| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

占術師速水丈太郎 白衣の悪魔

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

9部分:第九章


第九章

「違うかしら」
「昨夜ですか」
 警部は沙耶香のその言葉を聞いて考える顔になった。それと共に表情が暗いものになっていく。
「まさか」
 ここで部屋の電話が鳴った。警官の一人が出ようとするが警部はそれを止めた。
「いや、私が出る」
「わかりました」
 制止された警官はそれを受けて動きを止める。こうして警部が電話に出た。
「はい、山寺です」
 そのうえで話を聞く。するとその顔が次第に険しくなっていく。まるで聞いてはいけないことを聞いたかのようにだ。如何にもといった感じの不吉さであった。
「どうされましたか?」
「その通りです」
 電話を切った警部は完全に暗くなった顔で速水に応えてきた。
「事件です。同じような」
「そうですか、やはり」
 速水は警部のその言葉を聞いて納得したように頷く。
「すぐ事故現場に向かいましょう。場所は時計台のすぐ側です」
「また随分派手な場所ね」
 沙耶香は場所を聞いてそう述べてきた。
「今まで見つからなかったのかしら」
「少なくともそうそう見つかる場所ではなかったようです」
 彼は沙耶香にも答える。
「今しがた発見されたそうで」
「今ですか」
 速水はその言葉に右目を鋭くさせる。
「場所は路地裏か何処かですね」
「おわかりですか」
 警部もその言葉に顔を向けさせる。
「その通りです。その路地裏です」
「そこでね。死体になっているわけです」
「そうですか」
 速水はあらためてその言葉に頷いた。
「では。行きますか」
「ええ」
 沙耶香は頷いてみせてきた。こうしてまたしても起こった事件に対して捜査をはじめるのだった。二人は言葉に出すとすぐに動いてきた。
 時計台は洋風建築でありアメリカ製の時計、自鳴鐘が設置されている。言わずと知れた札幌で最も有名な観光名所の一つであり中は歴史館となっている。札幌市の丁度中央部にあり周りはビル街である。二人は警部と共にここに来たのだった。
「ビル街ですか」
 速水はそのビル街を見回して言った。
「もっとシンプルな場所にあるかと思ったのですが」
「ははは、よく言われます」
 警部は笑って速水に答えた。沙耶香も共にそこにいる。
「もっとポツンとあるかと思っていたと」
「全くです。しかしこれならわかりますね」
 ビル街を見回し続けながら述べる。
「ここで事件が起こったというのも」
「左様ですか」
「はい、ではそこに案内して下さい」
 こう申し出てきた。
「調べさせて頂きたいので」
「ええ。といいましても」
 見ればもう警官達が集まっていた。さっき会ったスタッフ達である。彼等も流石にあらたな犠牲者が出ては現場に向かわざるを得なかった。警部もこれを手配していた。
「すぐにおわかりですね」
「ええ。それではあちらに」
「はい」
 こうして三人は事件現場の路地裏に向かった。そこは薄暗く寒い場所でありこの中にも雪が積もっていた。白い筈の雪が暗がりのせいで灰がかって見えていた。三人はその中を警官達に案内されて進む。
「あっ、これは警部」
「着いたのは一緒だったな」
「はい、どうやらそうみたいで」
 スタッフの警官達は彼に応えて述べる。応えながら事件現場において作業を行っていた。
「それで被害者は?」
「やはり」
 警部の言葉には首を残念そうに横に振ってきた。
「駄目でした。というよりは」
「またか」
「はい、いつもの通りです」
「そうか、やはりな」
 警部はそこまで聞いてあらためて嘆息した。
「またか。一体何が楽しくてこんなことをするんだろうな」
「遺体を御覧になられますか?」
 スタッフの一人が問うてきた。
「といっても見ないわけにはいかないだろう」
 彼はコートからハンカチを取り出して答えてきた。答えながら手を拭く。
「そうだろう?」
「まあそうですが」
「それでも」
 スタッフ達は警部に対してバツが悪い顔で答えてきた。
「あんまりなんで」
「やっぱり」
「あんまりでも何でも実際に見ないとわからないさ」
 彼は浮かない顔で部下達に述べてきた。
「だからだ。案内してくれ」
「わかりました。それではこちらへ」
「うん。それでは」 
 部下達に応えた後で速水と沙耶香に顔を向けて声をかけてきた。
「貴方達も。宜しいでしょうか」
「はい」
 速水はにこりと笑って頷いてきた。
「御願いします。相手のやり方がどうしたものか見ておきたいので」
「私も」
 沙耶香も頷く。
「御願いします。見せて頂けるのなら」
「それでは。どうぞ」
 こうして二人は路地裏の奥に案内された。そこではまるで紙切れの様に千切られ四散してしまっている人間だったものがあった。そう、人間だったものだった。

 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧