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豹頭王異伝

作者:fw187
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旋風
  魔戦士の豹変

 パロ解放軍の最高指導者、アルド・ナリスの所信表明演説が実施された翌日。
 イシュタールに派遣された見習い魔道師が戻り、ゴーラ国内情勢の変化を告げた。

「アムネリスに子供が生まれ、カメロンが名付け親になったのか。
 王子にミアイルと名付けるとは、私に対する当て付けかね?」
「自業自得とは申しませんが、そんな捻くれた見方は御止めになった方が良いですよ。
 ミアイル公子の暗殺を命じたのは誰か、カメロンが知らない事は良く御存知でしょう?」

「流石は大導師アグリッパ様の御気に入り、君の千里眼は総てを御見通しだな。
 私が悪かったよ、白魔道師を代表する人類の旗手ヴァレリウス君」
「いい加減に勘弁して下さい、私は豹頭王様みたいな超人じゃないですよ!
 カメロンからの依頼については、ゴーラ王に知らせてやる義理は無いと思います」

「私としては時機を見計らい、イシュトヴァーンを動かす梃子に使えると踏んでいるのだけど。
 お前は意地悪だね、グインには知らせるが恋敵には内緒かい?」
「どっちが意地悪ですか!
 いえいえ、何でも御座いません。
 早速、仰せの通りに致します。
 ゴーラの騎士は無意識の儘で陣中へ運び、後は勝手に動いて貰いましょう」

「冷たいね、ゴーラの冷酷王イシュトヴァーンも顔負けじゃないか?
 有能な副官が傍に居てくれて、私は果報者だよ」
「あんな無法者《バスタード》と一緒にしないで下さい、私が悪うございました」


 パロ解放軍の指導者アルド・ナリス、豹頭王の接触心話を介した密談が行われた翌日。
 ケイロニア軍と先日に一敗して地に塗れ、復旧の念に燃える新生ゴーラ軍が再び激突。
 世界最強を誇る森と湖の国、ケイロニア屈指の黒竜騎士団と金犬騎士団に突撃。
 怒号する魔戦士の率いる旗本隊、元ユラニア正規軍の将兵を筆頭に雪辱戦を挑む。

 先日とは異なり集団戦闘の鉄則を遵守、各部隊の連係を保ち熟練の機動戦術に対抗。
 圧倒的な実力差を見せ付けられた屈辱的な敗戦を糧に、対策を講じ互角かと見えたが。
 練達の騎士達は豊富な経験値に基く数々の術策を披露、若き勇者達を翻弄。
 ケイロニア軍の経験値は数段も優り、懸命に喰い下がるが実力の差は埋め難い。

 ゴーラ軍は崩壊寸前に追い込まれ、イシュトヴァーンは豹頭王に一騎打ちを挑む。
 グインは鷹揚に挑戦者の意思を汲取り、決死の覚悟と目論見を評価し全面的に乗った。
 豹頭王は一騎打ちで敗れた風雲児の体面を保ち、休戦が成立。
 竜王の施した記憶封鎖《メモリー・プロテクト》、催眠暗示命令は強力無比だが。
 数ザン後に漸く解除《リセット》され、ゴーラ王は封印された記憶を回復。
 ゴーラの僭王へ登り詰めた風雲児、ヴァラキアのイシュトヴァーンが囁いた。

「竜の門とやらをやっつけて、クリスタルを取り返しに行くんだな?
 なら話は早ぇや、ゴーラ軍も同行させて貰うぜ。
 何たって俺は赤い街道の盗賊だからな、ケイロニア軍の強さの秘密を盗ませてもらう。
 嫌とは言わせねぇぜ、何なら、パロ領内を荒らし廻ってやっても良いんだからな。

 どうせゴーラの血塗れ王と後ろ指さされてんなぁ、承知の上さ。
 此の儘イシュタールにゃ戻れねぇ、手ぶらで戻りゃ此の先ゴーラに浮かぶ瀬は無ぇからな。
 ゴーラをパロとケイロニアの同盟国として、全中原に認めさせる必要があんだよ。
 その為なら何だってやってやる、失うものなんざ何も無ぇんだ。

 どうせ俺を利用して何か企んでやがるんだろうが、お前となら取引が出来ると思うんだが。
 ゴーラ軍を胸糞悪い黒魔道への盾や棄て駒にしようなんぞ、考えやしないだろうしな。
 細かい事はうだうだ言わねぇが只一つだけ条件がある、大義名分ってぇやつを考えてくれ。
 部下共が胸を張って国に帰れる様にしてくれりゃ、クリスタル解放の手助けをしてやる。

 俺にも立場ってもんがある、2度も続けて叩きのめされた儘のこのこ戻る訳にゃ行かねぇ。
 催眠術に操られて無謀な喧嘩を売った馬鹿でした、じゃあ部下共に顔向け出来ねぇんだよ。
 ゴーラ軍3万が何の疑いも無く心の底から納得する、公明正大な理屈ってやつが要るんだ。
 どうせ、お前のこった、何かこう、搦め手からの隠し玉を用意してあんだろ?
 そいつを出してくれりゃ手打ちにしてやるよ、ナリス様とは元々話がついてるしな。
 腹の虫は全然おさまらねぇが、今回だけは見逃してやる」

 相手の迷惑を顧みず自分の都合を押し付ける我儘千万、迷惑な事この上も無い理不尽な要求。
 ゴーラ国王が聞いて呆れる盗賊の理屈、駄々っ子の様な言いたい放題の放言であったが。
 魔戦士は赤い街道の盗賊を髣髴とさせる貌へ豹変を遂げ、上目遣いに様子を伺う。
 要領の良い紅の傭兵がニヤリと小狡い微笑を投げ、グインは吼える様に笑った。
「そう考えて貰えればとても助かる、買い被って貰えるのは光栄だが生憎と俺は頭が悪いのでな。
 ナリス殿なら良い知恵を貸してくれる、のではないかと思うので相談に乗って貰えるかな?」

 パロ領に入りゴーラ軍の後を追う密使、ドライドン騎士団ワン・エンの前に。
 アルド・ナリスの使者を名乗る魔道師が現れ、カメロン直筆の証明書を見せた。
 迷信深い船乗り達は魔道師を信用せず、胡散臭い占い師と見る傾向も強いが花押は偽物に非ず。
 半信半疑の儘ゴーラ軍の現在位置と合流方法を尋ねると、何時の間にか眠ってしまった。
 気付くと直ぐ新王の許へ護送され海の兄弟、ドライドン騎士団の同僚マルコと対面。
 カメロンの密書と伝言を信頼の置ける元甲板長に預け、暫く後に新王へ直接口頭で報告。

 マルコと共に王の身辺護衛を務める内、徐々に情勢が飲み込む。
 数タルザン後に新都イシュタールを預かる宰相、心服する元提督カメロン向けの密書を受領。
 ドライドン騎士団を一時離脱の盟友マルコを除き第3の男、ワン・エンに黒衣の使者が同行。
 見習い魔道師は再び意識を喪った伝令を伴い閉じた空間へ消え、イシュタールへ飛ぶ。
 ケイロニア王と新生ゴーラ王から要請を受け、パロ解放軍の指導者が動く。
 ゴーラ王イシュトヴァーンに同行、ゴーラ軍の天幕へ単身丸腰で乗り込む事となった。


「誠に申し訳も無い、ゴーラ王イシュトヴァーン殿。
 数々の伝令に対する返事の使者が到着していなかったのは、全て当方の手落ちだ。
 無用の戦闘に因り犠牲者が出てしまった咎は全て私、カレニア王アルド・ナリスにある。
 この通り、心底より謝罪を申し上げる」
 光の船より奇蹟の生還を遂げた伝説の貴公子、パロ聖王家の中でも最高の美男。
 第1次黒竜戦役を逆転勝利に導いた立役者、誉れ高い中原の英雄が頭を垂れる。

 3千年の歴史を誇る聖王国の命運を握る男、パロ聖王国の実質的な正統後継者。
 アルド・ナリスが両膝を屈し両手も地面に着け、いわゆる土下座の姿勢を披露。
 イシュトヴァーンの副官を務めるマルコ、年若いウー・リー以下は硬直《フリーズ》。
 どう反応すれば良いか全く見当が付かず、瞳を見開き息を潜め眼前の光景を凝視。
 新生ゴーラ軍の最高指揮官、中原の覇王にならんと欲する無頼漢。
 ゴーラの冷酷王と畏怖される僭王、イシュトヴァーンの面を皮肉な表情が掠め唇が歪む。

「大した面の皮だぜ、わかっててやったくせにしゃあしゃあと言ってくれるじゃねぇか!
 てめぇの言い分なんざこれっぽっちも信用しねぇぞ、スカールの野郎はどうなんだよ?
 お前等が草原から奴を呼び寄せ、俺を襲えと嗾けやがったに違いねぇ。
 やつのお陰で俺様の自慢の顔にゃ、一生、取れねぇ傷跡が残るだろうぜ」
 ナリスは土下座の姿勢を崩さず嘲笑を甘受、優雅に頭を上げ暴言を吐く無法者を見上げた。
 良く似た黒い炎を秘める瞳が真正面から絡み合い、闇色の宇宙空間を背景に火花を散らす。

「重ねて御詫びするが其の件についても当方の手落ち、私の責任だ。
 スカールは私に欺かれたと激怒した後、ダネインに向かうと言い捨てて立ち去った。
 マルガ街道で貴軍を夜襲するとは思わず、監視を緩めてしまったは当方の手落ち。
 スカールの襲撃を予測する事は出来なかったが、弁解の余地は無い。
 私の要請に応えてくれた貴軍への同士討ち、敵対行動を防げなかったは痛恨の極み。
 アルド・ナリスの責任であると痛感、陳謝する次第であります」 
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