占術師速水丈太郎 白衣の悪魔
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7部分:第七章
第七章
「私のやり方ですが」
「貴女のやり方ですか」
「お酒を飲む場所を変えるのです」
こう提案してきた。
「場所を?」
「はい」
ジュースから口を離して答える。それからメロンを食べはじめる。熟した果肉から汁が溢れ出て皿に零れている。沙耶香はその汁が溢れるメロンを銀色のスプーンですくって口に入れるのであった。口全体に葡萄とは違った甘みが満ちる。彼女はその甘みを楽しみながら答えるのであった。
「寝室で飲まれてはどうでしょうか」
「寝室ですか」
「はい。そこならお子さんもおられませんね」
「ええ、まあ」
警部はその問いに頷く。身体を少し前屈みにさせてた。
「子供達はもう子供部屋で寝ていますから」
「だからいいのですよ。寝室で二人きり」
「それが何か?」
「美酒とは退廃そのもの」
ここで笑って述べてきた。
「情事もまた然りです」
「つまりあれですか」
警部はここまで聞いてようやく沙耶香が何を言いたいのかわかった。それであらためて問う。
「二人でワインを飲みながら夜の営みを、ですか」
「いいものです。美女の香りとワインの香りを楽しむのは」
これが沙耶香の酒の楽しみ方の一つだった。彼女は美女との情事の前後で美酒を楽しむことが多いのである。それを今警部にも伝授しているのである。
「それをうちの女房と」
「奥様を今でも愛しておられますね」
「ええ、勿論ですよ」
ここで彼はおのろけに入った。速水はそんな彼を見て右目を細めさせていた。
「何て言いますかね、結婚した時から顔もスタイルも全然変わっていなくて」
「それはいいことですね」
「そうなんですよ。それで一緒にいるのが何よりの楽しみでして」
完全におのろけになっていた。そのおのろけのままで言葉を続ける。
「成程、それだと問題はありませんね」
「ええ。では宜しいですね」
「はい、恩にきります」
笑顔で答える。本当に嬉しそうな笑顔であった。
「それでですね。このメロンですが」
「夕張メロンですね」
今度は速水が応える。彼も沙耶香ももう食べ終えていた。警部も半ばまで食べている。
「どうでしょうか。美味しいでしょうか」
「それは貴方も御存知の筈ですが」
速水は笑って彼に答えてきた。
「北海道の方ならば」
「そう言って頂けると有り難いです」
警部は速水のその言葉に顔を綻ばせてきた。そのうえでまた述べる。
「いや、夕張はまあ大変なので」
「それは知っていますが」
「だからです。食べて頂いてしかも美味しいという言葉が」
「嬉しいのですか」
「そういうことです。ささ、それでは」
ここで笑顔で食事を勧めてきた。
「どんどん召し上がって下さい」
「といってももう食べてしまいましたが」
速水は少し苦笑いを浮かべて応えてきた。
「また次にということで宜しいでしょうか」
「はい、是非共御願いします」
警部はしきりに夕張メロンを勧める。
「結構な値段が張るのでそうは食べられないものですが」
「高いものを食べられるなら食べた方がいいのよ」
沙耶香が言う。ジュースを飲んでから。
「それで人が笑顔になるのなら余計にね」
「そうですね。それではまた機会をあらためて」
「ええ」
速水の言葉に頷く。そうして食事を終えレストランを後にするのだった。
レストランを出ると警部はまた二人に声をかけてきた。今度は真面目な顔になっている。
「それではですね」
「はい」
速水が彼に応える。その右目も真剣な顔になっている。
「北海道警にですか」
「そうです、そこに捜査本部が置かれていますので」
そう速水に答える。
「宜しいでしょうか」
「勿論ですよ」
速水はそれに答えて頷く。
「それでは。参りましょう」
「ええ。貴女もそれで宜しいでしょうか」
「いいわよ、勿論」
沙耶香もその言葉に笑顔で応える。警部はここであることに気付いた。
「あらためて見れば」
「何かしら」
沙耶香に対して述べていた。沙耶香は警部に顔を向けていた。
「貴女は随分と背がおありですね」
「そうね。低いと言われたことはないわ」
自分でもそれに頷く。見れば彼女はモデル並の背であった。男と比べても低くない程だ。そのスタイルも入れればトップモデルといっても通用する程である。
それを言う警部も決して低くはない。むしろ高い方だ。だが速水と沙耶香の、特に沙耶香のそれにあらためて気付いたのである。
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