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とある科学の論理回路

作者:芳奈
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”超電磁砲”

「・・・うぁ~・・・冷たくて気持ちいい~・・・。」

 腫れた頬にジュースの缶を押し当てる。因みに、練乳コーヒーという、学園都市製の謎商品だ。栞菜が買ってきてくれたのだが(勿論、金は全員分俺が出した。女性に払わせるなんてみっともない真似が出来るか)、どうにもコイツの感性は変だ。ヤシの実サイダーは兎も角として、おしるこサイダーなんていうゲテモノまで美味しそうに飲むからな。

 ウニ頭が飲んでいるのがいちごコーラで、栞菜はマグロ紅茶。・・・商品として売る気があるのか疑わしいラインナップだ。・・・まぁ、何事にも例外はあるようで、これらの不思議な飲み物にも、一定数のコアなファンがいるらしいから侮れない。俺なんか、この練乳コーヒーに、冷却材以上の効果なんか期待していないというのに。

 あの激戦(?)をくぐり抜けた俺たちは、都市部を離れた大きな川の鉄橋へとやってきていた。あんな騒ぎを起こして通報されない訳が無く、アンチスキルがあの場所に殺到するのも時間の問題だったからだ。俺たちは一方的に襲われた側ではあるが、あの場の不良を全て返り討ちにしてしまっている。先に襲いかかってきたのはアチラとはいえ、何らかのペナルティーが発生する可能性があった。・・・しかも、明らかに過剰防衛だったしな。栞菜が暴走したから。腕や足が折れている奴なんかかなりいただろうし、再起不能になったのもいたかも知れない。

(まぁ、あんまり酷い怪我なのは、カエルの医者が担当するだろうけど)

 学園都市には、『死んでさえいなければどんな患者も救って見せる、奇跡の医者がいる』という都市伝説があるのだが・・・事実だ。その医者はカエルのような顔をしており、患者を治す為ならばどんな無茶でもやってのける。間違いなく世界最高の医者なのだ。

「新羅、大丈夫か?アンタが殴られるなんて、始めて見たよ。」

 マグロ紅茶を美味しそうに飲み終えた栞菜が、缶をゴミ箱に投げ入れながら俺の心配をしてくれる。ガサツに見えて、実はとても気配りの出来る優しい人間だというのは、仲のいい奴らしか知らないことだ。

「ああ。まだジンジンするけど、幸い口の中を切ってはいないみたいだし大丈夫だ。この腫れも、時期に治るだろう。」

 これなら、明日の学校には問題なく行けそうだ。俺はなるべく、無遅刻無欠席を心がけている、模範的な生徒なのだ。

「怪我もそうだけどさ、今日のアンタ様子が可笑しいよ。アンタが殴られるなんて異常。」

 コイツも、俺の能力は知っている。だからこそ、気になるのだろう。

「・・・大体、そいつのせいだ。」

 よって俺は、先程から傍観を決め込んでいたウニ頭(元凶)に視線を向ける。・・・いや、元凶は間違いなく俺なんだけどな?こいつの近くに居ると、”論理回路(ロジカル・ダッシュ)”が使えなくなることを分かっていながら、好奇心に負けて追いかけたのだから。
 ・・・だけど、俺は元々気がつかれないように、慎重に尾行していたのだ。ウニ頭が、一体何故五十人以上ものスキルアウトに追いかけられているのか分からない上に、能力が使えない状況では、俺に手助け出来ることなんて存在しないのだから。能力が使えない俺など、そこらの一般人にすら負けるくらい弱いのだ。

 ・・・だが!

 よりにもよってこのウニ頭!!逃げている最中に、道のゴミ箱に引っかかって転がり、俺とぶつかったのだ!!!・・・いや、信じられないだろ!?ゴミ箱にぶつかって、普通に転ぶんじゃなく、何故か180度方向転換して転がってきて、隠れている俺に衝突しやがったんだぜ!?どんな確率だよ!?

 しかも、それを見たスキルアウトの連中は、俺をこのウニ頭の仲間だと勘違いしたらしく、俺にも攻撃を仕掛けてきたのだ。ウニ頭(コイツ)が近くに居るせいで能力も上手く使えないし、絶体絶命のピンチだった。またもや偶然(・・)、栞菜が近くを通りかからなかったら、大変な事になっていただろう。
 だからこそ、(俺が怪我をした元凶は)このウニ頭だ!!!

「へぇ・・・そう。お前がコイツを巻き込んだのか・・・?」

 スゥっと栞菜の目が細まる。これは、栞菜が結構本気でキレている時の表情だ。

「ちょ、ちょっと!?何で上条さんが加害者みたいな扱いになってるんでせうか!?確かに、ソイツにぶつかったのは悪かったけど、ソイツは俺のことを尾行していたんだろ!?俺のことばっかり責めるのはどうかと思うのですが!?」

 それを見たウニ頭―――どうやら上条というらしいが―――が、必死に弁明する。上条の言うことは最もなので、俺も弁護した。

「俺がソイツを尾行していたのは事実だ。確かに、この戦闘に巻き込まれたのは自業自得と言っていい。・・・ただ、俺が怪我をした元凶は、間違いなくコイツなんだがな。」

「それは弁護か!?火に油を注いだだけな気がしますよ!?」

 五月蝿い上条を無視して、俺は説明を続けた。

「よく聞け栞菜。・・・コイツには、”論理回路(ロジカル・ダッシュ)”が効かない。」

「・・・・・・・・・は?」

 たっぷり十秒以上の間を開けて、やっと出た答えがこれだ。いつも快活で、エネルギーに満ちあふれた彼女が、ここまで混乱するところなんて滅多に見られない。
 コイツも、分かっているのだ。俺の能力が効かないと言うことが、どういう意味を持つのかを。超能力者(レベル5)の干渉を跳ね除けるというのが、一体どういうことなのかを。だからこそ、目の前にいるこの男を凝視するのだ。俺の力を知っているから。俺たち(レベル5)というのが、どれだけ理不尽な存在なのかを知っているからこそ、こんな反応をするんだ。

「コイツの未来が、一秒先すら予測出来ねぇ。それだけじゃない。コイツの近くにいるだけで、能力の精度が著しく落ちる。しかも・・・コイツの右手から、数字を読み取ることが出来ない。」

「嘘・・・。」

 出来ない。出来ない。出来ない。俺の持つ全てのアドバンテージが、コイツの前では無意味なのだ。コイツの近くに立つだけで、超能力者(レベル5)が一般人と同程度まで落とされてしまう。これが、どれほど驚異なのか・・・・・・いいや違う。どれ程面白くてワクワクする(・・・・・・・・・・・・・)ことなのか理解出来るか?

 人生で始めて会った、完全なる未知。俺の能力を軽々踏み越えて行くもの。・・・コイツの行く末を、運命を、俺は見てみたい。コイツの妨害を乗り越えることが出来れば、”論理回路(ロジカル・ダッシュ)”は次のステージへと進むことができる気がするのだ。とっくに終着点にたどり着いたと思っていた俺の能力。超能力者(レベル5)という、学園都市の頂点の一人になったことで、俺からは向上心というものが完全に失われていた。

 ・・・そうだ。超能力者(レベル5)の先が無いと、誰が決めた?

 見たこともない物を否定することなんて、誰にも出来ない。幽霊はいるかも知れないし、魔法はあるかも知れない。宇宙人は既に地球に潜伏しているかも知れないし、神様が俺たちの姿を見て、人類のあまりの滑稽さに高笑いしているかも知れない。
 それと同じだ。無能力者(レベル0)から超能力者(レベル5)までしか存在しないと学園都市が言っているのは、それ以上の存在を見たことがないからだ!超能力者(レベル5)を超えた何かに、俺はなってみたい。生まれつき持っているこの『原石』を、世界最高の宝石にまで磨き上げてみたいのだ!!!

「・・・”論理回路(ロジカル・ダッシュ)”って・・・嘘!?超能力者(レベル5)かよ!?」

 横では、漸く俺の正体に気づいたらしい上条が騒いでいた。

(まずは、接点を持たなくちゃな)

 今後も付き合いを続けていくつもりなら、まず自己紹介からしなければならないだろう。俺の能力名は有名だが、第三位のように、実名やプロフィールまで有名なわけではないのだ。
 そして同時に、上条のプロフィールをゲットしなければならない。一体どこの学校に通っていて、レベルはいくつなのか?まぁ、俺の干渉を完全に妨害するなんてデタラメなことが出来るのは、まず間違いなく大能力者(レベル4)のはずなんだが。出来れば、詳細な能力のデータも欲しいところだ。

「俺の名前は銀城新羅。長点上機学園(ながてんじょうきがくえん)に通ってる。能力名は”論理回路(ロジカル・ダッシュ)”。知ってるみたいだが、超能力者(レベル5)の一人だ。よろしくな。・・・ほら、栞菜も挨拶。」

 先程から上条を見つめるだけだった栞菜に声をかけると、彼女は慌てて挨拶をした。

「あ、ああ!・・・私の名前は戦場栞菜。コイツと同じ学園に通ってる。能力名は”天目反射(サードアイ)”で、レベルは4だよ。よろしくね。」

「これはご丁寧にどうも。俺は上条当麻。第七学区の、赤崎高校って所に通ってる。ただの無能力者(レベル0)だ。」

『・・・・・・は?』

 その言葉を、俺は信じられない気持ちで聞いた。レベル・・・0?なんだそれは。何の冗談だ?

「おいお前、嘘を吐くとロクな目に―――」

「そうよね。どこに超能力者(レベル5)の攻撃を悉く無効化する無能力者(レベル0)がいるって言うのよ?絶対詐欺よ詐欺!!!」

 馬鹿にされているのかと思って激昂した栞菜の声を遮ったのは、俺もよく知るアイツの声だった。

「げっ・・・ビリビリ!!!」

「ビリビリ言うな!!」

「御坂?何でこんなところにいるんだお前?」

 背後の闇から現れたのは、俺と同じ超能力者(レベル5)で、序列第三位の、通称”超電磁砲(レールガン)”、御坂美琴だった。

「それはコッチの台詞よ。何でアンタら、ソイツと一緒にいるの?」

 美琴の言葉に、バツが悪くなった俺は頭を掻きながら曖昧に濁す。

「あ~・・・色々あって、な。」

「・・・そう。ま、何でもいいんだけど。・・・それより、少し話が聞こえたんだけど・・・アンタの”論理回路(ロジカル・ダッシュ)”も阻害されたって本当?」

「・・・盗み聞きとは趣味が良くな・・・・・・ん?”『論理回路(ロジカル・ダッシュ)”も』だと?それはどういう意味だ?」

 その言い方だと、まるで”超電磁砲(レールガン)”も無効にされたように聞こえるんだが・・・?まさか、そんな訳が―――

「私の能力が、一切効かないのよソイツ。・・・こんな風に、ね!!!」

 バチン!!!

 一切予備動作を見せず、彼女は全力の電撃を飛ばしてくる。それは、もしこれが当たったら、命など軽く吹き飛ばしてしまうような威力の攻撃で・・・

「新羅!?」

 ”天目反射(サードアイ)”で自動的に回避行動を取ってしまった栞菜は、自分の行動に気がついて顔を歪めた。・・・俺が、攻撃の射線に入ったままだったから。

(・・・死んだ、かも・・・)

 予知出来ていれば軽々避けられた筈の攻撃でも、今の俺には最大の驚異だ。俺にできるのは、目を閉じることだけだった。

 パキーン!

 どこかで、ガラスを割ったような音が響いた。俺は、体に走るであろう痛みに耐えようとしていたのだが・・・いつまでたっても、体に変化は訪れなかった。

「・・・嘘でしょ?」

 栞菜の呟きが響いた。どうやら俺は、何らかの要因によって生きているようだ。ユックリと瞼を開けると・・・俺の目の前には、上条の背中があった。

「ほらね。こんな感じに、全部無効化しちゃうのよ。」

 美琴の軽い口調が、遠く聞こえる。俺の目に映るのは、右手を突き出した状態の上条。それだけ。一体どんな能力を使ったのか想像も出来なかった。・・・分かっているのは、コイツは”超電磁砲(レールガン)”と”論理回路(ロジカル・ダッシュ)”の両方を無効化出来る、特殊な・・・あまりにも特殊すぎる(・・・・・)能力を持つと言うことだけ。

 ”超電磁砲(レールガン)”だけならまだわかる。彼女は電気系能力者のトップだ。つまり、電気やら磁力やらを狂わせる能力を持っているのなら、彼女の能力を防ぐことも不可能ではないだろう。

 ”論理回路(ロジカル・ダッシュ)”だけでもまだ分かる。どういう方法を使っているのかは分からないが、0と1を狂わせる能力ならそれも可能だろう。

 ・・・しかし、両方を完全に無効化なんて不可能だ。原理が全く違う二つの超能力。共に学園都市のトップに立つ人間の能力を二つも無効化するだなんて、一体どんな奇跡をもってすれば可能だというんだ!?

「は、ハハハ、ハハハハハハハハ!!!面白い、最高に面白いぞ上条当麻!!!クハハ、ハハハハハハハハハハ!!!」

 益々興味が湧いた。コイツが何なのか、解き明かして見せる。コイツの能力を超えてみせる!絶対に、絶対にだ!!!

 結局この日は、上条の態度にキレた御坂が、彼女の代名詞である超電磁砲と雷を落として終了した。・・・どっちも無効化されていたが。 
 

 
後書き
上条の高校名は適当です。原作でも名前が出てきてないので。・・・ないよね? 
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