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神器持ちの魔法使い

作者:リリック
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始まり
  第05話 鳥と猫と空気と

翌朝、俺はレイヴェルといっしょにグレモリー領に設けられているとある屋敷に招かれた。

「お兄様から聞いているわ。リアス・グレモリーよ」

「お初にお目にかかりますわ。私はレイヴェル・フェニックス。こちらが」

「来ヶ谷秋人です。よろしくお願いします」

「ええ、こちらこそ。それじゃあさっそく案内するわ」

案内してもらうのは、腰まで伸びる紅髪が特徴のグレモリー家次期当主であるリアス・グレモリー。
サーザクスさんが愛して已まない妹さん本人である。

「ちょっと思ったのだけど、来ヶ谷秋人くん、あなた人間よね?」

「ええ。ただのしがない人間ですが」

どんな人物であるか試してみようとわざとらしく皮肉れたように返事を返す。 

「変な意味で言ったのではないの。気分を害したのならごめんなさい」

「大丈夫ですよ。それでなんです?」

自分たちが至高だと思い込み、他種族を見下す悪魔が多い昨今、人間である俺に対してでも謝罪の言葉

を口にできるあたり、さすがはグレモリーという感じだ。

「いえ、ただあなたのことをお兄様から聞いて興味を持ったのよ」

「はぁ……」

「ねえ、あなた悪魔になってみない? 一目見てティンときたのよ。どう? 優遇するわよ」

そう言い、悪魔の駒(イービル・ピース)をチラつかせる。

駒の種類はどうやら『兵士(ポーン)』のようだ。
女王(クイーン)』、『僧侶(ビショップ)』、『騎士(ナイト)』、『戦車(ルーク)』とある内の『兵士』。
他の駒に比べ、すぐにもらえる恩恵はないものの、ほかの駒にはない昇格(プロポーション)を備えている。
そのため、その状況にあった戦い方ができ、戦術の幅も広がる。
そんな、最弱で最強な『兵士』の駒。

……出会って数分でいきなりの勧誘ですか。
悩むまでもなく答えは決まっているけど……さっきから背中に視線をひしひしと感じるんだけどな。

「むぅぅぅ……」

なんか唸ってるし……。
グレモリーさんは気付いていないのかそういうように見せているのかわかりかねるけど、でもまあ、

「遠慮させてもらいます。しばらく悪魔になるつもりはありませんから」

後ろでホッと息を吐くのがわかる。
レイヴェルにも前々から言ってるのにな。

「あら、即答なのね」

「誘われるたびに言ってますから。悪魔になるメリットとデメリットを考えたらまだ人間を楽しみたいですし」

「そう。来ヶ谷君がそういうなら仕方ないわね。―――着いたわ」

気付けば小猫ちゃんがいるであろう一室の前に着いた。

グレモリーさんが準備はいい?とこちらに振り向いたのでレイヴェルとともに頷いて返した。

「小猫、私よ。入るわね」

扉を開け、入っていくグレモリーさんの後ろを見つめる。
チラリと見えた部屋は、他の部屋に比べ、落ち着いているとはいえ、広く、高価な家具などが置かれている。
そんな部屋にはイスに座り、外をただ見ている少女が見えた。

あれは、以前の……

「……秋人さま、大丈夫ですの?」

過去の自分と重ね合わせていたのがバレたのか、レイヴェルが心配してくれた。

「あはは。大丈夫。……ありがとな、レイヴェル」

自分のことを思ってくれたレイヴェルに心からのお礼を偽りない笑顔で言う。
それで伝わったようでレイヴェルも笑顔を返した。

「二人とも入ってきて頂戴」

部屋の中からグレモリーさんが出てきて中へ促した。

こちらを見つめ、すぐに視線を外し俯いた小猫ちゃん。
その眼には恐怖心が宿っており、体もかすかに震えているように見える。

「小猫、さっき言った二人よ。自己紹介お願いできるかしら?」

そう言われ、まずはレイヴェルがスカートの端をつまみ、お辞儀をする。

「はじめまして小猫さん。レイヴェル・フェニックスですわ」

「そしてこっちの子が」

「来ヶ谷秋人だ。はじめまし、て……か?」

「……来ヶ谷君?」

突然言い淀みレイヴェルとグレモリーさんが訝しげにこっちを見る。
そんななことはどうでもよく、先程から小猫ちゃんに何かを感じる。
それが何なのか首をかしげながら思考の海に潜る。

「小猫?」

今度は小猫ちゃんの変化に気付いたのがグレモリーさんは視線を向ける。

小猫ちゃんの変化。
先程まで俯いていた少女は何を感じたのかこちら、主に俺の方を見ている。
グレモリーさんやレイヴェルに気付いて慌てて俯くが、チラチラと様子をうかがってくる。
それがしばらく続いたかと思うと、何か決心をしたようで、恐怖心と闘いながらも一歩、また一歩と歩み寄ってくる。

さすがにこれには目を見開いたグレモリーさん。
対人恐怖症が治っていないにもかかわらず、初対面であるはずの少年に歩み寄っている。
驚きはしながらも口は出さず、ただ事の成り行きを見守り続ける。

「……あきと、くん?」

「へ……?」

「……この感じ……ニオイ……やっぱりあのあきとくん……!」

「なぁっ……!?」

「え、えーっと……?」

控えめながらも身を寄せてきた小猫ちゃん。
先ほどまでとは違い、恐る恐るながらもどこか安心感を抱いているように見える。

一方、レイヴェルは絶賛絶句中で、俺も俺でなんとも言えずに必死で記憶を思い返した。


◇―――――――――◆


「つまりは、来ヶ谷君と小猫は過去に出会ったことがある。そういうことなのね」

彼、来ヶ谷君は頷いて肯定する。
結局、彼は小猫こと白音との思い出したようで懐かしそうに喜んでいた。
五年ほど前にご両親が白音と黒歌を保護して半年という期間を一緒に過ごしていたらしい。
ただ、これ以上迷惑をかけるわけにはいかないと言い残して姿を消してしまった。

「大切な思い出のはずなのに忘れてしまっていましたけど、ね」

と、申し訳なさそうに隣に座る小猫の頭を撫でる。

「……にぁあ」

小猫もそれを嫌がることなく受け入れてされるがままになっている。
心を許せる相手を見つけることができたおかげか、普段私達にも見せないほどリラックスしている。
ちょっと、悔しいわね。
とはいえ……

「……」

我慢するように二人を見つめるフェニックス卿の令嬢。
先程から一言も喋らずぷるぷる震えジーッと。
あいさつをした時から私も同じ女として彼女が彼に好意を寄せていることにすぐに気づいていた。
だからこそ言えるわ、もう長くは持たないと。

「あ、秋人さま!」

「ムッ……」

小猫を撫でていた来ヶ谷くんの左手を腕ごと引っ張り、抱き付いた。

「れ、レイヴェル?」

どこかイントネーションが変な彼の声。
腕に感じる女性独特の軟らかさに戸惑っているのでしょう。
……案外初なのかしら

「ッ〜〜〜!」

彼女も彼女でやった後に恥ずかしくなったようで顔をこれでもかというくらい赤くさせながらも、腕を放そうとはしない。

小猫は……初めて見るわね、あの子の怒った顔なんて。
一言で言うなら、兄を盗られた妹の心情っていうのが一番合ってるかしら。

「……放して。秋人くん戸惑ってる」

「い、嫌ですわ! そう言うのなら小猫さんも秋人さまから離れたらどうですの?」

二人とも互いに引かずに睨みあっている。
レイヴェルさんは更に腕を抱き寄せる。
それに対抗して小猫も来ヶ谷君の腰に腕を回してレイヴェルさんを睨み付ける。

「レイヴェルも白音も仲がいいな」

「違う……!」「違いますわ!」

……息ぴったりね。
来ヶ谷君も苦笑してるから同じことを思っているみたいね。
とはいえ、そんな二人を微笑ましそうに見ている。

来ヶ谷君、小猫、レイヴェルさんの三人で一つの空間ができた。
……私、いつの間にか空気みたいね。 
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