久遠の神話
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第五十一話 上からの返事その十二
「生き残り適えます」
「では再び参りましょう」
「次はです」
高代から攻める。今度は思いきり力を溜めて構える。
身体の重心は自然と沈む、後ろにも引いた感じだ。
まるで弓を引き絞る様な構えだった。剣はスペンサーに向けている。
その剣から光が宿る。やがてそれが全身を包み。
一気に突進した、スペンサーはそれに対して。
彼の剣を上から下に真一文字に振り下ろした。重量の巨大な柱が高代の前に出て彼を阻もうとしている。
高代は止まらない、そして。
光と重力が激突した、二つの力は飛び散りそこに白と濃青の眩い星達を撒き散らした。そこにあったのは。
高代は動きを止めスペンサーも立ったままだ。スペンサーから言った。
「お互いに今は」
「はい、これで、ですね」
「私の力は尽きました」
「私もです」
「これでは勝負を続けられません。ですが」
ここでスペンサーはこう言った。
「貴方は私より力の質量は少ない筈ですが」
「それでもです」
「要は戦い方ですね」
「力の強さも量も低くともそれでもです」
「戦い方はあるというのですね」
「その通りです。だからこそ今は持ち堪えました」
それが出来たというのだ。
「この戦いを凌げました」
「勝つおつもりではなかったのですか」
「勝つつもりでした。ですが」
「それでもですか」
「途中でわかりました。貴方は強いです」
スペンサーを見て言う。二人共まだその手に剣はあるがそれを振るうつもりはなくなっている。ただ持っているだけになっている。
「今の私よりも」
「今の、ですか」
「そうです。今の私よりも強いですから」
それでだというのだ。
「ここは凌ぐことにしました」
「全力で戦い。戦術も考え」
「貴方の力を尽きさせようと思いました」
「私はまだどうも力の使い方の加減がわかりかねていまして」
スペンサーは目元と口元を微笑まさせて述べた。
「全力で戦う癖があります」
「力も一気に使われますね」
「アメリカ軍の戦い方でもあります」
勿論その中には彼が所属している空軍のこともある。
「全力で。圧倒的な力で押し潰す」
「それが貴方の戦いですね」
「その通りです。怪物相手にそれは充分効果がありますが」
「人と怪物は違いますね」
「怪物は言うならばイミテーションですが剣士はオリジナルです」
そこが全く違うのだった。高代もわかってきていた。
「怪物達は誰かが創りだしている神話の怪物の模倣に過ぎません」
「一応考えることはできますが」
「イミテーションに過ぎません」
それならばだというのだ。
「決まった戦い方しかできないので」
「勝つことは容易です」
「剣士ならば」
即ち高代達剣士ならばだ。
そしてここで話が変わった。
「剣士ならばどうかといいますと」
「違いますね」
「剣士はオリジナルです」
「そう、私達全員が」
「それぞれの力を使い頭も使います」
その頭もだというのだ。
「それで戦うからこそ」
「全力で潰すだけでは勝てませんね」
「アメリカ軍の戦い方が通用するとは限らないですよ」
高代は余裕のある笑みを浮かべてスペンサーに告げた。
「このことは申し上げておきます」
「そうですね。ですが」
「それでもですか」
「アメリカが何故殆どの戦いに勝ってきたか」
ベトナム戦争以外の戦争にだというのだ。流石にこの戦争で勝ったと言うことはできないことだ。
「それは柔軟性があるからです」
「アメリカの柔軟性ですか」
「そうです。それがあるからこそです」
「では貴方も」
「次にお会いした時にお見せ出来ればと思っています」
その時にだというのだ。
「ではそういうことで」
「わかりました。それではまた」
高代もスペンサーに返した。そしてだった。
彼等はお互いに別れ戦いを終えた、そしてだった。
高代はすぐに携帯を取り出してある人物に連絡を入れた。それは。
「はい、では明日に」
「明日ですか」
「お話します」
穏やかだが真剣な声だった。
「それでいいですね」
「すいません、それじゃあ」
「お礼はいいです。当然のことです」
教師そのものの口調での言葉だった。
「ですからお気になさらずに」
「そうですか」
「それではです」
高代は電話の向こうの相手にあらためて言った。
「また明日に」
「はい、明日に」
電話の相手はこう高代に返した。そして電話を切った。
高代もそれを受けて携帯を自分の懐に戻した。彼は戦いを終えたうえで一つあることをした、それは明日のことだった。
第五十一話 完
2012・11・15
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