思議な情報。
 不思議な夢が示すものは、現実か幻想か。

 次回、『5-42夢の邂逅』。
 10/16(水)午前5:00更新。 
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