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流星のロックマン STARDUST BEGINS

作者:Arcadia
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星屑の覚醒
  10 煮え切らぬ稲妻

「....何だ?」

彩斗は自分の姿を見て驚いているジャミンガーたちの反応の意味が理解できなかった。
隕石が直撃して自分が光りに包まれたのは覚えている。
まさに光の速度で落下してきたそれに直撃したというのに、痛み一つ無い。
常識ではありえないことであるのは理解できている。
しかし連中はまるで自分を恐れているかのように見えた。
ゆっくりと自分の両手を見た。

「!?これは...」

紺色のグローブに手が包まれ、腕には水色と青のガントレット。
思わず顔に手を触れた。
硬い感触が返ってくる。
バイザーとヘルメットが装着されていた。
そして何かのスイッチが入ったかのように、視界には大量のコンソールが表示され始めた。

「....電波変換...」

数秒で状況を飲み込んだ。
自分は電波人間へと姿を変えたのだと。
それも地球を一度救ったシューティングスター・ロックマンと瓜二つの姿に。
視界には現在のステータスを表示するバーが現れる。
HPは既に100を切り、今にもデリート寸前といった状態だった。
ジャミンガーたちは顔を合わせている。
そしてとうとう、1人のジャミンガーが代表するかのように彩斗の変身したロックマンへと襲い掛かった。

「ハァァァ!!!」
「!?ヤァ!!!」

真っ直ぐに飛んできた拳をロックマンは交わし、肘で顎を突き上げた。

「!?ぐぅぅ!!!」
「タァァ!!!」

そして激痛で若干距離が生まれ、ロックマンはすかさず腹部に蹴りを入れた。
思いっきり全力を掛けてのキック。
その威力は放った本人にも驚きのものだった。
一気にジャミンガーを吹っ飛ばし、後ろの群れに突っ込んだのだ。

「....アァァァ!!!」

ロックマンは一瞬だけ呼吸を整えると、一気にジャミンガーたちの方へと突っ込んで行った。
先程までは周波数を変更され、全く攻撃が当たらずに一方通行だった。
だが今は違う。
同じ電波人間になったことで条件までも同じになったのだ。
攻撃は通じるし、自分の体術も通用する。
それを確信した瞬間、自分でも理解できなかったが、敵に挑みかかっていたのだ。
















到着したディーラーの武装部隊は車両から降りると全く状況が理解できなかった。
数十秒前に到着していたハートレスとメリーすらもポカンと口を開けているような状態だ。
ガヤルドから降り、目を大きく見開いている。

「どういう状態?」

クインティアはEMPブラスターを構えながら照準をつけられずにいた。
ビジライザーを通して目には廃工場の裏の電波世界が見える。
だが見えるものが問題だ。
ジャミンガー5体とロックマンが入り乱れて戦闘を行っている。
5体1という正々堂々とは言えない状況であるのに、ロックマンは果敢に勝負を挑み、体術で圧倒している。

「星河スバルがどうしてここに...」

ジャックも何故、『星河スバル』ことシューティングスター・ロックマンがいるのかと疑問を浮かべた。
しかしメリーは今にも泣きそうな声で雨に濡れるのも厭わずに声を出した。

「違います....あれはサイトさんです...」
「何ですって?」
「おいおい...悪い冗談だろ...」

クインティアとジャックは耳を疑った。
目の前で戦っているのは、姿形は同じでも自分たちの敵である『星河スバル』ではなく、『シンクロナイザー』こと『光彩斗』だと言うのだ。
市販のビジライザーとは言え、その戦いっぷりは眼を見張るものがあった。
特に彩斗の身体訓練を担当していたクインティアからすれば、運動神経が優れていてもいざ相手を殴ろうとすると躊躇うような少年が平気でジャミンガーを殴り飛ばした。
それに動きも洗練されている。
この1週間で何があったのか、全く理解できない。
姿をくらませている間に何かがあったのだけは間違いなかった。

「いったい何が起こってるのよ...」

目の前でロックマンが肘を振り下ろし、ジャミンガーの頭部を砕いた。
そして一気にウェーブロードへと飛び移った。



















「ハァ!!!」
「!?」


ロックマンは右腕にロックバスターを構えて放った。
紫色の閃光がウェーブロードを一直線に突っ切り、同じくウェーブロードに飛び移ったジャミンガーを蹴散らす。
そして一気に接近した。

「ハァァァ!!」
「このぉ!!!」
「ガキがぁ!!!」

ロックマンはハイキックで首を砕き、ターンして足を払う。
そしてもう一人のジャミンガーが殴りかかってくるのを受け流し、腹部に頭突きを加えた。
全てクインティアに教わったものと『紺碧の闇』で磨きをかけ学んだ戦術の応用だ。
まるで四則計算の基礎を覚え、その幾つかを組み合わせた式を解いているかのようだ。
だがロックマン=彩斗にとっても今にも限界が迫っていることを理解していた。
息が上がり、残り数分しか戦闘できない。
それを感じていた。

「グァァ!!!」
「ハァァ!!!」

頭部を押さえつけ、首に向かって肘を振り下ろし、首を折る。
当然、首などという体の大切な部分へとダメージを受ければ倒れる。
倒れてきたところにロックマンは膝蹴りを加えると、オレンジ色の美しい電波の道を蹴り、再び地面へと着地した。

「はぁ..はぁ....あぁぁ...」

呼吸が苦しい。
ロックマンはその場に膝をつく。
電波体になり、肉体的な条件は対等になっても、人数的な差は埋められない。
元から1体5では勝ち目など無いのだ。
むしろよく奮闘していると自分で自分を褒めたくなる。
この場で殺されたくない、生き抜くためなら何でもやる。
その一心でここまでやった。
もう十分だと思い、半分死を受け入れていた。

「おい!!このガキ!!もう限界見てぇだぞ!!」
「さっきまで随分とやってくれたじゃねぇかぁ!?あぁぁ!!」
「もう3人やられちまったぞ!!!ふざけやがってよぉぉ!!!」

残りは3人。
ロックマンは既に囲まれていた。
自分の余命も残り数分であることを目で思い知る。
これからこの3人にリンチにかけられ殺される。
深呼吸してその運命を受け入れる準備をしていた。

「サイトさん!!!」

「!?」

ロックマンは自分の名前を呼ぶ声の聞こえる方を向いた。
一気に現実に引き戻されたような感覚を覚えた。
声の方向にはクインティアとハートレスの間にメリーが立っていた。
最愛の妹だ。
自分がいきなり姿をくらませたために心配になって追いかけてきたのだろう。
凄まじい罪悪感を覚えてた。
自分の身勝手さでこのような戦場にまで赴かせることとなってしまった。
ロックマンは自分の情けなさにゆっくりと立ち上がる。

「まだ...死ねない」

せめて心配させたメリーに謝っていない。
それを思うとメリーへの愛しさが込み上げてきた。
この場で死んでしまえば、二度とメリーとは会うことができなくなってしまうのだ。
ロックマンは自分の手を重ね、意識を集中する。

『マテリアライズ!!!!』

一気に周辺の電波をかき集め、両手に集中し、頭に思い描いたイメージを具現化していく。
今まで読んできた小説や伝記の中で一番この場に適していそうなイメージを選択する。
『ベルセルクの剣』だ。
稲妻を帯びた大剣をマテリアライズした。

「!?やべぇ!!!」
「!?逃げ.....」

「ハァァァァァ!!!!!!!!!」

ロックマンはベルセルクの剣を一回転しながら振りかざし、一気に自分を取り囲むジャミンガーたちを切り裂く。
まさに一瞬の出来事だ。
だがその勢いは有り余り、そのまま剣から発せられた稲妻は雨の降りしきる空へと飛び火する。
一直線に雨雲と共鳴するかのような悲鳴を上げ、雨雲に巨大な穴を開けた。

「!?うっ!!」
「!?きゃぁぁ!!」
「!?....っ」
「!?うわぁ!!!」

それを見ていたハートレスたちやディーラーの武装部隊は全員揃ってあまりの眩しい光に目を伏せた。
直視していたら失明するかもしない。
それを恐れた本能がそうさせた。
数秒で光は収まるが、視界がハッキリするまでは更に数秒を要した。

「....!!サイトさん!!!」
「シンクロナイザー!!!」

視界が開けると真っ先に動いたのはメリーとハートレスだった。
ロックマンが立っていた場所で彩斗が意識を失った状態で倒れている。
ジャミンガーは跡形もなく消えていた。
何処かへ吹っ飛ばされたのだろうが、確認することは出来ない。
クインティアとジャックは一気に工場内に雪崩れ込む。
だが視界に広がったあまりの悲惨な光景にジャックは吐き気を催した。

「うっ!!!何だよ!!これは!?」
「...落ち着きなさい。A班は証拠の隠滅。シンクロナイザーと我々がこの場にいた証拠を完全に消し去りなさい」

クインティアは顔色一つ変えずに司令を出すが、今にも吐きそうだった。
中学生たちが見るも無残に殺されている。
全員首を切られ、腕や足が引きちぎれて人間の形を保っていないものまでいる。
映画の世界でも見ることは難しい代物を目の当たりにしているのだ。
クインティアは口元を抑えながら、工場を一旦出る。
そしてメリーの腕の中で意識を失い、体中が血まみれの彩斗を見た。

「...この子の仕業...なの?」

「サイトさん...兄さん!!こんなに冷たくなって...。ハートレス!お願いです!!早く助けを!!」
「...分かったわ」

メリーは少気を失いかけていた。
彩斗の体は雨で体温を奪われていた。
まるで死んでしまったように動かなくなってしまった。
























「チッ...まだ不完全か」

銀髪の少年は工場裏からその様子を覗いていた。
彩斗が殺人を起こすところまでは予想以上の結果だった。
まるでホラー映画のようにスリルを味わうことが出来、満足としか言い様がない。
だが2つ目の楽しみだったValkyrieとの感動の出会い、そしてヒーロー誕生に関しては不満が残る結果となった。
彩斗が本来の『星屑』ではなく、中間体のシューティングスターに酷似した姿で進化が止まってしまったのだ。
巨大な劣等感を抱えていたというのに、システムが順応できなかったのだ。
舌打ちをしながら、メリーを脇目に去ろうとする。
しかし目の前にはダークネスが立っていた。

『君の思惑は失敗のようだな?彼はまだ『星屑』にはなりきれなかった。Valkyrieと戦うという覚悟がない。ただ生き抜こうとしただけだ。その程度では不完全な状態になるのも当然だ』
「そりゃどうかな?正直、オレも残念に思うけどな。でも、プランBも用意してある。それはオレが全く手を出さずとも勝手に動くものだ」

少年はいつもの様に笑顔を作り、ダークネスの横を通る。

「どうせ、この後、彩斗はValkyrieを憎まずにはいられなくなる。不良たちが愛しの友達を傷つけるための武器を提供したともなれば、一線を越えられぬ不良たちの背中を押した連中も恨みたくなるさ」

少年はケラケラと笑いながら、足を動かす。
ホテルに戻りたくて仕方がなかった。
雨は好きだが、濡れるのは嫌いだった。
自分でも抜けていると思っていた。
雨の予報が出ていても傘1つ持って行かないというのは。

 
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